携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第三十六話-閃く爪と凶刃-

進藤哲二等陸佐が率いる陸上自衛隊・第1普通科連隊、

および赤谷炎帝を擁する特別遊撃部隊が戦地に到着した時、

そこはすでに「地獄の入り口」と化していた。

 

標高の高い火山帯へと続くその荒地は、荒廃した岩石が不規則に転がり、

至る所から硫黄の混じった地熱の蒸気が噴き出している。

視界の先――地平線を埋め尽くすのは、

砂塵を巻き上げてこちらへ殺到する数百、数千の魔獣の群れだった。

そして彼らの背後、わずか数キロ先には、

避難が間に合っていない庶民の居住区が広がっている。

 

「ここが、人類の絶対防衛ラインだ。

一歩でも引けば、後ろの街は文字通り食い尽くされるぞ!」

 

哲の鋭い声が、エンジンのアイドリング音を切り裂いて響く。

隊員たちは岩陰に身を隠し、あるいは簡易的な土嚢を築いて陣地を固めた。

炎帝は輸送車のステップから飛び降りると、

腰のベルトから一個のモンスターボールをもぎ取った。

 

「いきなりリザードンを出すまでもねぇ。……いけぇ! ザングース!」

 

閃光と共に現れたのは、白い毛並みに鮮烈な赤い稲妻模様を刻んだザングースだった。

鋭利な爪をシャキリと鳴らし、野性味溢れる唸り声を上げる。

炎帝はあえてリザードンを温存し、まずは白兵戦で敵の先陣を叩く構えだ。

 

哲と茂、そして数百人の隊員たちが自動小銃(89式小銃)を構え、

迫りくる魔獣の波に照準を合わせた。

地響きが近づく。咆哮が空気を震わせる。

 

「……引き付けろ。無駄撃ちはするな」

 

哲が冷徹にカウントを刻む。

 

50秒……40秒……30秒……。

魔獣たちの剥き出しの牙、狂乱した瞳が肉眼ではっきりと捉えられる距離まで迫る。

20秒……15秒。

 

「撃て!!」

 

哲の咆哮と同時に、数百の銃口が火を噴いた。

「ダダダダダッ!!」

一斉掃射。弾丸の雨が先頭集団の魔獣たちに突き刺さり、肉を裂き、骨を砕く。

先制攻撃を受けた魔獣たちが次々と倒れ、後続がそれに躓いて転倒する。

 

しかし、その弾幕を潜り抜ける「強者」たちがいた。

 

「……チッ、速いな!」

 

茂が毒づく。銃弾の軌道を読み、

岩から岩へと跳躍しながら肉薄してくる影――災厄を告げる獣、アブソルだ。

アブソルは頭部の鋭い鎌のような角を振り翳し、

空気を切り裂くような速度で炎帝へと躍りかかった。

 

「ザングース! こっちも『きりさく』で迎え撃て!」

 

ザングースの鋼のような爪と、アブソルの白銀の刃が正面から激突した。

火花が散り、金属音に近い衝撃音が荒野に響き渡る。

両者は互いに一歩も退かず、至近距離で睨み合ったまま力を込め合う。

足元の岩が、その圧力に耐えかねて砕けた。

 

「……ッ、睨み付けてやがる!」

 

アブソルの瞳に不気味な光が宿る。「睨みつける」による威圧感。

一瞬、ザングースの防御に微かな揺らぎが生じた。

その隙を逃さず、アブソルが力任せにザングースを弾き飛ばす。

 

「立ち直れ!くるぞ!」

 

炎帝の叫び。

アブソルは空中で角を振り抜き、真空の刃を飛び道具として放ってきた。

ザングースは咄嗟に真上へと跳躍し、これを回避。だがアブソルは攻撃の手を緩めない。

着地と同時に口腔内に闇のエネルギーを収束させ、「シャドーボール」を発射した。

 

空中で逃げ場のないザングースに闇の弾丸が直撃する。

地面に叩きつけられ、土煙が舞う。

 

「ザングース!」

 

だが、ザングースは炎帝の呼びかけに即座に応えた。

煙を割り、バネのような脚力で立ち上がると、今度は自らが閃光となる。

「でんこうせっか」!

