Fate/stay night [Alter Ego of Calamity] ――理外の双貌   作:りー037

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伏魔の檻、灼熱の竈、そして十三番目の奇跡

【時刻:午後2:15】

 

【場所:冬木市 郊外・アインツベルンの森】

 

六度目の死から蘇ろうとするバーサーカーを見下ろし、両面宿儺はゆっくりと両手を顔の前に掲げた。

 

中指を絡ませ、両手を複雑に組む。

 

 

 

 

 

『閻魔天印の掌印』

 

 

 

その印が結ばれた瞬間、アインツベルンの森の空気が、いや、世界そのものの重力が変質したかのような錯覚が走った。

 

 

 

 

固有結界。

 

対象の心象風景を具現化し、世界を一時的に塗り替える大魔術。

 

 

しかし、呪いの王が為そうとしているのは、そんな枠組みに収まるものではなかった。

 

 

通常、結界術とは空間を『分断』し、内と外を隔てることで成立する。だが、彼の展開する領域は結界を閉じない。

 

それは結界術において、キャンバスを用いずに空に直接絵を描くに等しい、まさに神業であった。

 

 

「領域展開――」

 

宿儺の唇が、呪いの言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

「――『伏魔御廚子』」

 

 

 

 

 

 

カッ!!

 

 

 

 

宿儺の背後の虚空が割れ、そこからおぞましくも荘厳な、無数の髑髏が積み上げられた巨大な『祠』が、音を立てて顕現した。

 

 

血塗られた牛の頭骨、禍々しい屋根の反り。それは、地獄の釜の底に建てられた悪魔の台所のようであった。

 

 

 

 

『宝具・伏魔御廚子』

 

ランク:A+++ 種別:結界宝具。

 

最大捕捉半径は200メートルに及ぶ絶対死域。しかし、宿儺は四つの瞳をわずかに動かし、遠方に立つ自身のマスター――遠坂凛の位置を正確に測り取った。

 

 

 

 

 

 

(……最大出力で放てば、あの小娘も巻き込むな)

 

彼は結界の範囲を、遠坂凛の届かない範囲『半径120メートル』へと精密に絞り込んだ。

 

 

その直後だった。

 

 

 

「……ぁ、あああああああああああッ!?」

 

 

 

 

安全圏にいたはずの遠坂凛が、突如として胸を掻きむしり、雪の上に膝をついた。

 

 

 

痛い。熱い。苦しい。

 

 

彼女の体内に張り巡らされた魔術回路が、一斉に断末魔の悲鳴を上げていた。

 

 

宿儺と繋がる魔力パスを通じて、自身の莫大な魔力が、文字通り滝のように『ごっそり』と抜き取られていくのだ。

 

 

 

その消費量、実に全体の六割。

 

通常のサーヴァントであれば数回分の宝具行使に相当する莫大なエネルギーが、一瞬にして領域の構築へと吸い上げられた。

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……な、何よ、この魔力消費……回路が、千切れる……!」

 

 

 

凛は血を吐くような思いで、自らの魔力を総動員してパスを維持する。

 

彼女がもし並の魔術師であれば、この瞬間に魔力枯渇でミイラになって死んでいただろう。

 

そして、マスターから莫大な魔力を絞り上げて完成したその『必中の死域』は、容赦なく牙を剥いた。

 

 

伏魔御廚子の結界内において、宿儺の放つ斬撃はすべて『必中』となる。

 

 

さらに、領域内には恐るべき自動選別のルールが付与されていた。

 

 

無機物――魔力を持たぬ土、雪、木々には、通常の斬撃『解』が。

 

 

呪力(魔力)を帯びた生物、あるいは術式そのものには、対象の強度に応じて一太刀で致命傷を与える重斬撃『捌』が。

 

 

伏魔御廚子、展開終了まで絶え間なく浴びせられる。

 

 

 

「ルォォォォォォォォォォッ!!」

 

 

 

六度目の蘇生を果たし、咆哮を上げるバーサーカー。

 

 

「散れ」

 

 

宿儺が指を鳴らした。

 

 

 

シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

アインツベルンの森が、消滅した。

 

比喩ではない。半径120メートルの円周内に存在した数百本の針葉樹、分厚い雪、そして凍てついた岩盤までもが、無数に降り注ぐ不可視の斬撃『解』によって、瞬きする間に賽の目状に切り刻まれ、粉雪のような『塵』へと変わったのだ。

