神の鳥たちが墜ちた代償は、あまりにも大きかった。
世界の調和を司っていた「炎」「氷」「雷」の均衡が崩れた瞬間、
地球の気象システムは断末魔のような悲鳴を上げた。
常夏の島々に凍てつく猛吹雪が吹き荒れ、
万年雪に覆われた極寒の地は一転して陽炎の立つ猛暑に包まれる。
だが、それは序曲に過ぎなかった。
地の神、海の神、そして空の神。
古の伝説が現代の空気に触れた瞬間、
世界各地の火山が一斉に火柱を上げ、大陸を飲み込む巨大な津波と、
都市を薙ぎ払う超大型の台風が地球全土を蹂躙し始めた。
都市部では、暴走する魔獣たちの殺戮を食い止めるべく、
警察の機動隊や特殊部隊(SAT)が投入されていた。
ヘリの爆音とサイレンが交錯する中、
装甲車から飛び出した隊員たちの前に、鋼鉄の巨躯を持つボスゴドラが立ちはだかる。
「撃て!動きを止めろ!」
隊長の怒号と共に、サブマシンガンの銃撃が開始される。
しかし、硬度を極めた鋼鉄の体に対し、通常の弾丸は火花を散らして跳ね返されるのみ。
ボスゴドラは微動だにせず、その眼光に冷酷な殺意を宿した。
反撃の「メタルクロー」が空を切り裂く。
重戦車のような一撃を受けた隊員は、
防弾チョッキごと肉体を寸断され、アスファルトに沈んだ。
「ただ撃つだけでは通じない!足を、関節を狙え!」
隊長の指示で、銃口がボスゴドラの脚部へと集中する。
急所である足の指を撃ち抜かれた巨獣が、地響きを立てて膝を突いた。
だが、安堵したのも束の間。影の中から浮遊する幽霊、ジュペッタが現れた。
放たれた「シャドーボール」が隊員の列で炸裂し、人体を木の葉のように吹き飛ばす。
グレネードランチャーの榴弾さえも、実体のない幽霊は嘲笑うようにすり抜けていく。
さらに、倒したはずのボスゴドラが再び立ち上がった。
その殺意は脚の痛みさえ超越している。奴は全身を白銀に輝かせ、「鉄壁」を発動。
文字通りの「生ける要塞」と化した突進は、ランチャーの直撃をもろともせず、
隊員たちを背後の壁ごと押し潰し、無慈悲な肉塊へと変えていった。
「……警察力だけでは、もはや抑えきれない」
血の海と化した現場を見届け、政府はついに、
最後にして最大の暴力装置――自衛隊への出動要請を下した。
防衛庁の宿舎。重厚なドアを叩く音が、雷光たちの眠りを引き裂いた。
入ってきたのは、戦闘服に身を包み、自動小銃を背負った進藤哲だった。
その表情は、昨日までのような「一人の父親」の面影は微塵もなく、
冷徹な一人の戦士へと戻っていた。
「我々も戦いに行くことになった!……君たちも、覚悟はできているな?」
「……来たか」
雷光が静かに立ち上がる。
その傍らでは、進化したばかりのライチュウが、
尻尾からバチバチと火花を散らして主に応える。
「いよいよのようね……。もう、逃げ場なんてどこにもない」
水君は母との約束を胸に刻み、固く唇を結んだ。
「か〜っ! 待ちくたびれたぜ。俺様の炎で、どいつもこいつも炭にしてやる!」
炎帝がグローブを締め直し、不敵に笑う。
四人は全速力で、喧騒に包まれた作戦本部へと走った。
そこには、陸上部隊の総指揮を執る陣内正人が、
巨大なモニター群を背に仁王立ちしていた。
雷光たちが駆け寄ると、正人は少しの間を置き、
彼らの顔を一人ずつ見据えてから、重く、峻烈な言葉を紡ぎ出した。
「……我々はこれから、魔獣たちとの本格的な戦争に行く。
死ぬかもしれない。あるいは、信じてきた魔獣を殺すことになるかもしれない……。
その覚悟、ここで改めて問う。準備はいいか?」
「「「はい!!」」」
三人の迷いのない声が部屋に響く。
正人は短く頷くと、それぞれの配属先を告げた。
「よし。黄崎雷光君は航空自衛隊の部隊に入り、
『尾崎大悟(おざき だいご)』二等空佐の指示を受けてくれ。
伝説の空の神への対策には、君の判断力が必要だ」
「次に赤谷炎帝君。君は我々陸上自衛隊、進藤哲二佐の部隊に入ってもらう。
最前線の突破口を切り開く火力が欲しい」
「最後に青川水君さん。君は海上自衛隊の戦艦に乗り、
『山村晴香(やまむら はるか)』二等海佐の指示に従うこと。
海の脅威から防衛線を死守してくれ!」
「「「了解!!」」」
正人は、これから地獄へ向かう子供たちへ、
最後の手向けとして声を張り上げた。
「お前たちの心の中には、命を懸けても護らなければならないものがあるはずだ!
辛いとき、怖いときこそ逃げるな! 戦え! 勝利して、必ず生きて戻れ!!」
「「「ハッ!!」」」
本部内にいた全自衛官の声が、地鳴りのように唱和する。
自分たちの愛するもの、大切な約束を護るため。
人間と魔獣、かつての友が敵と味方に分かれる血みどろの激戦。
人類の存亡を懸けた『携帯魔獣叛乱戦争』の戦いの火蓋は、今切られた。