携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第二十七話-沈黙の軍隊-

高速道路を走り抜けること一時間。

車は都心の喧騒から隔離された、重厚なコンクリートの要塞へと滑り込んだ。

そこは、国家防衛の要――防衛庁。厳重な検問をいくつも通り抜け、

自衛隊が直接管理・運営する中枢施設である。

 

車が停車すると、一人の若い男性自衛官が、報告書を片手に駆け寄ってきた。

 

「進藤二佐、お戻りになられまし……た……?」

 

自衛官の言葉が、凍りついたように止まる。

 

黒塗りの公用車からは、およそ国家の中枢に相応しくない、形容しがたい異臭が漂っていた。

ゆっくりとドアが開く。中から這い出してきたのは、全身に「謎の液体」を浴び、

魂が抜けたような顔をした三人の少年少女だった。

 

「……う、うう……」

 

雷光は、かつてない屈辱に震えながら、拭いきれない汚れを呪うように地面を見つめている。

隣の水君も、自慢の青い髪がベタつき、泣き出しそうな、

それでいて全てを諦めたような虚無の表情を浮かべていた。

そんな中、一人だけ「スッキリしたぜ!」と言わんばかりの晴れやかな顔で降りてきたのは、

諸悪の根源、赤谷炎帝である。

 

「ひ、悲鳴を上げたいのはこっちよ……!」

 

水君の絞り出すような声に、

駆け寄った自衛官は「ヒッ……!」と短い悲鳴を上げ、二歩、三歩と後退した。

 

「……炎帝」

「あ、あん?」

 

雷光と水君の目が、爛々と、そして冷酷に光る。

 

「「この、大馬鹿野郎――ッ!!」」

 

ドカッ! バキッ!

二人の拳が、炎帝の側頭部と頂門に完璧なタイミングでめり込んだ。

 

「ぶげぇっ!?」

 

地面に転がり、涙目でタンコブを押さえる炎帝を放置し、

一行は哲に促されて建物の中へと足を踏み入れた。

 

建物内の長い廊下を歩きながら、雷光、水君、そして哲の三人は、

貸し出されたタオルで必死に体を拭っていた。

 

「……本当に、すまないことをした」

 

哲が申し訳なさそうに、だがどこか遠くを見るような目で呟く。

一方の炎帝は、両頬をリスのように膨らませてブーブーと文句を垂れながら、

三人の後ろをトボトボとついて歩いていた。

 

歩を進めるにつれ、周囲の部屋数が増え、同時に空気の密度が「重く」なっていく。

すれ違う自衛官たちの顔には、一様に疲労と、拭いきれない悲壮感が張り付いていた。

沈黙に耐えかねたように、哲が口を開いた。

 

「君たち、サンダーへの警戒指針のニュースは見たね?」

「ええ……五日前、山中を飛行中だったヘリが落雷で……。

正体を探るために出撃したF-15も、全機撤退だと聞きました」

 

雷光が答える。その声は、自らも「伝説」を目の当たりにした者としての重みを帯びていた。

 

「……この部屋です。じゃあ、俺はこれで。……ああ、自己紹介がまだだったな」

 

先ほど車を案内してくれた自衛官が、ある重厚な扉の前で足を止めた。

 

「俺の名前は陸上自衛隊所属、『永瀬茂(ながせ しげる)』一等陸曹です。

宜しくな……。君たちが、希望になってくれることを願っているよ」

 

茂は三人を部屋に案内すると、一度だけ深々と頭を下げ、暗く、

研ぎ澄まされたような横顔を見せて立ち去っていった。

 

「……彼の親友が、殉職したんだ」

 

哲が、扉に手をかけたまま静かに告げた。

 

「え……?」

「五日前の、あの偵察でだ……」

 

その言葉に、三人の思考が凍りついた。

さっきまでゲンコツを喰らって拗ねていた炎帝すら、弾かれたように顔を上げる。

彼の瞳に宿っていた悪戯っぽい光は消え、代わりに剥き出しの狼狽が走った。

 

「……そんな話、聞いてねーよ。あいつ、あんなに普通に接してたじゃねーか……」

 

炎帝の問いに、哲は何も答えず、ただ静かに会議室のドアを開けた。

 

部屋の中には、一人の壮年の男性が待っていた。

使い込まれた制服を隙なく着こなし、鋭い眼光を放つその男は、

部屋に入ってきた三人を無言で値踏みするように見つめた。

哲に促され、三人は横一列に並んで椅子に腰を下ろした。

 

「それじゃあ、全員集まった所で、簡単な紹介から入らせてもらう」

 

哲が三人の左端から順に指し示す。

 

「左に座っているのが黄崎雷光君。右に座っているのが青川水君さん。そして――」

「(フフフ! いよいよ俺様の出番だぜ!さっきの不浄を洗い流す、

真っ赤に燃えるような熱い挨拶で、ここの連中の度肝を抜いてやる……!)」

 

炎帝がグッと拳を握り、立ち上がろうとした、その瞬間。

 

「次に、こちらの自衛官の紹介に移る」

「ちょっ、ちょっと待てぇい!!俺様の存在、完全にスルーしただろ!?」

 

炎帝の絶叫に、哲はわざとらしく「おっと」という顔をした。

 

「ゴメンゴメン。中央に座っているのが赤谷炎帝君だ(笑)。そして……」

「くそう……完全に白けちまったぜ……」

 

炎帝がガックリと肩を落として着席する。

その拍子に、隣の雷光から「静かにしろ」と脇腹に肘打ちを食らった。

 

哲は表情を引き締め、隣の男性を紹介した。

 

「俺の隣に座っているのは、陸上自衛隊所属『陣内正人(じんない まさと)』一等陸佐だ。

今回のサンダー迎撃作戦、その現場指揮を執る」

「宜しく」

 

陣内一佐の、低く重厚な声が部屋に響く。それは単なる挨拶ではなく、

これから始まる「戦争」への合図のようだった。

雷光、炎帝、水君。

三人の若き魔獣使いたちは、自分たちがもはや「旅の子供」ではなく、

国家の命運を背負う「戦士」としてここに呼ばれたのだと、その肌で理解した。

 

窓の外では、また不穏な雲が立ち込め始めている。

サンダーとの決戦、その火蓋が切られようとしていた。

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