推しを殺されたオタクの逆襲

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 B級映画を見るつもりで、読んでいただけると幸いです。

 ……B級以下かも。


推しを殺されたオタクの逆襲

「……か……ぁぐ」

 

 うめき声が暗い部屋に消えていく。

 

 もがく足が空を切る。

 

 吊られた十代の少女を見ながら、白髪の混じった男は微動だにしない。

 

 力んだ手に握る縄から伝わるのは、少女の命が消えゆく旋律(しんどう)

 

 それを感じた男は、口角が上がるのを抑えられない。

 

 最後の瞬間までその感触を楽しんだ男が脱力すると、ドスンと人体が落下する。

 

「やっぱり、たまらないねぇ。殺しってのは」

 

 男は、死体を放って台所に向かう。

 

 この男の本名を覚えている者は、もういない。本人でさえも。

 

 裏社会で呼ばれている『縄道化(なわピエロ)』という通名(とおりな)ぐらいしか、男を呼称するモノはない。

 

 台所の棚から持ってきたワインを開けて、グラスに注ぐ。

 

「電話は……あとでいいか。すぐ後始末されたら、()()()()()が無くなるしな」

 

 固定電話に視線をやった男は、すぐに視線をワイングラスに戻す。

 

 グラスを傾けながら、少女の死に顔を観察する。

 

 あの少女を殺したときの手の痺れを思い出し、心地よく酔いしれる。

 

 男は生粋のサイコパスだった。

 

 こんな性分故に、既に表社会における居場所はない。

 

 裏社会で用意された偽の身分を転々としながら、殺しで生計を立てている。

 

 色々と不都合はあるが、60歳にもなろうかというこの男にとっては、特に問題はない。

 

 銀行口座が無くても、現金さえあればいい。

 

 ちゃんとした身分証がなにかと必要な場面も、何かを契約するときぐらいだ。

 

 テレビは、仲間が用意したので事足りる。

 

 スマホやインターネットを使えるほどの若々しさも、持ち合わせていない。

 

 一つ問題があるとするなら、娯楽が少ないことだろう。

 

 偽の身分で利用できる娯楽など、たかが知れている。

 

 技術の進歩に取り残され、若い頃に嗜んだ風俗や煙草のようなかつての時代を代表する娯楽は見なくなって久しい。

 

「やっぱり、俺はこれが一番だ」

 

 縄で人を殺したあとに、酒をたしなむ。男に残された数少ない娯楽の一つである。

 

 この趣味を実行できるのは、年に数回だけ。

 

 依頼を持ってくる常連の組織が、人間の調達や後処理を代行してくれるのだ。

 

 組織への貢献に対する褒美ということらしい。

 

「にしても、今時の子はよく分からんねぇ」

 

 男は、先ほど殺した少女が最後に残した言葉を思い返す。

 

 会話は、男の趣味において最も重要な工程の一つ。

 

 縄で吊る前に、やりたかったことや遺言などを聞き出すのだ。

 

 最後の言葉というのは、その人間の本性を暴き出す。

 

 故に、男の楽しみの一つだったのだが──。

 

「カタカナとか造語とか使われたら、おじさん分かんないよ」

 

 どんな言葉だったかと、男は頭をひねる。

 

 この年になると、記憶力に衰えを感じる。

 

 新しい言葉が混ざっていれば、なおさらだ。

 

「ああ、思い出した」

 

 確かこうだったかと、男は手のひらに拳を落とす。

 

 ──『ブリスナー』に会いたい。お別れを言いたい。

 

「……まあ、良い子なのは、なんとなく分かる。最後の表情、良かったなぁ」

 

 呑気に酒を呷る男の趣味は、この犯行が最後となる。

 

 男は身をもって知ることとなったのだ。オタクの執念を。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 あれから半年、()()()()()()()()がテレビでのニュースで流れなくなった頃。

 

 帰宅した男──『縄道化』が玄関に入った途端、後ろからの衝撃によりふっ飛ばされた。

 

 しかし、そこは裏社会で経験を積んだ男。すぐに体勢を整え玄関へと向き直る。

 

「なんだ、お前!?」

 

「……あんただろ。ゴブリエラちゃんを殺したの」

 

 そこに立っていたのは、かなり太った巨漢だった。

 

 年齢は30歳ぐらいだろうか。手には木刀を構えている。

 

「ゴブ……? は? 知らないよ。何な根拠でも──」

 

