携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第四話-共鳴の双星-

燃え上がる街の廃墟、その中央で二人の男が対峙していた。

片や、古びた旅装束に身を包み、鋭い静寂を纏う黄崎雷光。

片や、燃えるような赤髪を逆立て、闘争の本能を剥き出しにする赤谷炎帝。

 

「お前……」

 

炎帝が低く唸るような声を漏らした。

その細められた眼光は、闖入者である雷光を値踏みするように射抜いている。

敵か、味方か。一触即発の火花が二人の間に散った。

だが、その視線が絡み合う時間は長くは続かない。

 

「来るぞ!!」

 

雷光の短く、切迫した警告が響く。

炎帝が反射的に上空を見上げると、そこには深手を負いながらもなお、

凄まじい圧を放つ神鳥の姿があった。

墜落の衝撃で翼の一部は煤け、羽は乱れている。

だが、ファイヤーの瞳に宿る憎悪の火は消えるどころか、さらに苛烈な輝きを増していた。

 

「……チッ。伝説ってのは、これほどしぶといのかよ」

 

炎帝が吐き捨てる。

彼の隣には、呼吸を荒くしながらも戦闘態勢を解かないリザードンの巨躯。

雷光は一瞬で戦況を俯瞰し、隣の男に視線を投げた。

 

「お前が誰かは、奴を倒した後に知ることになるだろう。

だが、今は共同戦線といこうぜ」

 

雷光の言葉は冷徹だが、確かな信頼を求めていた。

炎帝は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに不敵な笑みを浮かべて頷いた。

 

「面白い。乗ってやるぜ!!」

 

二人の意志が、言葉を超えて共鳴する。

 

「ピカチュウ、リザードンの背へ!」

 

雷光の指示に、黄金の小獣がしなやかな跳躍で応えた。

リザードンの太い首筋、橙色の背中へとピカチュウが飛び乗る。

地上の機動力と、天空の破壊力。二つの異質な力が一つに重なり、

リザードンは猛然と地を蹴って、ファイヤーが待ち構える成層圏の淵へと舞い上がった。

 

漆黒の空。眼下には火の海と化した街。

三体の魔獣が空中の一点で静止し、互いの殺意を凝縮させる。

ファイヤーは、人間を背に乗せた同胞への侮蔑を込めて咆哮し、

リザードンとピカチュウは、その威圧を真っ向から睨み返した。

 

「今だ!! ピカチュウ、100万ボルト!!」

「リザードン、火炎放射だ!!」

 

刹那、夜空を真っ二つに裂く合体技が放たれた。

リザードンの口腔から放たれた極太の螺旋火炎に、

ピカチュウの全身から解放された青白い超高圧電流が巻き付く。

炎の熱が電撃を加速させ、電撃の熱が炎を白熱化させる。

これこそが、二人の魔獣使いがぶつけた、

理屈を超えた答え――「ライトニング・ファイヤー」。

 

対するファイヤーもまた、神鳥としての矜持を賭け、

全身の毛穴から白い炎を噴出させた。

 

「オーバーヒート」。

 

自らの生命力を削り、一撃に全てを賭ける禁断の咆哮。

 

ドォォォォォォン!!

空中で、二つの巨大なエネルギーの塊が激突した。

その衝撃波は、地上のビル群の窓ガラスをことごとく粉砕し、

周辺の火災を風圧で鎮火させるほどの威力。

どちらも譲らない。黄金の電光と紅蓮の火炎が、夜の帳を昼間のような光に染め上げる。

 

だが、極限まで圧縮されたエネルギーは、ついに臨界点を超えた。

 

カッ、と世界が白転する。

爆発。

凄まじい衝撃に弾かれ、リザードンとピカチュウは木の葉のように吹き飛ばされた。

上空には厚い爆炎の煙が充満し、視界を完全に遮断する。

地上で見守る雷光と炎帝の頬を、冷や汗が伝い落ちた。

 

「……どっちだ」

 

炎帝が拳を握りしめ、煙の向こうを凝視する。

やがて、重い煙が夜風に解け始めた。

そこに見えたのは、翼を大きく広げ、空中で毅然と羽ばたき続けるリザードンと、

その背で激しく息を切らしながらも眼光を失っていないピカチュウの姿だった。

 

そして――。

 

力及ばず。

神鳥ファイヤーは、翼の炎が消えかかり、物言わぬ肉塊となって引力に身を任せていた。

伝説の生命は爆発の衝撃に耐えきれず、絶命の沈黙と共に、暗い地上の瓦礫へと墜落していった。

 

ドスン、という重い振動が遠くで響いた。

勝利。

その事実に、炎帝はこらえきれず拳を突き上げた。

 

「見たかよ!!伝説だろうが神だろうが、俺たちの敵じゃねぇんだよ!!」

 

炎帝の咆哮が、静まり返った街に響き渡る。

リザードンも天に向かって雄叫びを上げ、勝利の余韻に浸っていた。

一方で、地上へ着陸したリザードンの背から降りたピカチュウを出迎えた

雷光は、ただ静かに相棒の頭を撫でた。

 

「……よくやった、ピカチュウ」

 

その声は低く、どこまでもクールだった。

騒ぐ炎帝を尻目に、雷光は墜落したファイヤーのいた方角を見つめる。

勝利したはずなのに、彼の心は晴れなかった。

ファイヤーがなぜこれほどまでの憎悪を持って街を襲ったのか。

そして、この一羽を倒したところで、世界中に広がる「叛乱戦争」の

火種が消えるわけではないことも分かっていた。

 

「おい、スカしてんじゃねぇよ。お前のおかげで助かったのは確かだ」

 

炎帝が歩み寄ってくる。

リザードンをボールに戻し、どこか晴れやかな顔で手を差し出してきた。

雷光はその手を見つめ、一瞬だけ躊躇した後、軽く握り返した。

 

二人の魔獣使いの邂逅。

それは、絶望へと向かうこの惑星で生まれた、唯一の希望の光かもしれない。

だが、夜空の端からは、再び不気味な暗雲が立ち込め始めていた。

ファイヤーの墜落は、平和の始まりではない。

むしろ、さらに巨大な「何か」が動き出すための、残酷な開戦の狼煙に過ぎないのだ。

 

雷光は、静かにコートの襟を立てた。

戦場となった街の火はまだ消えず、明日を拒むかのような長い夜が、再び深まり始めていた。




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