携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第六十六話-最後の賭け-

天空の覇者、レックウザの圧倒的な武威の前に、

長年の友であったボーマンダを失った雷光。

焦土と化した大地に叩きつけられ、残された手札は、

地上を駆けるライチュウと、戦闘経験の乏しい臆病なプリンのみ。

 

物理的な破壊力、神域の速度、そして鉄壁の防御。

そのすべてを兼ね備えた「神」を相手に、正攻法での勝機は万に一つも残されていない。

しかし、雷光の瞳に宿る灯火は、かつてないほど冷徹に、そして鋭く研ぎ澄まされていた。

 

「ライチュウ、地を這え!逃げるな、攻めてこじ開けろ!!」

 

合図と共に、ライチュウが黄金の火花を散らして爆走する。

空中戦では発揮しきれなかった本来の脚力が、遮蔽物のない平地で爆発した。

渾身の力を込めた『1000まんボルト』。

極太の雷光がレックウザを射抜こうとするが、神獣はわずかな身のこなしでそれを回避。

即座に、天から裁きの如き『火炎放射』を吐き下ろした。

 

「止まるな!走り抜けろ!」

 

雷光の叫びに合わせ、ライチュウは高速移動の残像を残しながら炎の渦を潜り抜ける。

灼熱の爆風が体毛を焦がすが、ライチュウは止まらない。

そのまま天を仰ぎ、空気を震わせる咆哮を上げた。

 

『雨乞い』。

 

どんよりとした暗雲が瞬時に上空を覆い、激しい雨が降り注ぐ。

電気タイプのライチュウにとって、必中の環境を整える「布石」。

だが、レックウザもまた、その「層」の厚さを見せつけた。

 

雨天によって威力を増した『水の波動』。

神獣が放つ水の塊は、もはや単なる水圧ではない。

大気を圧縮した衝撃波を伴い、指示を出す暇もなく雷光の足元を直撃した。

 

「ぐわあああぁぁッ!!」

 

雷光の細い身体が木の葉のように吹き飛ばされ、泥濘の中に叩きつけられる。

間髪入れず、レックウザは主人を失ったライチュウを標的に定め、

二撃目の『水の波動』を放とうとする。

 

だが、雷光は泥を噛みながら、歪んだ口角を吊り上げた。

 

「(……今だ。攻撃に移る瞬間、奴は無防備になる!)」

 

「いっけえええ!!『雷』!!」

 

雨を媒介にした、ライチュウの制裁。

レックウザの頭上から、一点の狂いもなく神速の雷が落ちた。

鼓膜を破らんばかりの衝撃音が響き渡り、雷光は勝利を確信した。

 

――しかし、そこにあったのは。

 

「なっ……なんだと?これは一体……!?」

 

白煙の向こう側、雷に打たれたはずのレックウザが「二体」存在していた。

否。一方は、身代わりとなった抜け殻。

レックウザは、雷が直撃するコンマ数秒の刹那、自らの体力を削り、

分身を作り出す『身代わり』を発動していたのだ。

渾身の『雷』は、無機質な偽物を焦がしただけに過ぎなかった。

 

やはり、視覚に頼る攻撃ではこの神は堕とせない。

雷光は立ち上がり、最後の賭けに出た。背後に隠れ、

ガタガタと震えていたプリンの前に出る。

 

「プリン!!怖がるな、俺を見ろ!!

お前の声だけが、あいつを撃ち抜けるんだ……!『ハイパーボイス』!!」

 

プリンがその小さな胸を大きく膨らませ、喉の奥にあるすべての声帯を限界まで共鳴させた。

それは「歌」ではない。大気を物理的に震わせ、鼓膜を直接破壊する破壊音波の奔流。

神がどれほど速かろうと、どれほど身代わりを立てようと、「音」からは逃げられない。

耳という器官を持つ生物である以上、それは避けることのできない必中の一撃。

 

初めて、レックウザが苦悶に満ちた声を上げ、その巨大な眼を瞑った。

全神経を揺るがす共鳴現象が、神の平穏な精神を内側から切り裂いたのだ。

 

「今だ、ライチュウ!重ねろ!!」

 

衝撃で身動きの取れないレックウザに、

追い打ちの『1000まんボルト』がクリーンヒットする。

ダブルアタック成功。雷光の読みは、ついに神の領域に風穴を開けた。

 

数合の応酬を経て、初めて傷を負わされたレックウザ。

そのエメラルド色の鱗が逆立ち、濁った殺意が瞳に灯る。

神としての静謐は消え、そこにはただ、逆らう者を抹殺せんとする「暴君」の姿があった。

 

「(神がなんだ。人々はレックウザを神と呼ぶが、

そんなこと所詮人間が勝手に決めたことだ)」

 

雷光は、滴る血を袖で拭い、レックウザを睨み据えた。

人々は天災の如き力を恐れ、奴を崇める。だが、どんな高潔な理由があろうと、

仲間を殺し、必死に生きようとする人々に危害を加える存在は、雷光にとって悪に他ならない。

 

「(奴は俺たちを『悪』と定めた。だが、勝手な理屈で俺たちの『生』を否定するなら、

俺からして見ればお前が『悪』なんだ。)」

 

怪物の社会には、怪物の秩序がある。

人間の社会には、人間の倫理がある。

この戦場において、絶対的な正義などどこにも存在しない。

あるのは、どちらの信念がより硬く、どちらの牙がより鋭いかという、剥き出しの生存競争。

 

「……弱き者は生きることが出来ない。それがこの地球、自然界の掟なんだろう?」

 

雷光は、震えるプリンの頭を優しく撫でた。

 

「だったら、俺は世界一の悪党になってやる。神を殺してでも、俺たちは明日を掴み取る!」

 

雲間から差し込む光が、皮肉にも少年の冷徹な横顔を照らした。

人類と神、それぞれの「正義」を懸けた審判は、泥臭く、

しかし凄惨なクライマックスへと突き進んでいく。




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