Fate/stay night [Alter Ego of Calamity] ――理外の双貌   作:りー037

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運命の夜、交差する王たち

【時刻:午後9:20】

 

【場所:冬木市・衛宮邸 士郎視点】

 

痛い。

 

胸が、焼けるように熱い。

 

衛宮士郎は、荒い呼吸を繰り返した。

 

「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

全身が汗まみれだった。無意識に自身の胸ぐらを掴む。そこにあるはずの風穴はなく、血の濡れた感触もない。ただ、心臓が早鐘のように鼓動を打っているだけだ。

 

(……夢、じゃない。俺は確かに、学校で……殺されたはずだ)

 

記憶が混濁している。学校に遅くまで残り、帰ろうとした矢先に、青い全身タイツの男と、白い和服を着た奇妙な男の殺し合いを目撃してしまった。

 

そして、青い男の槍が、自分の心臓を貫いた

その直後の記憶はすっぽりと抜け落ちている。

 

 

「……なんだってんだよ、一体」

 

士郎は呟きながら、立ち上がろうとした。

 

 

その時だった。

 

 

――ドンッ!!

 

 

家の外から、何かが激突するような鈍い音が響いた。

 

直後、玄関の方角から、ガラスが粉々に砕け散る破砕音が夜の静寂を切り裂いた。

 

「なっ……なんだ!?」

 

士郎は咄嗟に身構えたが、本能が全力で警鐘を鳴らしていた。

 

違う。あんな非常識な壊し方をする人間の泥棒などいない。あの音は、人間が出せる質量の音ではない。

 

 

冷や汗が背筋を伝う。

 

士郎は縁側へと飛び出し、廊下を走った。

 

しかし、その背後から、圧倒的な『死の気配』が猛スピードで迫ってくるのを感じた。

 

「よう、坊主。生憎だが、目撃者は生かしておけねえルールでな」

 

聞き覚えのある、あの青い槍兵(ランサー)の声。

 

「テメェがどうやって息を吹き返したかは知らねえが、今度こそ確実に首を撥ねてやるよ!」

 

「くそっ……!」

 

士郎は庭へと飛び降り、無我夢中で土蔵へと走った。

 

なぜこんな目に遭うのか。なぜ殺されなければならないのか。理解が追いつかない。だが、死にたくないという生存本能が、彼の足を前に動かしていた。

 

 

土蔵に飛び込み、重い木扉を閉める。

 

 

暗闇の中、冷たい土の床。ガラクタが散乱するこの場所は、士郎が毎夜、魔術の鍛錬を行ってきた秘密の工房だ。

 

 

ドガンッ!!

 

 

しかし、そんな木の扉など、神話の英雄の前では紙切れ同然だった。

 

扉が木っ端微塵に吹き飛び、月明かりを背にしてランサーが姿を現す。紅き魔槍が、獲物を狙う蛇のように鎌首をもたげている。

 

「逃げ場はねえぞ。大人しく死にな」

 

ランサーが、無慈悲に槍を振りかぶった。

 

士郎は近くにあった丸めたポスターを手に取り、無意識のうちに『強化』の魔術を流し込んだ。

 

 

「……『同調、開始(トレース・オン)』!」

 

 

鉄の硬度を持ったポスターで、ランサーの槍の軌道を逸らそうとする。

 

「はっ、魔術師の端くれだったか! だが、付け焼き刃だぜ!」

 

 

ガァァンッ!!

 

 

強化されたポスターごと、士郎の体は吹き飛ばされ、土蔵の奥へと叩きつけられた。

 

全身の骨が軋み、口から血が零れる。

 

「がっ……、あ……」

 

ランサーが、とどめを刺すべくゆっくりと歩み寄ってくる。

 

視界が霞む。死の淵。思考が白く染まっていく。

 

 

(……ふざけるな)

 

 

死にたくない。こんなところで、理不尽に殺されてたまるか。

 

 

俺はまだ、誰かを助ける正義の味方に――。

 

 

その強烈な生への執着が、士郎の体内に眠る『鞘』と、土蔵の床に描かれていた古い魔法陣を共鳴させた。

 

世界が、一瞬停止した。

 

土蔵の暗闇を、眩いほどの『光』が埋め尽くす。

 

風が巻き起こり、周囲のガラクタが吹き飛んだ。

 

「――なんだと!?」

 

ランサーが驚愕の声を上げ、後方に跳躍する。

 

光の中心。

 

そこには、銀色の甲冑を纏い、見えない剣を手にした、一人の小柄な少女が立っていた。

 

金色の髪。翡翠のような鋭く美しい瞳。

 

それは、いかなる闇にも屈しない、星の息吹を具現化したような清浄なる魔力の塊だった。

 

少女は、倒れ伏す士郎を一瞥すると、透き通るような声で問いかけた。

 

 

 

 

 

「――問おう。貴方が、私のマスターか」

 

「え……」

 

 

 

 

 

 

士郎は、そのあまりにも非現実的で、しかし圧倒的に美しい光景に、痛みを忘れて見入ってしまった。

 

しかし、少女――セイバーは、士郎の返答を待たず、眼前の敵へと振り向いた。

 

「事情は後にしましょう。まずは、そこの不届き者を排除します」

 

ダァンッ!!

