灼熱の余波が霧を払い、ステージの全貌が露わになった。
リザードンの放った『大文字』は、フィールドを焼き尽くすかのような威容を誇っていたが、
爆煙が晴れたあとに残ったのは、激しく沸騰し波打つ水面だけだった。
「……いない!?」
雷光が声を上げた。リザードンの視線の先、命中したはずの着弾地点にシャワーズの姿はない。
刹那、水面が爆発した。
「そこよ、『水鉄砲』!」
水中から放たれた超高圧の水流が、リザードンの足元を穿つ。
リザードンは野生の本能を研ぎ澄ませ、寸前で真横へと地を蹴った。
水君のシャワーズは、激突の直前に水底深くへと身を投じ、
爆風を水のクッションでやり過ごしていたのだ。
水面下を走る青い影。その速度は、
地上で翼を封じられたリザードンの動体視力をあざ笑うかのように加速していく。
「逃がさない。『冷凍光線』!!」
シャワーズが水面から躍り出たのは、リザードンの真後ろ、完全な死角だった。
零度の光線が火竜の背を直撃する。ジィィィィッ! という不気味な凍結音が響き、
リザードンの橙色の鱗が瞬時に白銀の氷層に覆われていった。
足元から首筋まで、逃げ場のない凍気の鎖がその鼓動を止めにかかる。
火竜の動きが止まった。完全に氷像と化したその姿を見て、水君は初めて硬い無表情を崩し、
勝利を確信したような薄い微笑を浮かべた。
「終わりね。これで……賞金はいただくわ。シャワーズ、『ハイドロポン――』」
「――まだだ。自分に『炎の渦』!!」
炎帝の咆哮が、処刑の宣告を遮った。
氷漬けになったはずのリザードンの瞳が、カッと黄金色に燃え上がる。
内側から溢れ出した灼熱のエネルギーが、外側の氷層を激しく拒絶した。
見る間に氷が溶け、沸騰した水蒸気が爆ぜる。
リザードンは自らを焼き焦がすほどの至近距離で炎を爆発させ、氷の枷を力業で粉砕したのだ。
全身から立ち昇る蒸気、赤く熱せられた皮膚。
それは、命を削って火力を引き上げる『猛火』の極致。
「そのまま、水の中へ飛び込め!!」
「なんだと!? 炎帝、自滅する気か!!」
雷光が観客席から叫ぶ。水は火竜にとっての毒だ。
ましてや今の満身創痍の状態で飛び込めば、二度と浮き上がれなくなる。
だが、炎帝の瞳に迷いはなかった。
「行けぇぇ!! 『ブラストバーン』!!」
リザードンが水面を割り、シャワーズが潜む水中へとその身を投げ出した。
瞬間、水中で太陽が爆発したかのような閃光が走った。火類型魔獣の究極奥義。
大地の怒りを全て水底で解放したのだ。
フィールドの水が一気に沸騰し、数十メートルの水柱となって空高く噴き上がる。
凄まじい衝撃波が観客席まで届き、会場全体が地震のような揺れに襲われた。
……静寂が訪れる。
霧雨のように降り注ぐお湯の中、まず姿を現したのはリザードンだった。
石畳に這い上がり、荒い息をつく。その身体からは力が抜け、翼は垂れ下がり、
立っているのが奇跡に近いほどの深手を負っていた。一歩でも触れれば倒れる。
文字通り、全てを使い切った「抜け殻」のような姿。
しかし、それ以上に再起不能のダメージを負っていたのは、シャワーズだった。
水面にぷかりと浮き上がった青い体は、力なく揺れている。
究極奥義の直撃を水中で受けた衝撃は、細胞のひとつひとつを粉砕するに等しかった。
「シャワーズ、戦闘不能!勝者、リザードンおよび赤谷炎帝!!」
審判の声が響き渡った瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
「よぉっしゃぁぁあああ!!見たか!これが俺様とリザードンの、赤く熱い鼓動だぁぁ!!」
炎帝は天を仰ぎ、喉が裂けんばかりの勝利の雄叫びを上げた。
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