「追っかけ『ブリスナー』が撮ってたゴブリエラちゃんの写真に、あんたが二回映りこんでたんだ」

 

「そんなの偶然ってことも──」

 

「特定厨の力も借りて、向かいのビルからここを監視してた。ここ一ヶ月の動きで、あんたが普通の人間じゃないことは分かった。あんたが捨てたごみも全部漁った。そしたら、これを見つけたんだ」

 

 そう言って巨漢が見せたのは、『縄道化』が捨てたなんでもない私物だった。

 

「それがなんだってんだい」

 

「俺には分かる。どれだけ消臭されていても、あの香水の匂いがするんだ。……これは、ゴブリエラちゃんが気に入っていた香水だ!」

 

 肩を震わせた巨漢は、『縄道化』へと突っ込んでくる。

 

(匂いって……。犬か! 素人でも、あの体重の乗ったタックルを受けるのはまずい)

 

 そう判断した『縄道化』は、部屋の奥へと必死に逃げる。

 

 刃物を手に取って振り返ったときには、巨漢の鼻息がかかる距離である。

 

 のしかかられた『縄道化』は、刃物も簡単に取り上げられてしまった。

 

 木刀で頭を殴打され、口の中に鉄の味が広がる。

 

 もはや、こうまでされたら為す術はない。

 

「よくも! 俺たちの女神を!」

 

(ガブリエルは、女神じゃなくて天使の名前だろうが!)

 

 薄れゆく意識の中で、そんな突っ込みを入れていると、攻撃が止んだ。

 

「ゴブリエラちゃんの仇だ。ここで死ね。最後に言い残すことは?」

 

 見下ろす巨漢が、暴力に慣れていないことは明らかだ。

 

 殺し合いで相手を拘束してもいないのに、こんな隙を晒すのは愚かとしか言いようがない。

 

「最後ね。そういえば、そのガブリエラちゃんからも最後の言葉を聞いた──」

 

 『縄道化』の顔の真横に、木刀が全力で振り下ろされる。

 

「ゴブリエラだ。二度と間違えるな。……それで、その最後の言葉ってなんだ」

 

「あ、ああ。『おじさんに殺されるなら、本望』だよ。実はね、彼女の自殺は事実なんだ」

 

「そんなわけ……」

 

「彼女はね、疲れてたんだよ。私に自殺を依頼するほどにね。それを私が楽にしてあげたんだ」

 

 それらしい顔で真っ赤な嘘を吐き続ける『縄道化』。

 

 巨漢の動きが少しだけ止まる。

 

 逡巡しているのだ。今の言葉が、嘘か、真実か。

 

 裏社会においては、その逡巡が命取りだ。

 

 『縄道化』は、相手の目に指を突き入れる。

 

「くっ……!」

 

 巨漢はのけぞって、すんでのところで回避する。

 

 だが、これで『縄道化』は自由になった。

 

(玄関から逃げさえすれば……)

 

「させるか!」

 

 開け放たれた玄関までもう少しというところで、巨漢が追い付いて縋りつく。

 

 『縄道化』は、動きを止める。

 

「残念だったね、ヒーロー君」

 

 勝ち誇った顔で、巨漢を見下ろす『縄道化』。

 

 その理由は、玄関から入ってきた『縄道化』の仲間の二人だった。

 

 今日、ちょうど依頼の仔細を聞くために会う約束をしていたのである。

 

「『縄道化』、下手を打ったの?」

 

「ついにボケたか?」

 

 入ってきた20代くらいの男女は、『縄道化』が殺し屋として貢献している組織の人間だった。

 

 二人はあっという間に、巨漢を拘束する。

 

 手足に手錠をかけられた巨漢は、悔し気な目で三人を睨みつけた。

 

「不意をつかれただけだ。多分仲間はいない。いたら、一緒に来てるはず」

 

 『縄道化』は、血濡れの顔をタオルで拭って座り込んだ。

 

「こいつはどうする?」

 

「ただ殺しても、割に合わん。……吊るかな」

 

 『縄道化』は凶悪な目つきで、巨漢を見下ろした。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 縛られた巨漢は、目の前で人を吊る準備をする男を見つめる。

 

(怖い)

 

 口に布を詰められていなかったら、きっと恐怖で叫び出していただろう。

 

 先ほどまでは、興奮によって恐怖を誤魔化せていた。

 

 しかし、手足が不自由な状態で床に転がされている今、抑えつけていた恐怖が蘇る。

 

