携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第二十六話-戦慄のハイウェイ-

山脈の荒々しい岩肌を背にし、雷光、炎帝、水君の三人が辿り着いたのは、

近代的なビルが立ち並ぶ地方都市だった。街の喧騒は一見、平和そのものに見える。

しかし、一歩「魔獣センター」の中に足を踏み入れると、そこには異様な緊張感が漂っていた。

ロビーの大型モニターには、赤い帯で「緊急速報」の文字が流れ、

先日発表された「サンダー警戒指針」が繰り返し放送されている。

 

三人は、そのモニターの光に照らされながら、

吸い寄せられるように画面を見つめていた。

今、この広い世界で、伝説の鳥たちの「実力」を身をもって知っているのは、

おそらくここにいる三人だけだろう。

 

「……おい」

 

炎帝が声を潜め、周囲を警戒しながら二人を呼び寄せた。

三人は自然と影を作るように輪になり、額を寄せ合う。

 

「ありゃあ、間違いねぇ……。あのバカげた雷。ファイヤーと同じ『神』の類だぜ」

「ああ」

 

雷光が苦い表情で頷く。

 

「俺と炎帝は、火口付近の街でそのファイヤーと死闘を演じた。

あの時はリザードンが命懸けで食い止めてくれたが、

一歩間違えば今頃灰になってたはずだ」

 

その言葉に、水君の瞳が大きく揺れた。

 

「えっ……まさか、貴方たちもなの?私も……この間、自分の街を護るためにフリーザーと戦ったわ。

ハクリューがボロボロになって、やっとの思いで……」

 

「「なんだと!?」」

 

雷光と炎帝の声が重なり、センター内に響き渡った。

 

「ちょっと、二人とも!声が大きすぎるよ!」

 

水君が慌てて二人の口を塞がんばかりに制止する。

周りの魔獣使いたちが「なんだあいつら?」と不審な目を向けていた。

 

「あ、ごめんごめん……。って!

炎帝、俺とシンクロするな、気持ち悪い」

「んだとコラ!息が合っちまったもんはしょうがねーだろ!」

「もうっ! 静かにしてってばぁ!」

 

水君が頬を膨らませて怒ると、二人はようやく口を噤んだ。

だが、その胸中は複雑だった。自分たちが出会ったのは偶然ではなく、

何かに導かれているのではないか。そんな予感が三人の間を駆け巡る。

 

そんな「怪しい三人組」を、少し離れた位置からじっと観察している一人の男がいた。

年の頃は30代半ば。整えられた短髪に、彫りの深い顔立ち。着慣れたスーツ姿だが、

その立ち居振る舞いからは隠しきれない「軍人」の鋭い規律が滲み出ている。

男はゆっくりと歩み寄り、低いがよく通る声で三人に声をかけた。

 

「……失礼。君たちが、黄崎雷光君と赤谷炎帝君、そして青川水君さんだね?」

 

三人は弾かれたように男を振り返った。

 

「そ、そうですけど……。貴方はどちら様ですか?」

 

雷光が警戒の色を露わにしながら問い返す。

 

「俺の名前は進藤哲(しんどう さとし)。陸上自衛隊に所属している二等陸佐だ」

 

哲は懐から身分証を提示し、三人の顔を一人ずつ見据えた。

 

「少し君たちに話があって来た。……ここでは目立ちすぎる。

俺の車に乗ってくれないか?大事な話があるんだ」

「「「……?」」」

 

三人は顔を見合わせた。

自衛隊の幹部が、なぜ自分たちの名前を、そして居場所を知っているのか。

だが、その瞳に敵意は感じられない。

それどころか、どこか切実な色さえ混じっているように見えた。

目的地すら明かされないまま、

三人はセンターの駐車場に停められていた黒塗りの公用車に乗り込んだ。

 

車が発進し、街を抜けて郊外へと向かう。

 

「自衛隊の基地に行くのかしら……」

「あるいは、サンダーに関する特別対策本部か。

俺たちの実戦経験を必要としているのかもしれないな」

 

雷光と水君は、これから待ち受けているであろう「国を挙げた作戦」の重圧について、

ひそひそと予想を立てていた。

 

だが、雷光はある異変に気づいた。

道中、誰よりも威勢がいいはずの炎帝が、先ほどから一言も発していないのだ。

 

「(珍しいな、緊張してるのか?)」

 

雷光が不審に思い、隣のシートを覗き込むと、そこには驚愕の光景があった。

 

炎帝は、幽霊のように真っ白な顔をして、震える手で窓枠を掴んでいた。額からは大粒の汗が滝のように流れ、口元は固く引き結ばれている。

 

「ど、どうしたんだ炎帝? 具合でも悪いのか?」

「……わりぃ……」

 

炎帝が、絞り出すような消え入りそうな声で答える。

 

「俺様……車、ダメなんだ……。乗り物酔い……最強レベルなんだよ……」

「ま、まさか酔ったのか!?今さら!?」

「頼む……雷光……哲のオッサンに言ってくれ……車を止めて……リバース、秒読みだ……」

 

雷光は慌てて運転席の哲に声をかけようとしたが、時すでに遅し。

 

「炎帝君、悪いが急ぎなんだ。

ちょうど今、高速道路に入ったばかりでね。次のパーキングまで15分は止まれないよ」

 

哲はバックミラー越しに冷静、かつ無慈悲な事実を告げた。

 

「15分……!?15秒の間違いじゃねーのか……うぐっ!!」

 

炎帝の顔が今度は青を通り越して土気色に変わる。

 

「あああああ!炎帝、しっかりしろ!窓を開けるな、風圧で大変なことになるぞ!」

「あ、熱い……胃袋が、マグマのように煮えくり返ってやがる……うおぉぉっ!」

 

パニックに陥った炎帝は、窓ガラスをドンドンと叩き、のたうち回り始めた。

 

「哲さん!エチケット袋はありませんか!?誰か、袋を!!」

 

水君が叫ぶが、整然とした自衛官の車内に、

吐瀉物を受け止めるような軟弱な備えなどあろうはずもなかった。

 

「……すまん。用意していない」

 

哲の冷徹な一言が、炎帝の最後の一線を断ち切った。

 

「出る……出るぞ……俺様の、破壊光線(リバース)がぁぁぁ!!」

「出すな!堪えろ!男だろ!!」

 

雷光が炎帝の体を羽交い締めにして抑え込むが、

その努力も虚しく、車内に(以下、あまりの惨状につき検閲・自主規制)……。

 

車内を包み込んだ地獄絵図のような騒ぎとは対照的に、外は不気味なほど晴れ渡っていた。

澄み切った青空の彼方から、一筋の不自然な閃光が走る。

それは、これから三人が巻き込まれるであろう、人類と魔獣の全面戦争の序曲。

この晴々とした明るさは、間違いなく「嵐の前の静けさ」そのものだった。

 

汚れた車内と、意識を失いかけた炎帝。そして、それを冷徹に見つめる哲の横顔。

三人を乗せた黒い影は、さらなる深淵へと向かって、高速道路を突き進んでいく。

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