Fate/stay night [Alter Ego of Calamity] ――理外の双貌 作:りー037
【時刻:午前9:25】
【場所:冬木市 円蔵山・柳洞寺 本堂前】
クレーターの底。
黄金の王の顔面を大地に叩きつけた宿儺は、ひどく冷めた視線で足元の男を見下ろしていた。
だが、神話の時代から全人類を俯瞰してきた絶対の暴君が、この程度の一撃で地に伏したまま終わるはずもない。
「――己れ」
地響きのような、ドス黒い殺意の声がクレーターの底から這い上がった。
ギルガメッシュが、血に塗れた顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。彼が纏う黄金の甲冑――神代の神秘を幾重にも編み込んだ絶対防御の装甲の顔面部から胸元にかけて、ピキピキと音を立てて無数の亀裂(ヒビ)が走っていた。
「……この、薄汚い呪い風情が。王たる我の顔に、泥のついた手で触れたなッ!!」
ギルガメッシュの紅蓮の双眸が、これまでにないほどの激怒で真っ赤に染まる。
その怒気に呼応し、柳洞寺の空を覆い尽くしていた黄金の波紋が、さらにその数を倍加させた。数千、いや、数万。空を埋め尽くすという表現すら生ぬるい、空間そのものが「殺意を持った宝物庫」へと変貌している。
「チッ、五月蝿いハエどもが。……凛、邪魔だ」
宿儺は、背後で唖然と立ち尽くしていた遠坂凛に向かって、見えない呪力の衝撃波を放った。
「きゃあっ!?」
ダメージはない。ただ、彼女の身体をふわりと浮かせ、安全圏である本堂の裏手――士郎やセイバーが倒れている場所へと強引に吹き飛ばしたのだ。
今の宿儺は、凛との魔力パスが完全に切断された「独立個体」。彼女を守る義理はない、
だが自身の最高の特等席を、流れ弾で壊されるのだけは気に食わなかった。
「さて。余興は終わりだ、英雄王」
宿儺は、四つの腕をだらりと下げ、二つの口を凶悪に吊り上げた。
彼の肉体から放たれる呪力は、マスターという枷を外れたことで、無限の奔流となって周囲の空間を歪ませている。
「死をもって償え、不敬なる者!! 塵一つ残さず消滅させてくれる!!」
ギルガメッシュが腕を振り下ろす。
空を覆う数万の黄金の波紋から、神代の原典が、まさに豪雨のごとく一斉に射出された。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!
音速を超える宝具の雨。
だが、全盛期の肉体を取り戻した宿儺の眼には、それらが全て「止まって」見えていた。
宿儺は一歩も退かず、正面からその豪雨の中へと歩みを進める。
『解』『解』『解』『解』
四本の腕が、残像すら残さずに振るわれる。
放たれる無尽蔵の不可視の斬撃。
ガガガガガガガガガッ!!!
