火山帯の荒野は、もはや戦場という名の屠殺場と化していた。
数分前まで人間側が保持していた微かな「優位」は、
バンギラスという一個の災厄によって、砂上の楼閣のごとく崩れ去った。
この「獄獣」と一対一で渡り合える存在など、この場には一人としていない。
「全単位、これ以上の各個撃破を許すな!
目標をバンギラスに集中しろ!尾崎、空からの援護を頼む!!」
進藤哲二佐の怒号が無線を震わせる。
その指示は、周囲の野生魔獣を牽制しつつ、
戦力の八割をバンギラス一体の撃破に投入するという、
極めて綱渡りな総力戦の宣言だった。
「撃てッ!!」
哲の号令とともに、生き残っていた数十台の戦車の主砲、
そして数百人の隊員の自動小銃が一斉に火を噴いた。
凄まじい発射音と硝煙が周囲を包み、弾丸の雨がバンギラスの全身に降り注ぐ。
だが、着弾の瞬間に響くのは肉を穿つ音ではなく、硬質な岩盤を叩くような乾いた金属音だった。
バンギラスの鎧のような外殻は、現代兵器の弾丸を嘲笑うかのように跳ね返し、火花を散らす。
無傷のバンギラスが、苛立ちを込めて咆哮した。
喉の奥に凝縮された黄金の熱線――「破壊光線」が水平に薙ぎ払われる。
光が通過した跡には、原型を留めないほどにひしゃげた戦車の残骸と、
一瞬で蒸発した隊員たちの遺品が転がるのみ。
地上兵器だけでは、この怪物に掠り傷一つ負わせることすら叶わなかった。
「四号機、五号機は『翼竜』に続け!弾幕を絶やすな!」
大悟の指揮するヘリ部隊が、頭上からガトリング砲の掃射を開始する。
曳光弾がバンギラスの背中に吸い込まれていくが、奴は平然とした顔で空を見上げた。
バンギラスが地を震わせ、足元の岩盤を粉砕する。「岩雪崩」だ。
だが、奴はそれを単なる落石としては使わなかった。降り注ぐ巨大な岩塊を、
自慢の剛脚でサッカーボールのように次々と蹴り飛ばしたのだ。
超音速で飛来する「岩の弾丸」が、回避の間に合わなかったヘリ四号機のローターを直撃。
機体は錐揉み状態となって墜落し、地上で爆発炎上した。
さらに蹴り飛ばされた岩は地上部隊をも襲い、
逃げ遅れた隊員たちが文字通り肉塊となって押し潰されていく。
通常兵器の限界を悟った哲が、苦渋の決断を下した。
「モンスターボール、解放!!物量で押せッ!」
一斉に放たれたボールから、自衛隊が使役する魔獣たちが飛び出した。
ドンファン、ニューラ、イワーク……。
彼らは主の命に従い、死を恐れぬ覚悟でバンギラスへと群がった。
先頭を切って跳躍したニューラが、鋭い爪でバンギラスの顔面を切り裂こうとする。
だが、バンギラスはその細い首を鷲掴みにすると、まるでゴミを捨てるように横へ放り投げた。
運悪く、その後方からは味方のイワークが突進してきていた。
無慈悲な衝突。ニューラの小さな体は、味方であるイワークの鋭い岩の角に串刺しにされ、
内臓を貫通されて絶命した。
「構うな! 突っ込め!!」
二番手のドンファンが、「高速スピン」で唸りを上げてバンギラスの足元を狙う。
しかし、バンギラスはそれを見切り、
サッカーのロングキックのようにドンファンを真上へと蹴り上げた。
空中に無防備に放り出されたドンファンへ、バンギラスの「破壊光線」が直撃する。
ドンファンの巨体は空中で粉々に粉砕され、肉の雨となって戦場に降り注いだ。
さらに、ニューラの遺骸を振り払い、「捨て身タックル」を仕掛けてきたイワーク。
バンギラスはその巨体を正面から豪腕でガッチリと受け止め、
あろうことかハンマー投げの要領でスイングし始めた。
凄まじい遠心力。バンギラスは数回転ののち、
数トンの質量を持つイワークを、遥か彼方の海の方へと投げ飛ばした。
泳ぐことのできない岩の蛇は、為す術もなく海中へと没し、深い海底へと沈んでいった。
調子に乗ったバンギラスは、さらに残虐性を増していく。
近くの戦車に掴みかかると、それを力任せに持ち上げ、上空のヘリ五号機へと投げつけた。
鉄と鉄が空中で衝突し、二台ともが巨大な火球となって地上へ降り注ぐ。
その背後を突こうと、自衛官の魔獣たちが一斉に属性攻撃を仕掛けた。
ヘルガーの火炎放射と、キュウコンの炎の渦がバンギラスの背中に命中する。
しかし、バンギラスは驚くべきことに、
その炎を大きな口で吸い込み、自らのエネルギーへと変換した。
口内で混合された「破壊光線+火炎放射」が二匹を襲い、彼らは爆死。
「ハイドロポンプだ!水を浴びせろ!!」
生き残っていたラプラス、ドククラゲ、ジュゴンら数十体の水型魔獣が、一斉に激流を放った。
バンギラスの足元が水浸しになる。
だが、奴は不敵に笑うように口を裂くと、地面を力一杯踏み抜いた。
「地割れ」。
大地が巨大な口を開けたように裂け、水型魔獣たちはその深淵へと次々と落下。
裂け目は即座に閉じ、彼らは生きたまま地中の塵となった。
「畜生……ッ! 強すぎる……!!」
至近距離での「破壊光線」の余波を受け、吹き飛ばされた茂が、血を吐きながら叫んだ。
隣では哲も傷を負い、肩で息をしながら、目の前の「生ける絶望」を睨みつけていた。
陸と空の自衛隊が壊滅的な打撃を受け、戦場に沈黙が広がりかけたその時。
上空から一羽の大きな鳥が舞い降りた。雷光を背に乗せたピジョットだ。
雷光は、地面に這いつくばったまま、
ザングースを失ったショックで沈黙している炎帝の元へ歩み寄った。
その肩を、雷光はそっと、しかし強く叩いた。
「……立ち上がれ、炎帝。
お前の相棒は、あいつに喰われたままでいいのか。やられっぱなしで、終わるつもりか!」
炎帝の肩が、ピクリと震えた。
地面を掴む指が、岩を砕くほどに力を帯びる。
「……よくねぇよ。……よくねぇよ!!」
炎帝は、顔を上げた。その瞳には、かつてないほどに深く、
禍々しく燃える紅蓮の炎が宿っていた。
「あいつは……あのクソ野郎は、俺様が、……俺様が倒す!!」
炎帝は震える手で、最後の一つとなったモンスターボールを高く掲げた。
その中には、ザングースを失った怒りと、
自衛隊の戦士たちの無念を背負った「最強の竜」が眠っている。
赤谷炎帝、そして黄崎雷光。
二人の少年と、一匹の獄獣による、もっとも長く、
もっとも残酷な戦いが、今ここに幕を開けた。
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