火山帯を包む空気は、もはや生物が呼吸できるそれではない。
鉄を溶かし、岩を蒸発させるほどの熱量と、むせ返るような血の臭い。
その中心で、片方の翼を失い、文字通り「満身創痍」の言葉すら生温い状態のリザードンが、
地獄の底から這い上がった亡者のように立ち上がっていた。
背中の傷口からは未だに鮮血が間断なく溢れ出し、
一歩踏み出すごとに大地を赤く染めていく。だが、その瞳に宿る光は、
かつてないほどに静かで、かつてないほどに狂暴な殺意を孕んでいた。
「炎帝!無茶だ!!リザードンはもう戦える体をしてない!今戦えば、確実に殺されるぞ!!」
雷光の叫びは、親友を想うがゆえの悲鳴だった。
しかし、炎帝は振り返らない。その背中は、絶望を脱ぎ捨てた戦士のそれだった。
「……例え負けると分かっていても、ここで逃げるわけにはいかねぇんだよ。
……勝って生きるか、負けて死ぬか。それしかねぇんだよ、この戦いは……」
炎帝の声は低く、しかし戦場全体に響き渡るほどの重圧を伴っていた。
彼は血に汚れた手を天に掲げ、喉が裂けんばかりの咆哮を上げる。
「行くぞリザードン!!死ぬ気で戦うぞ―――――――!!」
リザードンが咆哮を上げ、残された強靭な脚で大地を爆砕しながら突っ込んだ。
翼を失ったことで重心は安定を欠くはずだが、今の彼には関係なかった。
怒りそのものが、彼の肉体を突き動かしている。
バンギラスは、死に損ないの再来を嘲笑うかのように拳を固める。
しかし、リザードンの「炎のパンチ」がバンギラスの防御を叩いた瞬間、暴君の表情が歪んだ。
先ほどまでとは桁違いの熱量と衝撃。物理法則を超越した「執念」の重みが、
岩の鎧を凹ませ、バンギラスの巨体を一歩後退させた。
「やらせるかよ!ライチュウ、フシギバナ、リザードンに続け!!」
雷光もまた、自身の恐怖を振り払った。リザードンの背中を追うように、
ライチュウが黄金の閃光となって走り、フシギバナが地響きを立ててその後に続く。
バンギラスは反撃の「破壊光線」をリザードンへ放つ。
だがその瞬間、リザードンの尻尾の炎が爆発的に膨れ上がり、
深淵のような「青色」へと変色した。
「竜の怒り」!!
青き竜の波動が黄金の熱線と真正面から激突。
巨大な爆炎が二人を包み込み、周囲の岩石を溶岩へと変えていく。
その爆炎の隙を突き、死角からライチュウの「1000まんボルト」がバンギラスの延髄を直撃した。
流石の暴君も苦悶の声を上げ、体勢を崩す。
反射的にライチュウへ向けて「メガトンパンチ」を繰り出すが、
ライチュウは既に「影分身」を展開していた。
無数に増殖した黄金のネズミがバンギラスを嘲笑うように包囲する。
バンギラスは狂ったように分身へ「破壊光線」を浴びせるが、
本体は既に奴の背後へと回り、雷のチャージを完了させていた。
そして、正面には体中から白熱の炎を噴き上げるリザードン。
横には、戦いの喧騒の中で静かに太陽の恵みを吸い尽くし、
花弁を極限まで発光させたフシギバナ。
三匹の魔獣が、バンギラスを頂点とする完璧な正三角形の陣形を完成させた。
バンギラスは、初めて「死」の予感に戦慄した。
三方のうち、どの魔獣に攻撃を仕掛けようとも、
残る二体からの致命的な一撃は免れない。まさに王手。
絶望の暴君が、最期の足掻きとして砂嵐を巻き起こそうとしたその時、
二人の指揮官の声が重なった。
「いけぇ!!リザードン!!『オーバーヒート』だ!!」
「ライチュウ、『雷』!!フシギバナ、『ソーラービーム』!!」
「「トリプルインパルス!!!」」
三つの究極奥義が、一寸の狂いもなくバンギラスの巨体に集中した。
白熱の猛火、天を穿つ雷撃、そして全てを貫く太陽の熱線。
それらが一点で混じり合い、戦場を白銀の世界へと変えるほどの光を放った。
バンギラスの断末魔が、大気の震動を書き換える。
無敵を誇った緑の鎧に、走るようなヒビが入り、その隙間から内側の肉体が焼き焦げていく。
熱エネルギーが限界を超え、バンギラスの体内で魔力が暴走した。
巨大なキノコ雲が立ち上がり、荒野を巨大なクレーターに変える大爆発が起きた。
爆風の中、リザードンは朦朧とする意識の中で前を見据えていた。
すると、爆発の余波により切断されたバンギラスの首が、断末魔の呪いのように、
物凄いスピードでリザードン目掛けて飛来した。
「させねぇよ!!」
炎帝の叫びとともに、リザードンが残された全ての魔力を喉の奥から解き放った。
零距離の「火炎放射」が、飛んできた首を空中で捉える。
暴君の顔面は一瞬で黒焦げの炭塊となり、力なくリザードンの足元へ転がった。
リザードンは、その忌まわしい首を自らの足で力強く踏み潰した。
バキッ、という乾燥した音が、長く続いた悪夢の終焉を告げた。
勝利を祝う炎がその口から大空へと高く吹き上がり、
荒野に不屈の王の帰還を知らしめる咆哮が響き渡った。