Fate/stay night [Alter Ego of Calamity] ――理外の双貌   作:りー037

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極限の泥試合、そして黒き火花は再び舞う

【時刻:午後2:25】

 

【場所:冬木市 郊外・アインツベルンの森】

 

 

黒い火花――『黒閃』を経験した呪術師は、呪力というエネルギーの風味を理解する。

 

アスリートが極限の集中の果てに至る「ゾーン」と呼ばれる状態。現在の両面宿儺は、まさにそのポテンシャルの120パーセントを恣意的に引き出せる、呪術の極致に立っていた。

 

 

「……素晴らしい。本当に、素晴らしいぞ」

 

宿儺の四つの瞳が、血と狂気に濡れた歓喜の光を放つ。

 

 

彼から立ち昇る呪力は、先ほどの領域展開時をも凌駕するほどの圧倒的な密度と質量を伴い、アインツベルンの白亜の森を黒く、ドス黒く染め上げていた。

 

 

大気がビリビリと震え、雪原がそのプレッシャーだけで融解し、水蒸気となって立ち昇る。

 

 

前方には、十三度目の蘇生を果たし、あらゆる理不尽に対する怒りを纏った神話の大英雄、ヘラクレス。

 

 

十二の試練(ゴッド・ハンド)を突破され、令呪による奇跡のバックアップを得てなお、その肉体は悲鳴を上げているはずだった。しかし、大英雄の闘志は一向に衰えることを知らず、むしろこれまでの死を糧として、純粋な殺意の結晶へと昇華されていた。

 

 

(……さて、どう料理してくれようか)

 

 

 

 

 

宿儺は極限の高揚感に包まれながらも、その思考の根底は氷のように冷たく、理知的であった。

 

 

自身のマスターである遠坂凛の魔力残量を正確に推し量る。

 

 

領域展開『伏魔御廚子』の行使。それに続く極大火炎『竈・開』。令呪によるバックアップがあったとはいえ、凛の魔力はすでに残り二割未満、枯渇寸前。

 

 

ここでさらに再度宝具展開による魔力消費は間違いなくマスターは干からび、死に至る。

 

 

宿儺にとって、マスターが死ねば現世への現界が断たれる。

 

 

 

だが、………この極上の『遊び』に、余計な魔術、宝具のギミックはもはや不要だった。

 

 

 

 

 

「おい、英雄。互いに武器を失った身だ。……ならば、これで行こう」

 

 

 

宿儺は、両手をだらりと下げ、首を左右に鳴らした。

 

 

呪力による肉体強化を、さらに一段階、二段階と引き上げる。黒閃を経て覚醒状態にある彼の呪力出力は、すでに天井を突破していた。

 

伏黒恵という少年の細い肉体が、呪力という黒い鋼の鎧を纏い、神話の怪物に匹敵するほどの質量を帯びる。

 

 

「術式も式神もなし。ただの殴り合い(ステゴロ)だ。お前が完全に壊れるか、俺の肉体が砕け散るか……純粋な暴力比べと行こうじゃないか」

 

 

呪いの王の提案に対する返答は、言葉ではなかった。

 

 

 

「ルォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 

 

大地を陥没させ、バーサーカーが砲弾のように宿儺へと突進した。

 

 

それが合図だった。

 

 

 

ドンッ!!!

 

 

 

宿儺もまた、雪原を蹴り砕き、正面から大英雄へと真っ向勝負を挑んだ。

 

両者の距離がゼロになり、二つの拳がアインツベルンの森の中心で激突する。

 

 

 

ゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

 

拳と拳の衝突。ただそれだけで、周囲数十メートルの大地が円形に吹き飛び、周囲の空間が雷鳴の如く轟く。

 

 

衝撃波が暴風となって、遠くでへたり込んでいるイリヤと凛の髪を激しく揺らす。

 

 

 

「ガァァッ!」

 

 

バーサーカーの左の裏拳が、宿儺の側頭部を狙って薙ぎ払われる。

 

 

「シッ!」

 

 

宿儺はそれを紙一重でダッキングして躱し、右のフックをバーサーカーのレバーへと深々と突き刺した。

 

 

ドスッ、という岩盤を穿つような音。

 

だが、バーサーカーは苦悶の声を上げるどころか、その打撃を受けた反動を利用して、右の膝蹴りを宿儺の胸板へと叩き込んだ。

 

 

「グッ……!」

 

 

宿儺の体が数メートル宙に浮く。

 

そこに追撃のラリアットが迫る。

 

しかし、宿儺は空中で体を捻り、バーサーカーの太い腕を両手で掴むと、そのまま遠心力を利用して巨体を大地へと投げ飛ばした。

 

 

 

ズドォォォォンッ!

