携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第二十九話-雷鳴の強襲-

重苦しい会議の余韻を抱えたまま、雷光、炎帝、水君の三人は、

防衛庁舎内にある宿泊区画へと案内された。

外はすでに帳が下り、人工的な街の灯りが遠くでまたたいている。

サンダー掃討作戦の詳細は未だ決まらず、

彼らに与えられたのは「待機」という名の休息だった。

いつどこに現れるか知れない神鳥への警戒は、

自衛隊の最新レーダー網によって24時間続けられているはずだった。

 

「ふぅ……。ひとまず、一息つくか」

 

案内された部屋は、民間の一流ホテルにも引けを取らない設備が整っていた。

雷光は備え付けの冷蔵庫からキンキンに冷えたファンタを取り出し、喉を鳴らして流し込む。

ソファに深く腰掛け、テレビのニュースに目をやるが、

映し出されるのは相変わらずの隠蔽された公式見解ばかりだ。

水君は無言のままリュックから着替えを取り出し、シャワー室へと消えた。

炎帝はといえば、すでにベッドの上でパソコンを広げ、

何やら熱心にネットサーフィンに興じている。

 

ファンタを飲み干した雷光は、ふと尿意を覚えて席を立った。

 

「ちょっとトイレに行ってくる」

 

炎帝の適当な返事を聞き流し、無機質な廊下へ出る。

用を済ませ、自室へ戻ろうとしたその時だった。

 

――カチッ。

 

腰のベルトに固定していたモンスターボールが勝手に開き、

眩い光と共にピカチュウが飛び出してきた。

 

「ピカチュウ!? どうしたんだ、勝手に出てきたりして」

 

雷光の問いかけに答える余裕すら惜しむように、ピカチュウは鋭い目付きで廊下を駆け抜けた。

その頬からはパチパチと火花が散り、野生の直感が最大級の警戒を告げている。

 

「おい、待て!どこへ行くんだ!」

 

雷光も即座にその後を追った。

 

ピカチュウが辿り着いたのは、庁舎の裏手に広がる演習用の広場だった。

その先は深い崖になっており、夜の静寂が支配している。

だが、ピカチュウは崖の縁で足を止め、漆黒の空を睨みつけていた。

背中の毛は逆立ち、頬の電気袋がこれまでにないほど激しく明滅している。

 

「ピカチュウ……何がいるんだ?」

 

雷光が空を見上げた、その瞬間だった。

 

鼓膜を突き破らんばかりの轟音と共に、巨大な白銀の稲光が夜空を縦に引き裂いた。

 

「なっ……こ、これは……!?」

 

咄嗟に腕で目を覆う雷光。視界が真っ白に染まる中、間髪入れずに第二の衝撃が走った。

強大な稲妻が崖に直撃し、数万トンの岩塊が飴細工のように真っ二つに砕け散り、

地響きを立てて崩落していく。

 

土煙とオゾンの臭いの中、バチバチと不気味な放電音を響かせながら、

そこに「それ」は降り立った。

全身を鋭利な針のような羽毛で覆い、狂気に満ちた眼光で地上を射抜く黄金の怪鳥。

 

「サンダー……!なぜ、こんな中枢に直接……!」

 

疑問はすぐに霧散した。

ファイヤーもフリーザーも、常に自分たちの方から現れた。

伝説の三鳥にとって、人間の防衛網など存在しないも同然なのだ。

奴は、自分を倒そうと画策する者たちの「殺気」を嗅ぎ取り、自ら処刑に現れたのだ。

 

サンダーは低く唸るような咆哮を上げると、翼を畳んで弾丸のように突っ込んできた。

 

「ドリルくちばし」!!

 

「避けろ、ピカチュウ!」

 

雷光の叫びと同時に、二人は左右に分かれてその突進を紙一重で回避する。

サンダーが地面を抉り、岩石が弾け飛ぶ。

 

「反撃だ、ピカチュウ!『100まんボルト』!!」

 

ピカチュウの全身から放たれた猛烈な電流がサンダーを襲う。

しかし、サンダーは重力を無視したような急上昇でそれを避けると、

雷光たちを囲むように超高速で旋回を始めた。

グルグルと回り続ける黄金の残像。目で追うのがやっとの速度から、

サンダーの必殺が放たれた。

 

「1000まんボルト」!!

 

逃げ場のない雷撃がピカチュウに命中する。

同じ電気タイプとはいえ、伝説の神鳥が放つ電圧は桁外れだ。

激しい火花が散り、周囲の地面がガラス状に焼ける。

だが、煙の中から飛び出してきたピカチュウの瞳には、まだ闘志が漲っていた。

数々の死線を越えてきたピカチュウにとって、耐性を活かした防御は計算の内だ。

 

「大丈夫だな! よし、次は『影分身』だ!!続いて『電光石火』!!」

 

広場に無数のピカチュウの残像が広がる。

サンダーは苛立たしげに次々と電撃を浴びせていくが、それらは全て虚像を貫くのみ。

その隙を突き、本体のピカチュウが崖の斜面を垂直に駆け上がった。

加速に加速を重ね、白い閃光となったピカチュウがサンダーの胴体へ必殺の体当たりを見舞う。

流石の神鳥も、ピカチュウの放つ超スピードの突撃には反応しきれず、大きく体勢を崩した。

 

「いける……! 伝説相手でも、食らいつける!」

 

雷光が確信を抱いた、その瞬間。サンダーの纏う空気が、一変した。

 

サンダーは天を仰ぎ、これまでで最も高く、不気味な咆哮を上げた。

直後、奴の姿が視界から完全に消失する。

 

「高速移動」!!

「なっ……速すぎる!どこだ、どこにいる!?」

 

雷光の動体視力を完全に置き去りにしたサンダーは、

空中で黄金の線となり、ピカチュウを蹂躙し始めた。

さらにサンダーは移動しながら、

自身の羽毛に周囲の静電気を異常な密度で蓄積させていく。

 

「充電」!!

 

「ピカチュウ、後ろだ!防げ!!」

 

雷光の声が届くより早く、サンダーの追撃が炸裂した。

放たれたのは、先ほどと同じはずの「1000まんボルト」。

だが、その威力は「充電」によって倍増し、

2000万ボルトの破壊エネルギーへと膨れ上がっていた。

 

凄まじい衝撃にピカチュウが地面を転がり、力なく倒れ込む。

同じ電気タイプという耐性すら意味をなさないほどの、暴力的な純粋エネルギー。

サンダーは攻撃の手を緩めない。高速移動で残像を維持したまま、

さらに二度、三度と「充電」を重ねていく。

 

3000万ボルト、4000万ボルト……。

サンダーの全身から溢れ出す電力は、もはや制御不能なプラズマの塊となり、

広場全体の空気を焼き焦がしていく。

 

ピカチュウは、圧倒的な「個」の力で戦場を支配する雷神鳥を前に、

再び立ち上がることができるのか。

防衛庁の夜は、文字通り神の怒りによって塗り潰されようとしていた。

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