携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第十五話-零度の断罪-

荒野に吹き荒れる砂塵が止み、月光が惨劇の舞台を青白く照らし出した。

崖に叩きつけられ、満身創痍となりながらも立ち上がる氷神鳥フリーザー。

その双眸には、もはや生物としての生気ではなく、この世界を拒絶し、

全てを凍結させようとする執念の炎が宿っていた。

 

水君は、巨大なハガネールの影から一歩前に踏み出した。

その瞳に宿っていた鋭い闘志は、今は霧散している。

彼女は、血を流し、麻痺に翼を震わせる伝説の魔獣をじっと見つめ、

祈るような、あるいは懺悔のような声を絞り出した。

 

「フリーザー……どうして、貴方は戦うの?何のために、あの街を襲ったの……?」

 

問いかけは、夜風に乗って神鳥の元へ届く。

水君の脳裏には、先ほど自宅で起きた地獄のような光景が焼き付いていた。

守るべき家族、壊された絆、そして欲望のために理性を捨てた父。

人間という種の持つ「醜悪さ」をその身に刻まれた彼女にとって、

目の前の神鳥の怒りは、他人事とは思えなかった。

 

「……もうやめようよ。これ以上、傷つけ合っても、悲しみが凍りつくだけだよ……。

無意味な戦いは、もうおしまいにしよう?」

 

だが、水君の切実な対話は、神の耳には届かなかった。

フリーザーは、低く、地鳴りのような咆哮を上げた。

その声は「共存」を拒絶する拒絶の絶叫だった。

人間が自然を汚し、魔獣の聖域を蹂躙してきた数千年の歴史が、その一鳴きに凝縮されている。

神鳥は、もはや言葉による和解の段階をとうに通り過ぎていたのだ。

 

「……そう。最後まで、戦うつもりなんだね。貴方がその気なら、

私も……退くわけにはいかない」

 

水君の瞳に、再び鋭い光が戻った。

隣でハガネールが、主人の決意に応えるように地響きを立ててその巨躯を震わせる。

 

フリーザーが、折れかけた翼を無理やり広げ、天高く飛翔した。

麻痺による激痛を、神の意志でねじ伏せたのか。神鳥が空中で旋回を始めると、

再び夜空から白銀の礫が降り注ぎ始めた。二度目の『霰』。

先ほどまで砂嵐に支配されていた戦場は、一瞬にして極寒の吹雪に塗り替えられる。

視界が白濁し、肌を刺す冷気がハガネールの鋼鉄の鱗をチリチリと焼く。

 

「(来る……今までの攻撃とは、次元が違う!)」

 

水君は本能的に察知した。

フリーザーの鋭い眼光が、ハガネールの一点に固定された。

それは物理的な狙いを超えた、因果を固定する儀式。『心の眼』。

一度その視線に捉えられれば、次の攻撃を回避することは、神の理によって不可能となる。

 

「ハガネール!先手を打って!『アイアンテー』――」

「――ッ!!」

 

指示が、わずかに遅れた。

あるいは、フリーザーの「終焉の準備」がそれを上回っていたのか。

ハガネールがその巨大な尾を振り上げようとした瞬間、フリーザーの全身から、

この世の全ての熱を奪い去るような絶対的な冷気が溢れ出した。

 

放たれたのは、白銀の光線ではなかった。

それは、空間そのものを死へと変える、不可視の凍結波。

 

『絶対零度』。

 

ハガネールは、自分を案じる水君の叫びに応えるように、

その巨大な身体を丸め、彼女を包み込む「壁」となった。

直後、ハガネールの鋼の体表を、青白い霜が稲妻のような速度で駆け巡った。

30メートルを超える巨軀が、一瞬の隙もなく、芯まで完全に氷結していく。

 

絶対零度。それは、回避も抵抗も許さぬ「一撃必殺」の禁断技。

単なる『冷凍ビーム』による表面的な氷結とは訳が違う。

原子の振動を完全に停止させ、生命の灯を強制的に消し去る断罪の力。

 

パリィィィィン!!と、ハガネールの関節から凄まじい軋み音が上がる。

鋼蛇の瞳から光が消え、その巨体は生きた彫刻となって沈黙した。

ハガネールは、自らの命を削って水君を零度の余波から守り抜き、

そのまま戦闘不能の暗闇へと突き落とされたのだ。

 

「ハ、ハガネール……!」

 

水君は、目の前の巨大な氷の壁となった相棒に駆け寄り、その冷たい皮膚に触れた。

伝わってくるのは、鼓動ではない。ただ、凍りついた鉄の静寂だけ。

水君は唇を噛み締め、俯いたまま震える手でモンスターボールを構えた。

 

「……よく頑張ったね、ハガネール。

あとは……ゆっくりお休み。ごめんね、私があの時、もっと早く……」

 

紅い光が、凍りついた巨蛇を包み込み、ボールへと回収していく。

ハクリューを失い、最強の盾であったハガネールまでもが、神の力の前に砕け散った。

戦場に残されたのは、傷ついた少女と、上空で冷酷に次の獲物を狙う氷の神鳥だけ。

 

吹雪が強まる。

水君の髪には白く雪が積もり、体温は奪われ、意識が遠のき始めていた。

もはや、これまでなのか――。




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