携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第五十一話-真の危機-

陸上でグラードンが「噴火」による絶望を撒き散らしていたその時、

青き海原もまた、静かなる破滅の予兆に包まれていた。

 

海域での戦闘は、もはや戦略という概念が意味をなさない泥沼の消耗戦と化していた。

倒しても倒しても、深海から湧き上がるように現れる野生魔獣の群れ。

水君と晴香率いる海空連合艦隊は、精神を削りながらのいたちごっこを強いられていた。

水君の相棒、カメックスは先のミロカロスとトドゼルガによる猛攻で深手を負い、

戦線離脱を余儀なくされている。代わって戦場に投入された三番手のスターミーが、

幾条もの「サイコキネシス」と「100万ボルト」を放って敵を退けていたが、

その五角形の核は疲労で不気味に点滅し始めていた。

 

だが、真の絶望は、波の下から音もなく忍び寄っていた。

 

海中を進む海上自衛隊最強の潜水艦、「軍龍」。

そのソナー室に、異常な緊張が走る。

 

「……艦長! 方位二-四-零、深度四百!巨大な動体反応を捕捉!」

「何?鯨か、それとも魔獣か……」

 

艦長、浪花は冷静を装いつつも、モニターに映る異常に巨大な光点に目を見張った。

そのサイズは既存のいかなる生物の記録にも合致しない。

浪花は直ちに海上旗艦の晴香へ連絡を入れた。

 

「山村二佐、こちら軍龍。正体不明の超大型目標が接近中。視認可能?」

「こちら山村。海上には水型と飛行型の小規模な群れのみ……。待って、海面の色が変だわ……」

 

晴香は双眼鏡を覗き込み、周囲の海域を凝視した。

しかし、荒れ狂う波間に見えるのは、襲い来る魔獣たちの影だけだった。

 

その直後、軍龍と並走していた随伴潜水艦の一隻が、通信を絶った。

 

「潜水艦『潮龍』、沈黙! 強烈な『水の波動』を感知……一撃で圧壊しました!」

 

姿なき暗殺者。ソナーに映る「何か」は、

圧倒的な殺意を持って人類の牙城を崩しにかかっていた。

 

「全門開け! 散弾型水中ミサイル、斉射!!」

 

浪花の怒号が艦内に響く。

軍龍の艦首から放たれた無数のミサイルが、気泡の尾を引いて「何か」へと向かった。

数秒後、深海で巨大な爆光が炸裂する。

凄まじい水中爆発によって海面が大きく盛り上がり、大量の泡が吹き出した。

 

「命中!目標、爆芯の中央です!」

 

オペレーターの声に、艦内に安堵の空気が流れた。

どんな魔獣であれ、この火力を食らって無事でいられるはずがない。

浪花も、そして通信越しの晴香も、微かな勝利を確信し、笑顔を浮かべた。

 

だが、その笑顔が凍りつくまで、三秒とかからなかった。

 

「……嘘、加速している!?爆炎を突き抜けて、こちらに……来るぞ!!」

 

ソナー担当の悲鳴が止まないうちに、軍龍の目前に「それ」は現れた。

ミサイルの直撃をものともせず、漆黒の深海を裂いて飛来する巨大な質量。

 

「艦長――――──────―――――!!」

 

回避は不可能だった。

「何か」は、その巨大な鰭を広げ、音速に近い速度で軍龍の横腹に「突進」を敢行した。

全潜水艦部隊の要であり、最強の防御を誇った鋼鉄の巨鯨「軍龍」は、

紙細工のようにひしゃげ、内部から連鎖爆発を起こした。

 

海面上まで突き抜ける巨大な衝撃波。

海上旗艦「武龍」の巨体が、まるで小舟のように大きく揺れ、

晴香は指揮官席から投げ出された。

 

「軍龍……!? 浪花艦長!!応答して、浪花!!」

 

無線機から聞こえるのは、ノイズと、冷たい水の流れ込む音だけだった。

軍龍撃沈。それは、日本の海軍力が事実上、終わりを迎えた瞬間だった。

 

「……ッ、出てきなさいよ……この化け物!!」

 

晴香が怒りに燃える瞳で海面を睨みつけたその時、

海を二つに割り、漆黒の巨体が姿を現した。

 

全長約40メートル。

身体中に赤い血のような紋様が走り、

両端には飛行機の翼のような巨大な鰭を持つ、伝説の神獣――カイオーガ。

それは海そのものの意志。大地を呑み込み、

世界を水底へと沈めるべく現れた「海の神王」だった。

 

【挿絵表示】

 

「……あいつが、軍龍を沈めた正体ね」

 

晴香の声は、極度の怒りと悲鳴を押し殺したような、

不気味なほど冷徹なものに変わっていた。

作戦本部では正人が、二体目の神獣出現という報告に、戦慄のあまり言葉を失っていた。

陸にはグラードン、海にはカイオーガ。地球が、人類を本気で「殺し」に来ている。

 

「全艦隊、総員戦闘配置!目標、カイオーガ!!

総力を持ってこれを攻撃、一欠片も残さず抹殺しなさい!!」

 

晴香の号令と共に、武龍の主砲が咆哮を上げ、対潜・対艦ミサイルが空を埋め尽くした。

水君は、この戦いが自分たちの手に負える領域を超えつつあることを直感した。

彼は疲弊したスターミーを一度ボールに戻し、激動する海面を見つめて息を呑む。

 

晴香は、激しく震える己の手を隠すように、

首から下げたロケットペンダントを握り締めた。

中にあるのは、もう二度と会うことのできない最愛の息子の写真。

 

「……負けない。ここでアンタに世界を渡すわけにはいかないのよ」

 

海の神が咆哮を上げる。

それに応えるように、空からは滝のような豪雨が降り注ぎ始めた。

カイオーガの特性『雨降らし』。

世界を青い地獄へ変える、審判の幕が上がった。




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