アブソルの懐に飛び込み、その衝撃を叩き込む。

ひるんだ敵に対し、ザングースの左右の爪が乱舞する。「連続斬り」。

一撃ごとに威力が増す鋭い斬撃が、アブソルの毛並みを切り裂いていった。

 

一方、哲と茂もまた、銃弾を避けて懐に潜り込んできた魔獣たちと、

泥臭い至近距離戦闘(CQC)を繰り広げていた。

 

頭上からは、巨大な蜂の魔獣スピアーが高速で飛来する。

「死ねぇッ!」

哲はスピアーの放つ「ダブルニードル」を、首を傾けて紙一重でかわした。

頬を風圧がかすめる。彼は地面を転がって回避すると、

スピアーの旋回速度が落ちる一瞬の隙を突き、背後から至近距離で銃口を向けた。

 

「……お返しだ」

 

連射された銃弾がスピアーの翅と外骨格を粉砕し、空中の怪物を地面へと叩き伏せる。

 

隣では茂が、岩のように強靭な肉体を持つゴーリキーと対峙していた。

ゴーリキーの丸太のような腕から繰り出される連続パンチ。

茂は咄嗟に愛銃を盾にし、金属製の銃床でその打撃を受け止める。

強烈な衝撃が腕を痺れさせるが、茂は冷静だった。

打撃の合間を縫ってゴーリキーの懐に蹴りを叩き込み、わずかな距離を作る。

 

「筋肉ダルマが……銃火器の味を教えてやるよ!」

 

防御が間に合わないゼロ距離からの掃射。

ゴーリキーの胸部に弾丸が吸い込まれ、巨体が力なく崩れ落ちた。

 

炎帝の戦場では、ザングースとアブソルの「剣劇」が最終局面を迎えていた。

アブソルが突如、その姿を幾多にも分身させる。「影分身」だ。

岩陰、蒸気の向こう側、あらゆる方向からアブソルの殺気が放たれる。

 

「……攪乱する気か?甘いぜ。ザングース、動くな!

今のうちに『剣の舞』で極限まで攻撃力を高めろ!」

 

ザングースは目を閉じ、意識を集中させる。

その周囲で爪が円を描くように舞い、闘気が物理的な圧力となって渦巻いた。

そして――ザングースの背後、岩の影から本物のアブソルが「切り裂く」攻撃で突っ込んできた。

 

「そこだッ!!」

 

ザングースは振り向きざま、舞いによって研ぎ澄まされた右爪を振り下ろした。

剣舞の効果により、ザングースの打撃力はアブソルのそれを遥かに凌駕していた。

アブソルの角を正面から叩き伏せ、その体勢を大きく崩させる。

 

アブソルは後退しながら、最後の足掻きとして零距離から「シャドーボール」を放つ。

だが、ザングースの爪はその闇の弾丸さえも真っ二つに切り裂き、

逆にその爆発をアブソルの方へと押し返した。

至近距離で自らの技の爆発を浴びたアブソルは、

悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ、岩壁に激突して動かなくなった。

 

「ふぅ……。まずは一匹か」

 

炎帝は、肩で息をするザングースの隣に立ち、再び地平線を睨み据えた。

煙の向こう側から、さらなる咆哮が、さらに巨大な影がこちらへ向かってきている。

 

「さあ、次はどいつだ!俺様たちが相手してやるぜ!!」

 

人類と魔獣の生き残りを懸けた「叛乱戦争」。

その第一陣を退けた炎帝たちの闘志は、火山の熱気をも凌ぐほどに燃え上がっていた。

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