携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第四十六話-死に物狂い-

吹き荒れていた砂嵐が、まるで劇の幕が下りるように静まり返っていく。

視界が開けるにつれ、雷光たちの目に飛び込んできたのは、

あまりにも残酷で、正視に耐えない光景だった。

 

そこには、自慢の大きな翼を根元から無惨に引き千切られ、

赤黒い鮮血に塗れたリザードンの姿があった。

地面を濡らすのは、傷口から溢れ出す血と、

激痛に耐えかねて吐き出された内臓の混じった血。

かつて空の王者として君臨したその背中は、

今はただ痛々しく、誇りを剥ぎ取られた傷跡を晒している。

 

「あ……あぁ……。リザ……ードン……」

 

炎帝の口から、魂が漏れ出すような悲鳴が上がった。

勝利を信じ、命を預け合った相棒の成れの果て。

その絶望の深さは、計り知れない。

バンギラスは、ピクリとも動かないリザードンの巨躯を片手で軽々と持ち上げると、

ゴミでも捨てるような仕草で炎帝の方へと放り投げた。

ズシン、という鈍い音が、炎帝の心にトドメを刺す。

 

「お……おいリザードン、しっかりしろ!

目を開けろよ! ……クソ!! チクショ―――!!」

 

炎帝の叫びが荒野に虚しく響く。

 

「……やらせるかよ!誰が、ここでお前を一人にするって言ったんだ!!」

雷光が、恐怖でガタガタと震える膝を拳で叩き、一歩前に出た。

その瞳には、親友の窮地を救わんとする決死の覚悟が宿っている。

 

「哲さん、茂さん!今はなりふり構っていられません!全員で叩きましょう!」

「分かっている! 行けッ、カイリキー!」

「こっちもだ!ゴローニャ、あいつを粉砕しろ!!」

 

哲が放った四本腕の剛力、カイリキー。

そして茂が呼び出した、岩石の化身ゴローニャ。

自衛隊が誇る重量級の魔獣たちが、地響きを立ててバンギラスへと突っ込む。

バンギラスは、その場から一歩も動かない。ただ、岩盤のような胸を張り、

襲い来る「羽虫」たちを迎え撃つ構えを見せる。

 

ゴローニャが全身を硬化させ、猛スピードで回転しながら突進する。

「丸くなる」からの「転がる」。重戦車のような一撃がバンギラスの腹部を捉えた。

しかし、バンギラスはその回転の勢いを殺すこともせず、

あろうことか両腕でガッチリと受け止めた。

バンギラスの怪力が唸る。奴は回転し続けるゴローニャを、

あべこべに遠方へと投げ飛ばした。

 

続けてカイリキーが四本の腕をフル稼働させ、怒涛の連続パンチを叩き込む。

空気が爆ぜるほどの拳圧。だが、バンギラスは太い腕をクロスさせ、

そのすべてを無機質な盾のようにガードする。

隙を突いてバンギラスの「メガトンパンチ」がカイリキーの胸元へ炸裂した。

カイリキーは咄嗟に四本の手を重ねて防いだが、あまりの圧力に骨が軋む音を立て、

後方へ十数メートルも弾き飛ばされた。

 

「ライチュウ、『1000まんボルト』だ!!」

雷光の指示が飛び、ライチュウの尻尾から黄金の奔流が放たれた。直撃。

雷鳴が轟き、バンギラスの巨体が閃光に包まれる。

だが、光が晴れた跡に立っていたのは、煤ひとつ付いていない無傷の暴君だった。

岩・悪の複合属性を持つ奴にとって、電気はもはや「静電気」程度の刺激でしかない。

 

「なら、これならどうだ! プリン、『歌う』!!」

 

雷光がプリンを繰り出す。

しかし、バンギラスはその可愛らしい姿を鼻で笑うように、天を仰いで吠えた。「吠える」。

凄まじい威圧感を含んだ咆哮が空気を震わせ、プリンは戦う意志を挫かれ、

強制的にモンスターボールの中へと戻されてしまった。

 