 

回避も防御も逃走も、いかなる手段も意味を持たない。

 

ただそこに存在するだけで、絶対的かつ無限の斬撃が雨霰と降り注ぐ。

 

 

 

「ガ、ァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

そして、その無限の斬撃の雨の中心にいたバーサーカーには、対象の強度に合わせて威力を底上げする『捌』が、途切れることなく叩き込まれ続けていた。

 

 

 

血飛沫すら上がらない。

 

斬られた肉から血が吹き出すよりも早く、その肉自体がさらに細かく斬り刻まれるからだ。

 

 

岩のような大胸筋が削り取られ、極太の骨が砕け、内臓がミンチに変わる。

 

 

 

 

 

 

「や、やめてえええええええっ!! バーサーカー!!」

 

 

 

領域の外、イリヤスフィールが、髪を振り乱して絶叫する。

 

彼女の視線の先で、最強を誇る狂戦士の巨体は、文字通り『赤い塵』となってその場に崩れ落ちた。

 

 

 

『7つ目の命』の削減。

 

 

 

だが、大英雄は死なない。

 

塵となった肉片が、強引に寄り集まり、赤黒い魔力を放って蘇生を果たす。

 

 

「ルォォ……ッ!!」

 

 

立ち上がろうとするバーサーカー。しかし。

 

 

 

シュパパパパパパパパッ!!!

 

 

 

再生した端から、再び無限の『捌』が容赦なく降り注ぐ。

 

 

『8つ目の命』の削減。

 

 

 

倒れ、蘇り、また斬り刻まれる。

 

 

無限の死のループ。

 

 

 

 

しかし、宿儺の四つの瞳は、冷徹にその『変化』を捉えていた。

 

 

 

(……硬い。凄まじく硬くなっている)

 

 

先日の夜の戦闘、そして今日の戦闘。これまでに宿儺の『解』と『捌』を浴び続けたバーサーカーの肉体は、すでに斬撃という事象に対して「7割以上の威力を減退させる」ほどの異常な耐性を獲得していた。

 

 

そして今、伏魔御廚子の中で斬り刻まれ、蘇生を繰り返すたびに、その耐性はさらに強固なものへと急成長を遂げている。

 

 

 

『9つ目の命』の削減。

 

 

 

「ギ、ルォォォォォォォォォッ!!」

 

 

 

九度目の死から蘇ったバーサーカーの肉体は、もはや宿儺の『捌』を受けても、容易には塵にならなくなっていた。

 

皮膚が裂け、筋肉がえぐれながらも、狂戦士は倒れることなく、無限の斬撃の嵐の中を、宿儺へ向けて一歩、また一歩と前進し始めたのだ。

 

 

 

『十個目の命』の削減。

 

 

 

 

ついに十度目の死を迎え、十度目の蘇生を果たしたバーサーカーの肉体は、黒光りする鋼のような光沢を帯びていた。

 

降り注ぐ必中の『捌』が、金属に当たるような甲高い音を立てて弾かれ始める。

 

 

 

ほぼ完全な耐性の獲得。

 

 

大英雄の肉体が、呪いの王の斬撃に対する『適応』を終わらせようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「ルォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 

全身から血を流しながらも、バーサーカーは宿儺の目前、わずか数十メートルの距離まで迫っていた。

 

 

残る命は、あと二つ。

 

 

 

 

(……このまま斬撃だけで削り切るのは不可能だな。完全に耐性が完成する)

 

 

宿儺は、迫り来る狂戦士の巨体を前にしても、一切の焦りを見せなかった。

 

 

 

 

彼は、自身のマスターへと『念話』を繋いだ。

 

 

 

『おい、凛。聞こえるか』

 

『……な、何よ……! これ以上、魔力は……っ!』

 

 

 

領域の外で膝をついている凛から、苦痛に満ちた声が返ってくる。

 

 

『――令呪を使え。俺に魔力を寄越せ』

 

『え……令呪?』

 

 

聖杯戦争におけるマスターの絶対命令権にして、莫大な魔力の結晶。

 

宿儺が令呪を要求したのは、他でもない。ここから放つ『もう一つの宝具』の消費魔力を補うためだった。

 

