静寂が戻ったはずの断崖に、再び「死」の鼓動が響いていた。
三人が去った戦場。そこには、圧倒的な暴力の化身、獄獣バンギラスが佇んでいた。
シャワーズの水流に濡れた皮膚はすでに乾き、
受けたはずのダメージなど微塵も感じさせない。
その瞳に宿るのは、獲物を逃したことへの苛立ちと、底知れぬ怨念。
バンギラスは突如、歩みを止めた。
黄金色の眼光が、目の前の分厚い岩壁を射抜く。
咆哮すら上げず、無造作に振り抜かれた剛拳が岩壁を粉砕した。
火花を散らして飛び散る礫は、まるで弾丸のように周囲の樹木をなぎ倒す。
岩を握り潰し、砂へと変えるその腕には、
雷光たち三人の命を塵にせんとする呪詛が籠もっていた。
獄獣は再び、重く、確実な足音を響かせ、獲物の残り香を追って歩き始めた。
その歩みは遅いが、決して止まることはない。
一方、バンギラスの脅威から辛うじて逃げ延びた三人は、
夕闇が迫る岩陰で、乱れた呼吸を整えていた。
沈黙を破ったのは、雷光だった。彼は傷ついたピカチュウを労わりながら、
隣でシャワーズの背を撫でる水君を見つめた。
「……なぁ、水君。もしよかったら、俺たちと一緒に旅をしないか?」
水君は、思いがけない言葉に顔を上げた。
「……え?」
「さっきは本当に助かった。お前がいなけりゃ、
俺たちは今頃あいつの餌食になっていた。
借りが出来ちまったっていうのもあるけど……
それ以上に、俺たちにはお前の力が必要なんだと思うんだ」
「そうだよなぁ~!」
炎帝が、煤けた顔を綻ばせて割り込んできた。
「水君が居なかったら、俺様たち今頃、ひき肉になってたかもしれねーしな!
三人寄れば文句なしの最強チームだぜ!」
水君は戸惑ったように視線を落とした。
「……で、でも、私なんかが……。二人は凄く強いし、
私はただ、母さんを助けたくて旅に出ただけで……」
「いいんだよ、理由なんて。俺たちと一緒に旅しようぜ。な?」
雷光が優しく、だが確かな意志を込めて微笑む。
水君の胸に、かつてない温かな感情が広がった。
これまでの孤独な戦い、家庭での苦しみ、そしてフリーザーとの孤独な対話。
それら全てを包み込んでくれるような、仲間という存在。
「……うん!よろしくお願いします!」
水君の顔に、弾けるような笑顔が咲いた。
雷光、炎帝、そして水君。
炎、雷、そして水と氷。タイプのバランスは劇的に改善され、戦術の幅は無限に広がった。
だがそれ以上に、男二人で殺伐としていた旅路に、
凛とした「花」が加わったことの意義は大きい。
旅は、分かち合う者が多いほど、その彩りを増すものなのだから。
「よっしゃあ!さぁ~、出発するぜぇ~!」
「……炎帝、テンション高すぎ。少しは落ち着こうよ」
水君が苦笑いしながら呟くと、雷光が肩をすくめて応える。
「水君、あんまり気にしない方がいいよ。こいつに関わると、ろくなことがないからね」
「んだテメー! 冷てーじゃねぇか、相棒!
俺様たち、死線を越えて愛を誓い合った仲じゃねぇか……ポッ」
「な、なにバカなこと言ってるんだ……!誰が誓い合ったんだよ!
ほら、水君、行こう。こんな奴ほっといて」
呆れる雷光に引かれるように歩き出そうとした水君が、ふと足を止めた。
「え……あ……その前に、ちょっといいかな?」
「「?」」
二人が足を止めると、水君はおもむろにリュックの奥深くを探り始めた。
そして取り出されたのは――。
「……特大ハンバーグ。それに、バケツサイズの巨大プリン!?」
雷光の目が点になり、炎帝の顎が外れそうになる。
水君は、先ほどの死闘などなかったかのような満面の笑顔で、
その山のような料理を「いただきます!」と頬張り始めた。
モグモグ、パクパク。
「……うーん、美味しい!やっぱり戦った後はこれだよね!」
幸せそうに、それでいて凄まじいスピードで平らげていく少女。
その華奢な体のどこにそんなスペースがあるのか。
数分後。あれだけの量を跡形もなく胃袋に収めた水君は、満足げに唇を拭った。
「お待たせ!行こう!」
呆然と立ち尽くしていた雷光と炎帝は、ようやく我に返ると、
慌ててテントを畳み、身支度を整えた。
「……水君、お前の『魔獣』は、実はお前自身なんじゃないか?」
炎帝のツッコミを華麗にスルーし、三人は輝く地平へと歩み出す。
歩きながら、雷光の表情には再び軍師としての険しさが戻っていた。
「早く次の目的地――『聖なる癒やしの街』へ行かないと。食料も底を突きかけているし、
何よりも……あのバンギラスがまたいつ襲ってくるか分からない」
「ああ。あいつの硬さは異常だった。
リザードンの火炎放射すら、ロウソクの火くらいにしか思ってねぇみたいだったしな」
炎帝が悔しそうに拳を握りしめる。
「今後は、あの獄獣のような規格外の魔獣に備えて、
俺たちの相棒もさらなるレベルアップが必要だ」
水君も、ハクリューのボールを握りしめ、力強く頷いた。
「私も、次は負けない。皆を守るために、もっと強くならなきゃ」
山脈を渡る風が、三人の背中を押し上げる。
背後には執念の獄獣。目の前には、まだ見ぬ強敵と、大陸を揺るがす戦争の火種。
更なる激戦が、彼らの運命を待ち受けている。
だが、今の彼らなら、どんな闇をも切り裂いて進めるはずだ。
三人の足音が、重なり合いながら、新たな伝説の序曲を刻んでいった。
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