飛来する名剣、魔槍、戦斧が、宿儺の周囲数メートルの空間で、不可視の刃と激突し、次々と空中で粉々に粉砕されていく。
宝具の破片がキラキラと光を放ちながら雨のように降り注ぐ中を、呪いの王は涼しい顔で歩み続ける。
「小賢しい真似を! 防御など無意味だと知れ!!」
ギルガメッシュの波紋から、今度は炎を纏った魔剣と、凍気を放つ戦槌が同時に射出される。物理的な破壊だけでなく、魔力的な属性を持たせた飽和攻撃。
「……フン」
宿儺は四つの腕のうち、下の二本で印を結び、上の二本を広げた。
「領域展開――」
ゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
柳洞寺の境内、その中心に、血塗られた牛の頭骨を頂いた禍々しい神殿が顕現する。
「――『伏魔御廚子』」
結界を閉じない、神業の領域。
最大半径二百メートルの空間が、一瞬にして宿儺の「絶対の支配下」に置かれた。
ギルガメッシュの射出した数千の宝具が、宿儺に届く前に、空間そのものから発生する無限の斬撃によって文字通り「塵」へと変えられていく。
それだけではない。
自動選別される斬撃は、領域内に立つギルガメッシュの肉体そのものにも襲い掛かろうとした。
「……ほう。空間そのものに自身の魔術を定着させ、必中の理を敷く結界か!」
だが、ギルガメッシュはただ立っていたわけではなかった。
彼の圧倒的な千里眼は、宿儺が展開した『領域』の性質――その必中必殺のメカニズムを瞬時に解析していた。
「我が宝物庫には、あらゆる理(ルール)に対する解答が存在する。……結界には、結界を以て中和するまでよ!」
ギルガメッシュが、王の財宝の奥深くから、一つの奇妙な形をした石板を引き出した。
メソポタミアの神々が世界を創造した際に用いたとされる、神域を区切るための結界の原典――『天地を分かつ境界の碑(キシュの神礎)』。
彼がその石板を地面に突き立てた瞬間。
ギルガメッシュを中心とした半径数十メートルの空間が、黄金の光に包まれた「異界」へと変貌した。
ギギギギギギギギギギギギギッ!!!!
空間が、凄まじい音を立てて軋み始める。
宿儺の必中の斬撃が降り注ぐ『伏魔御廚子』の領域と、ギルガメッシュが展開した『神代の異界』。
二つの全く異なる「理(ルール)」を敷いた世界が、互いの境界線で真っ向から衝突し、押し合いへし合いを始めたのだ。
「……ククッ、ハハハハハハ!」
宿儺は、己の必中の斬撃が、ギルガメッシュの周囲数メートルで黄金の光の壁に中和され、相殺されていくのを見て、腹の底から笑い声を上げた。
「面白い。……あの時、五条悟との押し合いを思い出すな」
互いの領域(結界)が拮抗し、必中効果が打ち消し合っている状態。
ならば、結末を決めるのはただ一つ。結界の内部で行われる、純粋な殺し合いによる「術者本体の破壊」のみ。
ダンッ!!
宿儺が大地を蹴り砕き、神速でギルガメッシュの展開する異界の境界線を突破した。
「来るがいい、呪い! !」
ギルガメッシュもまた、空中に無数の宝具を展開し、自らも両手に双剣を握りしめて宿儺を迎え撃つ。
全盛期の呪いの王と、本気の英雄王。
互いの全霊を懸けた、極致の戦闘が幕を開けた。
ズバァァァンッ!! ガキィィィンッ!!!
宿儺の上の右腕が、ギルガメッシュの右の剣を弾き飛ばし、下の左腕が、死角から迫る魔槍を白刃取りで掴み取ってへし折る。
ギルガメッシュは決して近接格闘が不得手なわけではない。彼の身体能力と、宝物庫からの予測不能な自動迎撃システムは、並の英霊であれば一瞬で細切れにする。
だが、宿儺の「四本の腕」と「二つの口」というアドバンテージは、あまりにも絶大だった。
下の二本の腕で飛来する宝具を捌き、上の二本の腕でギルガメッシュ本体に怒涛の連撃を叩き込む。さらに、余った二つ目の口で常に呪詞を詠唱し、威力を底上げした『解』と『捌』を至近距離から連射する。
「シッ!」
ギルガメッシュが天の鎖(エルキドゥ)を射出し、宿儺の四肢を縛ろうとする。
「遅い!」
宿儺は【空界踏破】で空中の見えない面を蹴り、あり得ない角度の直角機動で鎖を回避。そのまま空中で反転し、ギルガメッシュの死角――真上から急降下した。
「――舐めるなッ!!」
ギルガメッシュの背後から、彼を守るための自動防衛宝具(シールド)が何十枚も展開される。
しかし、宿儺はそれらの盾を破壊しようとはしなかった。
宿儺の視線は、宝具の射出口である『黄金の波紋(ゲート)』そのものに向けられていた。
「――『捌』」
宿儺の上の右腕が、防御宝具の隙間を縫うように差し込まれ、空間に開いた黄金の波紋そのものを直接『掴んだ』。
相手との呪力(魔力)差に応じて、対象を微塵に切り刻む重斬撃。
メギャァァァァァァンッ!!!!
