携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第三十九話-美しき処刑者-

海戦の火蓋が切られてから三十分。

紺碧の戦域は、硝煙と水飛沫、

そして魔獣たちの断末魔が交錯する混沌の坩堝と化していた。

 

旗艦『武龍』の艦橋では、山村晴香が神懸かり的な指揮を執り続けていた。

VLS(垂直発射システム)から放たれる艦対空ミサイルが空を焼き、

アスロック(対潜ロケット)が海中の影を粉砕する。

六連装魚雷の連続投下は、接近を試みる魔獣の群れを確実に間引いていた。

 

「右舷、火砲斉射! 寄せ付けるな、一匹たりともだ!」

 

晴香の号令に合わせ、鋼鉄の巨艦が咆哮を上げる。

その戦況は、客観的に見れば人間側の圧倒的優位。

このまま『武龍』の火力が持続すれば、勝利は揺るぎないものと思われた。

 

しかし、その「勝利」の予感に冷水を浴びせる影が、海面を滑るように近づいていた。

波濤を蹴立て、カメックスと共に前線を維持していた水君の前に、一筋の虹色の光が走った。

 

「……っ、あれは!」

 

水面に姿を現したのは、魔獣の中でも「最も美しい」と謳われるミロカロス。

だが、その優美な外見に惑わされた者は、例外なく海の藻屑となる。

 

ミロカロスがその長い首をもたげ、「水の波動」を放出した。

超音波を含んだ水の衝撃波が、空気を震わせて迫る。

 

【挿絵表示】

 

「カメックス、『水鉄砲』で相殺して!」

 

カメックスの背中の砲身から圧縮水流が放たれるが、ミロカロスの出力がそれを上回った。

激突した水流を力任せに弾き飛ばし、衝撃波がカメックスの眉間にクリーンヒットする。

 

「カメックス、大丈夫!?」

 

水君の呼びかけに、カメックスは咆哮で応えようとするが……その様子がおかしい。

眼の焦点が合わず、巨体が左右にふらつく。

 

「混乱……!?しまった!」

 

「水の波動」の追加効果が、カメックスの意識を混濁させたのだ。

その隙を、美しき処刑者は見逃さない。ミロカロスは蛇のような長い体をしなわせ、

電光石火の勢いでカメックスの首元へ巻き付いた。

 

強靭な締め付け。

ミロカロスはそのまま自重を利用し、カメックスを深海へと引き摺り込んだ。

海面に立ち上る大きな飛沫。水君の視界から、相棒の姿が消える。

 

「くっ……シャワーズ!カメックスを助けて!!」

 

水君が投げたボールから、水色の流線型を持つシャワーズが飛び出し、

そのまま迷いなく海中へとダイブした。

 

暗く冷たい海中。そこでは、ミロカロスが動けないカメックスに対し、

トドメの「破壊光線」を放とうと、その口腔内に黄金の光を収束させていた。

その刹那、シャワーズが放った「バブル光線」の乱舞が、ミロカロスの顔面を直撃する。

弾ける泡の衝撃にミロカロスの狙いが逸れ、破壊光線は虚しく深海へと消えた。

同時にカメックスが正気を取り戻す。怒りに燃えるカメックスはその豪腕を伸ばし、

ミロカロスの滑らかな体を力任せに掴み上げると、一気に海面上へと放り投げた。

 

「今よ! 至近距離から『冷凍光線』!!」

 

海上に飛び出したミロカロスへ、カメックスの冷気放射が直撃する。

海水が瞬時に凍りつき、ミロカロスの美しい鱗を氷の結晶が覆った。

 

「やった……?」

 

水君が息を呑む。

だが、煙のような冷気の向こう側、ミロカロスの瞳は依然として冷静だった。

奴の全身が淡い光に包まれる。「自己再生」。

みるみるうちに氷が溶け、傷跡が塞がっていく。カメックス渾身の一撃は、

瞬時に無効化されてしまった。

 

「嘘……ダメージがほとんど残ってないなんて」

「休む暇はないわよ、カメックス!『波乗り』!」

 

カメックスが再び巨大な津波を引き起こし、ミロカロスを飲み込もうとする。

しかし、ミロカロスは荒れ狂う波の斜面を「滝登り」で逆走し、

波の頂点にいるカメックスへ肉薄。再び「水の波動」を至近距離で叩き込む。

落下するカメックス。そこへミロカロスの「締め付ける」が襲いかかるが、

カメックスは甲羅に閉じこもり、「高速スピン」でその拘束を振り払った。

 

だが、着水した瞬間、上空から巨大な影が降ってきた。

ミロカロスの巨体による「のしかかり」。

連続攻撃を避けきれず、カメックスの甲羅に凄まじい質量がのし掛かる。

 

「カメックス!!」

 

幸い、自慢の甲羅が致命傷を防いだが、代償は大きかった。

ミロカロスの体重と魔力によって、カメックスの全身に電撃のような火花が走る。

麻痺状態。カメックスの動きが、目に見えて鈍くなった。

 

「シャワーズ、『オーロラビーム』で援護して!」

シャワーズが虹色の光線を放つが、ミロカロスはそれを優雅に「水の波動」で跳ね返した。

さらに絶望は続く。反撃を試みようとしたカメックスの砲身が、

突如として放たれた別の冷気によって凍結した。

 

「……ッ!?何処から!」

 

カメックスの背後に、流氷のような巨体が浮上していた。北海の王、トドゼルガ。

トドゼルガは猛烈な咆哮を上げ、カメックスの後頭部へ向けて「冷凍光線」を連射する。

カメックスは咄嗟に甲羅に籠もって耐えるが、麻痺による硬直で身動きが取れない。

 

「トドゼルガに『ハイドロポンプ』!!」

シャワーズが全力の激流を放ち、トドゼルガを押し戻す。

しかし、その背後を突いたミロカロスの「水の波動」がシャワーズを捉えた。

混乱するシャワーズ。そこへトドゼルガの無慈悲な「冷凍光線」が炸裂する。

 

「シャワーズ!!」

 

冷気の塊に閉じ込められ、シャワーズはそのまま戦闘不能へと追い込まれた。

水君は震える手でシャワーズをボールに戻し、

残された唯一の戦力――麻痺に苦しむカメックスを見つめた。

 

眼前には、再生能力を持つ美しき水鬼・ミロカロス。

そして、鉄壁の防御と火力を誇る北海の王・トドゼルガ。

一対二。戦況は絶望的。カメックスの体力も限界に近い。

 

「……やるしかないのね。カメックス、あれを出すわよ」

 

水君の脳裏に、これまでの厳しい特訓の記憶が走る。

それは、自らの全エネルギーを放出し、周囲を更地にするカメックスの『最強技』。

 

「だが、それを放つタイミングを間違えたら……私の負けだ」

 

水君は唇を噛み締め、カメックスと視線を交わした。麻痺に震えながらも、

相棒の眼には未だ不屈の闘志が宿っている。

勝利への細い糸を掴むため、水君は嵐のような海の中で、静かにその「時」を待ち始めた。




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