携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第十四話-鋼蛇の咆哮-

銀色の鱗を曇らせ、力尽きたハクリューを戻す水君の手は微かに震えていた。

しかし、その瞳に宿る火は消えていない。

 

「ありがとう、ゆっくり休んで……。あとは、私が繋ぐから」

 

祈るように呟き、彼女はモンスターボールを腰のホルダーへと収めた。

 

背後では、追いすがってきたフリーザーが氷の粉塵を撒き散らしながら滞空している。

辿り着いたのは街の外れ、開発が止まったままの広大な荒野だった。

民家はなく、遮るものもない。

ここなら、どれほど巨大な魔獣を繰り出そうとも、誰かを巻き込む懸念はない。

水君は意を決し、最も重厚な「盾」であり「矛」である相棒の封印を解いた。

 

「お願い……ハガネール!!」

 

轟音と共に、大地が悲鳴を上げた。

地割れを押し広げるようにして姿を現したのは、全長30mを超える鋼の巨蛇、ハガネール。

月光を反射するその身体は、長年の地底生活で鍛え上げられ、

ダイヤモンドに匹敵する硬度を誇る。

立ち上がったその巨躯は、空飛ぶフリーザーを地上から見下ろさんばかりの威圧感を放っていた。

 

【挿絵表示】

 

鋼鉄の属性を持つハガネールにとって、氷の技は決定打にはなり得ない。

しかし、その巨体ゆえに回避は困難だ。

対するフリーザーは、先ほどのハクリューが命懸けで残した『でんじは』によって、

翼の端々に不自然な火花が散っている。

かつての神速は影を潜め、その挙動には明らかな「澱み」が生じていた。

 

沈黙を破り、先手を仕掛けたのはフリーザーだった。

麻痺に苦しみながらも、その嘴に極低温のエネルギーを収束させる。

放たれた『冷凍光線』は、ハガネールの急所である眉間を正確に貫こうと奔った。

 

「避けて、ハガネール!」

 

水君の鋭い指示。巨体に似合わぬ柔軟さで、鋼蛇は首を大きくしならせ、

冷気の筋を紙一重でかわした。凍気が触れた大気が白く爆ぜる。

 

「今よ、『岩雪崩』!」

 

ハガネールが尾を地面に叩きつけると、周囲の岩盤が隆起し、

巨大な岩塊となってフリーザーの頭上から降り注いだ。

本来のフリーザーならば、羽ばたき一つで回避できるはずの攻撃。

しかし、麻痺した翼が悲鳴を上げる。旋回のタイミングがわずかに遅れ、

数個の巨岩が神鳥の背中を、翼を、容赦なく打ち据えた。

 

効果は抜群だった。

神の称号を持つ鳥といえど、岩石の物理的破壊力には抗えない。

墜落こそ免れたものの、フリーザーの飛行高度は目に見えて下がった。

だが、神鳥の闘志は衰えない。フリーザーは激しく翼を振るい、

戦場全体を覆い尽くす『霰』を呼び寄せた。

夜空から降り注ぐ氷の礫。しかし、鋼の皮膚を持つハガネールにとって、

それは雨粒にも等しい。

 

「(違う……狙いはダメージじゃない!)」

 

水君の直感が警鐘を鳴らす。

霰は氷の魔獣の技を必殺の威力へと引き上げる舞台装置。次に来るのは、

この広大な野原ごと全てを凍結させる極大技に違いない。

 

「させないわ。ハガネール、『砂嵐』よ!」

 

ハガネールが咆哮し、その巨躯を激しく回転させる。

地上の土砂が巻き上がり、数秒で視界を奪うほどの猛烈な砂の竜巻がフィールドを包み込んだ。

空から降る霰は砂に飲み込まれ、戦場は一転してハガネールの独壇場と化した。

フリーザーの美しい羽毛に砂粒が容赦なく叩きつけられ、その体力をジワジワと削り取っていく。

 

「これで、決める……! 『捨て身タックル』!!」

 

ハガネールが地を這う。

30mの鋼鉄の塊が、地響きを立てて突進する光景は、まさに動く要塞だった。

フリーザーは迎撃のために冷気を練ろうとしたが、再び麻痺の稲妻がその脳裏をよぎった。

嘴が開かない。翼が動かない。

 

鋼蛇の頭部が、フリーザーの胴体を真っ向から捉えた。

神鳥の身体が紙屑のように吹き飛び、背後の崖へと叩きつけられる。

轟音と共に岩壁が崩れ、大量の土砂がフリーザーを飲み込んだ。

 

「……やったの?」

 

砂嵐が収まり、静寂が戻る。

崩れた崖の跡。そこには、翼を折られ、煤けた羽を散らしながらも、

なお立ち上がろうとするフリーザーの姿があった。

 

その瞳は、もはや怒りを超え、深い悲しみに満ちているように見えた。

深手を負い、飛ぶことすらままならない。

それでも神鳥は、震える脚で大地を踏み締め、消えかかった喉の奥で、

なおも反撃の唄を紡ごうとしている。

 

水君はその光景に、胸を締め付けられるような痛みを感じた。

なぜ、これほどの傷を負ってまで。なぜ、神と呼ばれる存在が、

これほどまでに人間を拒絶し、戦い続けるのか。

彼女は次の攻撃宣言を口にしようとしたが、その言葉を喉の奥で飲み込んだ。

 

水君はハガネールの前に歩み出た。

戦うためではない。

この不毛な連鎖を止めるための、あまりにも無防備な対話のために、

彼女は静かに口を開いた。

 

「……もう、終わりにしましょう」

 

その声は、冷たい夜風に乗って、傷ついた神鳥の元へと届いた。




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