「な……ッ!?」
ギルガメッシュが、信じられないものを見たように目を見開く。
宿儺の掌から放たれた斬撃が、宝具ではなく、宝物庫へ繋がる空間の扉――『ゲート・オブ・バビロンの波紋』そのものを、ガラスを叩き割るように空間ごと粉砕したのだ。
「宝具ではなく、射出口の空間そのものを切り裂いただと……!? 貴様!!」
空間が割れ、宝具の供給が数カ所で断たれる。
その一瞬の防御のほころびを、全盛期の呪いの王が見逃すはずがない。
「よそ見をしている場合か、英雄王」
宿儺の巨体が、ギルガメッシュの懐に完全に潜り込んでいた。
極限の集中。
打撃と呪力のベクトルが、コンマ一秒の誤差もなく、ミクロの次元で完全に一致する。
空間が、歪む。
「――『黒閃』」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!
黒い、そして禍々しい火花が、ギルガメッシュの腹部で爆発した。
極小確率で発生する、呪力と打撃の完全一致。その威力は、通常の打撃の二・五乗に跳ね上がり、いかなる強固な魔力装甲をも貫通しうる。
宿儺の放った黒閃は、ギルガメッシュの纏う神代の黄金甲冑を、紙屑のように完全に粉砕した。
「ガ、アァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」
ギルガメッシュの口から、大量の血飛沫が舞う。
彼の巨体が、砲弾のような速度で吹き飛ばされ、柳洞寺の分厚い土塀を何枚もぶち抜きながら、境内の端まで叩きつけられた。
「……ハァ……ハァ……」
宿儺は、自身の右拳から立ち昇る黒い火花を見つめ、凶悪な笑みをさらに深くした。
黒閃の発生による、120%の覚醒状態。
ただでさえ全盛期のスペックを取り戻した肉体が、さらに呪力効率と術式精度を跳ね上げ、脳の処理速度が神の領域へと突入しているのを感じる。
「……素晴らしい。これほど心躍る死闘は、あの術師以来だぞ、英雄王!」
瓦礫の山から。
ギルガメッシュが、粉々に砕け散った黄金の甲冑を乱暴に脱ぎ捨てながら、ゆっくりと立ち上がった。
彼の腹部は黒閃によって無惨に抉られ、大量の血を流している。しかし、その紅蓮の双眸に宿る光は、絶望ではなく、王の怒りそのものであった。
「……よくぞ言った、雑種。我の全身全霊を以て、貴様という不浄をこの世から抹消しなければ、王としての我の気が済まん」
ギルガメッシュの周囲から、黄金の波紋が完全に消え去る。
数千、数万の宝具の雨による飽和攻撃をやめたのだ。
いや、やめたのではない。全ての魔力と意識を、ただ一つの『究極の原典』を解放するためだけに集中させたのだ。
彼の右手の横に、禍々しい赤い空間の断層が展開される。
そこから引き抜かれたのは、三つの円柱状の刃を持つ、星を切り裂く剣
対界宝具――『乖離剣(エア)』。
ギルガメッシュがその柄を握りしめた瞬間、赤い暴風が巻き起こり、柳洞寺の空間そのものが悲鳴を上げて軋み始めた。
「……ほう。またアレを抜くか」
瓦礫の山に立つ宿儺は、四つの瞳を細め、狂気に満ちた笑みを浮かべた。
黒閃を経て、極限の120%の覚醒状態にある呪いの王。彼の脳髄は、神の領域に達した処理速度をもって、眼前の事象を完璧に解析していた。
先ほど、令呪のバックアップを得た上で軌道を反らすのが精一杯だった、世界そのものを崩壊させる対界宝具。まともに撃ち合えば、たとえ今の全盛期の肉体と呪力をもってしても、相打ちか、あるいは再び甚大なダメージを免れない。