代わりに出てきたのは、背中に巨大な花を背負ったフシギバナ。

 

「相性は悪くない……!続けろ、『葉っぱカッター』だ!」

 

鋭い葉の乱舞がバンギラスを襲うが、奴はそれを豪腕の一振りで叩き落とし、塵に変える。

そこへ、茂のゴローニャが最後の一撃を賭けて「地割れ」を発動した。

大地が裂け、バンギラスの足元が崩れ去る。一撃必殺――当たれば終わる。

だが、バンギラスもまた、地面を力一杯踏み抜いた。

「地割れ」VS「地割れ」。

出力の差は一目瞭然だった。バンギラスの放った亀裂が、

ゴローニャのそれを力任せに押し潰し、逆流する。

地割れに飲み込まれたのは、ゴローニャの方だった。

地中の圧力に潰され、一撃で戦闘不能。

 

「カイリキー!!」

 

哲の声に応じ、カイリキーが再び肉薄する。

「クロスチョップ」、「メガトンキック」。

持てるすべての大技を繰り出すが、バンギラスの鉄壁の防御を貫くことはできない。

逆に、バンギラスの至近距離からの「破壊光線」がカイリキーのゼロ距離で爆発した。

 

「……ッ!!」

 

カイリキーの巨体が紙屑のように吹き飛ばされ、岩壁に激突。

そのまま物言わぬ塊となった。

 

「(……もう少しだ。頼む、気が付かないでくれ……)」

 

雷光は拳を握り締め、心の中で祈った。

ライチュウが「電光石火」で攪乱し、死に物狂いで「雷」を浴びせ続けている間、

背後のフシギバナは静かに、しかし確実に太陽の光をチャージしていた。

 

「今だ!! 最大出力の『ソーラービーム』!!」

 

フシギバナの花びらが眩く発光し、極太の熱線がバンギラスを目がけて放たれた。

草属性の奥義。これならば、岩の鎧を貫けるはずだ。

しかし、バンギラスの感知能力は化け物じみていた。

奴はビームが着弾する寸前、口腔内に溜めていた「破壊光線」を即座に解放。

空中を切り裂く二つの光。だが、またしてもバンギラスの光が勝利した。

ソーラービームを真っ向から割り、フシギバナを爆炎の中に沈めた。

 

「そんな……。嘘だろ……。ライチュウの電撃以外、何も通らないのか……!?」

 

絶望が、再び戦場を支配しようとしていた。

 

その時だった。

バンギラスが、ふと動きを止めた。

その赤黒い瞳が、雷光の後方――絶望の淵に沈んでいたはずの場所を捉える。

雷光も、引き寄せられるように後ろを振り返った。

 

そこには、ボロボロになり、翼を失い、死の淵にいたはずのリザードンが、

震える足で大地を踏みしめて立ち上がっていた。

 

「……リザ……ードン……?」

 

炎帝が掠れた声を出す。

リザードンは荒い息を吐くたびに血を撒き散らし、苦しげに咳き込んでいた。

だが、その失われた翼の根元から流れる鮮血よりも、その瞳に宿る炎の方が、

遥かに熱く、鋭く輝いていた。

 

「……俺様たちは、まだ戦うぞ。こんな所で、ゴミみたいに死んで溜まるかよ……!!」

 

炎帝が立ち上がり、血に汚れた手を相棒の方へと伸ばす。

リザードンは、炎帝のその声に応えるように、

天に向かって残された全ての気力を絞り出し、咆哮を上げた。

翼はない。空は飛べない。

だが、その二本足が大地を掴んでいる限り、紅蓮の魂は消えはしない。

 

絶望を焼き尽くす、最後の逆襲。

リザードンと炎帝の、真の『リベンジ』が今、始まった。

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