伏魔御廚子の展開で、凛の魔力はすでに六割が持って行かれている。先日の夜の疲労も完全に抜けきっていない彼女が、ここからさらに極大の宝具の魔力を自力で負担すれば、間違いなく魔術回路が焼き切れ、干からびて死ぬ。

 

宿儺は、マスターを死なせないために、あえて令呪によるバックアップを求めたのだ。

 

 

 

『……っ、分かったわ! あなたを信じる!』

 

 

凛は、迷わなかった。

 

この呪いの王が、無意味に魔力を浪費するような愚か者ではないと、これまでの短い時間で十分に理解していたからだ。

 

凛は右手の甲を天に掲げ、令呪の一画に意識を集中させた。

 

 

「――告げる! 我が令呪をもって命ずる! 両面宿儺、その力を解き放ちなさい!!」

 

 

 

カッ!!

 

 

 

凛の右手の甲から、赤い令呪が一画、光となって消滅する。

 

それと同時に、宿儺の体内へ、令呪という極上の魔力リソースが爆発的に流れ込んだ。

 

令呪のブーストにより、次に放つ宝具の凛への魔力負担は『二割強』へと抑え込まれる。六割と二割強、合わせて八割以上の消費。限界ギリギリのライン。

 

 

 

 

「……上出来だ」

 

 

宿儺は、満ち溢れる魔力と呪力を感じながら、両手のひらを胸の前に向け、指をすぼめるようにして構えた。

 

 

狂戦士が、最後の咆哮を上げて斧剣を振り下ろそうとする。

 

 

だが、それよりも早く。

 

 

 

「――『竈(カミノ)』」

 

 

 

宿儺の言葉と共に、彼の両手の間に、太陽を凝縮したかのような、超高熱の炎の玉が顕現した。

 

それは、伏魔御廚子が内包するもう一つの術式。

 

特級呪霊を一撃で焼き尽くし、最強の式神・魔虚羅すらも灰燼に帰した、絶対の業火。

 

 

 

 

速度が遅く、効果範囲が極端に狭い。単独で使用すれば、一人しか狙えない大技。

 

そして、この宝具には厳しい発動条件と『縛り』が科せられていた。

 

 

事前の戦闘において、対象に「解」と「捌」の双方を浴びせていること。斬撃による入念な下拵えを経て、初めてこの竈の扉は開く。

 

 

さらに、「領域展開中を除く、多対一での竈の実行禁止」という縛り。

 

 

この縛りがあるからこそ。

 

 

領域展開中に行う『竈・開』は、単なる炎の矢ではなく、悪夢のような超広域殲滅攻撃へと昇華されるのだ。

 

 

伏魔御廚子によって、森の木々、雪、大地は、すでに無数の『解』によって目に見えないほどの極小の粉塵へと切り刻まれていた。

 

 

そして、宿儺はその粉塵一つ一つに、自身の爆発性の呪力を付与していたのだ。

 

空間に充満する、呪力を帯びた可燃性の粉塵。

 

そこに、極大の炎の矢を撃ち込めばどうなるか。

 

 

「――『開(フーガ)』」

 

 

 

宿儺が、弓を引き絞るような動作から、その炎の矢をバーサーカーへ向けて解き放った。

 

炎の矢がバーサーカーの胸元に着弾した瞬間。

 

領域内に充満していた呪力の粉塵に、一斉に引火した。

 

それは、魔術による爆発という次元を遥かに超えていた。

 

『粉塵爆発』という物理現象を、呪力の掛け合わせによって数万倍に増幅させた、完全なる熱と衝撃の地獄。

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!

 

 

 

アインツベルンの森の空が、真昼の太陽が墜落したかのように真っ白に染まった。

 

 

絶対的な爆発。超高熱の業火が、伏魔御廚子の結界内を隙間なく埋め尽くし、すべてを焼き尽くしていく。

 

 

「オ、ォォォォォォォォォォォォッ!!?」

 

 

炎の中心で、バーサーカーの悲鳴とも咆哮ともつかない絶叫が上がった。

 

斬撃への耐性は完璧に仕上がっていたが、この未知の極大火炎に対する耐性は、彼には一切ない。

 

十二の試練による命のストックが、灼熱の業火の中で文字通り『溶かされて』いく。

 

