携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第三十話-黄金の意志-

防衛庁裏の演習場は、もはやこの世の光景ではなかった。

夜空を焼き焦がすプラズマの奔流。

伝説の雷神鳥サンダーが放つ「充電」と「高速移動」の相乗効果は、

物理法則を書き換えるほどの暴威へと膨れ上がっていた。

 

ピカチュウの悲鳴が、落雷の轟音にかき消される。

サンダーの全身から溢れ出す電力は、もはや制御不能なプラズマの衣となり、

通常時の数倍――4000万ボルトという絶望的な破壊エネルギーとなってピカチュウを襲う。

一撃掠めるだけで、岩石が蒸発し、大気が爆ぜる。

 

「ピカチュウ! こっちも『高速移動』だ!止まるな、残像の中に身を隠せ!!」

 

雷光の叫びに応じ、ピカチュウの四肢に力が宿る。

極限状態の中で引き出された爆発的な速度。

ピカチュウは黄金の線となり、迫り来る4000万ボルトの雷撃を紙一重の連続回避で受け流した。

 

「今だ、反撃!『100まんボルト』!!」

 

攻守転換。ピカチュウの全身から放たれた渾身の雷撃がサンダーへと牙を剥く。

だが、サンダーは動じない。翼を広げ、幾何学的な光の紋章――「光の壁」を展開した。

特殊なエネルギーを減衰させるその障壁により、ピカチュウの電撃は虚しく霧散し、

サンダーには決定打を与えられない。

 

ピカチュウの猛攻が止んだ瞬間、戦場に奇妙な静寂が訪れた。

サンダーが攻撃の手を休め、空中でゆったりと羽ばたきながら、

冷酷な眼光でこちらを見下ろしている。

 

「(……どうした? 何を待っているんだ?)」

 

雷光の脳裏に、拭いきれない違和感が走る。

これまでの狂暴な行動パターンとは明らかに違う、計算された「待ち」の姿勢。

 

だが、ここで引くわけにはいかない。雷光は迷いを振り払い、再び指示を飛ばした。

 

「ピカチュウ、もう一度『100まんボルト』だ!!」

 

ピカチュウの電撃がサンダーを直撃しようとした、その刹那。

サンダーが再び「充電」の構えを取った。

 

「なっ……まさか!?」

 

雷光が気づいた時には遅かった。サンダーは自らの発電に加え、

ピカチュウが放った100万ボルトのエネルギーをも自らの体に吸い込み、

限界を超えたチャージを完了させたのだ。

 

サンダーの全身が、直視できないほどの白銀の光に包まれる。

奴の狙いは、ピカチュウの攻撃をあえて誘い、自らの「最大出力」の糧にすることだった。

 

「ボルテッカー」!!

 

5000万ボルト。

神の怒りを体現したかのような超高圧電流を纏い、

サンダーは黄金の流星となってピカチュウへ肉薄した。

回避不能の超加速。激突の瞬間、演習場全体が真っ白な閃光に包まれ、

爆風が雷光を吹き飛ばした。

 

「ピカチュウ――ッ!!」

 

煙が晴れた地面に、ピカチュウが横たわっていた。

全身の毛は焦げ、四肢は力なく投げ出されている。

雷光が必死に呼びかけるが、ピカチュウはピクリとも動かない。

戦闘不能――いや、それ以上の致命的なダメージを受けていることは明白だった。

 

だが、サンダーの残酷さは底知れなかった。

動かなくなったピカチュウを見下ろし、

嘲笑うかのように再び天から巨大な稲妻を自らに落とす。

再度の「充電」。

そして奴の狙いは、愛する相棒を失い呆然と立ち尽くす雷光へと向けられた。

 

ふたたび発動される、死の突進。

サンダーの超スピードを前に、雷光は一歩も動けない。

死の予感が背筋を凍らせたその時――。

 

地を這うような呻きと共に、倒れていたピカチュウが弾かれたように立ち上がった。

その瞳には、主を守るという唯一無二の執念だけが燃えている。

ピカチュウはボロボロの体でサンダーの進路へ飛び込むと、

すれ違いざまに奴の体に抱きついた。

 

「ピカチュウ、何をするつもりだ!?」

 

ピカチュウは、自らの体内に残された全ての電力を逆流させ、

天と地、そして自分とサンダーを一本の導線で繋ぎ合わせた。

 

「雷」!!

 

「ピカチュウ────────────!!!」

 

雷光の悲鳴を飲み込むように、

夜空から文字通り「天の柱」のような極太の稲妻が降り注いだ。

自分自身をも標的にした、禁断の相打ち。

凄まじい放電の後、広場には静寂が戻った。ピカチュウは全ての力を使い果たし、

灰色の煙を上げながら力なく地面に崩れ落ちた。

サンダーもまた、初めて膝を突き、荒い息を吐きながらよろめいている。

伝説の神鳥に、確かなダメージが刻まれた。

 

「ピカチュウ……嘘だろ……」

 

雷光は駆け寄り、小さな体を抱きかかえた。

冷たくなっていくその体。心臓の鼓動が聞こえない。

人工呼吸を施し、必死に名前を叫ぶが、相棒の瞳に光が戻ることはなかった。

 

「……あ」

 

雷光は、自分のポケットの中にあった「あるもの」の存在を思い出した。

震える手で取り出したのは、かつて旅の途中でピカチュウが気に入り、おもちゃのように大切にしていた『雷の石』。

 

「頼む……ピカチュウ。お前との旅を、ここで終わらせたくないんだ……!」

 

雷光がその石を、ピカチュウの冷えた胸元に優しく当てた。

その瞬間。

石から溢れ出した眩い光がピカチュウを包み込み、夜の闇を黄金色に塗りつぶした。

ピカチュウのシルエットが、一回り大きく、逞しく変化していく。

耳は長く尖り、尻尾は雷電を模した鋭い形状へ。

 

光が収まった時、そこに立っていたのはライチュウだった。

 

進化したことによって全身の細胞が活性化し、停止していた心臓が力強く鼓動を再開する。

ライチュウは力強く立ち上がると、長い尻尾を地面に叩きつけて放電した。

その眼光は、先ほどまでの「守るための戦い」から、

「敵を屠るための戦い」へと昇華されている。

 

【挿絵表示】

 

「……ライチュウ」

 

雷光がその名を呼ぶ。ライチュウは一度だけ、頼もしく雷光を振り返って頷くと、

再び跪いているサンダーへと向き直った。

 

伝説の神鳥vs進化した雷獣。

真の第ニ回戦が、今、幕を開ける――。

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