携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第一話-魔獣の戦い-

東宝

 

ポケモン誕生10周年記念作品

 

豪雨が世界を塗り潰していた。

視界を遮る奔流のような雨と、鼓膜を震わせる猛烈な風。

断崖絶壁に架けられた古びた鉄橋の上で、二人の男が対峙している。

一人は、軍部に与し「秩序」を守らんとする組織の刺客。

そしてもう一人は、荒れ狂う戦場を放浪する青年、黄崎雷光(きざき らいこう)。

金色の髪は雨に濡れそぼり、その鋭い眼光は正面に立つ真紅の機甲、

携帯魔獣「ハッサム」を射抜いていた。

 

「……ピカチュウ、準備はいいか」

 

 

【挿絵表示】

 

 

雷光の肩で、黄金の毛並みを逆立てた小獣が短く鳴いた。

頬の電気袋から溢れる火花が、降り注ぐ雨粒を瞬時に蒸発させ、白い霧を立ち昇らせる。

 

「行け! ピカチュウ、電光石火だ!!」

 

雷光の咆哮が雨音を切り裂く。

瞬間、ピカチュウの姿が消えた。否、あまりの速度に視覚が追いつかない。

白い閃光と化したピカチュウは、鉄橋の濡れた路面を蹴り、

重力に抗うような軌道でハッサムへと肉薄する。

 

「無駄だ。ハッサム、影分身!」

 

対峙する男の冷徹な指令。

真紅の鋼鉄が揺らめいたかと思うと、次の瞬間、

鉄橋の上は百体を超えるハッサムの残像で埋め尽くされた。

雨粒がその透き通るような分身たちを通り抜け、虚像であることを証明する。

突っ込んだピカチュウは、標的を見失い足を止めた。

周囲を囲むのは、冷たい金属光沢を放つ無数の「鋏」。

どれが本物か、どれが殺意を宿した実体なのか。ピカチュウの耳が不安げに動く。

 

「ピカチュウ目掛けてメタルクローだ!! 渾身の一撃をお見舞いしてやれ!!」

 

百体のハッサムが一斉に動いた。

虚実入り混じる銀色の爪が、四方八方からピカチュウへと殺到する。

逃げ場はない。全方位からの同時攻撃。鋼の爪が空気を切り裂く風切り音が、

死の旋律となってピカチュウを包囲した。

 

「――今だ、ピカチュウ! 空へ飛べ!!」

 

雷光の計算通りだった。

ピカチュウは迫り来る爪の波を、垂直跳躍によって回避する。

ハッサムたちの爪が互いの残像を切り裂き、虚像が霧散していく。

中空、無防備な滞空状態。だが、それこそが雷光の狙い。

 

「そのまま、雷!!」

 

天を指差すピカチュウの全身から、凝縮された数万ボルトのエネルギーが爆発した。

 

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ドォォォォォン!!

荒れ狂う嵐の雷雲と共鳴し、極大の稲妻がハッサムの「真実の個体」を直撃する。

凄まじい閃光が鉄橋を真っ白に染め上げ、鋼鉄の身体が激しく火花を散らす。

絶叫に近い駆動音が響く。だが、ハッサムは倒れない。

焦げ付いた外殻から煙を上げながらも、その複眼は依然として冷酷な光を失っていなかった。

 

「……耐えたか。ハッサム、鉄壁のまま電光石火だ!!」

 

驚異的な戦術。

ハッサムは自身の防御膜を極限まで硬質化させ、

その質量を損なうことなく超高速の突撃へと転じた。

防御を攻撃へと変換する「重戦車」の突進。

 

回避が間に合わない。ピカチュウの小さな身体に、鋼鉄の塊が激突した。

その衝撃でピカチュウは吹き飛ばされ、鉄橋の錆びついた手すりに辛うじてしがみつく。

下は荒れ狂う激流の谷底。激しい雨風が、小さな指先から体温と握力を奪っていく。

 

「終わりだ。逃げ場のないその場所こそが、貴様の墓標となる」

 

ハッサムがその巨大な鋏を突き出した。

口腔にも似た鋏の隙間に、不吉な赤黒い光が収束していく。

 

「破壊光線」。

 

万物を塵に帰す、携帯魔獣の最大火力がゼロ距離で放たれた。

 

ズガァァァァァン!!

