携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第五十九話-禁忌の再構築-

白く無機質な廊下の最奥、厳重にロックされた鋼鉄の扉が開くと、

そこには「医療」という言葉からは程遠い異様な光景が広がっていた。

広大な室内を埋め尽くすのは、脈動する巨大なサーバー、

液体を満たした無数のカプセル、そして解体された兵器のパーツ。

中央に鎮座する特型カプセルの中では、炎帝の半身であるリザードンが、

泥のような緑色の薬液に浸され、管に繋がれている。

 

カプセルの傍らには、一人の男が立っていた。

白衣は汚れ、乱れた髪の間から覗く瞳は、獲物を前にした爬虫類のように湿っている。

男はニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべ、紫煙をリザードンに向けて吹きかけた。

 

「んふっ!初めまして、炎帝さん。僕が貴方のリザードンを……

いえ、『それ』を復活させてご覧に入れましょうぅ……」

「……あ、ああ……」

 

炎帝は本能的な嫌悪感に身を震わせた。

医師団長がこの男の耳元で何かを囁くと、研究員はさらに口角を吊り上げた。

 

「うふっ!ただぁ、条件がありますぅ……」

「条件……?金ならいくらでも払う、国にだって掛け合ってやる!」

「んっふ!お金じゃないんですぅ……。今後一切、貴方のリザードンは公式戦……

いや、魔獣使い同士のバトルは行えませんんっ! 永久追放、ですぅ」

「な、なんでだよ!?治るんだろ? だったら――」

「んふ、それはですねぇ……」

 

数十分後。

炎帝はその条件を飲み、震える手で承諾書にサインをして部屋を出た。

リザードンの再起動までは数時間。驚くほどの短期間で、

相棒は再び戦場へ立てるようになるという。

しかし、廊下を歩く炎帝の顔は土色に引きつっていた。

 

「(本当にこれで……これで良かったのか……。

俺はあいつを、ただのバケモノに変えてしまったんじゃないのか……)」

 

自問自答しながら歩く炎帝の足が、ふと止まった。

「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた、ひときわ重厚な扉。

そこから漏れ出る、背筋が凍りつくような冷気に誘われるように、

彼は息を呑んで隙間から中を覗き込んだ。

 

部屋の中は静まり返っていたが、

そこには「リザードンの改造」など児戯に思えるほどの絶望が鎮座していた。

無数の太いコードが血管のように絡みつき、天井から吊り下げられた謎の魔獣。

それは全身を機械装甲で覆われ、沈黙の中で時を待つ死神のようだった。

その魔獣が放つ圧倒的な「無」の威圧感に釘付けになっていると、

背後から冷たい気配が忍び寄った。

 

「見てしまったんだね……」

 

炎帝の肩を叩いたのは、医師団長だった。

その瞳は、先ほどまでの冷静な医師のそれではない。

深淵のような狂気を孕み、獲物を定める冷徹な光を湛えていた。

 

「は……あ……あ……」

 

声が出ない。炎帝は悟った。

この場所で行われているのは救済ではなく、

終わりなき戦争のための「地獄の創造」なのだと。

 

「……ッ!!」

 

激しい耳鳴りと共に、雷光は意識の深淵から浮上した。

視界が激しく揺れ、自分が今どこにいるのか、何が起きたのかが理解できない。

肺に吸い込む空気は砂と焦熱の臭いに満ちている。

 

朦朧とする意識の中で、彼は懸命に記憶の断片を繋ぎ合わせた。

 

「(自分は……戦っていた。大悟さんと合流して……

バンギラスを止めて。炎帝を見送って……それから……?)」

 

そうだ。グラードン。大地の神。

奴が放った最強の奥義――『噴火』。

あの核爆発にも似た衝撃波と熱風に巻き込まれ、

自分は吹き飛ばされたのだ。

 

「う、あ……」

 

雷光は震える腕で地面を突き、辺りを見回した。

そして、その光景に絶句した。

そこは、かつての戦場ではない。「墓場」だった。

哲も、茂も、誇り高き陸上部隊の兵士たちも、

全員が糸の切れた人形のように倒れ伏している。

90式戦車は鉄屑のようにひしゃげ、ヘリの残骸が黒煙を上げて転がっている。

立ち上がっている者は、自分以外に一人もいない。

 

そして、その惨状の中央に、災厄の権現がいた。

グラードン。

神獣は、生き残った羽虫など興味もないと言わんばかりに、

巨躯を揺らしながら歩き出していた。

その進撃の先には、まだ避難が完了していない民家が立ち並ぶ街がある。

 

地響きが起きるたび、大地が悲鳴を上げ、街の建物がドミノのように崩れていく。

このままでは、さらに数え切れない命が失われる。

 

「……ふざけるな……」

 

雷光は全身の細胞が上げる悲鳴を無視し、折れかけた膝に力を込めた。

傷口が開き、鮮血が滴る。

 

「……ここで終わらせてたまるかよ……!!」

 

彼は泥にまみれたモンスターボールを拾い上げ、

地平線の向こうへと消えゆく紅い背中を見据えた。

独り。死地の中で、少年は再び立ち上がった。




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