携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第六十三話-確かな生命の煌めき-

大地の神、グラードンとの死闘は、もはや生存を賭けた戦いではなく、

互いの存在を削り合う地獄の消耗戦と化していた。

かつて戦場を埋め尽くした戦車大隊は沈黙し、空を覆ったヘリ部隊も、

今や大悟の操る「翼竜」一機を残すのみ。

雷光の手元に残された魔獣も、ボロボロになった三体だけだった。

 

静寂を切り裂くように、雷光の耳元の無線機からノイズ混じりの声が響く。

 

「ハ、ハイ大悟さん!?どうしたんですか!?」

 

直感的な恐怖が雷光を襲う。大悟の声は、酷く静かで、透き通っていた。

 

「雷光君……君にお願いがある……」

「え?なんですか?」

「冬美……いや、僕の女房に……僕が『ごめん』と言っていたと、伝えてくれ……」

「え? ……大悟さん?」

 

雷光の心臓が早鐘を打つ。その言葉の意味を、脳が拒絶しようとしていた。

 

「僕は、冬美の反対を押し切ってこの戦いに来た……。

必ず帰ると約束したが、守れそうに無い……。だから、そう伝えて欲しいんだ……」

「大悟さん……!?何を言ってるんですか!一緒に帰るんでしょ!?」

「……君は生き残れ。……頼んだぞ」

 

ブツッ、という無機質な切断音が響く。

 

「だ、大悟さん?!大悟さん?!」

 

呼びかけに応える者はいない。

通信の向こう側で、大悟は操縦席の計器を全開にし、機体の安全装置をすべて解除していた。

 

「(君が生きるためなら、僕は喜んで身を投げ入れよう)」

 

大悟は独り、微笑んでいた。

操縦桿を限界まで倒し、翼竜のアフターバーナーが夜の闇を切り裂く紅蓮の尾を引く。

雷光が顔を上げた瞬間、視界を横切ったのは、弾丸と化した鋼鉄の塊だった。

翼竜は重力を無視した超スピードで、

グラードンの背中に赤黒く脈動する「噴火口」へと一直線に突き進んでいく。

 

「大悟さ───────────────ん!!」

 

雷光の、哲の、茂の、生き残った者たちすべての絶叫が戦場に木霊した。

グラードンが最後の一撃――すべてを無に帰す「噴火」を放とうと、

背中の噴孔を最大に広げ、地殻エネルギーを凝縮させたその刹那。

残存するすべての爆弾を積み、燃料を満載した翼竜が、

その深淵へと真っ逆さまに突き刺さった。

 

――――ドォォォォォォォォォンッ!!!

 

世界が真っ白な閃光に包まれた。

噴火のエネルギーと翼竜の自爆が内部で衝突し、グラードンの巨躯が内側から弾け飛ぶ。

神の絶叫。口からは炎ではなく、ドロドロに溶けたマグマのような鮮血が溢れ出した。

皮膚は内側からの高熱で焼き爛れ、大地の化身と呼ばれたその体躯が、

泥のように崩れ落ちていく。

グラードンは最後の一際大きな雄叫びを天に捧げると、

二度と動かぬ岩塊へと変わり、絶命した。

 

静寂が訪れる。

雷光たちは、ただ立ち尽くし、ボロボロと涙を流した。

大悟という一人の男の命と、陸海空すべての尊い犠牲。その屍の山の上に、

ようやく二体の神獣は沈黙したのだ。

 

だが、戦いは終わらない。

神々の王、空を司る最強の敵――レックウザが、成層圏から死の影を落としていた。

 

灰色の空の下、壊滅状態に陥った自衛隊の作戦本部では、重苦しい沈黙が支配していた。

モニターには、圧倒的な速度でこちらへ接近するエメラルドの光点が映し出されている。

もはや迎撃ミサイルも、戦車も、熟練のパイロットも残っていない。

戦えるのは、満身創痍の雷光たち少年少女だけだ。

 

「……『彼』を出撃させますか……」

 

一人の幹部自衛官が、震える声で提案した。

その言葉に、会議室の温度が一段下がったような錯覚を覚える。

 

「!? ちょっと待ってください!!彼はまだ……戦える状態では!!」

「しかし今の戦力では、レックウザには対抗できません……。

街を、国を、更地にするつもりか?」

「彼は私たち人類の最後の希望だ……。ここで使わずして、いつ使うと言うのだ?」

「しかし、彼はまだ実験段階です……。戦闘能力の強化を最優先させたため、

精神的に極めて不安定な部分がある。……もしも暴走などしたら、

レックウザ以上の災厄になりかねない!」

 

反対の声が上がる中、中央に座る最高責任者が、深く、重い溜息をついた。

その瞳には、もはや人間としての感情は残っていない。

 

「……いや、出撃させよう。人類が滅びるよりはマシだ」

「!?……分かりました。最終執行、開始します」

 

戦争開戦からおよそ十余時間。

人類と魔獣の死闘は、いま、真の最終局面(ラスト・フェーズ)を迎えた。




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