 床の冷たさで震えているのか、恐怖心で震えているのか、もう分からない。

 

 この巨漢は、もともと臆病な性格だったのだ。

 

 学校になじめずに、家の中に閉じこもり続けた。いわゆる引きこもり。

 

 離婚したせいで、親は母親だけ。

 

 その母親も過労で早くに亡くなった。

 

 ネットで調べた手続きを実行し、なんとか保険金や遺産は手に入れた。

 

 独りになって、社会への恐怖はより大きくなった。

 

 手元にあるお金を切り崩し、家の中で一日を終える。

 

 そんなニートとしての日々から逃避するように、巨漢はネットにのめりこんだ。

 

 そこで出会ったのが、配信者のゴブリエラだった。

 

 やがて、彼女は巨漢にとっての生きがいとなった。

 

 雑談配信をしていたある時、巨漢は気まぐれで投げ銭コメントを打ち込んだ。

 

 感謝を書くつもりだったが、長文で自分語り多め、さらには自己嫌悪にまみれた文章になってしまった。

 

 打ち込んですぐ後悔し、コメントを消そうとしたその時。

 

「えー、投げ銭ありがとうございます! 私も結構、そういうネガティブな部分あるから、気持ちが分かります。もっと配信を頑張りたいとおもってるので、一緒にできることから頑張りましょう!」

 

 その言葉を聞いて、巨漢は涙を流していた。

 

 ずっと孤独を抱えて苦しかった状態から、解放された気がした。

 

 それから巨漢は、少しずつ外に出るようになった。

 

 体重も少し減った。

 

 身なりを整えて、コンビニの面接に行った。

 

 バイトをこなし、少しずつコミュニケーションもできるようになった。

 

 止まっていた巨漢の人生が、再び動き始めた。

 

 遅くても、今からでも、少しずつ頑張ろう。ゴブリエラちゃんと一緒に。

 

 ──そう思っていた矢先だった。

 

「〇〇県××市在住の天野四尾(あまのしお)さんが、自宅で首を吊っているのが発見されました。警察によりますと……」

 

「天野四尾?」

 

 テレビから聞こえた言葉に、巨漢の背筋の悪寒がはしる。

 

 以前、ゴブリエラちゃんの個人情報がネットで流出した記事を、見たことがあったのだ。

 

 アンチの記事だとスルーしたが、住所と名前が見えていた。

 

 詳しくは覚えていないが、ニュースの情報と一致していた気がする。

 

(まさか、そんなわけ……)

 

 巨漢は、ゴブリエラちゃんの配信を待った。

 

 きっと今夜も元気な声を聞かせてくれるはず。きっと。

 

 そんな巨漢の思いとは裏腹に。

 

 その日から、ゴブリエラちゃんのアカウントは更新されなくなった。

 

 ──きっと、体調不良に違いない。

 

 ──活動に疲れて、失踪したんだ。

 

 ──彼氏ができたんでしょ。

 

 そんな言葉がSNSで飛び交った。

 

(この際、どんな理由でもいい。生きていてさえくれれば)

 

 巨漢は、彼女の生存を願い続けた。

 

 やがて、個人情報の話も掘り返され不安が蔓延し始めた頃、ゴブリエラちゃんの知人から死去が報じられた。

 

 ニュースは、まさしく彼女のことだったのだ。

 

 SNSでは犯人捜しが始まっていた。

 

 ニュースによると、いくつか警察が不審な点を見つけていたらしい。

 

 しかし、肝心な証拠や手がかりを見つけられずに、自殺として処理されたそうだ。

 

 ネットで様々なことが特定され、根拠のない憶測が飛び交った。

 

 事態の行く末だけを見守っていた巨漢は、一つの憶測が目に留まった。

 

 そこに書かれた住所の近くに、たまたま住んでいたからだ。

 

 巨漢が張り込みを始めたのは、それが理由である。

 

 怪しい人物は見つけたが、確かな証拠まではこぎつけられなかった。

 

 香水だって、たまたま同じ物が好きだっただけかもしれない。

 

 突撃して、誤解だったら警察のお世話になるつもりだった。

 

 しかし、誤解では無かった。

 

 本当に凶悪犯が潜んでおり、しかも凶悪犯とその仲間に殺されそうになっている。

 

「よし、準備完了だね」

 

「どんだけ待たせてんだよ、『縄道化』」

 

 若い青年によって、巨漢の首に縄がかけられる。

 

「最後に何か言い残すことは?」

 