 

 

 

叩きつけられたバーサーカーだが、即座に跳ね起き、再び宿儺へと躍りかかる。

 

 

 

 

 

 

殴り、殴られ。

 

蹴り、蹴られ。

 

 

 

マスターからの魔術(サポート)も、宝具も、特殊な能力による干渉も介在しない。

 

純粋な身体能力と、格闘センス、そして相手を殺すという絶対の意志だけが交錯するインファイト。

 

宿儺の重い回し蹴りがバーサーカーの首筋にめり込み、骨にヒビを入れる。

 

だが、バーサーカーはその脚を掴み、宿儺を軽々と持ち上げて地面に叩きつけ、巨大な拳をハンマーのように振り下ろした。

 

宿儺は地面を転がって回避し、下から跳ね上がるようなアッパーカットをバーサーカーの顎に打ち込む。

 

 

 

「ハハハハハッ!! 良いぞ!! もっとだ!!」

 

 

 

宿儺は、自身の血を口から吐き出しながら、狂気に満ちた笑声を上げた。

 

カウンターを放てば、さらにその上を行くカウンターが返ってくる。

 

追撃を躱せば、次の瞬間には背後から巨腕が迫る。

 

大英雄の武の記憶と、呪いの王の闘争本能が、互いの熱を極限まで引き上げていく。

 

周囲の地形が変わり、クレーターが重なり合い、白亜の森が完全に泥土と血に塗れた荒野へと変貌していく。

 

それは、永遠に続くかと思われるほどの、凄惨で、しかし神々しい死闘だった。

 

 

 

 

だが、この極限の殴り合いが、どのように決着を迎えるのか。

 

 

その運命は、すでに決まっていた。

 

 

 

 

 

決める。

 

本日二度目。

 

現在から60秒後。

 

冬木市 郊外・アインツベルン城に、黒い火花が再び舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルォォォォォォォォッ!!」

 

 

バーサーカーの巨拳が、宿儺のガードをぶち破り、左肩の関節を粉砕する。

 

 

「チッ!」

 

 

だが、宿儺の表情に苦痛はない。

 

打撃を受けた直後、粉砕された左肩から白い蒸気が吹き出し、瞬時に骨と肉が再構築される。

 

 

反転術式による、常時の超回復。

 

呪力を正のエネルギーに変換し、肉体を修復し続ける神業。

 

互いにボロボロになり、血肉を削り合う死闘の中で、この『回復力』の差が決定的な明暗を分け始めていた。

 

 

 

 

既に命のストックはない。

 

 

限界を越えた十三度に渡る蘇生

 

 

 

十二の試練による恩恵は失われ、イリヤの令呪による奇跡の回復も一度きり。彼が今受けているダメージは、蓄積され、肉体を確実に死へと近づけていた。

 

 

 

対して、宿儺は莫大な呪力が続く限り、何度でも肉体を新品の状態へと戻すことができる。

 

 

 

ドガッ! ゴッ!! バキィッ!!!

 

 

 

 

宿儺の拳がバーサーカーの腹部を抉り、バーサーカーの頭突きが宿儺の額を割る。

 

血飛沫が舞う。

 

宿儺の額の傷は数秒で塞がるが、バーサーカーの全身はすでに血に染まり、その動きはほんの僅かに、だが確実に鈍り始めていた。

 

 

「どうした、英雄!! お前の闘争はその程度か!!」

 

 

宿儺の蹴りが、バーサーカーの右膝の関節を逆にへし折る。

 

ガァァッ、と呻き声を上げながらも、バーサーカーは倒れない。折れた足を引きずりながら、執念の左ストレートを放つ。

 

だが、その拳の軌道は、宿儺の四つの瞳にはっきりと見切られていた。

 

 

 

 

 

残り、10秒。

 

 

 

 

 

宿儺はバーサーカーの拳をスウェーで躱し、懐へと潜り込む。

 

 

「シッ!」

 

宿儺の掌底が、バーサーカーの心臓の位置に叩き込まれる。

 

バーサーカーが血を吐き、後方へたたらを踏む。

 

 

 

 

 

残り、5秒。

 

 

 

 

 

「ルォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

大英雄、真の最後の一撃。

 

 

 

折れた足、砕けた骨、失血による意識の混濁。そのすべてを『イリヤを守る』という絶対の意思でねじ伏せ、バーサーカーは全身の筋肉を限界以上に膨張させた。

 

 

右腕が、まるで大木のように太く膨れ上がり、宿儺の頭部を完全に消し飛ばすべく、大気を引き裂きながら振り下ろされる。

 

 

回避不能のタイミング、そして範囲。

 

いかなる達人であっても、この理不尽なまでの執念の塊を躱すことはできない。

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

 

 

残り、1秒。

 

 

 

 

 

 

 

「――ここまでだ」

 

 

 

宿儺は、振り下ろされるバーサーカーの巨拳に対し、己の右拳を真っ向から突き出した。

 

 

 

紙一重。

 

 

 

バーサーカーの拳が両面宿儺の顔面に迫る。

 

皮膚を掠り、血を散らし、骨を断つ、そんな一撃が見舞われようとした瞬間。

 

宿儺の右拳が、バーサーカーの巨大な拳の『中心』を正確に捉え、迎撃のカウンターとして叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

打撃との誤差、0.000001秒。

 

 

 

 

空間が歪み、呪力が特異点として爆発する。

 

 

 

 

 

バチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!!!!!

 

 

 

 

極限のインファイトの果てに。

 

アインツベルンの森に、本日二度目となる、黒い火花が弾け飛んだ。

 

 

 

『黒閃』

 

 

 

120パーセントのポテンシャルを引き出された呪いの王が放つ、空間そのものを破壊する異次元のカウンター。

 

 

バーサーカー、最後の一撃に込められた運動エネルギーは、黒閃の圧倒的な呪力爆発の前に完全に相殺され、

 

 

 

逆流した。

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

 

 

バーサーカーの右腕が、肩から先まで完全に粉砕され、霧散した。

 

そして、その衝撃波はバーサーカーの巨体そのものを砲弾のように吹き飛ばした。

 

 

 

ズザザザザザザザッ!!!

 

 

 

数百メートルの距離を吹き飛ばされ、アインツベルン城の強固な城壁に激突。分厚い石造りの壁を派手に貫通し、瓦礫の山に埋もれてようやくその動きを止めた。

 

 

 

「……ハァ……ハァ……」

 

 

 

宿儺は、黒い火花の残滓がくすぶる右拳を下ろし、荒い息を吐いた。

 

 

反転術式をフル回転させ、全身の骨と肉を急激に修復していく。

 

 

永遠に続くかに思われた死闘は、この唐突な一撃によって完全に幕を下ろした。

 

 

城壁の瓦礫に埋もれた大英雄は、もはやピクリとも動かない。

 

 

右腕を失い、全身の骨が砕け、霊核も致命的な損傷を受けている。

 

 

十三度目の命の灯火が、今まさに消えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……天晴れだ。お前の強さは、俺の魂に深く刻まれた」

 

 

 

宿儺は、瓦礫の山に埋もれるバーサーカーへ向けて、心からの称賛の言葉を送った。

 

強者に対する、純粋な敬意。この極上の死闘を提供してくれた大英雄への、手向けの言葉だった。

 

 

「さて、トドメと行こうか」

 

 

 

宿儺が指先を上げ、バーサーカーの首を落とすための『解』を放とうとした、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

 

白いコートを泥と雪で汚した少女が、泣き叫びながら瓦礫の山へと駆け寄ってきた。

 

 

イリヤスフィールだった。

 

 

彼女は、再起不能となったバーサーカーの巨大な体にすがりつき、自身の小さな体で彼を庇うように立ち塞がったのだ。

 

 

「お願い……! もうやめて! バーサーカーはもう戦えない! 私の負けでいいから……彼を、彼だけは殺さないで……っ!」

 

 

大粒の涙を流し、血だらけの狂戦士を抱きしめるイリヤ。

 

その姿は、魔術師としての誇りも、聖杯戦争のマスターとしての威厳もすべて捨て去った、ただの一人の無力な少女の懇願だった。

 

 

「…………」

 

 

宿儺の上げかけていた指先が、ピタリと止まる。

 

 

 

 

彼にとって、敗者の命乞いほど反吐が出るものはなかった。

 

 

せっかくの極上の死闘の余韻が、この小娘の矮小な感情によって一瞬にして冷や水を浴びせられたのだ。

 

 