だが、宿儺には見えていた。あの絶望的な破壊の剣が抱える、唯一にして最大の『隙』が。
(……あの剣、威力は世界をすり潰すほど絶大だが、そのエネルギーを限界まで圧縮し、断層を形成するまでに、ほんの僅かな『タメ』が必要だ)
宿儺の視線は、乖離剣を持つギルガメッシュではなく、彼の周囲の空間へと向けられる。
(そして、全魔力をあの究極の剣に集中させている間、奴は周囲にあの厄介な『黄金の波紋(ゲート)』を複数展開することができない。あるいは、展開したとしても迎撃の精度と速度が極端に落ちる。……つまり、最大の火力を誇る瞬間こそが、奴の最大の『隙』だ)
わざわざ相手のチャージが完了するのを待ってやる義理などない。
だが、ただ斬撃を飛ばしたところで、神代の英雄王がエアを構えながら最低限の防御すらできないわけではない。確実に、そして完膚なきまでにあの王を葬り去るための盤面。
「さあ、見せてみろ英雄王。貴様の星を裂く剣が先か、俺の呪いが先か」
宿儺の腹部に開いた二つ目の口が、異様な重低音で呪詞を紡ぎ始めた。
「――『龍鱗』」
同時に、上の二本の腕が、ギルガメッシュへと手掌を向ける。
『世界を断つ斬撃』を放つ為のチャージ。
ギルガメッシュもまた、乖離剣を高々と天に掲げ、三つの円柱状の刃を逆回転させて赤い断層のエネルギーを極限まで圧縮していく。
「目覚めよ、エア! この世界ごと、あの薄汚い呪いを虚無へと還せ!!」
「――『反発』」
互いに対界宝具を解放するための、一瞬のタメ。
しかし、宿儺の『多重行動』の特権は、常軌を逸していた。
腹の口で呪詞を詠唱し、上の腕で術式の指向性を設定しながらも、彼にはまだ『下の二本の腕』が完全に自由な状態で残されているのだ。
(さて。まずは邪魔な壁を退かすとするか)
宿儺の四つの瞳が、ギルガメッシュの足元に突き立てられた石板――『伏魔御廚子』の必中効果を中和している神代の結界宝具『天地を分かつ境界の碑(キシュの神礎)』を正確に捉えた。
シュパンッ!!
宿儺の下の右腕が、神速で振るわれる。
放たれた不可視の斬撃『解』は、ギルガメッシュ本体ではなく、彼を守る石板の根元を正確に狙い撃った。
「な……ッ!?」
ギルガメッシュの紅蓮の瞳が驚愕に見開かれる。
乖離剣に全霊の魔力を注ぎ込んでいる今の彼には、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を瞬時に展開して石板を防御する余裕がない。
ガガァァァァンッ!!!!
不可視の刃が、神代の石板を真っ二つに両断した。
石板が崩れ落ちると同時に、ギルガメッシュの周囲を覆っていた黄金の異界がパリンッと音を立てて砕け散る。
それはすなわち、ギルガメッシュという存在が、再び宿儺の『伏魔御廚子』の絶対的な【必中】の支配領域に完全に飲み込まれたことを意味していた。
「――チッ!!」
ギルガメッシュの全身に、無数の斬撃の嵐が自動で降り注ぎ始める。
黄金の甲冑を失っている彼の肉体が、瞬く間に無数の切り傷で覆われ、鮮血が舞い散る。だが、英雄王は血を吐きながらも、乖離剣のチャージを絶対に止めなかった。
ここでチャージを止めれば、必中の嵐の前に削り殺される。ならば、肉体が微塵にされる前に、眼前のバケモノを世界ごと消し飛ばすしかない。
「――『番いの流星』」
宿儺の呪詞が完了した。
そして、ギルガメッシュの乖離剣もまた、臨界点へと達した。
「――『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!!!!
