携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第五十三話-武龍沈没-

海域の戦闘は、地上の「一方的な蹂躙」とは異なり、

人類の意地と神獣の権威が真っ向から衝突する、

壮絶なシーソーゲームの様相を呈していた。

旗艦「武龍」を中心とした残存艦隊は、晴香の冷徹な指揮と、

水君が操るカイリューの機動力によって、伝説の神獣・カイオーガを包囲。

荒れ狂う波濤の中で、奇跡的とも言える連携を見せていた。

 

「休ませるな!カイリュー、『破壊光線』!!」

「武龍、主砲斉射!!」

水君の叫びに合わせ、カイリューの口から放たれた黄金の熱線がカイオーガの背を焼き、

同時に武龍の巨砲が火を噴く。

至近距離での爆破が海面を割り、カイオーガの巨躯に衝撃が走り続ける。

着実にダメージは蓄積していた。

神といえど無敵ではない。だが、人類側のリソースも無限ではなかった。

 

「物理兵器じゃ埒が明かないわ……!水ちゃん、属性攻撃を畳み掛けて!!」

 

晴香の指示を受け、水君はカイリューの瞳に宿る真の力を引き出した。

 

「いけ、カイリュー! 『雷のパンチ』!!」

 

蒼き龍が雨を切り裂き、カイオーガの懐へと飛び込む。

その拳に超高圧の電流が凝縮され、パチパチと青白い火花を散らす。

カイオーガの脇腹に拳が沈み込む。

水を通じ、数千万ボルトの電撃が神獣の巨体を駆け抜けた。

カイオーガが、これまでにない苦悶の咆哮を上げる。

雷の衝撃に巨体が痙攣し、その猛攻の手が微かに止まった。

 

「いける……! 電気技が通るわ!全艦、この隙に集中砲火!!」

 

晴香の瞳に希望の光が宿る。

今のうちに攻めきれば、神を討つという前人未到の偉業すら成し遂げられるかもしれない。

 

だが、カイオーガは「海を司る神」だった。

奴は己の傷を顧みず、その巨大な鰭を大きく広げ、空を仰いだ。

特性『雨降らし』の真の覚醒。

それまで降り続いていた雨が、突如として視界を奪うほどの豪雨へと変わり、

海面には立ち上がるほどの荒波が逆巻き始めた。

 

「(……まずい。この雨、ただの強化じゃない。まさか、電気を……逆手に取る気!?)」

 

水君の直感が警鐘を鳴らす。

そう、カイオーガの狙いは、

この豪雨を利用して「ある技」を絶対命中させることにあった。

 

カイオーガが海を揺るがす咆哮を上げると同時に、

墨色の暗雲から巨大な稲妻が引きずり出された。

『雷』。

雨天においては必中となる天の裁き。それはカイリューに向けられたのではなく、

海面に浮かぶ「鉄の島」たちへと降り注いだ。

 

海水を媒介に、凄まじい電撃が艦隊を襲う。

耐えきれなくなった護衛艦が次々と内部から爆発し、海上に炎の花を咲かせていく。

 

「武龍、耐えて!!」

 

晴香が叫ぶ。武龍は特殊装甲によって何とか致命傷を免れたが、

計器類は火花を吹き、システムは断末魔のようなアラートを鳴らし続けた。

 

晴香が反撃の指示を出そうと口を開きかけた、その刹那。

カイオーガの全身が、深淵のような青に発光した。

奴は海中から莫大な量の水分を吸い上げ、その背の噴孔から、

一滴一滴が砲弾にも匹敵する巨大な水の粒を、全方位に向けて一斉に掃射した。

最大威力の究極技――『潮吹き』。

 

「なっ……!?」

 

それはもはや技ではなく、全方位への「処刑」だった。

空を飛ぶ水君とカイリューに、そして海上に残された全戦艦に、

超高圧の水の弾丸が降り注ぐ。

 

「最強」を誇った武龍の厚い装甲が、まるで紙屑のように撃ち抜かれていく。

艦橋のガラスが砕け散り、甲板は八の巣となって爆炎が噴き出した。

 

「艦長!!隔壁が突破されました!水が……水が流れ込んできます!!」

 

操舵士の悲鳴も、爆発音にかき消された。

 

武龍が、ゆっくりと、しかし確実に傾いていく。

人類の海戦における最後の牙城が、等々、耐えの限界に達した。

 

「……ここまでなの……? いいえ、絶対に……!!」

 

晴香は、激しく揺れ、浸水し始めた艦橋で、首から下げた写真を強く握りしめた。

 

「裕太……裕太!!母さんはまだ、あなたの元へ帰らなきゃいけないのよ!!」

 

裕太。写真に写る、あどけない笑顔の息子。

その名を叫びながら、晴香は崩れゆく甲板から荒れ狂う海へと身を投げた。

同時に、最後の一球を海面へと叩きつける

「出てきなさい、ギャラドス!!」

 

海面に巨大な水飛沫が上がり、凶悪な面構えのギャラドスが姿を現した。

 

【挿絵表示】

 

晴香は冷たい海に揉まれながらも、必死にギャラドスの背中にしがみつく。

直後、彼女の背後で、凄まじい爆発音が轟いた。

 

武龍が、巨大な炎の華を咲かせながら、

重厚な鋼鉄の身体を折って海中深くへと沈んでいく。

かつて海上の希望であった戦艦は、渦を巻く深淵へと吸い込まれ、

二度と浮上することのない墓標となった。

 

「晴香さん!!」

 

カイリューに乗って急降下してきた水君が、ギャラドスと共に波間に漂う

彼女の無事を確認し、震える声で安堵の溜息を漏らした。

だが、その視線の先には、武龍と共に海に沈んだ数百、数千の命がある。

グラードンの「噴火」に続き、この「潮吹き」の一撃によって

、人類はまたしても、かけがえのない多くの同胞を失った。

 

雨は止まない。

沈みゆく武龍から立ち上る爆炎が、冷たい雨に打たれて虚しく消えていく。

ギャラドスの背で、ずぶ濡れになった晴香は、ただ一点を睨みつけていた。

カイオーガは、勝利を確信したように悠然と潜行を始めている。

 

「……殺してやる。この手で必ず……!」

 

晴香の呟きは、激しい風雨にかき消された。

だが、その瞳に宿る執念の炎だけは、どれほどの荒波に打たれても消えることはなかった。




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