強者への敬意は、弱者の見苦しい執着によって泥を塗られた。

 

 

『熱』が急速に冷めていくのを感じる。

 

 

 

 

 

 

「……興醒めだ。お前のような虫ケラの涙など、俺の腹の足しにもならん」

 

 

宿儺の四つの瞳に、急速に温度を失った絶対的な『殺意』が宿った。

 

彼の呪力が、再びどす黒い殺意の刃となって周囲に渦巻き始める。

 

 

 

「邪魔だ。その肉人形ごと、三枚におろしてやる」

 

 

宿儺が冷酷に指を振り下ろそうとした、まさにその時。

 

 

 

 

 

 

「待ちなさい、宿儺!!」

 

 

横から弾丸のように飛び出してきた赤い影が、宿儺とイリヤの間に立ちはだかった。

 

魔力枯渇で動けないはずの、遠坂凛だった。

 

彼女は震える足で必死に立ち上がり、両手を広げて宿儺の視線を遮ったのだ。

 

 

「……何をしている、凛。退け」

 

宿儺の声は、地を這うように低く、そして底知れぬ怒気を孕んでいた。

 

 

「退かないわ。……勝負はついた。これ以上、無抵抗な相手を殺す必要はないでしょ!」

 

凛は、宿儺から放たれる殺気のプレッシャーに顔を青ざめさせながらも、決して目を逸らさなかった。

 

 

「私たちは、交渉をしに来たの! 彼女を殺せば、聖杯の泥の真実を知る手がかりが永遠に失われるわ! マスターとして、無意味な殺戮は許可しない!」

 

 

「マスター、だと?」

 

 

宿儺は、ギリッと牙を鳴らした。

 

 

「己の命すら自力で守れん小娘が、俺に指図するな。……そこをどけ。どかなければ、お前ごと細切れにするぞ」

 

 

 

 

 

 

一触即発

 

 

 

 

アインツベルンの森に、先ほどの死闘とは違う、冷たくヒリヒリとした緊張感が張り詰める。

 

 

呪いの王と、誇り高き魔術師の少女。

 

二人は、互いの信念をぶつけ合うように、真っ向から見つめ合った。

 

 

数秒の、いや、永遠にも感じられる沈黙。

 

 

凛の瞳の奥にある、決して折れない意志。自身の命を天秤にかけてでも、己の魔術師としての「目的」と「矜持」を貫こうとするその傲慢なまでの光。

 

 

「…………チッ」

 

 

不意に、宿儺は深く、苛立たしげな舌打ちをした。

 

そして、纏っていたどす黒い呪力の殺意を、風船がしぼむようにスッと内側へ収めたのだ。

 

「……本当に、つまらん女だ。せっかくの余韻が台無しだ」

 

 

宿儺はポケットに両手を突っ込み、ひどく不機嫌そうに顔を背けた。

 

 

「だが、まあいい。お前のその身の丈に合わん傲慢さ、令呪の件もある。……今回だけは、顔を立ててやる」

 

 

それは、呪いの王が、明確にマスターである凛への『譲歩』

 

 

凛は、緊張の糸が切れてその場にへたり込みそうになるのを必死に堪え、安堵の息を長く吐き出した。

 

 

 

 

宿儺は、イリヤスフィールの方へとゆっくりと歩み寄り、瓦礫に埋もれた少女を見下ろした。

 

 

「おい、小娘」

 

「ひっ……!」

 

 

宿儺の冷酷な四つの瞳に見下ろされ、イリヤは怯えて身をすくませた。

 

「お前が泣き叫んで守ろうとしているその肉人形だが……霊核が砕けかけている。放っておけば、あと数分で完全に崩壊して消えるぞ」

 

 

宿儺の言葉に、イリヤの顔が絶望に染まる。

 

「そ、んな……嫌……バーサーカー……!」

 

 

「だが、取引をしてやる」

 

宿儺は、悪魔のような笑みを浮かべて言い放った。

 

「俺たちの欲する情報……あの柳洞寺の地下から溢れ出した『黒い泥』の真実。そして、大聖杯の深部で何が起きているのか。そのすべてを包み隠さず開示するなら、その肉人形の命を繋ぎ止めてやらんでもない」

 

 

 

提案という名の、完全な脅迫。

 

愛するサーヴァントの命を人質に取られた状況で、イリヤに拒否権などあるはずがなかった。

 

 

「……わかった、わかったわ……! 何でも話す! だから、バーサーカーを助けて……!」

 