 

セイバーの姿が消えた。

 

ランサーが咄嗟に槍を構えるが、見えない剣(インビジブル・エア)の一撃が、防いだ槍ごとランサーの体を土蔵の外へと弾き飛ばした。

 

「チッ、セイバーのクラスかよ! よりによって一番厄介なのを喚びやがったな!」

 

庭へと吹き飛ばされたランサーは、体勢を立て直し、舌打ちをした。

 

相手は万全のセイバー。これ以上の戦闘は不利と悟ったのか、あるいはマスターからの令呪による撤退命令が下ったのか。

 

「……今日は厄日だぜ。大物は現れるわ、死人は蘇るわ。覚えておけよ、セイバー。次に会った時がテメェの最後だ」

 

ランサーは獣のように身を翻し、塀を蹴って夜の闇へと消え去っていった。

 

 

 

 

【時刻:午後9:40】

 

【場所:衛宮邸 庭・遠坂凛視点】

 

「……間に合った、わね」

 

衛宮邸の塀の上に降り立った遠坂凛は、息を弾ませながら眼下の光景を見下ろした。

 

ランサーがちょうど逃走していく気配。そして、土蔵の前で月明かりを浴びて立つ、銀の甲冑の剣士。

 

間違いなく、最強のクラス『セイバー』だった。

 

「……あの魔力。清浄すぎて、鼻が曲がりそうだ」

 

凛の横で、同じく塀の上に立つ両面宿儺が、ひどく不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

彼の純白の和服が夜風に揺れる。その四つの瞳は、眼下のセイバーを『極上の獲物』、あるいは『最も目障りな光』として鋭く睨みつけていた。

 

 

(……すごい。あれが、本来なら私が喚び出すはずだったサーヴァント……!)

 

 

凛は、セイバーの凛々しい姿に目を奪われていた。

 

しかし、その感傷は、剣士の鋭い殺気によって即座に現実に引き戻された。

 

 

 

 

「――そこにいるのは誰だ! 去った槍兵の同類か!」

 

セイバーが、弾かれたように塀の上の二人を睨み上げた。

 

 

彼女の直感スキルが、けたたましい警鐘を鳴らしていたのだ。先程のランサーとは比較にならない、それどころか、英霊という枠組みすら疑わしいほどの、途方もなくどす黒い『呪い』の気配。

 

 

「ほう。番犬としてはなかなか優秀な感覚だ」

 

宿儺が、凶悪な笑みを浮かべた。

 

「いいだろう。この盤面で最も眩い光……それがどれほどのもろさか、俺が直々に試してやる」

 

「ちょっと、宿儺! 待ちなさ――」

 

凛が止める間もなかった。

 

宿儺が、ふわりと塀から飛び降りた。

 

重力を感じさせない、羽虫のような着地。しかし、彼が庭の土を踏んだ瞬間、衛宮邸の敷地全体が、泥のような重圧に包まれた。

 

「……っ! 貴様、何者だ! その悍ましい気配、英霊ではあるまい!」

 

セイバーは見えない剣を構え、全身の魔力を限界まで引き上げた。

 

彼女の騎士としての本能が、目の前の浴衣の少年を「絶対に放置してはならない巨悪」だと断定していた。

 

 

「名乗る必要はない。お前のその光が、俺の眼を焼く前に消し飛ぶだけだ」

 

 

宿儺の右手が、軽く振られた。

 

 

ヒュンッ!!

