天空の覇者、レックウザの圧倒的な武威の前に、
長年の友であったボーマンダを失った雷光。
焦土と化した大地に叩きつけられ、残された手札は、
地上を駆けるライチュウと、戦闘経験の乏しい臆病なプリンのみ。
物理的な破壊力、神域の速度、そして鉄壁の防御。
そのすべてを兼ね備えた「神」を相手に、正攻法での勝機は万に一つも残されていない。
しかし、雷光の瞳に宿る灯火は、かつてないほど冷徹に、そして鋭く研ぎ澄まされていた。
「ライチュウ、地を這え!逃げるな、攻めてこじ開けろ!!」
合図と共に、ライチュウが黄金の火花を散らして爆走する。
空中戦では発揮しきれなかった本来の脚力が、遮蔽物のない平地で爆発した。
渾身の力を込めた『1000まんボルト』。
極太の雷光がレックウザを射抜こうとするが、神獣はわずかな身のこなしでそれを回避。
即座に、天から裁きの如き『火炎放射』を吐き下ろした。
「止まるな!走り抜けろ!」
雷光の叫びに合わせ、ライチュウは高速移動の残像を残しながら炎の渦を潜り抜ける。
灼熱の爆風が体毛を焦がすが、ライチュウは止まらない。
そのまま天を仰ぎ、空気を震わせる咆哮を上げた。
『雨乞い』。
どんよりとした暗雲が瞬時に上空を覆い、激しい雨が降り注ぐ。
電気タイプのライチュウにとって、必中の環境を整える「布石」。
だが、レックウザもまた、その「層」の厚さを見せつけた。
雨天によって威力を増した『水の波動』。
神獣が放つ水の塊は、もはや単なる水圧ではない。
大気を圧縮した衝撃波を伴い、指示を出す暇もなく雷光の足元を直撃した。
「ぐわあああぁぁッ!!」
雷光の細い身体が木の葉のように吹き飛ばされ、泥濘の中に叩きつけられる。
間髪入れず、レックウザは主人を失ったライチュウを標的に定め、
二撃目の『水の波動』を放とうとする。
だが、雷光は泥を噛みながら、歪んだ口角を吊り上げた。
「(……今だ。攻撃に移る瞬間、奴は無防備になる!)」
「いっけえええ!!『雷』!!」
雨を媒介にした、ライチュウの制裁。
レックウザの頭上から、一点の狂いもなく神速の雷が落ちた。
鼓膜を破らんばかりの衝撃音が響き渡り、雷光は勝利を確信した。
――しかし、そこにあったのは。
「なっ……なんだと?これは一体……!?」
白煙の向こう側、雷に打たれたはずのレックウザが「二体」存在していた。
否。一方は、身代わりとなった抜け殻。
レックウザは、雷が直撃するコンマ数秒の刹那、自らの体力を削り、
分身を作り出す『身代わり』を発動していたのだ。
渾身の『雷』は、無機質な偽物を焦がしただけに過ぎなかった。
やはり、視覚に頼る攻撃ではこの神は堕とせない。
雷光は立ち上がり、最後の賭けに出た。背後に隠れ、
ガタガタと震えていたプリンの前に出る。
「プリン!!怖がるな、俺を見ろ!!
お前の声だけが、あいつを撃ち抜けるんだ……!『ハイパーボイス』!!」
プリンがその小さな胸を大きく膨らませ、喉の奥にあるすべての声帯を限界まで共鳴させた。
それは「歌」ではない。大気を物理的に震わせ、鼓膜を直接破壊する破壊音波の奔流。
神がどれほど速かろうと、どれほど身代わりを立てようと、「音」からは逃げられない。
耳という器官を持つ生物である以上、それは避けることのできない必中の一撃。
初めて、レックウザが苦悶に満ちた声を上げ、その巨大な眼を瞑った。
全神経を揺るがす共鳴現象が、神の平穏な精神を内側から切り裂いたのだ。
「今だ、ライチュウ!重ねろ!!」
衝撃で身動きの取れないレックウザに、
追い打ちの『1000まんボルト』がクリーンヒットする。
ダブルアタック成功。雷光の読みは、ついに神の領域に風穴を開けた。
数合の応酬を経て、初めて傷を負わされたレックウザ。
そのエメラルド色の鱗が逆立ち、濁った殺意が瞳に灯る。
神としての静謐は消え、そこにはただ、逆らう者を抹殺せんとする「暴君」の姿があった。
「(神がなんだ。人々はレックウザを神と呼ぶが、
そんなこと所詮人間が勝手に決めたことだ)」
雷光は、滴る血を袖で拭い、レックウザを睨み据えた。
人々は天災の如き力を恐れ、奴を崇める。だが、どんな高潔な理由があろうと、
仲間を殺し、必死に生きようとする人々に危害を加える存在は、雷光にとって悪に他ならない。
「(奴は俺たちを『悪』と定めた。だが、勝手な理屈で俺たちの『生』を否定するなら、
俺からして見ればお前が『悪』なんだ。)」
怪物の社会には、怪物の秩序がある。
人間の社会には、人間の倫理がある。
この戦場において、絶対的な正義などどこにも存在しない。
あるのは、どちらの信念がより硬く、どちらの牙がより鋭いかという、剥き出しの生存競争。
「……弱き者は生きることが出来ない。それがこの地球、自然界の掟なんだろう?」
雷光は、震えるプリンの頭を優しく撫でた。
「だったら、俺は世界一の悪党になってやる。神を殺してでも、俺たちは明日を掴み取る!」
雲間から差し込む光が、皮肉にも少年の冷徹な横顔を照らした。
人類と神、それぞれの「正義」を懸けた審判は、泥臭く、
しかし凄惨なクライマックスへと突き進んでいく。
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