携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第三話-開戦の狼煙-

雷光は、その場で息をすることを忘れていた。

眼前に展開される、生物の域を超えた「決戦」。

夜空を朱に染め上げる熱波が、遠く離れた彼の肌をチリチリと焼く。

伝説の神鳥・ファイヤーが、その巨大な翼を刃のように鋭くしならせ、

空気を切り裂いて突進する。

迎撃するリザードンもまた、口腔から漏れる火種を撒き散らしながら、

真っ向からその衝突を受け止めた。

 

ドォォォォォン!!

 

肉体と肉体がぶつかり合う鈍い衝撃音が、爆発音となって周囲に轟く。

ファイヤーは反転し、優雅ですらあるUターンの軌道から火炎放射を放った。

リザードンは翼を畳んで急降下し、間一髪でその熱線を回避する。

だが、ファイヤーの狙いは、もはやこの「闘争」そのものではなかった。

神鳥はリザードンの隙を突くと、一気に加速し、

背後の人間たちが築き上げた文明の象徴――「街」へとその切っ先を向けたのだ。

 

「追え!!リザードン!!逃がすんじゃねぇ!!」

 

炎帝の怒号が響く。

リザードンが猛然と後を追い、雷光もまた、突き動かされるようにその光景を追いかけた。

平和の象徴であるはずの街が、今、戦場に変わろうとしていた。

 

ファイヤーが街の上空に到達した瞬間、夜の闇は終わりを告げた。

神鳥の視線の先にあるのは、街の中心にそびえ立つ巨大な電波塔。

それは人類が情報を操り、世界を繋ぐために築き上げた「智」の結晶だ。

 

ファイヤーの咆哮と共に、極大の火炎放射が放たれた。

紅蓮の奔流が電波塔の鉄骨を瞬時に赤熱させ、飴細工のように歪めていく。

凄まじい爆炎が夜空を焦がし、数トンの鋼鉄が自重に耐えきれず、

断末魔の軋みを上げて地上へと崩れ落ちた。

 

「……ッ!?下に人がいるぞ!!」

 

雷光が叫ぶ。塔の真下では、逃げ惑う群衆がパニックに陥っていた。

炎帝は冷徹な戦士の瞳を一瞬だけ揺らし、即座に指示を飛ばした。

 

「炎竜(リザードン)!!奴との戦いは後だ、あの人間どもを助けろ!!」

 

リザードンは超低空飛行へ移行し、巨大な爪で崩れゆく瓦礫を受け止め、

あるいは恐怖に立ちすくむ人々をその太い腕で抱え上げた。

直後、凄まじい轟音と共に電波塔が完全に粉砕される。

かつての街の誇りは、見るも無惨な鉄の残骸へと姿を変えた。

 

炎帝は、煤けた顔でファイヤーを睨みつけた。

 

「……伝説か何だか知らねぇが、やりすぎだ。炎竜、奴に炎のパンチをぶち込め!!」

 

リザードンが再び飛翔し、燃え盛る拳をファイヤーの顔面へと叩きつける。

しかし、神鳥は紙一重でそれをかわす。

 

「続けて大文字だ!!」

 

【挿絵表示】

 

リザードンの口から、巨大な「大」の字を象った火炎の塊が解き放たれ、

ファイヤーの胴体を直撃した。

しかし、同じ炎の属性を持つ神鳥にとって、その攻撃は致命傷には至らない。

ファイヤーは意に介さず、再びリザードンとの交戦を避け、

街の住宅街へと火炎放射を撒き散らし始めた。

 

それは「戦い」ではない。「破壊」であり、「断罪」だった。

なぜ、山奥で静かに暮らしていたはずの神鳥が、これほどの憎悪を人間に向けるのか。

その燃える瞳の奥には、人間に住処を焼かれ、

同胞を実験体にされた記憶が焼き付いているようにも見えた。

興奮し、狂乱の咆哮を上げるファイヤー。

その姿は、もはや神ではなく「復讐の魔獣」そのものだった。

 

「今だ、やれッ!!」

 

炎帝が次の一手を打とうとしたその時、上空から青白い閃光が突き刺さった。

 

バリバリバリィィィッ!!

 

ファイヤーの背中に強烈な電撃が走り、神鳥の翼が硬直する。

飛行の均衡を失ったファイヤーは、そのまま地上へと急降下し、

アスファルトを砕きながら叩きつけられた。

炎帝が驚愕して振り返ると、そこには黄金の火花を散らす相棒を連れた雷光が立っていた。

 

「……フッ。伝説の鳥型だろうが、電気に弱いのは道理だろ?」

 

雷光の言葉には、確かな実戦の重みがあった。

ピカチュウの頬からは、まだ残留思念のような電撃がバチバチと音を立てている。

しかし、これほどの電撃を浴びてもなお、ファイヤーは死んでいなかった。

地に伏しながらも、その瞳は依然として「滅ぼすべき敵」である人間を、

そして立ち向かう魔獣たちを、憎悪の炎で射抜いている。

 

周囲を見渡せば、かつての平和な街並みは見る影もない。

燃え上がる家々、泣き叫ぶ子供たち、そして武器を手に取り始めた兵士たち。

普段は人里を避け、神秘のベールに包まれていたファイヤーが起こしたこの反乱は、

もはや一過性のパニックでは済まない。

 

それは、全魔獣が人類に突きつけた「最後通牒」であり、文明の終わりを告げる狼煙であった。

 

街を包む炎は消えることなく、むしろ夜を飲み込むほどに高く、赤く、激しさを増していく。

 

「始まったんだな……。これが、俺たちの生きる時代の『正体』か」

 

雷光の呟きは、遠くで響くサイレンと、ファイヤーの再度の咆哮の中に消えた。

最初で最後の、そして最も凄惨な「叛乱戦争」。

その開戦の合図は、今、焦土となった街の空に深く刻まれたのである。




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