火山帯を覆う硝煙と砂塵の中、バンギラスという名の絶望が哄笑を上げている。
自衛隊の組織的な抵抗も、数多の魔獣たちによる包囲網も、
この「獄獣」の前では児戯に等しかった。
大切な旅の仲間、ザングースを無惨に喰らわれた炎帝の心は、煮え繰り返る怒りと、
それを上回るほどの冷たい戦慄に支配されていた。だが、退くことは許されない。
ここで奴を止めなければ、背後の街は文字通り地図から消える。
「いけぇ、カビゴン!!その巨体でヤツを捻じ伏せろ!!」
炎帝が放った次なる刺客は、山のような質量を誇るカビゴンだった。
眠れる獅子が目覚めたかのように、
カビゴンはその体格からは想像もつかない爆発的な加速で地を蹴った。
標的はバンギラス。全体重を乗せた捨て身タックルが、戦車をなぎ倒す勢いで突進する。
激突の瞬間、衝撃波が周囲の砂塵を吹き飛ばした。だが、バンギラスは微動だにしない。
それどころか、突進してきたカビゴンの巨躯を、太い剛腕でガッチリと受け止めたのだ。
バンギラスの短い咆哮。
直後、至近距離から「メガトンパンチ」が放たれた。
ドスッ、という鈍い音とともに、
バンギラスの拳がカビゴンの分厚い脂肪層を突き破り、腹部の奥深くまで減り込む。
カビゴンの口から大量の鮮血が噴き出した。
内臓を直接粉砕された衝撃に、巨体がくの字に折れ曲がる。
「ま……まずい!! カビゴン、『雷』だ!!」
吐血に喘ぎながらも、カビゴンは執念で意識を繋ぎ止めた。
至近距離から最大電圧の稲妻がバンギラスを直撃する。
凄まじい閃光が荒野を白く染めたが、バンギラスは眉一つ動かさない。
岩タイプを併せ持つ奴にとって、電気など微かな刺激に過ぎなかった。
距離を取ろうと必死に転がるカビゴン。だが、暴君は追撃の手を緩めない。
口内に収束する黄金の熱。「破壊光線」。
カビゴンも死に物狂いで迎撃の光線を放つが、出力の差は歴然だった。
バンギラスの放光がカビゴンの光線を力任せに押し戻し、その巨躯を呑み込む。
凄まじい爆発音と共に、カビゴンは物言わぬ肉の塊となって戦闘不能に陥った。
炎帝は激しく舌打ちし、震える手でカビゴンを戻すと、
間髪入れずに三体目、ガルーラを戦場へ解き放った。
「ガルーラ、『気合いパンチ』!!」
精神を集中させたガルーラの拳が、バンギラスのメガトンパンチと正面から激突する。
肉体と肉体がぶつかり合っているとは思えない金属音が響き、
両者一歩も引かない力比べが続く。その均衡を破るべく、炎帝が叫ぶ。
「今だ! 『水の波動』!!」
ガルーラの口から放たれた水の奔流が、至近距離でバンギラスの顔面を捉えた。
岩の体を持つ奴にとって、水は数少ない弱点の一つ。顔面に直撃した衝撃に、
バンギラスの巨体が初めて大きく仰け反った。
「いける……!奴に対抗できる力はあるんだ!」
炎帝が希望を見出した瞬間、バンギラスの瞳に「本気の殺意」が宿った。
バンギラスが地を強く踏みしめる。「地震」だ。
猛烈な縦揺れがガルーラの足元を掬う。だが、ガルーラは耐えた。
しかし、顔を上げた瞬間に彼女が見たのは、
この世の地獄を凝縮したようなバンギラスの「怖い顔」だった。
「……ッ!!」
伝説の悪魔を目の当たりにしたような恐怖に、ガルーラの全身が硬直する。
膝が笑い、指先一つ動かせない。
バンギラスは唸り声を上げながら、金縛り状態のガルーラを鷲掴みにした。
そのまま垂直に跳躍。空中で高速旋回しながら重力を味方につけ、
トドメの「地球投げ」を敢行した。
グシャリ。
頭部から岩盤に叩きつけられたガルーラは、
頭蓋骨を陥没させ、ピクピクと手足を震わせたのちに絶命した。
バンギラスは鼻を鳴らし、次の獲物を探して踵を返した。
その時、奴の背中に微かな衝撃が走る。
ガルーラの腹の袋に潜んでいた、まだ幼い子供が、
親を殺された怒りで小さな拳を叩きつけたのだ。
振り返ったバンギラスは、その矮小な存在を一瞥すると、
無造作に両手でその小さな体を挟み込んだ。
――パチン。
風船が割れるような軽い音と共に、紅い飛沫が飛んだ。
ガルーラの子供だったものは、原型を留めぬ血と肉の塊となって四散した。
「あ、ああ……ああああああああああああああああ!!」
炎帝の精神が崩壊しかける。怒りに任せ、フライゴンとプテラを同時に繰り出し、
二体同時の「破壊光線」を浴びせるが、バンギラスは腕をクロスさせてそれを受け流した。
「化け物め……!!全車、奴を包囲しろ!!」
哲の指揮のもと、生き残った90式戦車部隊がバンギラスを包囲し、一斉射撃を試みる。
だが、バンギラスの行動はその想定を遥かに超越していた。
バンギラスは地響きを立てて突進すると、あろうことか戦車の長い「砲身」にその剛腕をかけた。
「なっ……何をする気だ!?」
隊員たちが驚愕する中、バンギラスは凄まじい膂力で砲身を握り込み、
数トンの戦車を軽々と持ち上げたのだ。
そこから始まったのは、鋼鉄の質量兵器による「死の旋回」だった。
バンギラスは戦車の砲身を軸にし、
ジャイアントスイングの要領で戦車そのものを振り回し始めた。
風を切る異様な音が響き、周囲にいた自衛官たちが、
振り回される戦車の「底」や「履帯」に叩き潰されていく。
「逃げろ!離れろッ!!」
哲の叫びも虚しく、バンギラスは遠心力を乗せた戦車を、
上空を旋回していたフライゴンとプテラ目がけて投げ飛ばした。
鋼鉄の巨塊が空飛ぶ魔獣たちに直撃し、二体は悲鳴を上げる間もなく爆炎の中に消えた。
さらにバンギラスは、もう一台の戦車を掴み上げると、
それを棍棒のように振り回して、周囲の隊員たちを薙ぎ倒しまくった。
戦車同士が激突し、火花と鉄の破片が降り注ぐ。
まさに戦場は、バンギラスという王が支配する狂乱の舞台と化した。
「……あがっ……!!」
戦車の破片、あるいは衝撃波によるものか。
炎帝の体は木の葉のように吹き飛ばされ、岩壁に激突して地面に叩きつけられた。
視界が赤く染まる。全身の骨が軋み、意識が遠のいていく。
バンギラスが、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
その一歩一歩が、死へのカウントダウン。
「(ここまでか……。俺様も、あいつらと同じように喰われるのか……)」
だが、炎帝の指先が、胸元にある最後の一つ、最も熱を帯びたモンスターボールに触れた。
そうだ。まだだ。
まだ『あいつ』を出していない。
幼い頃から共に歩み、数々の死線を越えてきた、魂の半身。
『あいつ』が倒れるまで、赤谷炎帝という男の辞書に「敗北」の二文字は刻まれない。
モチベ維持のために感想・評価をもらえると幸いです。