 

鉄橋の一部が飴細工のように捻じ曲がり、爆発と共に崩落する。

土煙と水蒸気が視界を奪い、雷光の叫びもまた、轟音の中に掻き消された。

誰もが、決着がついたと確信した。

 

だが。

 

「……甘いな。ピカチュウ、アイアンテール!!」

 

爆煙の中から、一条の光が天へ向かって飛び出した。

ピカチュウは爆発の直前、手すりを蹴り、

破壊光線の余波を「風」として利用し、ハッサムの頭上へと回り込んでいたのだ。

空中で身を翻すピカチュウ。その尻尾が、眩い銀色の輝きを帯びる。

柔らかな体毛は鋼よりも硬く、ダイヤモンドよりも鋭い刃へと変質していた。

 

渾身の力で振り下ろされた鋼の尾が、ハッサムの脳天を正確に捉えた。

金属と金属が激突する硬質な音が、雨の夜に響き渡る。

ハッサムの硬い頭殻に亀裂が走り、その巨躯が鉄橋の床に沈み込んだ。

複眼の光が点滅し、やがて完全に消失する。沈黙。

ハッサムは物言わぬ金属の塊へと戻り、そのまま戦闘不能を告げるように力なく横たわった。

 

「……ふぅ。よっし。よくやったぞ、ピカチュウ!」

 

雷光が駆け寄り、泥と雨にまみれた小さな相棒を抱き上げる。

ピカチュウは疲れ切った様子で、しかし誇らしげに雷光の胸に顔を埋めた。

二人の間にあるのは、かつての「共存」の時代の残り香。

戦火の中でも失われない、確かな絆。

 

敗北した男は、一言も発さず、ただ静かにハッサムを赤い光の粒子にして回収した。

 

「……次は、こうはいかない」

 

その言葉を最後に、男は雨の帳の中へと姿を消した。

 

勝者にのみ許された安堵の吐息。

雷光の腕の中で刻まれるピカチュウの鼓動だけが、

この狂った世界で唯一の、確かな「生」の証だった。

 

雷光はピカチュウを肩に乗せ、再び歩み出した。

荒れ狂う嵐は、まだ止む気配を見せない。

 

 

広大な宇宙の静寂を切り裂き、青き惑星・地球は今、かつてない悲鳴を上げていた。

かつて八百万の神のごとく畏怖され、

あるいは愛すべき友として共存してきた「ポケットモンスター=携帯魔獣」。

しかし、拡大を続ける人類の欲望と、領土、資源、そして思想を巡る果てなき闘争は、

その聖域さえも泥沼の戦場へと変貌させた。

 

空を見上げれば、かつての澄み渡る青は失われ、

工場の煙突から吐き出される重苦しい煤煙と、

爆撃の黒煙が混ざり合い、陽光を遮る厚い帳となっている。

都市の路地裏にはプラスチックの死骸と排気ガスの臭気が立ち込め、

自然の呼吸を止めていた。

 

そして、その汚染の波はついに、

緑深き大森林――魔獣の楽園にまで到達した。

 

重低音の地鳴りが森を揺らす。

それは大地の鼓動ではなく、戦車隊の履帯が腐葉土を無慈悲に踏み潰す音だった。

 

「総員、構えろ! 対象は『岩石種』。徹甲弾を装填せよ!」

 

指揮官の怒号と共に、迷彩服に身を包んだ兵士たちが展開する。

彼らの手にあるのは、かつてのモンスターボールではなく、

冷徹な殺意を放つアサルトライフルと対戦車ロケットだった。

 

森の奥から、巨躯が姿を現す。

サイドン。全身をドリルさながらの角と、岩石のように硬質な鱗に包んだ大地の猛者だ。

しかし、その瞳にはかつての温厚さはなく、住処を焼かれた怒りと、

生存本能による狂気が宿っていた。

 

【挿絵表示】

 

サイドンが吠える。

その口腔に凄まじいエネルギーが収束し、黄金の光球が膨れ上がる。

 

「破壊光線」。

 

放たれた熱線は、空気を焼き焦がしながら一直線に兵士たちを貫いた。

爆発。断罪の光に飲まれた人間たちは、悲鳴を上げる暇もなく炭化し、

後方の装甲車ごと吹き飛ばされる。

 

「怯むな! 撃てッ!」

 

生き残った兵士たちが一斉に引き金を引いた。

ダダダダッ!と乾いた発射音が連続し、

無数の5.56mm弾がサイドンの体表に突き刺さる。

だが、鋼鉄より硬いその鱗は、火花を散らして弾丸を弾き飛ばす。

サイドンは一歩、また一歩と大地を割りながら歩を進め、

逃げ遅れた兵士をその巨大な剛腕で薙ぎ払った。

 

骨の砕ける鈍い音が響き、人間がゴミのように木々に叩きつけられる。

鮮血がシダ植物の葉を真っ赤に染め上げた。

 

しかし、近代兵器の物量は、一匹の魔獣の勇猛さを凌駕する。

 

「照準固定。目標、サイドンの腹部……放て!」

 

後方に控えていた主力戦車の120mm滑腔砲が火を噴いた。

超音速で放たれた砲弾は、サイドンが回避する間もなくその腹部へ直撃する。

 

ズドォォォォン!!

