携帯魔獣叛乱戦争   作:戦竜

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第五話-存亡の戦い-

神鳥ファイヤーとの死闘が幕を閉じた後、街は深い静寂と、

それに相反する悲痛な喧騒に包まれていた。

かつての摩天楼は無残に崩落し、アスファルトには巨大な爪痕と焦げ跡が刻まれている。

救急車のサイレンが夜の空気を切り裂き、赤色灯の光が、

灰にまみれた瓦礫を不気味に照らし出していた。

 

黄崎雷光と赤谷炎帝は、半壊を免れた総合病院のロビーに身を寄せていた。

そこはもはや治療の場ではなく、戦場から運び込まれた犠牲者たちの収容所と化している。

廊下には担架が並び、火傷を負った人々の呻き声や、家族を失った者の嗚咽が絶え間なく響く。

 

雷光は、硬いプラスチックの椅子に深く腰掛け、その光景をただ静かに見つめていた。

彼の隣では、ピカチュウが疲れ果てた様子で丸まって眠っている。

勝利の余韻など微塵もなかった。

あるのは、圧倒的な「暴力」が行き過ぎた後の、重苦しい虚無感だけだ。

 

「……おい」

 

不意に声をかけられ、雷光は顔を上げた。

そこには、自動販売機で買ってきたであろう二つの缶ジュースを手にした炎帝が立っていた。

戦いの昂ぶりは冷め、その表情には隠しきれない疲労の色が滲んでいる。

炎帝は無造作に一つを雷光へ放り投げると、隣の椅子にどさりと腰を下ろした。

冷えた金属の感触が、戦いで熱を持った雷光の掌に心地よく伝わる。

 

「……お前、名前は?」

 

先に沈黙を破ったのは炎帝だった。

その双眸は、依然として鋭いが、先ほどのような敵意はない。

 

「雷光……。黄崎雷光だ」

「ふぅん。俺様は赤谷炎帝(せきたに えんてい)っつーんだ。夜露死苦な」

 

炎帝はどこか時代がかった、

それでいて彼らしい不敵な挨拶を口にすると、プルタブを引き抜いた。

シュパッという乾いた音が、静まり返ったロビーに小さく反響する。

彼は喉を鳴らしてジュースを煽り、数秒の沈黙の後、視線を宙へと彷徨わせた。

 

「……炎帝。一つ聞かせてくれ。

お前、なんであんな無茶な戦い方をしてまでファイヤーを追ってたんだ? 捕獲するためか?」

 

雷光は単刀直入に、胸に燻っていた疑問をぶつけた。

あの神鳥の狂気、そして炎帝の執念。

そこには単なる「魔獣狩り」以上の何かがあったはずだ。

 

炎帝は缶を口から離し、吐き捨てるように言った。

 

「今、世界中の野生の魔獣が、

人間の身勝手な自然破壊で滅亡の危機に直面してるのは知ってるよな?」

「ああ、旅の途中で何度も耳にした。だが、それがどうした」

「それが原因なんだよ。あのファイヤーが……神とまで呼ばれたあいつが、

正気を失ってまで人間に牙を剥いたのはな」

 

雷光の背筋を冷たいものが走った。

 

「ファイヤーが暴れたのは……人間の復讐だって言うのか?」

「そうだ。報復だよ。住処を奪われ、大気を汚され、同胞を殺された。

その怨嗟の塊が、あいつを復讐の権化に変えたんだ」

 

雷光は絶句した。

彼は旅を続け、各地の惨状を見てきたつもりだった。

宿に泊まり、ニュースを避けていたわけではないが、

自分が見ていたのはあくまで「現象」の断片に過ぎなかったのだ。

野生の魔獣たちが、個別の怒りを超え、種としての「殺意」を人類へ向けている。

それはもはや災害ではなく、明確な意思を持った「侵攻」だった。

 

「……で、俺様はそんな怒り狂った野生の魔獣たちを鎮めるために旅をしてるってとこだ」

 

炎帝は自嘲気味に笑った。その「鎮める」という言葉の重みを、雷光は噛み締める。

 

「鎮める……か。あの大戦を見た後じゃ、

それは屍を積み上げなきゃ終わらないって意味に聞こえるが。」

「……察しがいいな。そうだよ。弱き者は死あるのみ。それが自然界の絶対の掟だ。

奴らが止まらない以上、俺たちが止めるしかない。」

 

炎帝は空になった缶を握り潰した。

バキッという鈍い金属音が響く。

その瞳の奥には、友を殺さねばならない者の苦悩と、

それでも戦わねばならない者の覚悟が混濁していた。

 

「これは、魔獣との戦争だ」

 

雷光が呟いたその言葉は、重く、救いようのない真実となって二人の間に横たわった。

今、この瞬間も、世界のどこかで森が燃え、海が汚れ、

それに対する魔獣たちの血塗られた反撃が行われている。

人間が築き上げた傲慢な文明は、今まさに自らが撒いた種によって刈り取られようとしていた。

 

雷光は、静かに拳を握りしめた。

このまま黙っていれば、地球の免疫機能である魔獣たちによって、

人類は確実に排除されるだろう。

しかし、彼ら魔獣を兵器として、あるいは友として生きてきた自分たちに、

引き返す道は残されていない。

 

「……一度たりとも、敗北は許されないわけか。」

 

雷光の声は冷たく、だが鋼のような強さを帯びていた。

 

深夜の病院。廊下を走る看護師の足音。遠くで響く倒壊音。

人類と魔獣。かつて愛し合った者たちが、

今や種の存亡を懸けた「叛乱戦争」の泥沼に足を踏み入れている。

彼らは知っていた。この夜が終わる頃には、

さらに凄惨な「開戦の合図」が世界中に響き渡ることを。

 

二人の魔獣使いは、戦士の沈黙を守りながら、

来たるべき地獄のような黎明を待ち続けていた。




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