携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第四十二話-戦況一変-

火山帯の荒野に、生存者の耳を劈くような咆哮が轟いた。

砂塵の渦中から姿を現したその巨躯は、周囲で小競り合いを演じていた他の魔獣たちが、

まるで羽虫か小石であるかのように錯覚させるほどの圧倒的な威圧感を放っていた。

 

バンギラス。

 

鎧のように厚く、岩盤よりも硬い緑の鱗。

その隙間から漏れ出るのは、生物としての格の違いを見せつける、どす黒い殺意の波動だ。

バンギラスの赤黒い瞳が、すっと細められ、一点に固定された。その視線の先には、

震える足で立ち尽くす炎帝がいる。

奴は、覚えているのだ。かつて己のプライドに微かな傷をつけた、あの若造の顔を。

 

「……ッ、ハァ、ハァ……。笑えよ、化け物……。

俺様が、いつまでもビビってると思うなよ!」

 

炎帝は奥歯を噛み締め、恐怖で逆流しそうな胃液を飲み下した。

瞳に無理やり闘志の火を灯し、隣で構える相棒に叫ぶ。

 

「リベンジだ! ザングース、『電光石火』から『ブレイククロー』!!」

 

白い閃光が走った。

ザングースは主の執念を背負い、自身の限界を超えた速度で地を蹴る。

爪を白銀に輝かせ、バンギラスの剥き出しの腹部へと、

必殺の一撃を叩き込もうと跳躍した。

だが、暴君の動きは冷酷なまでに合理的だった。

バンギラスは巨体に似合わぬ俊敏さで、独楽のようにその場を一回転させた。

岩柱のような太い尻尾が、空中のザングースを真っ向から叩き伏せる。

 

悲鳴を上げる間もなく、ザングースは地面へと叩きつけられた。

衝撃で肺の空気をすべて吐き出し、動けない。

そこへ、バンギラスの顎が不気味に開かれた。

喉の奥に収束するのは、黄金の死光。

 

「破壊光線」。

 

至近距離での爆射。

凄まじい爆炎と衝撃波が荒野を薙ぎ払い、爆煙が晴れたとき、

そこにはかつての相棒の姿はなかった。

あるのは、焼け焦げた大地と、見るも無惨に散らばった赤い肉片の山だけ。

バンギラスはその肉片を太い指で無造作に掴むと、血の滴るままに口へと放り込み、

骨を噛み砕く嫌な音を立てて喰い漁り始めた。

 

「ザングース――――!!うわああああああああああ!!」

 

炎帝の絶叫が、戦場の喧騒を突き抜けて響き渡った。

 

その絶叫に、周囲の戦士たちが一斉に顔を向けた。

 

「炎帝!クソッ、なんだアイツは!」

 

装甲車の陰から自動小銃を構えていた茂が、絶望的な光景に顔を歪める。

上空を旋回していた雷光も、ピジョットの背で息を呑んだ。

 

「バンギラス……あれが、陸の王……」

 

狂ったように咆哮を上げ、次の獲物として炎帝を見据えるバンギラス。

その巨躯に向け、後方に控えていた90式戦車が火を噴いた。

 

「目標、正面の巨大個体!撃てッ!!」

 

120mm滑腔砲から放たれた徹甲弾。音速を超える一撃。

だが、バンギラスはそれを、重厚な体からは想像もつかない

反射神経でわずかに身をかわし、回避した。

着弾した背後の岩山が粉々に砕け散る。

 

標的を戦車へと切り替えたバンギラスが、地響きを立てて突進を開始した。

その足取りは、もはや歩行ではない。地滑りそのものだ。

 

「メガトンキック!!」

 

丸太のような脚が、戦車の前面装甲にめり込んだ。

金属が悲鳴を上げ、数十トンの鋼鉄の塊が、

まるでおもちゃの空き缶のように蹴り飛ばされた。

戦車は後方にいたもう一台の戦車と、

逃げ遅れた数十人の隊員たちを巻き込みながら、爆発炎上。

黒煙が空を覆い、人々の断末魔が火柱の中に消えていった。

 

「な、なんだアイツは……化け物か!?」

 

哲は、手にした銃を握り直すことさえ忘れ、呆然とその惨劇を見つめていた。

最強の盾であるはずの戦車が、物理法則を無視した暴力の前に紙屑のように散っていく。

 

「全ヘリ、あの個体を集中攻撃しろ! ミサイル、発射!」

 

大悟の怒号が無線を走る。

上空の『翼竜』部隊から放たれた対戦車ミサイルが、煙の尾を引いてバンギラスへと殺到した。

だが、バンギラスは動かない。逃げようともせず、ただ傲然と立ち塞がる。

そして、その筋骨隆々の豪腕を、野球のバットのように振り抜いた。

 

肉体と火薬がぶつかり合う音ではない。

鋼鉄と鋼鉄が衝突するような怪音が響く。

信じられないことに、バンギラスはその素手でミサイルを殴りつけ、

物理的に軌道をねじ曲げて跳ね返したのだ。

 

跳ね返されたミサイルは、皮肉にも攻撃を仕掛けたヘリの一機へと直撃。

 

「アッ――」

 

操縦士の短い悲鳴と共に、ヘリは空中で巨大な火球と化し、

バラバラになったローターが地上へと降り注いだ。

戦車が大破し、ヘリが墜ちる。

そのたびにバンギラスは勝ち誇ったように唸り声を上げ、

その咆哮だけで大気の振動が兵士たちの内臓を揺さぶった。

 

「ヒッ……ア、アァ……」

 

あまりの力の差に、ある隊員は腰を抜かしてその場に座り込み、

またある者は銃を投げ捨てて後ずさった。

勇猛果敢だった自衛官たちの心に、

パラサイトのように「敗北」という名の恐怖が寄生し、蔓延していく。

 

しかし、バンギラスの暴走は止まらない。

奴は己の力を誇示するように、再び喉の奥に輝きを溜めた。

今度は一点集中ではない。首を横に振りながら、広範囲を薙ぎ払う「拡散破壊光線」。

 

横一列に並んでいた数台の戦車が次々と爆破され、

逃げ場を失った隊員たちが爆炎に飲み込まれる。

荒野は一瞬にして、赤と黒が支配する焦土へと変貌した。

 

「……陣内指揮官!聞こえますか!!」

 

哲が血を吐くような思いで無線機を掴んだ。

 

「地上戦線が崩壊します!奴を止めるには、もはや通常の兵器では不可能です!

『モンスターボール)』の使用許可を!!」

 

本部でモニターを凝視していた正人の拳が、血が滲むほどに握りしめられる。

画面に映る、部下たちが虫ケラのように潰されていく光景。

 

「……使用を許可する! 全員、持てるすべての魔獣を解き放て!

殲滅しろ、手段は問わん!!」

「了解!!」

 

哲は無線を切り、戦場に響き渡る声で絶叫した。

 

「全隊、モンスターボール解放!殉職した仲間のためにも、ここを死守するぞ!

奴をこれ以上、一歩も通すな!!」

 

隊員たちが一斉に、腰に下げたボールを手にした。

それは、人間が魔獣に対抗するために手にした、最後にして唯一の同等の「暴力」。

炎帝もまた、涙を拭い、ポケットの中で熱を帯びる最古の相棒のボールを握りしめた。

 

蹂躙の時間は終わった。

ここからは、地獄の暴君と、意地を賭けた戦士たちによる、

血で血を洗う第二ラウンドの幕開けである。




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