 そう言われ、巨漢の口が自由になる。

 

「ゴブリエラちゃんを殺したこと、絶対に許さない」

 

 震える声で、涙を堪えながら巨漢はそう口にした。

 

 でも、心は折れそうだった。

 

 首の縄がだんだんと上がっていく。

 

 苦しい。苦しい。

 

 腹から物がこみ上げる。

 

 左右に揺れる吊られた巨漢を、楽し気な雰囲気で三人が見る。

 

「これ流しといてあげるね。君の女神なんでしょ?」

 

 若い女が、スマホからゴブリエラちゃんの歌う曲を流した。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 『縄道化』は、巨漢が息絶えるのを見届けて台所へと向かう。

 

 スマホから曲が流れ始めてからの、巨漢の悶えようはかなり見ごたえがあった。

 

 足をバタバタさせたりするだけでなく、自分の腕を喉に突っ込んだりしていた。

 

 さすがに一人で持ち上げられなかったので、命が終わる瞬間の縄の旋律(しんどう)を独り占めはできなかったが……。

 

 あの光景を忘れぬうちに、ワインで乾杯したい。

 

「このワイン、安物じゃない」

 

「俺はそもそも、ワインは好きじゃないんだ。ビールは無いのか?」

 

 二人の若者に、『縄道化』は笑いかける。

 

「ここまで付き合ってくれたんだから、最後まで頼むよ」

 

 そう言って、三つのグラスにワインを注ぐ。

 

 芳醇な香りが、鼻をくすぐる。

 

 チーンとグラスを鳴らし、三人はワインを飲みほした。

 

 それからしばらくは、依頼についての話がつづく。

 

 話がひと段落した頃、三人は改めて横たわる巨漢の死体を見る。

 

「死体の隣で飲むってのも、案外悪くないわね」

 

「そうか? 俺は、ワインの味もじじいの趣味も渋すぎて理解できん」

 

 それぞれの感想は正反対のようだった。

 

 特に青年の方は、お気に召さなかったらしい。

 

「趣味はともかく、ワインまで無理なのかね?」

 

「香りがきつすぎるのと、味が結構しつこく残る」

 

 顔をしかめる青年に、女も頷く。

 

「確かに、このワインは独特。安物の中でもかなり特徴的といっていいわね。なにかこだわりでもあるの?」

 

「あるとも。首吊り死体というのは、吐瀉物や糞尿がつきものだ。特に吐瀉物なんかは、部屋に吐かれることもある。このワインの強烈な香りで、鼻を誤魔化すのだよ」

 

 なるほどといったかんじで、二人は頷いた。

 

「今回吊ったあのデブは、錯乱して自分の手を食べてたからな。ゲロを拝まずに済んだわけだ」

 

 青年の言葉に、『縄道化』は少し引っ掛かった。

 

 吐きそうな場合、普通は吐いてしまったほうが楽だ。

 

 吊られていても、それは同じはずだ。

 

 吊るばかりで吊られたことがないから、正確には分からないが。

 

「うーん? ああいった、手を食べるというような行動は、今まで見たことがない」

 

 酔った頭で、思考を巡らせる『縄道化』。

 

 思い返せば、あの巨漢の最後の表情も違和感があった。

 

 音楽を流し始める前は、諦めの表情を浮かべていた。

 

 だが、音楽を流してからは、目の奥に強い意思を感じたのだ。

 

 あの顔の者が、錯乱していたとは思えない。

 

 (何か、目的があった?)

 

 少しだけよぎった嫌な予感が、心地よい酩酊を冷ます。

 

 『縄道化』は席を立ちあがり、巨漢の死体へと近づく。

 

 硬直しかけた手の間接を力づくで曲げて、手を口から引き抜いた。

 

 吐瀉物がこぼれ出て、悪臭が部屋に充満する。

 

「気色悪いじじいだぜ。ゲロまで拝みたいってのか」

 

 青年の言葉を無視して、喉の奥に手を突っ込む。やはり、何かある。

 

 無理やり引き出したそれは、ビニールに包まれていた。

 

 中で何か点滅している。

 

「……まさか、発信機かい!?」

 

 女が青ざめるのと同時に、玄関の外が騒がしくなる。

 

 騒がしさからして数人どころじゃない。

 

 あっという間に、玄関は破壊された。

 

 中に大量の人間がなだれ込んでくる。

 

「死体!? 死体だ! あのネットの書き込みは真実だったんだ!」

 