 

イリヤは、涙と泥にまみれた顔で、何度も何度も首を縦に振った。

 

「交渉成立、というわけね」

 

凛が、足を引きずりながら宿儺の横へと並び立つ。

 

 

「フン」

 

 

宿儺は鼻で嗤うと、右手の指先で首の側面を指差す印を結んだ。

 

「――『円鹿』」

 

 

宿儺の背後の影から、神々しい鹿の式神が音もなく顕現した。

 

円鹿が静かに鳴き声を上げると、その角から、極上の正のエネルギー(反転術式)の光が溢れ出し、バーサーカーの巨体を優しく包み込んだ。

 

 

サーヴァントの霊体に対する反転術式の行使は、本来であれば呪力の相殺を引き起こしかねない。だが、宿儺の卓越した呪力操作と、円鹿の中和能力の応用により、正のエネルギーはバーサーカーの崩壊しかけていた霊核を無理やり安定させ、損傷した霊体を物理的に修復していく。

 

 

失われた右腕が再生し、砕けた骨が繋がる。

 

バーサーカーの消えかけていた命の灯火が、ギリギリのところで現世へと繋ぎ止められた。

 

「あ、ああ……! バーサーカー!!」

 

イリヤが、安定した呼吸を取り戻した狂戦士の胸にすがりつき、今度は安堵の涙を流して号泣した。

 

 

凄惨な血の匂いと、破壊された白亜の森。

 

その死地の中心で、呪いの王と魔術師の少女は、ついに目的の第一歩を踏み出した。

 

 

「……さて。約束通り情報は全て吐いてもらうわよ、アインツベルンのお姫様」

 

凛が、魔術師としての冷徹な顔を取り戻し、イリヤを見下ろす。

 

「でも、ここで長話をするのは危険ね。あなたから聞き出す真実は、衛宮くんやセイバーとも情報を共有する必要があるわ。……一旦、衛宮邸に同行してもらうわよ」

 

「…………」

 

 

イリヤは抗議の言葉を紡ぐ気力すらなく、ただ血まみれのバーサーカーを抱きしめたまま、力なく頷くことしかできなかった。

 

 

すべてが収束した。

 

 

泥の真実を知るための鍵を手に入れ、彼らが森を抜けようと踵を返した、その時だった。

 

 

 

 

 

――ゾワッ、と。

 

 

 

 

凛の全身の産毛が、一斉に逆立った。

 

 

宿儺から放たれる悍ましい殺気とは違う。世界そのものが、自分たちを「不敬な異物」として排斥しようとするかのような、重く、そして圧倒的な『威圧感』。

 

 

「……ほう?」

 

いち早くそれに気づいた宿儺が、ピタリと足を止め、四つの瞳を細めて頭上の夜空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間が、水面のように波打つ。

 

一つ、二つではない。十、数十、数百。

 

漆黒の冬の夜空を塗り潰すように、眩い黄金の『波紋』が無数に展開されたのだ。

 

「な、何あれ……!?」

 

凛が絶句し、上空を見上げる。

 

その空を埋め尽くす黄金の波紋の中から、剣、槍、斧、ありとあらゆる武具の原典が、ゆっくりとその切っ先を覗かせる。

 

 

 

 

それはまるで、天を覆う『黄金の雨』。

 

今まさに、眼下の宿儺たちを串刺しにすべく、無慈悲な死の驟雨となって降り注ごうと、極限まで引き絞られていた。

 

 

そして、その無数の凶器を背負うように。

 

 

最も高い虚空――アインツベルンの森に残された巨木を見下ろす位置から、一人の男が彼らを睥睨していた。

 

 

夜闇よりも眩く輝く、黄金の甲冑を纏った男。

 

その紅蓮の双眸は、地を這う宿儺たちを、神が地上の虫ケラを見下ろすかのような、どこまでも傲慢で絶対的な視線で射抜いている。

 

 

 

 

絶対的な王の降臨。

 

 

 

 

宿儺の瞳の奥から、地鳴りのような低い殺意が漏れ出す。

 

 

 

冬木を舞台にした聖杯戦争に。

 

天上天下唯我独尊を地で行く呪いの王の前に、彼と対極にして同質の、もう一つの『理不尽』がその姿を現した。

 

 

 

 




あとがき

ヘラクレス戦が終わりました。
特に戦闘描写に関しては我ながら上手く着地させられたんじゃないかなって思ってます!

感想まってます!


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