携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第四十三話-蹂躙の連鎖-

火山帯の荒野は、もはや戦場という名の屠殺場と化していた。

数分前まで人間側が保持していた微かな「優位」は、

バンギラスという一個の災厄によって、砂上の楼閣のごとく崩れ去った。

この「獄獣」と一対一で渡り合える存在など、この場には一人としていない。

 

「全単位、これ以上の各個撃破を許すな!

目標をバンギラスに集中しろ!尾崎、空からの援護を頼む!!」

 

進藤哲二佐の怒号が無線を震わせる。

その指示は、周囲の野生魔獣を牽制しつつ、

戦力の八割をバンギラス一体の撃破に投入するという、

極めて綱渡りな総力戦の宣言だった。

 

「撃てッ!!」

 

哲の号令とともに、生き残っていた数十台の戦車の主砲、

そして数百人の隊員の自動小銃が一斉に火を噴いた。

凄まじい発射音と硝煙が周囲を包み、弾丸の雨がバンギラスの全身に降り注ぐ。

だが、着弾の瞬間に響くのは肉を穿つ音ではなく、硬質な岩盤を叩くような乾いた金属音だった。

バンギラスの鎧のような外殻は、現代兵器の弾丸を嘲笑うかのように跳ね返し、火花を散らす。

 

無傷のバンギラスが、苛立ちを込めて咆哮した。

喉の奥に凝縮された黄金の熱線――「破壊光線」が水平に薙ぎ払われる。

光が通過した跡には、原型を留めないほどにひしゃげた戦車の残骸と、

一瞬で蒸発した隊員たちの遺品が転がるのみ。

地上兵器だけでは、この怪物に掠り傷一つ負わせることすら叶わなかった。

 

「四号機、五号機は『翼竜』に続け!弾幕を絶やすな!」

 

大悟の指揮するヘリ部隊が、頭上からガトリング砲の掃射を開始する。

曳光弾がバンギラスの背中に吸い込まれていくが、奴は平然とした顔で空を見上げた。

 

バンギラスが地を震わせ、足元の岩盤を粉砕する。「岩雪崩」だ。

だが、奴はそれを単なる落石としては使わなかった。降り注ぐ巨大な岩塊を、

自慢の剛脚でサッカーボールのように次々と蹴り飛ばしたのだ。

超音速で飛来する「岩の弾丸」が、回避の間に合わなかったヘリ四号機のローターを直撃。

機体は錐揉み状態となって墜落し、地上で爆発炎上した。

さらに蹴り飛ばされた岩は地上部隊をも襲い、

逃げ遅れた隊員たちが文字通り肉塊となって押し潰されていく。

 

通常兵器の限界を悟った哲が、苦渋の決断を下した。

 

「モンスターボール、解放!!物量で押せッ!」

 

一斉に放たれたボールから、自衛隊が使役する魔獣たちが飛び出した。

ドンファン、ニューラ、イワーク……。

彼らは主の命に従い、死を恐れぬ覚悟でバンギラスへと群がった。

 

先頭を切って跳躍したニューラが、鋭い爪でバンギラスの顔面を切り裂こうとする。

だが、バンギラスはその細い首を鷲掴みにすると、まるでゴミを捨てるように横へ放り投げた。

運悪く、その後方からは味方のイワークが突進してきていた。

無慈悲な衝突。ニューラの小さな体は、味方であるイワークの鋭い岩の角に串刺しにされ、

内臓を貫通されて絶命した。

 

「構うな! 突っ込め!!」

 

二番手のドンファンが、「高速スピン」で唸りを上げてバンギラスの足元を狙う。

しかし、バンギラスはそれを見切り、

サッカーのロングキックのようにドンファンを真上へと蹴り上げた。

空中に無防備に放り出されたドンファンへ、バンギラスの「破壊光線」が直撃する。

ドンファンの巨体は空中で粉々に粉砕され、肉の雨となって戦場に降り注いだ。

 

さらに、ニューラの遺骸を振り払い、「捨て身タックル」を仕掛けてきたイワーク。

 

【挿絵表示】

 

バンギラスはその巨体を正面から豪腕でガッチリと受け止め、

あろうことかハンマー投げの要領でスイングし始めた。

凄まじい遠心力。バンギラスは数回転ののち、

数トンの質量を持つイワークを、遥か彼方の海の方へと投げ飛ばした。

泳ぐことのできない岩の蛇は、為す術もなく海中へと没し、深い海底へと沈んでいった。

 

調子に乗ったバンギラスは、さらに残虐性を増していく。

近くの戦車に掴みかかると、それを力任せに持ち上げ、上空のヘリ五号機へと投げつけた。

鉄と鉄が空中で衝突し、二台ともが巨大な火球となって地上へ降り注ぐ。

 

その背後を突こうと、自衛官の魔獣たちが一斉に属性攻撃を仕掛けた。

ヘルガーの火炎放射と、キュウコンの炎の渦がバンギラスの背中に命中する。

しかし、バンギラスは驚くべきことに、

その炎を大きな口で吸い込み、自らのエネルギーへと変換した。

口内で混合された「破壊光線+火炎放射」が二匹を襲い、彼らは爆死。

 

「ハイドロポンプだ!水を浴びせろ!!」

 

生き残っていたラプラス、ドククラゲ、ジュゴンら数十体の水型魔獣が、一斉に激流を放った。

バンギラスの足元が水浸しになる。

だが、奴は不敵に笑うように口を裂くと、地面を力一杯踏み抜いた。

「地割れ」。

大地が巨大な口を開けたように裂け、水型魔獣たちはその深淵へと次々と落下。

裂け目は即座に閉じ、彼らは生きたまま地中の塵となった。

 

「畜生……ッ! 強すぎる……!!」

 

至近距離での「破壊光線」の余波を受け、吹き飛ばされた茂が、血を吐きながら叫んだ。

隣では哲も傷を負い、肩で息をしながら、目の前の「生ける絶望」を睨みつけていた。

 

陸と空の自衛隊が壊滅的な打撃を受け、戦場に沈黙が広がりかけたその時。

上空から一羽の大きな鳥が舞い降りた。雷光を背に乗せたピジョットだ。

雷光は、地面に這いつくばったまま、

ザングースを失ったショックで沈黙している炎帝の元へ歩み寄った。

その肩を、雷光はそっと、しかし強く叩いた。

 

「……立ち上がれ、炎帝。

お前の相棒は、あいつに喰われたままでいいのか。やられっぱなしで、終わるつもりか!」

 

炎帝の肩が、ピクリと震えた。

地面を掴む指が、岩を砕くほどに力を帯びる。

 

「……よくねぇよ。……よくねぇよ!!」

 

炎帝は、顔を上げた。その瞳には、かつてないほどに深く、

禍々しく燃える紅蓮の炎が宿っていた。

 

「あいつは……あのクソ野郎は、俺様が、……俺様が倒す!!」

 

炎帝は震える手で、最後の一つとなったモンスターボールを高く掲げた。

その中には、ザングースを失った怒りと、

自衛隊の戦士たちの無念を背負った「最強の竜」が眠っている。

 

赤谷炎帝、そして黄崎雷光。

二人の少年と、一匹の獄獣による、もっとも長く、

もっとも残酷な戦いが、今ここに幕を開けた。




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