 

 

セイバーの『直感 A』が、不可視の致死の軌道を察知した。

 

「――っ!」

 

セイバーは横に大きく跳躍する。

 

 

直後、彼女が先ほどまで立っていた庭の地面が、見えない大剣で斬り裂かれたように、深く、長く抉り取られた。

 

「……不可視の斬撃! 魔術の詠唱もなく、ただ腕を振っただけでこれほどの威力を……!」

 

セイバーは戦慄した。見えない剣を持つ自分と同じ、いや、武器すら介さない分、相手の方が遥かにタチが悪い。

 

「躱すか。ならば、これでどうだ」

 

宿儺が、地面を蹴った。

 

 

【空界踏破 B】

 

距離を一瞬で詰める神速の踏み込み。セイバーが迎撃のために剣を振り下ろすが、宿儺は空中の見えない『面』を蹴り、軌道を直角に変えてセイバーの背後へと回り込む。

 

「遅い」

 

宿儺の手刀が、セイバーの首筋を狙って薙ぎ払われる。

 

「くっ……!」

 

セイバーは体を捻り、見えない剣でその手刀を受け止めた。

 

ガキィィィンッ!!!

 

金属のぶつかる轟音が庭に響き渡る。

 

セイバーの足元の土がクレーターのように吹き飛んだ。

 

「……素手で、私の剣を……! 規格外の膂力……それに、この重い魔力は……!」

 

セイバーは歯を食いしばりながら、必死に拮抗を保とうとする。

 

 

「魔力ではない。『呪力』だ」

 

 

宿儺は至近距離で嗤った。

 

「どうした、お前のその眩い理想で、俺の呪いを浄化してみせろ」

 

宿儺の左手が、セイバーの腹部を狙って『捌』の呪力を込めた掌底を放つ。

 

触れれば即座に肉体を細切れにする、必殺の一撃。

 

 

魔力放出

 

セイバーは全身から莫大なマナの爆風を放ち、強引に宿儺との距離を取った。

 

息が上がる。たった数合の打ち合い。それだけで、セイバーは目の前の化け物が、真っ向から打ち合えば確実に自分が削り殺される相手だと理解していた。

 

(宝具を……いや、まだ真名を明かすわけにはいかない。しかし、この邪悪はここで断たねば!)

 

セイバーが見えない剣を上段に構え、渾身の一撃を放とうと踏み込んだ、その時だった。

 

「――やめろ、待ってくれ!!」

 

土蔵の中から、傷だらけの衛宮士郎が転がり出てきて、絶叫した。

 

「……えっ?」

 

凛が塀の上から驚きの声を上げる。

 

士郎の右手に刻まれた、三画の赤い模様――『令呪』が、眩く発光した。

 

「なっ……!?」

 

セイバーの体が、ビクンと硬直した。

 

マスターからの絶対命令。それも「行動を停止しろ」という強烈な呪縛が、彼女の宝具への魔力供給を強制的に遮断し、振り下ろそうとした剣をピタリと空中で停止させた。

 

「マスター……!? なぜです、この男は……!」

 

セイバーが苦悶の表情で士郎を振り返る。

 

「……あ、」

 

士郎自身も、自分が何をしたのか分かっていなかった。

 

ただ、目の前で殺し合っているのが、自分の命を助けてくれた(と認識している)遠坂凛の連れだと気づき、無意識に「やめろ」と叫んでしまったのだ。

 

 

 

 

「……ふっ、くははははは!」

 

セイバーの動きが止まったのを見て、宿儺が腹を抱えて笑い出した。

 

「傑作だ!自身の臆病さ故に、 自らのサーヴァントに首輪を嵌めるか。本当に見世物としては最高だな、小僧!」

 

宿儺が、無防備になったセイバーの首を刎ねようと、ゆっくりと右手を上げた。

 

「そこまでよ、宿儺!!」

 

塀の上から飛び降りた凛が、宿儺の前に立ちはだかった。

 

彼女の右手にも、真っ赤な令呪が輝いている。

 

「私の指示なしで勝手な戦闘は許さない! 引けと言っているのよ!」

 

凛の怒声が、庭に響き渡る。

 

令呪による強制力を含んだその声に、宿儺は「チッ」と舌打ちをし、右手を下ろした。

 

「……興を削ぐ女だ。いいだろう、勝敗はすでに見えている」

 

宿儺は自身の白い和服の袖を払い、殺気を完全に霧散させた。

 

冷たい冬の夜の庭。

 

絶対的な死の気配が去り、後に残されたのは、ゼェゼェと息を切らす士郎と、警戒を解かないセイバー、そして頭を抱える凛だけだった。

 

 

 

 

【時刻:午後10:00】

 

【場所:衛宮邸 居間】

 

「……それで? 遠坂が俺の命の恩人で、その白い着物の奴が、あんたのサーヴァントってことか?」

 

衛宮邸の純和風な居間。

 

ちゃぶ台を挟んで、士郎と凛が向かい合って座っていた。

 

凛は温かい日本茶を啜りながら、大きなため息をついた。

 

