携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第六十話-泥濘の死闘-

焦熱の風が吹き荒れ、灰が雪のように降り積もる戦場。

雷光は、震える手で地面を押し、砕けた大地から這い上がった。

視界の端では、相棒のボーマンダが首をもたげようとしている。

その巨躯には爆風による無数の裂傷が刻まれ、誇り高き蒼い翼は煤に汚れ果てていた。

 

「……ボーマンダ、生きてるか……?」

 

雷光がそっとその首筋に触れると、龍は低く、地鳴りのような鳴き声を上げた。

それは、絶望の淵にあっても消えることのない咆哮だった。

 

「良かった……まだ、戦えるな」

 

雷光はふらつく足取りで、数メートル先に倒れていた哲と茂のもとへ駆け寄った。

二人の体は土埃にまみれ、微動だにしない。

 

「哲さん! 茂さん! 大丈夫ですか!?」

 

悲痛な叫びと共に肩を揺さぶると、

哲が苦悶の表情を浮かべながら、ゆっくりと瞼を開いた。

 

「……ん、ああ、雷光君……。俺は一体……。そうか、グラードンの『噴火』で……」

「茂さんは!?返事をして下さい!」

「……あ……、んんっ……。ここは……ハッ!グラードンはどうした!?」

 

茂が弾かれたように飛び起き、周囲を見渡した。

 

「グラードンなら、あそこに……。このままでは、街が呑み込まれてしまいます」

 

雷光が指し示した先では、伝説の神獣が、

夕闇を赤く染める溶岩のような体躯を揺らしながら歩を進めていた。

その一歩ごとに大地が悲鳴を上げ、

地平線に霞む住宅街へと着実に死の足音が近づいている。

 

三人は満身創痍の体を引きずり、立ち上がった。

哲の相棒・オーダイルもまた、鱗を血に染めながら立ち上がり、

主人の背を守るように顎を鳴らした。

しかし、茂のウインディは運悪く、

噴火の際に吹き飛ばされた戦車の装甲板が直撃したらしく、ピクリとも動かない。

 

「……ウインディ、休んでいろ。あとは俺たちが引き受ける」

 

茂は唇を噛み締め、愛する相棒をボールへと戻した。

 

周囲を見渡しても、戦える隊員や兵器はもはや残っていない。

鉄屑と化した戦車の列、通信の途絶えた無線機。

正人たち作戦本部との繋がりも断たれ、

彼らは文字通り、孤立無援の騎士となった。

 

「行くぞ……!街に届かせる前に、奴を止める!」

雷光は再びボーマンダの背に跨り、空へと舞い上がった。

地上の哲と茂、そしてオーダイルも、

泥濘に足を取られながらも神獣の背中を追い、疾走する。

 

グラードンの動きは鈍い。

しかし、その鈍重さは「揺るぎない絶対」の象徴でもあった。

 

「哲さん、茂さん!今度は足元だ!奴の爪を狙って、バランスを崩させる!」

 

上空からの雷光の指示に、地上で併走する二人が頷く。

 

「オーダイル、『ハイドロポンプ』!!」

 

哲の号令と共に、オーダイルが最大出力の激流を放った。

高圧の水流がグラードンの巨大な足の爪に直撃し、蒸気が爆発的に立ち上がる。

グラードンの巨躯が微かにぐらついた。

水タイプという弱点をついた攻撃は、確実に神の肉体を削っている。

 

「今だ、『竜の息吹』!!」

 

雷光のボーマンダが、正面からグラードンの顔面に向けて青白い衝撃波を吐き出した。

無防備な顔面に直撃し、グラードンが顔を背ける。

 

「俺も行くぞ!!出番だ、『ラグラージ』!!」

 

茂が二番手のボールを投じた。

現れたのは、水と地面の二重属性を持つ剛腕の魔獣。

 

「ラグラージ、『冷凍光線』!!」

 

オーダイルの激流に追い打ちをかけるように、

極低温の氷線がグラードンの膝を凍りつかせようと奔る。効果は抜群。

連携攻撃は、絶望的な戦況の中に微かな勝機を照らし出した。

 

だが、神の怒りはそこからだった。

ボーマンダ、オーダイル、ラグラージ。

最終進化系三体による波状攻撃を受けてなお、

グラードンの闘志は衰えるどころか、より一層禍々しく研ぎ澄まされていく。

 

「……嘘だろ、あんなに喰らって、まだ歩みを止めないのか!?」

 

茂が戦慄する。グラードンの黄金の瞳が、自分を苛む羽虫たちを捉えた。

奴がその巨大な腕を大地に突き立てた瞬間、戦場に亀裂が走った。

 

『地割れ』。

 

「逃げろォッ!!」

 

哲の叫びと同時に、大地が奈落の底へと崩壊した。

命中率こそ低いものの、その威力は文字通り「死」そのものだ。

割れた地面の先には、光の届かない闇が広がり、

まるで冥界へと直接繋がっているかのような不気味な深淵が口を開けている。

間一髪で回避したものの、足場は不安定を極め、精神的な圧迫感が増していく。

 

「来るぞ、構えろ!!」

 

雷光が叫ぶ。グラードンの口内に、太陽よりも熱い火の玉が収束されていく。

通常、水タイプの魔獣を前にして炎技は不利なはずだ。

しかし、この戦場はグラードンの特性『日照り』によって極限まで乾燥している。

 

「『大文字』!!」

 

大気を焼き尽くす「大」の字の猛炎が、地上で展開する哲と茂を襲った。

 

「オーダイル、防げ!!」

「ラグラージ!!」

 

二人は即座に防御の指示を出すが、神の放つ熱量は計算を遥かに上回っていた。

 

「ぐあああああッ!!」

 

爆発的な熱風が二人を吹き飛ばす。

ギリギリで直撃は免れたものの、茂が瓦礫に足を挟まれ、鈍い音と共に膝を折った。

 

「茂さん!!」

「……クソッ、足をやられた……。だが、まだ死んでねぇぞ!!」

 

苦悶に満ちた茂の顔。

グラードンの攻撃頻度が、先ほどまでとは比較にならないほど上がっている。

 

上空でボーマンダを旋回させながら、雷光はその光景を凝視した。

「(何かがおかしい……。

奴は動きが鈍いはずなのに、なぜ僕たちの動きが読まれているんだ?

なぜ、攻撃を重ねるたびに奴は強くなっていく……?)」

 

雷光は、自分たちの「今までの戦い方」を見直し始めた。

ただタイプ相性に頼り、火力をぶつけるだけの連携。

それは、かつて数多の魔獣使いたちが、

そして軍隊が試み、敗れ去ってきた「死のルーチン」ではないのか。

神を討つには、人間の理屈(セオリー)を捨てなければならない。

 

街の灯りが、背後に迫っている。

雷光は折れかけた心に、新たな闘志の火を灯した。




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