バンギラスとの死闘を制し、
救急車で去りゆく炎帝とリザードンを見送った雷光たちの背中に、
休息の時間は一秒たりとも与えられなかった。
戦場は今、バンギラスや狂暴化した野生魔獣の執拗な波状攻撃にさらされ、
陸上自衛隊の防衛線は既に半分以上の戦力を喪失。
鉄の棺桶と化した戦車が骸を晒し、絶望的な消耗戦が続いていた。
現状、人類側に残された唯一の希望とも呼べる兵器は、
空を舞う大悟空佐の「翼竜」――最新鋭の攻撃ヘリ部隊のみ。
だが、その希望すらも、惑星規模の「怒り」の前では陽炎のように儚いものだった。
突然、世界が鳴動した。
足元の岩盤が、まるで巨大な心臓が脈打つように上下に激しく波打つ。
地割れが走り、大気を切り裂くような轟音が火山帯に響き渡った。
「……ッ、なんだ、この揺れは!?」
哲がハッと顔を上げ、背後にそびえる活火山を見上げたその瞬間。
山頂が内側から爆発するように吹き飛び、
天を突くような火柱とともにドロドロとした溶岩が溢れ出した。
その紅蓮の滝の中から、「それ」は姿を現した。
超古代から眠りについていた、大地を司る絶対神――グラードン。
「な……んだ、あのデカさは……」
雷光は息を呑んだ。
その全長は優に40メートルを超え、全身を覆う深紅の甲殻は、
溶岩の熱を孕んで不気味な黒光りを放っている。
一歩足を踏み出すごとに地響きが起き、その威圧感だけで周囲の野生魔獣たちが、
恐怖のあまり次々と逃げ出していく。
「陸上にグラードンが出現しました!!第一目標を確認!!」
本部のオペレーターの悲鳴に近い報告に、正人一佐は拳を固めて無線機を掴んだ。
「全部隊に告ぐ!!雑魚は構うな!
グラードンを最重要脅威と設定、全火力をあいつに集中させろ!!」
「了解!!」
哲、茂、そして雷光が、神の足元へと肉薄する。
上空からは大悟の「翼竜」が、
死神の鎌のようなガトリング砲を唸らせながら援護に駆けつけた。
グラードンが天を仰ぎ、空気を震わせる雄叫びを上げた。
その瞬間、雲一つなかった空が、不自然なほどに眩く、白濁した光に包まれた。
グラードンの特殊能力――『日照り』。
猛烈な熱波がフィールドを襲い、地表の水分が一瞬にして蒸発していく。
肌を刺すような乾燥と熱気が、人類側のスタミナを削り取り、
グラードンのための「戦場」を作り上げていく。
「……怯むな!眠らせてしまえば、神様だってただの置き物だ!」
雷光は起死回生を狙い、再びプリンを繰り出した。
「プリン、『歌う』!!」
戦場に不似合いな、澄んだ音色のメロディが流れる。
だが、奇跡は起きなかった。グラードンはその旋律を、
耳障りなノイズとすら思っていない。
眠りに落ちるどころか、鬱陶しそうに低く唸っただけで、
音波そのものが熱風でかき消されてしまった。
グラードンのあまりの威圧感に、プリンは歌を中断。
自らの生存本能に突き動かされるように、
指示を待たず勝手にモンスターボールの中へと逃げ戻ってしまった。
雷光の手元に残る戦力は、ライチュウ、ピジョット、そしてフシギバナ。
しかし、ライチュウは電気型。地面を司るグラードンにとって、
電撃は「効かない」以前に「存在しない」に等しい。
雷光は苦渋の決断でライチュウを戻し、唯一の「弱点」を突ける相棒を前に出した。
「日照りは、こっちにとっても好都合だ!フシギバナ、『ソーラービーム』!!」
『日照り』による過剰な太陽光を吸い込み、フシギバナの背中の大輪が、
目が眩むほどの緑光を放った。チャージなしの連続発射。
草属性の極大魔法が、グラードンの眉間に向けて放たれた。
だが、神は動じない。
グラードンもまた、その巨大な口腔内に太陽光を収束させ、
全く同じ技――『ソーラービーム』を解き放ったのだ。
緑と緑の閃光が、戦場の中央で激突した。
拮抗したのは、ほんの一瞬。
グラードンの放った光線は、フシギバナのそれを紙屑のように押し戻し、
その巨躯を真正面から呑み込んだ。
「フシギバナァ!!」
爆炎が晴れたとき、そこには焦げた花びらを散らし、
力尽きたフシギバナが横たわっていた。戦闘不能。
「いけ!! オーダイル!!」
「いってこいっ!! ウインディ!!」
哲と茂が、それぞれの相棒を解き放つ。
水、そして炎の牙。だが、極限の乾燥状態では水の威力は半減し、
逆にグラードンの火力は跳ね上がっている。
「ピジョット、合わせろ!『鋼の翼』!!」
雷光の指示に合わせ、ピジョットが『電光石火』で加速。
銀色に輝く翼を鋭い刃と化し、グラードンの頬へとクリーンヒットさせた。
キンッという硬質な音が響く。
しかし、神の皮膚は傷つくどころか、微かな擦り傷がついただけ。
グラードンの赤い瞳が、上空を舞う「羽虫」を捉えた。
奴は地を蹴り、無数の岩塊を空中に浮かび上がらせる。
『原始の力』。
超古代の魔力に満ちた岩石が、逃げるピジョットを正確に追尾し、その背中を強打した。
悲鳴を上げる間もなく、ピジョットは翼を折られ、錐揉み状態で地上へと叩きつけられた。
岩属性の一撃は、飛行する鳥にとって致命的な一撃だった。
「……そんな、嘘だろ……」
雷光は立ち尽くした。
フシギバナに続き、空の相棒であるピジョットまでもが、
神の一瞥にも満たない攻撃で沈められてしまったのだ。
足元を流れる溶岩。空を焼き尽くす烈日。
そして、眼前に立ち塞がる、巨大な「大地の神」。
雷光は、震える手で最後のボールを握りしめた。
人類に、この神を殺す手段など、果たして存在するのだろうか。
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