携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第二十五話-拡大する戦火-

F-15J戦闘機三機が、一羽の怪鳥によって夜空の塵と消えた衝撃は、

一国の軍事的な損失という枠を遥かに超え、人類の存立を揺るがす

「宣戦布告」として世界を駆け抜けた。

 

五日後。事態を重く見た日本政府、および各国の首脳陣が集結した「国際防衛対策会議」は、

未曾有の事態に対応すべく、一連の有事法制を電撃的に可決。

その日の夜、全世界のテレビ画面は、緊急速報を示す赤いテロップと、

沈痛な面持ちの政府報道官の姿で埋め尽くされた。

 

公表されたのは、人類がこれまで経験したことのない「対・伝説魔獣警戒レベル」。

それは、気象現象や経済危機とは一線を画す、

純然たる「暴力の化身」に対する生存戦略の提示であった。

 

茶の間のテレビから、あるいは街頭の巨大ビジョンから、無機質な文字が映し出される。

それは国民一人ひとりの生活に、逃れようのない死の影を突きつける内容だった。

 

【雷神鳥サンダー:対魔獣有事警戒指針】

 

危機レベル1:予兆(Omen)

サンダーの活動が五感(視覚的な閃光、聴覚的な異常雷鳴、

皮膚を刺す静電気など)に僅かでも確認された場合。

 

危機レベル2:局地影響(Impact)

特定の地域において、通信障害、落雷による火災、停電など、

サンダーの活動が物理的な影響を及ぼし始めた場合。

 

危機レベル3:出現(Encounter)

空域、あるいは地上に「サンダー」の姿が目視、

またはレーダーによって確実に捕捉された場合。

 

危機レベル4:襲来(Catastrophe)

サンダーによる直接的な攻撃が開始され、

甚大な被害がいかなる場所においても確実視される場合。

 

―― <国際防衛対策会議>

 

この宣言は、単なる注意喚起ではなかった。

それは「平時の終わり」を告げる鐘の音であった。

 

この世界において、政治の根幹を成す思想は一つに集約されていた。

「自分たちの国は、自分たちの手で護る」。

かつての平和主義は、強大な魔獣たちの蹂躙によって瓦解し、

代わって台頭したのは徹底した自助努力による国防意識であった。

 

警察や自衛隊といった公的機関の限界は、先日の空中戦で証明されてしまった。

だからこそ、国は国民に「戦う権利」と「防衛の義務」を課したのである。

 

翌朝、スーパーやコンビニエンスストア、百貨店の棚からは、日常の風景が消え失せていた。

かつてパンや日用品が並んでいた一角には、

「緊急対魔獣グッズ」が所狭しと陳列されている。

 

絶縁耐電スーツ: サンダーの電撃波から神経系を守るための特殊繊維。

携帯用避雷針: 展開することで周囲数メートルの電流を地中に逃がす。

魔獣用スタン・デコイ: 野生の魔獣を一時的に無力化、あるいは引きつける囮。

 

「魔獣使い」という職業は、もはや憧れの対象ではなく、

隣近所に必ず一人はいなければならない「地域の盾」としての役割を強制されていた。

子供たちは公園で遊ぶ代わりに、相棒の魔獣と共に回避訓練に励み、

主婦たちは買い物のついでに、自宅の防護バリアのエネルギー残量を確認する。

 

この危機レベルの策定は、サンダーのみに留まるものではなかった。

サンダーへの対策は、今後現れるであろうあらゆる「絶望」への雛形に過ぎないことを。

 

百貨店の屋上には高射砲が設置され、地下鉄の駅は防空壕へと改造されていく。

人々は空を見上げるたび、それがただの雨雲なのか、あるいは一国の軍隊を葬り去った

「神の羽ばたき」なのかを判別しなければならない。

 

「……もう、元には戻れないんだな」

 

雷光、炎帝、水君が歩む荒野の先でも、同じように戦火の匂いが立ち込めていた。

魔獣と人間。かつては共存の夢を見たはずの二つの種族は、今や互いの生存圏を賭けて、

深淵へと転げ落ちるように戦争の規模を広げていった。

 

この危機レベルが「4」に達した時、人類に残されているのは勝利か、あるいは徹底的な焦土か。

空を支配する稲妻の音が、今夜もどこか遠くで、人々の安眠を切り裂くように鳴り響いていた。

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