 数が多すぎて、誰が言葉を発したのか分からない。

 

 包丁を握る主婦。

 

 カッターを持った女子高生。

 

 金属バットを担いだ男子中学生。

 

 ゴルフクラブを背負った初老。

 

 見えているだけでも、全員が武装している。

 

 三人は抵抗むなしく、ボコボコにされた。

 

「お前らが、ゴブリエラちゃんをやったんだな」

 

「ひ、ひはうの!」

 

「おえらひは……」

 

 そう声をかけられ、女と男は何かを言いたそうにうめく。

 

 しかし、歯も折れて顎の骨も一部が砕けた状態では、うまくしゃべれない。

 

「なぜ、ここが……」

 

 『縄道化』は茫然と呟く。

 

 この男だけは途中で抵抗を諦めていたからか、喋れなくなるほどの怪我はなかった。

 

「この玄関の外は、ネットでライブ配信がされていた。加えて、発信機の情報もリアルタイムで載せられていた」

 

 そう言って見せびらかされたスマホには、確かにこの場所の玄関が映っていた。

 

 解像度がかなり低いので、向かいのビルのような遠距離から撮られているのだろう。

 

「普通、不審者が入ったら警察を呼ぶものだ。しかも、突撃したブリスナーは、間違っていたらその場で警察を呼んで自首すると書き込んでいた。だが、入ってから警察が来る様子がない」

 

「まさか、それだけの情報でここまで来たというのか」

 

 『縄道化』は驚愕した。

 

 見たところ、ここにいる連中は表社会の連中だ。

 

 確証も無いのに他人の玄関を破壊するなど、一歩間違えれば犯罪者である。

 

「これからお前たちを殺す」

 

「ま、待て! 警察に突き出せばいいじゃないか。こんな複数でリンチ紛いのことをすれば、君たちは確実に前科者だ」

 

 震えあがる『縄道化』は必死に命乞いをするが、目の前の人間は誰一人無反応である。

 

「俺は組織に命令されただけなんだ。そこの奴らが組織の一員だ。俺は依頼を受けて、仕方なくやっただけだ。信じてくれ」

 

「なんだ、そうだったのか」

 

「そうだ! 警察に自主もする。何人も殺しているから、どうせ私は死刑だ。君らが手を汚す必要は──」

 

「だったら、組織も潰さないとな。そこの男女は、まだ殺さない。情報を吐かせないと」

 

「……は?」

 

 『縄道化』は、言葉の意味を理解できなかった。

 

 組織を潰す? 一般人が? 

 

「お前は知らないだろうが、ゴブリエラちゃんは登録者数は1600万人いる。俺たちみたいに、自分の人生を棒に振るってでも復讐したいやつなんて、少なくとも数百人はいるだろうよ」

 

 そういう男の目は、『縄道化』が毎日鏡で見ている自身と同等の狂気を宿していた。

 

 周りを見回すと、皆おなじ目をしている。

 

 サイコパスと同等以上に、目の前の集団は全員が狂っていた。

 

「狂ってる。集団で薬でもやっているのか」

 

「ええ。薬よりももっといいものをキメていたわ。推しというね」

 

 カッターの刃を出し入れする女子高生が、『縄道化』を睨みつける。

 

 今の時代に疎い『縄道化』は、推しと言われても理解が追いつかない。

 

「君らは、カルトか何かなのか」

 

「僕らの女神は消えてしまった。そういう意味では、君らがカルト化させたんだ」

 

 そう返事する初老は、ゴルフクラブ素振りし続けている。

 

 迫り来る狂気の集団に、思わず『縄道化』は悲鳴をあげた。

 

「……嫌だ、死にたくない! 誰か! 助け──」

 

 『縄道化』の言葉は、暴力の雪崩にかき消される。

 

 それからしばらくして、とある裏社会の中でも最も恐れられていた組織が一つ壊滅した。

 

 駆け付けた警察が見たのは、果てしなき抗争。

 

 一方は、銃まで持ち出して追い詰められている組織の者。

 

 もう一方は、屍を築きながらも怒涛の勢いで敵を飲み込む狂気の集団。

 

 警察が割って入らなければ、組織の者が生き残ることは無かっただろう。

 

 生き残った組織の者は、事情聴取でこう言い残したという。

 

 ──虎の尾を踏み潰し、龍の逆鱗を引っこ抜いてしまった、と。




 オタクの狂気が無双する話が書きたかった……。

 なんだこれ。

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