ギルガメッシュが、空間をすり潰す赤い断層の暴風を、宿儺に向けて一気に解放しようと剣を振り下ろす。
しかし。
呪いの王の口角は、どこまでも深く、ひどく意地悪く吊り上がっていた。
「発動のタイミングは同時だ。……だが、届くのは俺の方が早いぞ、英雄王」
宿儺は、向けられた手掌から究極の一閃を放つ。
しかしそれは、通常の斬撃のように、空間を飛翔していく斬撃ではない。
彼が今放ったのは、結界の中和を解かれ、完全に自身の支配下(伏魔御厨子)に置かれたギルガメッシュに対する――『領域の必中効果として付与された対界宝具』。
距離も、空間の隔たりも、飛翔する時間も関係ない。
放たれた瞬間に、すでに命中しているという『必中の理』
「――『解』ッ!!!!」
赤い断層の暴風が、ギルガメッシュの剣から放たれる、そのほんのコンマ数秒前。
すでに『当たっている』世界を断つ斬撃が、ギルガメッシュの肉体と、彼が立っている空間そのもの、そして乖離剣のエネルギーごと、無慈悲に両断した。
ピシッ……。
音が、消えた。
ギルガメッシュの振り下ろそうとした両腕の動きが、ピタリと静止する。
乖離剣から噴き出そうとしていた赤い暴風が、行き場を失い、断たれた空間の狭間へと吸い込まれるようにして、シュゥゥゥ……と音を立てて霧散していく。
「……あ、ァ……」
ギルガメッシュの口から、微かな空気が漏れた。
彼の胸の中心から、斜めに、完全にズレた断層が走っていた。
肉体だけではない。彼が存在していた空間のキャンパスそのものが、背景ごと真っ二つに切り裂かれているのだ。
必中にして不可避。
タメの隙を突き、防御を剥がし、領域の理(ルール)を押し付けた、呪術の極致による完全なる勝利。
「……ハッ。貴様……最後の最後まで、姑息な理屈を……通しおって……」
ギルガメッシュは、大量の血を吐きながらも、その紅蓮の瞳でしっかりと宿儺を見据えていた。
彼の肉体が、崩壊を始めている。世界そのものを両断されたのだ。
「……英雄王。お前のその傲慢な面構え、死ぬまで忘れてやらん」
宿儺は四つの腕を下ろし、消えゆく王に対して、最大級の賛辞を贈った。
「……フン。不浄の呪いが……王を気安く呼ぶな。……だが、見事な一撃であった。我の庭を汚した罪、あの世でたっぷり清算させてやる……」
ギルガメッシュの顔には、屈辱や後悔はなかった。
ただ、己の全力を出し切り、それを上回る理不尽(バケモノ)に敗れたという事実を、王としての矜持をもって受け入れた、静かな散り際であった。
――静寂が、柳洞寺の本堂前を包み込む。
領域展開『伏魔御廚子』が解け、禍々しい祠が空間に溶けるように消え去る。
「……ハァ……ハァ……」
クレーターの中心。
ただ一人立ち尽くす宿儺の肉体からもまた、淡い金色の光の粒子が立ち昇り始めていた。
サーヴァントの枠組みを外れ、受肉の再開という禁忌を犯した代償。
マスターとのパスが切断され、現界を維持するアンカーを持たない彼の存在は、戦闘を終えた今、急速に世界から剥がれ落ちようとしている。
四本の腕が、元の二本へと戻っていく。
腹部の口が消え、顔の右半分の異形が薄れ、本来の受肉体であった『伏黒恵』の面影を残す姿へと戻っていく。
全盛期の力は、文字通り、たった数分間だけの幻であった。
あとがき
少し遅れました