「……恩人というか。実際にあなたの胸の傷を治したのは、あそこにいる自己中男よ」

 

 

凛が視線を向けた先。

 

居間の隅の柱に寄りかかり、腕を組んで目を閉じている宿儺がいた。

 

その対角線上の部屋の隅では、セイバーが正座をし、いつでも剣を抜ける態勢で宿儺から一時も目を離さずに監視している。

 

光と闇、全く対極の存在が同じ和室にいるという、この上なくシュールで胃の痛くなる空間だった。

 

「治した……俺を?」

 

士郎は信じられない思いで宿儺を見た。

 

先ほどまで、セイバーを圧倒し、周囲の空間ごと自分たちを切り刻もうとしていたあの化け物が、自分の命を救ったというのか。

 

「勘違いするな、小僧」

 

宿儺が目を開け、冷たい視線を士郎に向けた。

 

「俺はお前の命に価値を見出したわけではない。俺のマスターが、自身の切り札を消費してまでお前を救おうとした。その滑稽なエゴを、少しばかり嘲笑ってやるために手を下しただけのことだ」

 

「……」

 

士郎には、その言葉の真意は分からなかった。だが、あの男から発せられる『本物の殺気』を知っているからこそ、それが冗談ではないことだけは理解できた。

 

「……説明するわ、衛宮くん。あなたが今、どんな理不尽な状況に巻き込まれたのかを」

 

凛は空の湯呑みを置き、真剣な表情で士郎に向き直った。

 

そこから、凛による『聖杯戦争』のレクチャーが始まった。

 

七人の魔術師(マスター)と、七騎の英霊(サーヴァント)。あらゆる願いを叶える万能の願望機を巡る、血で血を洗う殺し合いの儀式。

 

そして、士郎の右手に浮かんだ令呪が、彼をマスターとして選定した証であること。

 

「……信じられないって顔ね。無理もないわ。一般人のあなたに、魔術だの英霊だの言っても、すぐには理解できないでしょうから」

 

「……いや。理解は、できる」

 

士郎は自身の右手の令呪を見つめ、静かに答えた。

 

「俺も、魔術師の端くれだ。親父から、少しだけ教わったことがある」

 

「魔術師……あなたが?」

 

凛は目を丸くした。学校で彼から魔力の匂いを感じたことはなかったからだ。

 

「ああ。でも、聖杯戦争なんて殺し合い、俺には関係ない。俺は願いなんてないし、誰かと殺し合う理由もない」

 

士郎はきっぱりと言い切った。

 

「セイバー……お前には悪いが、俺はマスターなんて柄じゃないんだ」

 

「シロウ……」

 

セイバーは悲しげに目を伏せた。

 

 

「……ふっ、くはははは!」

 

 

その時、部屋の隅から宿儺の嘲笑が響いた。

 

 

「戦う理由がない? 願いがない? だから降りるだと? 本当に、どこまでもおめでたい小僧だな!」

 

宿儺は壁から背を離し、ちゃぶ台へと歩み寄った。

 

セイバーが瞬時に立ち上がり、士郎を庇うように前に出る。

 

「退け、騎士の王。今は小僧と話をしている」

 

宿儺はセイバーを鬱陶しそうに一瞥すると、士郎を真っ直ぐに見下ろした。

 

「いいか、小僧。この盤面(聖杯戦争)は、お前の意志など関係なく回っている。お前が降りようと降りまいと、他のお前を狙う狩人どもは、喜んでお前の寝首を掻きに来るぞ」

 

宿儺は、自身の右手の指先を、士郎の眉間に突きつけた。

 

 

「お前が戦う理由などどうでもいい。だが、このまま無様に死にたくないのなら、戦うしかない。それが『呪い』というものの理不尽さだ」

 

「……っ」

 

士郎は宿儺の指先から放たれる死のプレッシャーに息を呑みながらも、決してその目を逸らさなかった。

 

かつて宿儺が知る、あの「折れない理想」を持った小僧と、どこか重なる、真っ直ぐすぎる瞳。

 

「……宿儺、脅すのはやめなさい」

 

凛が立ち上がり、宿儺と士郎の間に割って入った。

 

「衛宮くん。今のあいつの言葉は乱暴だけど、事実は事実よ。あなたがマスターの証を持った以上、他の陣営はあなたを殺しに来る。さっきのランサーのようにね」

 

「……分かってる。でも、俺には……」

 

士郎が俯いた、その時。

 

「グダグダと悩むのは勝手だけど、それなら場所を変えましょうか」

 

凛はコートを羽織り直した。

 

