携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第二十三話-雷神の凱旋-

夜の静寂を切り裂くのは、シトシトと降り続く雨音だけではなかった。

山脈の厚い雲海を縫うようにして、一機の軍用ヘリコプターが飛行している。

機体に刻まれた「陸上自衛隊」の文字が、暗闇の中で計器の光に照らされていた。

 

「こちら偵察、異常なし。魔獣の活動も沈静化しています。夜行性の個体も確認されません」

 

操縦士は淡々と本部へ報告を入れる。周辺は雷光たちが野営している場所からもそう遠くない。

魔獣たちも眠りにつき、世界は静止しているかのように思われた。

 

だが、運命の秒針は唐突に加速する。

 

突如、天空を割るような巨大な閃光が走った。落雷。

それも一本ではない。闇に包まれていたはずの夜空が、

一瞬にして白銀の世界へと変貌するほど、

数え切れないほどの稲妻が網の目のように天を覆い尽くした。

 

「なっ……なんだ、この雷は!?」

 

操縦士は思わず操縦桿を握り直す。異様なのはその頻度だけではない。

雷鳴は重低音の地響きとなって機体を揺らし、大気がオゾンの臭いで満たされていく。

 

「本部へ! 上空で不自然な稲光が連続して確認できます。山中にも巨大な落雷。

気象庁に確認を……これは、自然現象の域を超えています!」

『こちら本部、了解。……気象庁より回答。

現在、当該海域および山脈に積乱雲の発達は認められないとのこと。

繰り返す、自然の雷ではない!』

「了解、やはりか……。引き続き偵察を続行。正体を突き止めます」

 

操縦士はゴクリと息を呑んだ。

眼下の山中、稲妻が直撃した場所では、樹齢数百年の逞しい大木が、

まるで紙細工のように真っ二つに貫通し、内部から爆発するように炎を上げている。

これほどまでの高電圧を一撃で叩き込む存在。

それはもはや、通常の「怪物」の範疇ではない。

 

その時、ヘリの対空レーダーが狂ったように警告音を鳴らした。

 

「……!? 後方上空、急速に接近する未確認飛行物体あり!」

 

レーダーが示すのは、地上でも、ヘリと同じ高度でもない。

まさに雷雲が渦巻く「天」の領域から、弾丸のような速度で降下してくる物体だった。

視界を確保しようにも、夜の闇と降り続く雨、そして断続的に走る雷光が目を眩ませる。

 

次の瞬間、巨大な黄金の矢が雲を突き抜けた。

 

全身からパチパチと青白い放電を撒き散らし、鋭い嘴と荒々しい羽毛を持つその姿。

ファイヤー、フリーザーに続く三体目の伝説、雷神鳥サンダー。

 

【挿絵表示】

 

「なっ……鳥か!?いや、魔獣だ!本部、未確認の巨大飛行魔獣を確認、目標は当機に――」

 

操縦士が叫び終えるより早く、サンダーが大きく翼を広げた。

その羽の隙間から、超高圧の電撃波が放射される。誘導されるようにヘリの

メインローターを直撃した雷撃は、機体の電子回路を瞬時に焼き切り、操縦系を沈黙させた。

コントロールを失った鋼鉄の塊は、断末魔のような金属音を立てて急降下していく。

山脈の斜面に激突したヘリは、巨大な爆炎と共に夜の闇を赤く染め上げた。

操縦士の生存は絶望的だろう。

 

サンダーは、自らが引き起こした爆発を冷徹に見下ろすと、

鼓膜を震わせるような高く鋭い咆哮を上げ、

電光石火のスピードで再び雲の彼方へと消え去った。

 

本部がヘリのロストを確認するまで、時間はかからなかった。

レーダーから消えた輝点と、山中での爆発確認。事態を重く見た防衛省は、

直ちに航空自衛隊へスクランブルを発令した。

 

「目標、ヘリを撃墜した未確認飛行物体!全機、即応せよ!」

 

基地の静寂が破られる。

待機していたパイロットたちが走り、F-15J戦闘機のコクピットへ飛び込んだ。

アフターバーナーの炎が夜空を焼き、三機の「イーグル」が緊急発進(スクランブル)。

サンダーが残した電磁波の痕跡を追い、マッハの速度で北上を開始した。

 

「……捕捉した。信じられん、生身の鳥がマッハに近い速度で巡航しているぞ」

 

リード機(一番機)のパイロットが、ヘッドアップディスプレイに映る影に驚愕する。

サンダーは、自らが発生させる電磁場によって空気抵抗を無効化しているかのように、

バチバチと音を立てながら飛行を続けていた。

 

「こちらイーグル1、飛行物体の正体は『サンダー』。

極めて好戦的です。接触を試みま――」

 

通信を遮るように、サンダーが空中で反転した。

三機の鋼鉄の翼を「敵」と見なした神鳥が、翼を大きく仰け反らせる。

 

「1000万ボルト」!!

 

夜空を埋め尽くすほどの雷光が、網のように戦闘機たちを襲った。

 

「散開!!」

 

パイロットたちの卓越した操舵技術により、F-15は急旋回して電撃の網を回避する。

機体の排気熱や電磁信号を執拗に追いかける。

 

『本部より各機へ、現在より交戦規定を適用する。

目標の無力化を許可。ミサイル使用を認める!』

「イーグル1、了解。……野郎、神様気取りの鳥を地上に引きずり下ろしてやる!」

 

F-15の翼下から、サイドワインダー短距離対空ミサイルが点火された。

白い煙の尾を引きながら、ミサイルがサンダーへと肉薄する。

だが、サンダーは嘲笑うかのようにバレルロールを繰り出し、

自らの周囲に強力な磁場を展開。接近したミサイルの誘導を狂わせ、

至近距離で自爆させた。

 

爆煙の中を、黄金の光を纏ったサンダーが突き抜けてくる。

マッハのスピードで繰り広げられる、神話の獣と近代兵器の空中戦闘。

雷光たちが地上で眠る山脈の遥か上空で、空を統べる覇権を賭けた、

壮絶なドッグファイトが始まったのである。

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