草木も、鉄の巨体も、
そして共に笑い合った仲間たちの命も、すべてが焦土へと還った無人の大地。
雷光、哲、茂の三人は、むき出しの岩肌に腰を下ろし、
ただ静かに、変わり果てた世界の成れの果てを眺めていた。
視界に映るのは、もはや「希望」と呼べるほど輝かしいものではなく、
かといって「絶望」と吐き捨てるほど安易なものでもない。
ただ、心臓が動いている。肺が煤混じりの空気を求めている。
生き残ってしまったという事実だけが、鉛のように重く彼らの肩にのしかかっていた。
「……これは、俺たちに課せられた『試練』なんだな」
雷光が絞り出した声は、風にかき消されそうなほど細かった。
だが、その瞳の奥には、退くことを許さない強固な意志が、残り火のように灯っていた。
その時だった。
天が裂けた。
それはグラードンが大地を割った衝撃でも、サンダーが放った雷光の輝きでもなかった。
地上すべてを一瞬で白濁の闇へと塗り替えるような、圧倒的な「純光」。
生物の網膜を焼き、心の深淵に隠した罪悪感さえも暴き立てるような、
万物を見通す神の眼差し。
雲を割り、光の渦の中心から姿を現したのは、
天空の支配者にして、この世の調停者――天神龍レックウザ。
レックウザはエメラルドの輝きを放つ長い巨躯をうねらせ、
その冷徹な眼孔で地上の三人を見据えた。
言葉はなくとも、伝わってくる。神は、彼らの心の中に渦巻く葛藤、殺意、
そして生き延びるために積み上げてきた「破壊」の歴史を、すべて読み取っていた。
そして、レックウザは断罪を下すかのように、天を揺るがす雄叫びを上げた。
その咆哮は、彼らに対する「敵意」の表明だった。
神さえも、敵に回した。
神の眼には、自然の摂理を乱し、
同胞を犠牲にしながら神獣を屠ってきた雷光たちは、もはや「悪」と映ったのだろう。
自分たちが歩んできた道は、正しかったのか。
それとも、単なる独りよがりの殺戮だったのか。
答えは、出口のない迷宮のように彼らを惑わせる。
だが、立ち止まることは死を意味する。
答えを知る権利があるのは、この地獄を生き残った勝者のみなのだ。
「俺たちが例え悪でも、悪が善に勝てない道理なんてない……
神を倒し、俺たち人類は生き続けてやる!!」
雷光は叫び、最後の力を振り絞って立ち上がった。
「頼むぞ、ボーマンダ!ライチュウ!!」
二体の魔獣が、主の覚悟に呼応して咆哮する。
雷光はライチュウを肩に乗せ、ボーマンダの背へと跨った。
勝っても負けても恨みなし。
人類の存亡を懸けた、悔いなき最後の特攻。
「ボーマンダ、『竜の息吹』!!」
先制の一撃。蒼い龍の口から放たれた衝撃波がレックウザを襲う。
しかし、レックウザはわずかに身を翻すだけで、その一撃を紙一重で回避した。
避けたというより、まるで攻撃の軌道が最初からそこには無かったかのような、無駄のない動き。
「お返しだというのか……!?」
次の瞬間、レックウザの姿が視界から消えた。
ボーマンダが悲鳴を上げる。レックウザの『逆鱗』。
目にも止まらぬ速さで繰り出された爪と尾の一撃が、
ボーマンダの側腹部を深く切り裂いた。反応することさえ許されない。
神の速度は、すでに生物の限界を超えていた。
「立て直せ!ライチュウ、『1000万ボルト』!!」
雷光の指示と共に、ライチュウがその小さな体に蓄積した全エネルギーを解放した。
黄金の雷が網目状に広がり、天空を埋め尽くす。
これまでの戦いであれば、どんな高速移動を誇る敵でも、
この広範囲攻撃を避けることは困難だった。
だが、レックウザは表情一つ変えず、雷の隙間を縫うようにして滑空した。
一万の雷に触れることすらなく、再び攻撃態勢へと移行する。
「くるぞ、レックウザの『神速』だ!!」
回避の指示を出す暇もなかった。
衝撃波が走り、ボーマンダの背に乗っていた雷光とライチュウに、
凄まじい直接打撃がヒットした。内臓がひっくり返るような衝撃。
ボーマンダの機動力だけに頼らざるを得ないこの状況では、神の速度に対応しきれない。
数秒の沈黙の後、雷光は賭けに出た。
「ボーマンダ、『影分身』!!」
天空に、十数体のボーマンダが同時に出現した。
レックウザを円形に包囲し、どれが本体か判別不能にする攪乱作戦。
だが、雷光の狙いは攪乱そのものではない。
分身が消える前の一瞬、回避不能の必中技を叩き込む。
「今だ!『燕返し』!!」
分裂したすべてのボーマンダが、翼を刃のように光らせ、
中心のレックウザへと超高速で突っ込む。
必中の理を持つこの技ならば、神といえども逃げ場はないはずだ。
しかし、レックウザの眼は欺けなかった。
神の双眸は、残像に惑わされることなく、確実に雷光を乗せた「本物」の気配を捉えていた。
レックウザが大きく口を開く。
突っ込んでくるボーマンダの眉間を狙い澄まし、
太陽を切り取ったかのような極太の熱線――『火炎放射』を解き放った。
「ぐ、あああああぁぁぁぁッ!!!」
回避行動の最中に炎を真正面から浴び、ボーマンダの翼が焼ける。
墜落を免れるのが精一杯の状態。攻撃を継続することなど、もはや不可能に近い。
一歩、また一歩と。
確実な足取りで、雷光の意識の中に、これまで否定し続けてきた「敗北」の二文字が、
残酷なほど鮮明に浮かび上がっていく。
絶望の影が、再び大地を飲み込もうとしていた。
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