「この儀式の『監督役』がいるの。冬木教会の神父よ。彼なら、聖杯戦争の全容と、マスターを降りるための手続きについても教えてくれるわ。……行くわよ、衛宮くん。あなたの命の恩人からの、最初の命令よ」

 

有無を言わせぬ凛の態度に、士郎は渋々立ち上がった。

 

「……分かった。行くよ、遠坂」

 

 

 

 

【時刻:午後10:45】

 

【場所:冬木市・教会への道中】

 

深夜の冬木市。

 

冷たい風が吹き抜ける坂道を、四つの影が歩いていた。

 

先頭を歩くのは凛と士郎。

 

少し後ろを、周囲を鋭く警戒するセイバーが歩き、さらにその後ろを、両手を懐に入れた宿儺が退屈そうに歩いている。

 

「なぁ、遠坂。あの宿儺ってサーヴァント……一体何者なんだ?」

 

士郎が、凛に小声で尋ねた。

 

「あんな……人を呪い殺すような気配を持った英雄なんて」

 

「……聞かない方が身のためよ。言っておくけど、あいつは正義の味方でも、立派な騎士でもない。純粋な『天災』よ。機嫌を損ねれば、私もろともこの街を微塵切りにしかねない爆弾」

 

凛は胃を押さえるようにため息をついた。

 

「でも、強さだけは折り紙付きよ。あのセイバーと真っ向から打ち合えるんだから」

 

「……あれは、英霊などではありません、シロウ」

 

士郎の真横を歩くセイバーが、硬い声で忠告した。

 

「あの男の内に満ちているのは、純粋な悪意と、他者への果てしない傲慢です。剣に誇りを持たず、ただ殺戮のみを享楽とする獣。……シロウ、決してあの男に気を許してはなりません」

 

 

「聞こえているぞ、騎士の王」

 

 

背後から、宿儺の冷たい声が響いた。

 

「誇りだの理想だのと、美しい言葉で自身の殺し合いを飾り立てるお前たちの方が、俺から見ればよほど薄気味悪いがな。……まあいい。お前たちがその綺麗な光をいつまで保てるか、見物させてもらうさ」

 

宿儺は夜空を見上げ、薄く笑った。

 

この狂った盤面において、士郎とセイバーという存在は、彼の退屈を紛らわす極上の「スパイス」になりそうだったからだ。

 

「……着いたわよ。ここが、冬木教会」

 

凛が足を止めた。

 

丘の上に建つ、巨大な十字架を掲げた西洋建築。月明かりに照らされたその教会は、静寂というよりも、底知れぬ闇を孕んで彼らを待ち構えていた。

 

「この中に、監督役が……」

 

士郎が、ゴクリと唾を飲み込む。

 

「ええ。言峰綺礼……私の一番嫌いな、善の皮を被ったような偽神父よ」

 

凛は忌々しげに吐き捨て、重厚な教会の扉に手をかけた。

 

扉が重い音を立てて開く。

 

ステンドグラスから差し込む月光の中、祭壇の前に立つ漆黒の法衣の男が、ゆっくりと振り返った。

 

 

 

「――よく来たな」

 

言峰綺礼は、愉悦に満ちた暗い笑みを浮かべて、運命の少年を歓迎した。

 

聖杯を巡る七人のマスター。

 

そして、光の騎士王と、闇の呪いの王。

 

すべての役者が冬木の舞台に揃い、第五次聖杯戦争は、後戻りのできない血塗られた夜へと本格的に突入していく。

 

 

 

 

 

 




あとがき


 サーヴァントステータス

真名:両面宿儺
クラス:アルターエゴ

■ 属性
混沌・悪

■ パラメータ
筋力A+ 耐久A+ 敏捷A 魔力EX 幸運C 宝具EX

■ クラススキル⏳

◇ 自己改造:EX
肉体構造の再定義。
他者の能力(伏黒恵)を完全掌握・最適化し、自身の一部として運用する。
伏黒恵の肉体への完全な適応状態
ある宝具使用時にランクはEまで落ちる


◇ 呪いの王:EX
呪いの王として恐怖の対象として崇められた逸話を元に獲得した莫大な呪い 
それにより、圧倒的呪力量・圧力・存在格を得る


◇ 複合存在:A
→肉体的な全盛期と精神的な全盛期が共存し存在している。混ざりもの
本個体は単一時間軸の英霊ではない。
精神基盤:虎杖悠仁 敗北後(完成・受容・到達)
肉体基盤:五条悟戦時(戦闘能力の極致)
この二重の“最盛期”が同時に成立しており、
本来排他であるはずのピーク状態が統合されている。





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