 

十一度目の死。

 

 

即座に蘇生するが、炎は消えない。

 

 

 

十二度目の死。

 

 

 

「あ……ああ……嘘、でしょ……?」

 

安全圏からその爆発の光を見ていたイリヤスフィールが、へたり込み、両手で顔を覆った。

 

 

彼女の魔術回路を通じて、バーサーカーの命が、霊基そのものが、完全に崩壊していく感覚がはっきりと伝わってきたのだ。

 

 

 

炎が収まった後。

 

 

 

すり鉢状に吹き飛んだ雪原の中心には、真っ黒に炭化し、少しずつ風に吹かれて灰となって崩れ落ちていく、大英雄の無惨な残骸だけが残されていた。

 

 

「……終わった、の……?」

 

 

領域の範囲外で、膝をついたままの凛が、荒い息を吐きながら呟いた。

 

彼女の体は限界を超えており、体を十全に動かすこともできない。だが、その瞳には、最強の敵を打ち倒したという確かな勝利の安堵が浮かんでいた。

 

 

 

ザクッ、ザクッ。

 

 

 

雪を踏む音がして、黒煙の中から一人の男が歩み出てきた。

 

時臣のスーツのジャケットを片手に持ち、シャツの袖を捲り上げた両面宿儺だった。

 

 

 

「……ご苦労だったな、凛。お前の令呪を切る判断、悪くなかったぞ」

 

 

宿儺は、疲労困憊で座り込む凛のそばに立ち、見下ろすようにして言った。

 

その声には、いつものような嘲笑の響きはなく、共に死地を潜り抜けた相棒に対する、確かな労いの色が混じっていた。

 

 

「……ふふっ。当然でしょ。私は、優秀なマスターなんだから」

 

 

凛は、強張っていた表情を緩め、宿儺を見上げて安心したように笑いかけた。

 

この理不尽な呪いの王との間に、確かに繋がった信頼の糸。これなら、この先の戦いも勝ち抜ける。彼女がそう確信した、その時だった。

 

 

 

 

 

 

「……いやだ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

静まり返った森に、幼い少女の、魂を削るような絶叫が響き渡った。

 

 

「え……?」

 

 

 

凛がハッと顔を上げる。

 

イリヤスフィールが、自身の右手の甲――赤い令呪の刻まれた手を、天に向けて高く掲げていた。

 

 

彼女の瞳からは、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちている。

 

最強のサーヴァントを失ったマスターの悲しみ。だが、それはただの嘆きでは終わらなかった。

 

 

 

 

 

「バーサーカー!! 私を置いていかないで!! 死なないで、死なないでよぉぉぉっ!!!」

 

 

 

カッ!!!

 

 

 

イリヤの右手の甲に刻まれていた三画の令呪が、すべて、一斉に光を放って消滅した。

 

 

 

全画消費。

 

 

 

 

マスターとしての権利をすべて放棄し、聖杯のシステムそのものに強烈に干渉する、絶対命令。

 

 

小聖杯としての機能を持つイリヤスフィールの莫大な魔力と、「彼を失いたくない」という狂気にも似た執念が、令呪というブースターを通して大聖杯へと叩き込まれた。

 

 

本来、ヘラクレスの【十二の試練】による命のストックは、イリヤスフィール程の膨大な魔力の供給を持ってしても回復には数日の時を要する。

 

 

だが、この土壇場において、イリヤスフィールの規格外の魔力、令呪三画による絶対の願いが、その法則を強引に捻じ曲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンッ。

 

 

 

 

「……何?」

 

 

宿儺の四つの瞳が、見開かれた。

 

炭化し、灰となって崩れ去ろうとしていたバーサーカーの残骸の『内側』から、圧倒的な熱と、赤黒い魔力の脈動が生まれたのだ。

 

 

 

「……霊基は完全に崩壊したはず……!」

 

 

凛が絶望的な声を上げる。

 

 

あり得ない奇跡。いや、それは敵から見れば、最悪の呪い。

 

 

命のストックをすべて使い果たした大英雄

 

令呪の奇跡によって『一つの命』が即座に充填された。

 

 

 

 

 

 

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

灰の山を吹き飛ばし。

 

 

黒焦げの肉体が再生し。

 

 

