携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第十話-氷砕-

灼熱の余波が霧を払い、ステージの全貌が露わになった。

リザードンの放った『大文字』は、フィールドを焼き尽くすかのような威容を誇っていたが、

爆煙が晴れたあとに残ったのは、激しく沸騰し波打つ水面だけだった。

 

「……いない!?」

 

雷光が声を上げた。リザードンの視線の先、命中したはずの着弾地点にシャワーズの姿はない。

刹那、水面が爆発した。

 

「そこよ、『水鉄砲』!」

 

水中から放たれた超高圧の水流が、リザードンの足元を穿つ。

リザードンは野生の本能を研ぎ澄ませ、寸前で真横へと地を蹴った。

水君のシャワーズは、激突の直前に水底深くへと身を投じ、

爆風を水のクッションでやり過ごしていたのだ。

水面下を走る青い影。その速度は、

地上で翼を封じられたリザードンの動体視力をあざ笑うかのように加速していく。

 

「逃がさない。『冷凍光線』!!」

 

シャワーズが水面から躍り出たのは、リザードンの真後ろ、完全な死角だった。

零度の光線が火竜の背を直撃する。ジィィィィッ! という不気味な凍結音が響き、

リザードンの橙色の鱗が瞬時に白銀の氷層に覆われていった。

足元から首筋まで、逃げ場のない凍気の鎖がその鼓動を止めにかかる。

火竜の動きが止まった。完全に氷像と化したその姿を見て、水君は初めて硬い無表情を崩し、

勝利を確信したような薄い微笑を浮かべた。

 

「終わりね。これで……賞金はいただくわ。シャワーズ、『ハイドロポン――』」

「――まだだ。自分に『炎の渦』!!」

 

炎帝の咆哮が、処刑の宣告を遮った。

氷漬けになったはずのリザードンの瞳が、カッと黄金色に燃え上がる。

内側から溢れ出した灼熱のエネルギーが、外側の氷層を激しく拒絶した。

見る間に氷が溶け、沸騰した水蒸気が爆ぜる。

リザードンは自らを焼き焦がすほどの至近距離で炎を爆発させ、氷の枷を力業で粉砕したのだ。

全身から立ち昇る蒸気、赤く熱せられた皮膚。

それは、命を削って火力を引き上げる『猛火』の極致。

 

「そのまま、水の中へ飛び込め!!」

「なんだと!? 炎帝、自滅する気か!!」

 

雷光が観客席から叫ぶ。水は火竜にとっての毒だ。

ましてや今の満身創痍の状態で飛び込めば、二度と浮き上がれなくなる。

 

だが、炎帝の瞳に迷いはなかった。

 

「行けぇぇ!! 『ブラストバーン』!!」

 

 

リザードンが水面を割り、シャワーズが潜む水中へとその身を投げ出した。

瞬間、水中で太陽が爆発したかのような閃光が走った。火類型魔獣の究極奥義。

大地の怒りを全て水底で解放したのだ。

フィールドの水が一気に沸騰し、数十メートルの水柱となって空高く噴き上がる。

凄まじい衝撃波が観客席まで届き、会場全体が地震のような揺れに襲われた。

 

……静寂が訪れる。

霧雨のように降り注ぐお湯の中、まず姿を現したのはリザードンだった。

石畳に這い上がり、荒い息をつく。その身体からは力が抜け、翼は垂れ下がり、

立っているのが奇跡に近いほどの深手を負っていた。一歩でも触れれば倒れる。

文字通り、全てを使い切った「抜け殻」のような姿。

 

しかし、それ以上に再起不能のダメージを負っていたのは、シャワーズだった。

水面にぷかりと浮き上がった青い体は、力なく揺れている。

究極奥義の直撃を水中で受けた衝撃は、細胞のひとつひとつを粉砕するに等しかった。

 

「シャワーズ、戦闘不能!勝者、リザードンおよび赤谷炎帝!!」

 

審判の声が響き渡った瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

 

「よぉっしゃぁぁあああ!!見たか!これが俺様とリザードンの、赤く熱い鼓動だぁぁ!!」

 

炎帝は天を仰ぎ、喉が裂けんばかりの勝利の雄叫びを上げた。




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