吹き荒れる熱風の中、雷光の脳裏を一つの不吉な仮説がよぎっていた。
これまで放ってきた「効果抜群」のはずの水技。氷の礫。それらを受けるたび、
グラードンの紅い紋様はより深く、より禍々しく発光しているように見えた。
攻撃が効いていないのではない。むしろ、外側からの衝撃が奴の闘争本能――
あるいは「大地のエネルギー」を活性化させ、逆にパワーを充填させているのではないか。
「……ボーマンダ、降りろ!哲さんたちのところへ!」
雷光の指示を受け、蒼き龍が地響きを立てて着地する。
雷光は飛び降りるなり、傷ついた哲と茂に駆け寄った。
「……? どうした雷光君、攻撃の手を休めるな!街に入られるぞ!」
哲がオーダイルを鼓舞しながら叫ぶが、雷光の表情は極めて深刻だった。
「もしも……今までしてきた攻撃が、逆効果だとしたらどうしますか……?」
「なに? ……どういうことだ?」
哲の動きが止まる。
「俺たちは奴の鈍重さに付け込み、セオリー通りの弱点攻撃で抹殺を狙ってきました。
ですが、水技を浴びせるほど奴の威力は増し、攻撃頻度も上がっています。
まるで……外側からの刺激を餌にしているみたいに」
「……奴に攻撃をしてはダメと言うことか?」
「いえ、違います。ただ、外殻を叩くだけでは、この神は倒せないということです。
内臓から……奴の体内へ直接、破壊的なダメージを与えることができれば、
それが決定打になるはずです」
「体内……だが、一体どうやってあの巨大な口の中を狙うと言うんだ。
不用意に近づけば、それこそ大文字で焼き尽くされるぞ」
茂が苦渋に満ちた声を上げる。
三人が沈黙し、迫りくる絶望的な足音に震えていた、その時だった。
崩落したビルの中、土煙を割って一機の鋼鉄のヘリコプターが浮上した。
「……ガガッ……こちら大悟。雷光君、聞こえるか?」
無線機から漏れたのは、死地を潜り抜けた男の不敵な笑い声だった。
「だ、大悟さん!無事だったんですか!?」
「ハハ、額を少し割って右腕を折ったくらいさ。どうにか生きているよ。
……この『翼竜』の装甲は、伊達に税金を食ってないからね。
他の兵器と一緒にしないでくれ」
大悟の生存。
それは、この絶望的な盤面における最後の一手だった。
「大悟さん!グラードンを倒すための、唯一の方法があります。
……協力してくれますか?」
「ん? お願い?いいだろう、この化け物に一矢報いなきゃ、
死んだ部下たちに顔向けできないからな」
雷光は早口で、自らが編み出した「体内爆破」の戦術を大悟に吹き込んだ。
それは針の穴を通すような精密さと、命を懸けたタイミングの同期が必要な、
あまりにも危険な賭けだった。
再び、ボーマンダが空を切り裂く。
地上では哲のオーダイルと茂のラグラージが、
文字通り「死に物狂い」の囮となってグラードンの足元へ肉薄した。
「いけっ!『ハイドロポンプ』!!」
二体の水魔獣が放つ最大火力の激流が、グラードンの膝を激しく叩く。
神獣が地響きを立ててよろめき、その黄金の瞳が足元の「羽虫」へと向けられた。
怒りに震えるグラードンが、報復の『大文字』を放とうと巨大な顎を開く。
「防げっ!!二人の連携だ!!」
哲と茂が叫ぶ。放たれた紅蓮の「大」の字を、
二本の水流が真っ向から受け止め、周囲は一瞬で白濁とした蒸気に包まれた。
その視界不良の瞬間を、雷光は見逃さなかった。
「今だ、ボーマンダ!!」
上空から急降下したボーマンダが、グラードンの頭部をかすめながら『竜の息吹』を叩き込む。
不意を突かれたグラードンの注意が、地上から空へと跳ね上がった。
標的は、目の前の蒼き龍。
グラードンがボーマンダを焼き尽くさんと、
その巨大な口腔を最大限に広げ、喉の奥から凝縮された熱線を吐き出そうとした、その刹那。
「ここだ───────────!!」
大悟の咆哮が無線機を震わせた。
死角から音もなく接近していた翼竜が、
グラードンの喉笛を正確にロックオンし、特殊徹甲ミサイルを発射。
それと同時に、雷光が叫ぶ。
「ボーマンダ、ミサイルを焼け!!『ほのおのうず』!!」
放たれたミサイルを、ボーマンダの放つ渦巻く火炎が包み込んだ。
超高温の炎を纏ったことで、ミサイルの推進力と爆発エネルギーは極限まで増幅され、
一条の彗星となってグラードンの口中へと吸い込まれていった。
ミサイルは、グラードンの熱い喉を滑り落ち、
その「大地を煮る胃袋」の最深部へと到達した。
次の瞬間。
――――ゴ、ォォォォォォンッ!!
籠ったような、しかし地殻変動を思わせる凄まじい衝撃音がグラードンの体内から響き渡った。
外側から叩いても傷一つ付かなかった皮膚が、
内側からの圧力に耐えきれず、風船のように膨らみ――そして。
神の断末魔が天を衝いた。
グラードンの頑強な腹部が内側から爆ぜ、紅い肉片と共に、
マグマのように熱い鮮血が噴水となって吹き出した。
あの大地のように硬かった歩みが、ガクガクと震え始める。
その巨躯が、ゆっくりと、しかし確実に、前向に崩れ落ちていく。
街の入り口、あと数十メートルというところで、大地の神はその膝を折った。
巻き上がった土煙が、夕闇の中に立ち込める。
倒したか?
この星の歴史そのものである、あの神を――。
雷光は荒い息をつきながら、煙の向こう側を凝視した。
ボーマンダの背で、その手が小さく震えていた。
勝利の確信よりも、神を殺してしまったという畏怖が、
冷たい汗となって背中を伝っていた。
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