携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第二十話-殺戮兵器-

洞窟の闇から這い出したその姿は、生物というよりは「歩く殺戮兵器」そのものだった。

全身を覆う鎧のような外殻は、いかなる刃も通さぬほどに硬質で、鈍い岩の色を湛えている。

リザードンを優に凌駕する巨躯、大樹のように太い腕、

そして何よりも恐ろしいのは、その眼光に宿る純粋な「殺意」だ。

 

「……バンギラス」

 

雷光が震える声でその名を呼んだ。

地獄の使者、あるいは山を崩す者。

伝説に謳われるその魔獣が上げる咆哮は、空気を物理的に震わせ、

雷光の鼓膜を破らんばかりの衝撃波となって押し寄せた。

バンギラスの視線が雷光と、その腕の中で怯えるピカチュウを射抜く。

それは対等な戦士を見る目ではない。

ただ、踏み潰すべき羽虫を定める冷酷な捕食者の目だった。

 

「くっ……ピジョット! 『風起こし』で距離を――!」

 

雷光の指示が途中で凍りついた。

瓦礫の中に横たわるピジョットは、ピクリとも動かない。

 

「(馬鹿な……嘘だろ?)」

 

雷光の脳裏に戦慄が走る。ピジョットは数々の修羅場を潜り抜け、

最終進化まで辿り着いた精鋭だ。それが、たった一撃の『破壊光線』で沈黙した。

育成が足りないのではない。目の前の『個体』が、

既存の知識を遥かに超越した力を持っているのだ。

 

雷光は唇を噛み締め、ピジョットをボールに回収した。

次なる手を打とうと指をかけた瞬間、バンギラスの口腔に再び黄金の閃光が凝縮される。

 

『破壊光線』!!

 

「――っ!?」

避ける間もなかった。

爆風が至近距離で炸裂し、雷光はピカチュウを抱いたまま後方へと吹き飛ばされた。

背中が硬い岩に叩きつけられ、肺から空気が搾り出される。

視界が真っ赤に染まる中、バンギラスは容赦なく第二の破壊光線を充填し始めた。

死の予感が、冷たく雷光の脊髄を駆け上がる。

 

だが、その処刑の光が放たれる直前、横合いから猛烈な火柱がバンギラスの横顔を焼き払った。

 

「雷光!大事ないか!!」

 

岩壁を蹴って現れたのは、炎帝と彼のリザードンだった。

 

「あ、ああ……助かった……」

 

雷光が声を絞り出す。

リザードンとバンギラス、二体の怪物が互いを睨みつけ、大気が火花を散らす。

 

先手を打ったのはリザードンだった。

炎帝の叫びに呼応し、喉の奥から凝縮された『火炎放射』を解き放つ。

紅蓮の炎がバンギラスを飲み込み、その巨体を真っ赤に染め上げた。

 

しかし。

 

「……効いてねぇのかよ!?」

 

炎帝が絶句する。炎の中から現れたバンギラスは、

煤一つ付いていないかのような平然とした顔で歩みを進めてきた。

バンギラスの反撃――無造作に放たれた破壊光線が空を裂く。

リザードンは翼を羽ばたかせ、間一髪でその軌道を上方へ回避した。

 

「リザードン!『鋼の翼』だ!硬さで対抗しろ!!」

 

リザードンの翼が銀色の金属光沢を帯びる。

急降下の勢いを乗せ、弾丸となってバンギラスの首元へ突っ込んだ。

だが、バンギラスはその超重量の突撃を、事も無げに左腕一本で受け止めた。

リザードンの驚愕の表情。バンギラスはそのままリザードンの翼を掴むと、

至近距離から丸太のような右拳を叩き込んだ。

 

『メガトンパンチ』!!

 

重戦車が激突したような衝撃音が響き、リザードンは地面へと叩きつけられた。

砂埃が舞い、リザードンは膝を突き、荒い息を吐く。立ち上がろうとするが、ダメージは深刻だ。

バンギラスは勝ち誇るような雄叫びを上げ、トドメを刺すべく重い足取りで歩み寄る。

 

「リザードンを助けろ!!フシギバナ!!」

 

雷光が叫び、三体目の最終進化系を繰り出した。

大地を割って現れたフシギバナは、出現と同時に背中の花から二本の『つるのムチ』を伸ばし、

倒れ伏すリザードンの胴体に巻き付けた。

そのまま力業でリザードンを引き寄せ、バンギラスの踏み付けから救い出す。

 

標的を失ったバンギラスの視線が、フシギバナへと転じた。

太い足が地面を叩くと、局地的な地震が発生し、

巨大な『地割れ』がフシギバナの足元に迫る。

 

「フシギバナ!蔓を地面に叩きつけてジャンプだ!!」

 

フシギバナは蔓をバネのように使い、巨体を空中へと跳ね上げた。

地割れがその下を通り過ぎる。

だが、バンギラスは空中に逃げた獲物を、冷酷な計算で見上げていた。

再び放たれた『破壊光線』。空中で回避手段を失ったフシギバナの腹部に、光の奔流が直撃した。

 

フシギバナの巨躯は岩壁まで吹き飛ばされ、轟音と共に瓦礫の山に埋もれた。

沈黙。

ピジョットに続き、フシギバナまでもが、たった一撃で戦闘不能へと追い込まれた。

雷光の育て方が足りないのではない。彼がこれまで積み上げてきた努力や、

魔獣との絆をあざ笑うかのように、目の前の『暴君』が異常すぎるのだ。

 

「嘘だろ……。俺たちのエースが、こうも簡単に……」

 

炎帝の拳が震えていた。

圧倒的な力の差。抗いようのない暴力。

砂塵が舞う荒野で、雷光と炎帝は、

自分たちが今「死」の喉元に立たされていることを嫌というほど理解させられていた。




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