携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第三十七話-海戦の人魚姫-

青川水君が乗艦してから十五分後。

横須賀の軍港を震わせる咆哮と共に、

海上自衛隊が総力を挙げて建造した超弩級戦艦『武龍』が、その錨を上げた。

 

全長300m、全幅50m。かつての旧日本海軍が誇った「大和」を凌駕するその巨体は、

海に浮かぶ鋼鉄の城塞そのものである。

50,000馬力のガスタービンエンジンが唸りを上げ、

公試速度60ノットという巨体に似合わぬ超高速で波を切り裂く。

艦体に装備された艦対空ミサイル、対潜ロケットランチャー、

そして喫水線下に潜む六連装魚雷発射管――。

それは、人類が魔獣という「天災」に抗うために作り上げた、

地上最強の決戦兵器であった。

 

「面舵いっぱ〜い!なぁ〜んてね、一度言ってみたかったんだよね♪」

「か、艦長……。お願いですから、もう少し緊張感を持ってください……」

 

ブリッジの喧騒の中、水君は冷や汗を流しながら、

指揮官席で足をぶらつかせている山村晴香を見つめた。

晴香は、武龍を旗艦とする全海上艦隊を統べる若きエリート。

その天真爛漫な振る舞いからは想像もつかないが、

彼女の脳内には数手先までの戦術シミュレーションが完璧に構築されている。

晴香はふと表情を引き締め、水君の瞳をまっすぐに見つめた。

 

「安心していいよ。……誰一人、死なせないから」

 

「前方、視界内に敵影多数!数、優に千を超えています!!」

 

見張員の悲鳴のような報告が響く。

レーダーには、海面を埋め尽くす無数の光点が、

凄まじい速度でこちらへ接近してくるのが映し出されていた。

水上を泳ぎ、牙を剥くオーダイルの群れ。

空を覆い尽くし、冷気を振りまくトドゼルガやパルシェン。

そして、海中から音もなく迫るシザリガーやサメハダー。

 

艦隊と魔獣の距離が、限界線(デッドライン)を越える。

晴香の手が、鮮やかに指揮官用パネルを叩いた。

 

「全艦!!攻撃開始!!」

 

その瞬間、大艦隊の主砲が一斉に火を噴いた。

空気を震わせる衝撃波。発射された数百の砲弾が海面に着弾し、

巨大な水柱と共に魔獣たちを肉片へと変えていく。

しかし、海を故郷とする彼らもまた、容赦のない反撃を開始した。

海面から放たれる無数の「バブル光線」が艦橋を叩き、

「冷凍光線」が甲板を凍りつかせる。

 

「対空戦闘!艦対空ミサイル、発射!」

 

晴香の指示で、武龍の甲板から垂直離脱ミサイルが次々と吸い込まれるように空へ昇っていく。

上空の飛行魔獣たちは器用にそれを回避しようとするが、最新鋭の誘導装置は逃がさない。

雲間を縫うような追跡の末、ミサイルが直撃。空中爆発の火花が、暗い海を赤く染め上げた。

 

晴香は素早く通信パネルを切り替えた。

 

「『軍龍(ぐんりゅう)』! そっちの戦況はどう?」

『こちら軍龍! 間もなく怪物たちの中心部と衝突するわよ!』

 

スピーカーから響くのは、凛とした女性の声。

晴香の同期であり、日本最高峰の攻撃型潜水艦『軍龍』を操る艦長、浪花(なにわ)だ。

 

「十分引き付けてね!敵の機動力からして、十秒前が適切なはずだよ!」

『了解! 助言サンキュー、晴香!』

 

海中でのカウントダウンが始まる。50秒……30秒……20秒……。

15秒を切った瞬間、海中深く潜む『軍龍』とその随伴潜水艦隊が、

一斉にその魚雷発射管を開放した。

それと呼応するように、海上の『武龍』からも六連装魚雷が射出される。

無数の雷撃が海中を走り、魔獣たちのど真ん中で爆ぜた。

海面には、爆風によって押し上げられた巨大な水飛沫が山のように立ち上がり、

深海から魔獣たちの断末魔が泡となって浮き上がってくる。

 

しかし、敵の数は圧倒的だった。

主砲の隙を突き、小型の魔獣たちが他戦艦の舷側に張り付こうとする。

それを見た水君は、晴香の元を離れ、波飛沫のかかる甲板へと駆け出した。

 

「晴香さん、私も行く!」

 

水君は腰のベルトからモンスターボールを抜き取ると、

荒れ狂う海へ向けて力一杯投げつけた。

 

「出てきて、カメックス!!」

 

眩い光と共に現れたのは、

戦艦の主砲にも引けを取らない巨大な二門の砲身を背負った、水君の相棒だった。

カメックスは重厚な足取りで甲板の縁に立つと、海へ向けてその膨大なエネルギーを解放した。

 

「カメックス!『波乗り』よ!!」

 

カメックスが咆哮すると、穏やかだった海が突如として逆立った。

そのパワー、まさに天災級。

高さ50mを超える巨大な津波が、武龍の周囲にそびえ立つ。

カメックスはその荒れ狂う波の天辺に飛び乗ると、サーフィンのように波を操りながら、

迫りくる魔獣の軍勢へと正面から激突した。

 

轟音と共に押し寄せる水の壁。

前方から突っ込んできた何百という魔獣たちが、カメックスの起こした津波に飲み込まれ、

なす術もなく後方へと押し流されていく。重戦車のようなカメックスの体当たりが、

海域の包囲網を力任せにぶち破った。

 

波の頂点で、水君は凛とした表情で水平線を見据えた。

その瞳には、かつての迷いはない。母と約束した「生還」のために、彼女は戦う。

 

「貴方たちは、ここから先……一歩も通さない」

 

人類の英知を集結させた鋼鉄の城と、心を通わせた魔獣の力。

蒼き海を舞台にした「叛乱戦争」は、水君の放った一撃によって、

さらなる激化の局面へと突入した。

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