携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第四十五話-烈火の咆哮-

火山帯の荒野は、もはや静寂を忘れた地獄の底と化していた。

炎帝は泥に塗れ、仲間の死骸が転がる大地を強く踏みしめて立ち上がった。

その手にあるのは、幾多の戦場を共に駆け抜け、最も厚い信頼で結ばれた相棒の宿る球体。

 

「……おい、化け物。食事の時間は終わりだ。

ここからは、俺様の命を懸けた、最高で最悪のショーの始まりだぜ!!」

 

渾身の力で投げられたモンスターボールが弾け、眩い閃光とともに、

空気を一瞬で沸騰させるほどの熱気が渦巻いた。

紅蓮の鱗を夕闇に輝かせ、最強の炎竜・リザードンが降臨する。

かつて山脈の戦いにおいて、このバンギラスという圧倒的な暴力の前に、

完膚なきまでに叩き伏せられた屈辱。

その記憶が、リザードンの尾の炎をかつてないほど巨大に、

そして青白く燃え上がらせていた。

 

対するバンギラスは、手にしていた自衛隊の戦車――数トンの鋼鉄塊を、

まるでお手玉でもするように片手でジャイアントスイングし、

逃げ惑う隊員たち目がけて放り投げた。

大破炎上する戦車の爆音。それが、この死闘の開始を告げるゴングとなった。

雷光はピジョットの背から、哲と茂は岩陰から、息を呑んでこの頂上決戦を見守る。

彼らには分かっていた。これは単なる戦闘ではない。炎帝という少年の魂が、

絶望を克服できるか否かの審判なのだと。

 

「いけぇ、リザードン!!俺様たちの赤く熱い鼓動をヤツに見せてやるんだ!!」

 

先攻はバンギラスだった。

巨躯を震わせ、口腔内に収束させた黄金のエネルギーを解き放つ。

「破壊光線」。

リザードンは逃げなかった。真っ向からその顎を開き、最大出力の「大文字」で迎え撃つ。

両者の中心で「大」の字の炎と黄金の熱線が激突し、大気を歪めるほどの爆発が起こった。

衝撃波が周囲の岩石を粉砕し、爆風が荒野を薙ぎ払う。

 

「飛べッ!翻弄しろ!!」

 

炎帝の指示に合わせ、リザードンは爆煙を突き抜けて上空へと舞い上がった。

旋回しながら、地上で構えるバンギラスへ向けて「火炎放射」を浴びせる。

バンギラスは動かない。岩の鎧を持つ己にとって、

炎など生温い風に過ぎないと侮っているのだ。

紅蓮の劫火がバンギラスを包み込み、視界を赤く染め上げる。

 

【挿絵表示】

 

だが、炎が晴れた瞬間、バンギラスの表情に異変が生じた。

奴は咄嗟に己の腕に触れた。硬質な鎧が、赤く熱を持っている。

以前の戦いとは比較にならないほど、リザードンの火力は高まっていた。

炎帝との絆が生み出す、骨まで焼き尽くさんとする超高温。

炎帝は畳み掛ける。

 

「『炎の渦』だ!逃がすな!!」

 

再び渦巻く炎がバンギラスを閉じ込める。バンギラスは呻き声を上げ、

先ほどまでの傲慢な攻めが嘘のように消極的な動きを見せた。

 

「……勝てる!いけるぞリザードン!!」

 

炎帝が勝利を確信しかけた、その時だった。

 

バンギラスの瞳に、狡猾な光が宿った。

奴は炎の渦の中で、あえて動かずに力を蓄えていたのだ。

リザードンの背後の空間が歪み、巨大な岩塊が次々と実体化する。

「岩雪崩」。

しかも、その岩は周囲の熱を吸収し、燃え盛る火の玉と化していた。

 

「リザードン、後ろだッ!!」

炎帝の叫びは間に合わなかった。

油断していたリザードンの背中に、燃える岩が次々と直撃する。

飛行高度を奪われ、地上へと撃墜されるリザードン。

バンギラスは間髪入れず、落下地点の四方に巨大な岩柱を突き立てた。「岩石封じ」。

身動きを封じられ、うつ伏せのまま大地に縫い留められるリザードン。

 

バンギラスが、ゆっくりと歩み寄る。

その口内には、先ほどを遥かに凌ぐ密度の光が溜まっていく。

 

「……リザードン、立ち上がれ!!全てを焼き尽くせ!!『ブラストバーン』だ!!」

 

極限状態での究極奥義。

リザードンは己の生命力を炎へと転換し、全身から爆発的な熱量を放出した。

自分を封じていた岩石を内側から粉砕し、

噴き上がる火柱がバンギラスの至近距離からの「破壊光線」を強引に逸らした。

リザードンは即座に体勢を立て直し、至近距離から「火炎放射」を叩き込む。

確実に、バンギラスの体力を削り取っている。

 

だが、暴君はここで最後にして最悪の切り札を切った。

天を突くような咆哮。それと同時に、火山帯全体を巻き込む巨大な「砂嵐」が発動した。

竜巻のような砂の壁がフィールドを覆い尽くし、リザードンの視界を完全に遮断する。

飛び交う砂礫がリザードンの皮膚を削り、体力を奪っていく。

 

「クソッ、何も見えねぇ!リザードン、どこだ!!」

 

炎帝もまた、砂のカーテンに遮られ、相棒の姿を見失った。

雷光がピジョットに「風起こし」を命じて砂を吹き飛ばそうとするが、

バンギラスの魔力による砂嵐はあまりに重く、晴れる気配がない。

 

視界ゼロの闇。リザードンは周囲を警戒するが、砂礫の音にかき消され、

バンギラスの足音が聞こえない。突如、背後から巨大な剛腕が伸びた。

バンギラスが、リザードンの首根っこを掴み上げ、逃げ場を奪う。

咄嗟に放ったリザードンの火炎放射は、虚しく空を焼くだけだった。

 

バンギラスは、抗うリザードンの体を力任せに地面へ組み伏せた。

そして、その太い指が、リザードンの左翼の付け根に深く食い込む。

嫌な予感が、炎帝の背筋を駆け抜けた。

 

「やめろ……。やめろぉぉぉぉぉッ!!」

 

砂嵐の向こうから、凄まじい肉の裂ける音と、骨が砕ける音が響き渡った。

リザードンの、この世のものとは思えない絶叫が荒野にこだまする。

バンギラスは、リザードンの誇りであり、空を飛ぶための象徴であったその大きな翼を、

根元から強引にもぎ取ってしまったのだ。

鮮血が噴水のように吹き出し、砂地を赤く染め上げる。

 

バンギラスは、千切り取ったばかりの翼を手に取ると、

事も無げにそれをバリバリと噛み砕き、咀嚼し始めた。

仲間の翼を喰われる音を聞きながら、リザードンは激痛とショックで痙攣する。

さらにバンギラスは、止めと言わんばかりに、

リザードンの無防備な腹部へ「メガトンパンチ」を深々と叩き込んだ。

大量の血を吐き出し、リザードンの瞳から光が消える。

砂嵐がゆっくりと晴れていく中、そこに横たわっていたのは、

片翼を失い、血の海に沈んだリザードンの無惨な姿だった。

 

「リザ……ードン……」

 

炎帝の膝が折れた。

最強と信じた相棒の敗北。いや、敗北以上の、完膚なきまでの破壊。

意識を失い、ピクリとも動かなくなったリザードンの傍らで、

バンギラスは血に濡れた牙を剥き出しにして、勝利の咆哮を上げた。

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