携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第三十五話-分かたれた宿命-

防衛庁のコンクリートの巨躯を、夜明けの冷たい風が吹き抜けていく。

長らく共に旅を続けてきた雷光、炎帝、水君の三人にとって、

それはかつて経験したことのない「お別れ」の儀式でもあった。

昨日まで隣で笑い、共に野宿をし、同じ釜の飯を食ってきた仲間。

だが今、彼らはそれぞれ「空」「陸」「海」という異なる戦場へと身を投じようとしている。

 

「雷光、昨日の激戦の疲れはもう残ってねーだろうな?」

 

炎帝が、いつになく真剣な、それでいてどこか励ますような声音で尋ねた。

 

「ああ、一日泥のように眠ったらスッキリしたよ。

ライチュウも、進化したてのエネルギーが体に馴染んできたみたいだ。水君こそ、大丈夫か?」

「私も……準備はできてる。でも、二人とも……絶対、生きて帰ってきてね。

もし、貴方たちに何かあったら私……」

 

水君が俯き、震える指先を隠すように握りしめる。

そんな彼女の頭を、炎帝がガシガシと乱暴に、だが温かく撫で回した。

 

「でぇじょぶだっての!

俺様と雷光は、こんなところでくたばるほどヤワじゃねーよ。なあ、雷光!」

「ああ。まだ水君には、あの時の借りを返してないからな。俺たち三人、必ず生き残るぞ」

 

三人は固く拳を握り、そして力強く握手を交わした。それは言葉を超えた、再会の誓い。

 

それぞれが背を向け、待機するヘリ、装甲車、

そして港へと続く車へと分かれて歩き出した。

 

「茂パイセン、それ……」

 

陸上自衛隊の輸送車の中、炎帝は隣に座る永瀬茂一等陸曹の腰元に目を留めた。

機能的なタクティカルベルトに装着されているのは、見慣れた、

しかしどこか無機質な輝きを放つモンスターボールだった。

 

「ん? ああ、これか。驚いたか?

自衛官は全員、一定以上の魔獣運用訓練を受けているんだよ」

 

茂が事も無げに答える。

 

自衛隊にとって、魔獣は単なる「生き物」ではなく、戦車や火砲と並ぶ、

あるいはそれ以上の「生体兵器」として組み込まれていた。

特に銃弾の通用しない特殊な皮膜を持つ魔獣や、

電子機器を狂わせる相手に対して、魔獣の力は必要不可欠なのだ。

 

「俺の相棒は……ま、戦場で拝ませてやるよ」

 

茂が不敵に笑う。炎帝はその横顔に、昨夜までの悲壮感とは異なる、

プロフェッショナルな戦士の矜持を見た。

 

一方、潮騒の香る港湾地区。

水君は尾崎二等空佐の紹介で、海上自衛隊の二等海佐、山村晴香の元へと案内されていた。

眼前に鎮座するのは、最新鋭のイージスシステムを搭載し、

魔獣戦用に特化した重武装戦艦『武龍(ぶりゅう)』。

 

「水ちゃ〜ん!実はこの武龍の艦長は僕なんだよぉ〜。いいでしょ、カッコいいでしょ♪」

「あ……はい、宜しくお願いします……は、晴香さん」

 

水君は、目の前のハイテンションな女性士官に圧倒されていた。

 

「(……なんだか、炎帝に少し似てる気がする。この、嵐が来ても笑ってそうな感じ……)」

 

晴香は笑顔で水君の頭を撫でると、艦長帽をグイッと深く被り直し、

鋭い眼光を水平線の彼方へと向けた。

 

「いい、水ちゃん。海は魔獣たちの独壇場。水型や氷型の魔獣が、

深海から牙を剥いてくる。……女の子同士、背中を預け合って生き残ろうね!」

 

水君は甲板に出て、空を仰いだ。

重く垂れ込めた雲が太陽を覆い隠し、海面は不気味な鉛色に変色している。

嵐の予感が、肌を刺した。

 

雷光は、航空自衛隊の尾崎大悟二等空佐と共に、

最新鋭の攻撃ヘリ『翼竜』のコクピットにいた。

 

「大悟さん。……あの、僕、戦闘機の操縦なんてできませんよ?」

 

不安げな雷光に、大悟は豪快に笑いながらヘッドセットを調整した。

 

「ハハハ。まさか、そんな無茶はさせないよ。雷光君には、この僕が操縦する『翼竜』の

後部座席で、戦域全体の指揮と魔獣による援護を頼みたいんだ」

 

大悟は一枚の特殊な無線機を雷光に手渡した。

 

「雷光君、飛行型の魔獣は持っているかい?持っているなら、これを使え

この無線機は魔獣の脳波とリンクして、騒音の中でも君の指示を正確に伝える特注品だ」

「はい……飛行型なら、ピジョットがいます。借りますね、大悟さん」

 

雷光は無線機を握りしめた。眼下には、防衛庁の巨大な要塞が小さくなっていく。

 

その頃、防衛庁の本で作戦本部。

陣内正人は、国外から刻一刻と届く衛星データを見つめ、

その表情を氷のように硬くさせていた。

 

「……何だと。もう一度言え」

「はっ! 国外の大都市を壊滅させた地、海、空の全巨大魔獣……

レックウザ、グラードン、カイオーガの三体が、それぞれ進路を変更。

……現在、凄まじい速度で我が国、この本州へと向かっています!」

 

正人の拳が、地図を広げたテーブルを激しく叩いた。

サンダー、ファイヤー、フリーザーの三鳥は、いわば「前座」に過ぎなかったのだ。

 

地球の重力を歪めるほどの質量を持つ地の神。

全ての海を飲み込もうとする海の神。

そして、それら全てを空から断罪する空の神。

 

「……全ての準備を整えろ。これはもはや、局地戦ではない」

 

正人の低い声が、緊迫した本部内に響き渡る。

 

「人類の存亡を懸けた、最後の審判(ラスト・ジャッジメント)だ……!」

 

地上では戦車隊がエンジンを唸らせ、海では『武龍』が波を割り、空では『翼竜』が風を切る。

人類と魔獣。守るべき者のために武器を交える時が、ついにやってきた。

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