 

衝撃波が森の木々をなぎ倒した。

砂塵が晴れた跡には、無残な光景が広がっていた。

自慢の鎧は粉々に砕け散り、そこから覗くのは、

生物としての柔らかな内臓と、溢れ出す鮮血。

サイドンは苦悶の声を漏らすこともできず、その巨体を泥濘の中に沈めた。

 

サイドンの絶命を確認した兵士たちが、勝利の感嘆を上げようとしたその時。

上空の雲が、不自然なほど赤く染まった。

 

「……熱い。なんだ、この熱気は!?」

 

兵士の一人が空を見上げ、絶望に目を見開く。

雲を割り、天から舞い降りたのは、伝説と謳われる火の鳥――ファイヤーだった。

その翼は生きた炎そのものであり、羽ばたくたびに周囲の酸素が奪われ、気温が急上昇していく。

 

ファイヤーの瞳は、冷徹に眼下の「侵入者」を捉えていた。

その全身が、さらに眩い黄金のオーラに包まれる。

 

「ゴッドバード」。

 

超高熱のエネルギーを纏ったファイヤーが、流星のごとき速度で急降下した。

ターゲットは、ロケットランチャーを構えていた分隊だ。

ドゴォォン!という衝撃音と共に、土煙と炎が舞い上がる。

直撃を受けた兵士たちは、衝撃でコンクリートの防壁へと叩きつけられ、

肉体と精神が同時に粉砕された。

 

ファイヤーは一度大きく上昇すると、朽ち果てた巨木の頂に降り立った。

その雄叫びは、天をも裂くトランペットのような響き。

 

ファイヤーが大きく翼を広げると、その双翼から奔流のような紅蓮の炎が解き放たれた。

 

「大文字」。

 

あるいは、文字通りの「地獄の業火」。

 

炎は右から左へと、戦場全体を舐めるように広がっていく。

戦車は熱で歪み、兵士たちの叫び声は炎の爆ぜる音に飲み込まれていった。

 

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戦場はもはや、どちらが正義でどちらが悪かという次元を越えていた。

空を覆う煙、焼け焦げた肉の臭い、そして、砕け散った機械の残骸。

大自然という名の聖域は、人間の科学技術と魔獣の

神秘的な力が激突する「地獄」へと完全に入れ替わっていた。

 

サイドンの亡骸の傍らで、一人の若い兵士が血だまりに座り込んでいた。

彼は震える手で、ポケットから古びた写真を取り出す。

そこには、かつて共に過ごしたであろう小さな魔獣と、笑顔の自分。

しかし、その写真を、ファイヤーが放った残り火が冷酷に焼き尽くしていく。

 

「どうして……こんなことに……」

 

彼の呟きは、遠くで響くさらなる爆音に消された。

森の向こう側からは、さらなる増援のヘリの爆音が聞こえる。

それに応えるかのように、森の深淵からは、

サンダーの雷光とフリーザーの凍てつく息吹が立ち昇った。

 

友情、愛情、共存。

そんな言葉は、銃声と咆哮の渦の中では無力な幻想に過ぎない。

人間が作り上げた「文明」という名の怪物が、地球という「生命」を食い荒らし、

その防衛本能として魔獣たちが牙を剥く。

 

戦いは、まだ始まったばかりだった。

空はどこまでも黒く、大地は赤く。

この惑星が自浄作用として人類を排除し終えるまで、

あるいは、全ての命が燃え尽きるまで。

不思議な生き物たちの戦志は、狂気的なまでの頂点へと達していく。

 

地球の呼吸は、ますます浅く、そして熱くなっていった。

 

1996…ポケットモンスター 赤・緑・青

1998…ポケットモンスター 黄、ポケモンスタジアム、ポケモンカードGB

1999…ポケットモンスター 金・銀、ポケモンスタジアム、ポケモンピンボール

2000…ポケットモンスター クリスタル、ポケモンスタジアム 金・銀

2001…ポケモンカードGB2

2002…ポケットモンスター ルビー・サファイア

2003…ポケモンコロシアム、ポケモンチャンネル、ポケモンボックス

2004…ポケットモンスター ファイアレッド・リーフグリーン・エメラルド

2005…ポケモンXD 闇の旋風ダーク・ルギア

 

 

ポ ケ ッ ト モ ン ス タ ー

 

 

携 帯 魔 獣 叛 乱 戦 争

 

 




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