十三回目の再生を経て狂戦士が、この世のすべての理不尽に対する怒りを込めて、天地を揺るがす咆哮を上げた。

 

 

 

「……っ!!」

 

 

 

蘇生した瞬間の、完全な不意打ち。

 

バーサーカーは、一切の予備動作なく大地を蹴り砕き、宿儺と凛の元へと音速を超えて突っ込んできた。

 

 

 

 

「凛!!」

 

 

宿儺は、咄嗟に動いた。

 

 

己を優先する呪いの王の彼が。

 

 

自身を信じて令呪を切り、限界まで魔力を絞り出した誇り高きマスターの体を、思い切り横へと突き飛ばしたのだ。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

凛の体が雪原を転がる。

 

その直後。

 

 

「ガ、ァァァァァァッ!!」

 

 

バーサーカーの渾身の右ストレートが、凛を庇って前に出た宿儺の胴体に、完璧なタイミングでクリーンヒットした。

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!

 

 

 

アインツベルンの森に、巨大な鐘を打ち鳴らしたような凄まじい衝撃音が響き渡る。

 

十三度目の蘇生を果たし、あらゆる耐性と死の経験を積み重ねた大英雄の全霊の一撃。

 

宿儺の強固な呪力防御すらも紙屑のように貫通し、その肉体を容赦なく打ち砕いた。

 

 

「が、はァッ……!!」

 

 

宿儺の口から、大量の鮮血が吐き出される。

 

伏黒恵の細い肉体が、文字通り大砲の弾のように吹き飛ばされ、数百メートル後方の森の奥深くへと一直線に弾き飛ばされていった。

 

 

大木を何本もへし折り、土煙を上げて墜落する。

 

 

「す、宿儺ぁぁぁぁっ!!!」

 

 

突き飛ばされた凛が、血の気を失った顔で絶叫した。

 

バーサーカーの一撃をモロに受けた。いくら宿儺でも、あんな攻撃を無防備に受ければ……。

 

バーサーカーは、凛の絶叫など意に介さず、次なる標的として彼女へとゆっくりと歩み寄ろうとする。

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

 

「……ククッ、ハハハハハハハッ!!!」

 

 

森の奥深く。

 

 

宿儺が吹き飛ばされた土煙の中心から、腹の底から湧き上がるような、狂喜に満ちた高笑いが響き渡った。

 

 

「え……?」

 

凛が呆然とする中。

 

 

 

ザクッ、ザクッと、雪を踏む音が近づいてくる。

 

 

土煙の中から姿を現したのは、右半身の肋骨が完全に粉砕され、左腕が不自然な方向に折れ曲がったままの両面宿儺だった。

 

着ていたシャツは血に染まり、ボロボロになっている。

 

だが、その体から立ち昇る白い蒸気。

 

 

反転術式。

 

 

折れた腕がメリメリと音を立てて元の位置に戻り、粉砕された肋骨が瞬時に再構築されていく。

 

「……素晴らしい。本当に、素晴らしいぞ」

 

 

宿儺の四つの瞳は、歓喜で赤く燃え上がっていた。

 

自身を殺し得る一撃。己の想像を超えて、死の淵から蘇り、牙を剥いた強者への、純粋で絶対的な敬意。

 

かつて、現代最強の呪術師・五条悟と死闘を繰り広げた際に感じた、あの極上の昂ぶりが、呪いの王の全身を駆け巡っていた。

 

 

「やはり、お前たち人間の……狂気は、足掻きは面白いな」

 

 

宿儺は、完全に治癒した右腕で顔についた血を拭い、満面の、しかしどこまでも邪悪な笑みを浮かべてバーサーカーを睨み据えた。

 

 

「よくぞ俺の期待を超えた、英雄!! 褒美だ!!」

 

 

宿儺の全身から、これまでとは比較にならないほど濃密で、世界そのものを押し潰すような莫大な呪力が爆発的に吹き上がる。

 

「今度こそ、骨の髄まで殺し尽くしてやる!!!」

 

アインツベルンの雪原に、呪いの王の歓喜の叫びが轟く。

 

 

理不尽な奇跡と、理不尽な呪い。

 

 

終焉を迎えたはずの死闘は、互いの魂を極限まで燃やし尽くす、真のクライマックスへと突入していった。

 

 

 




あとがき

次回 ヘラクレス死す。
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