携帯魔獣叛乱戦争   作:EXTERMINATION

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第六十九話-知ってしまった事実-

レックウザの放った白熱の『破壊光線』が、至近距離で炎帝とリザードンを呑み込んだ。

逃げ場のない、純粋なエネルギーの奔流。

その光に包まれた瞬間、炎帝の意識は現実から乖離し、

音のない白濁とした世界へと引きずり込まれていった。

 

すべてが終わる。そう確信したはずの闇の向こう側で、誰かの声が響いた。

 

「……知りたいですか?」

「……え?」

 

炎帝の意識の断片が、忌まわしい過去の記憶を呼び覚ます。

軍の地下施設。医師団長に連れられ、

入室を固く禁じられた「謎の生命体」が眠る冷たい部屋。

その隅にある椅子に腰掛け、炎帝は逃げ場のない後悔に苛まれながら、

ただ下を向いて眼を瞑っていた。

 

「知りたいですか? この生命体の正体も、この戦争の真の意味も……」

 

医師の声は、感情を排した機械のように無機質だった。

 

「……」

「そして――貴方のリザードンの末路を」

 

「ハッ……!!」

 

炎帝は弾かれたように目を見開いた。

鼻を突く焦げた臭い、立ち込める土煙。

レックウザの破壊光線は、確実に命中したはずだった。

だが、何故自分は五体満足で生きているのか。

 

「……リザードン?」

 

炎帝が視線を上げると、そこには衝撃の光景があった。

鋼鉄のアーマーを纏った巨躯が、自分を包み込むように丸まり、

盾となって破壊の嵐を受け止めていたのだ。かつて軍の医師は言った。

 

『彼は手術により、戦うことしか考えなくなります。

貴方の指示に従い、ただ戦い続けるだけの兵器。

感情は失われたも同然ですが、それが貴方と彼の望みならば……』

 

「……嘘だ……」

 

炎帝の頬を熱いものが伝う。

目の前のリザードンは、ぴくりとも動かない。

背中の人工翼は焼け落ち、金属の装甲からは火花と黒煙が上がっている。

眼を閉じ、沈黙する相棒。その冷たい鋼鉄の感触に、炎帝はたまらず抱き返した。

 

「ごめんな、リザードン!!俺……俺……お前にこんな辛い思い、させちまって……!!」

 

俺は知ってしまった。

この戦争の裏側に蠢く、人道に悖る生命実験のこと。

神を模した人造の「器」を作るために、多くの魔獣が犠牲になったこと。

そして、自分のリザードンもまた、その部品として使い潰される運命にあったことを。

 

一度知ってしまったら、もう元には戻れない。

無知という救いは、もうどこにもない。

俺は、自分の弱さから目を逸らすために、相棒の魂を軍に売り渡したのだ。

 

その時、沈黙していたメカリザードンの体内から、異様な駆動音が響いた。

オーバーヒートした回路が悲鳴を上げ、破損した人工筋肉が火花を散らす。

炎帝は驚き、その身体を離した。

 

「リザードン……?」

 

リザードンが、ゆっくりと立ち上がった。

足元の岩が砕けるほどの重量。満身創痍、もはや一歩も動けないはずの損傷具合である。

 

「(戦うつもりなのか……。あんなに傷ついて、

俺にまで心を傷つけられても……お前はまだ、戦うのか?)」

 

炎帝は戦慄した。プログラムされた戦闘行動ではない。

その動きは、本能と、たった一つの「意志」に基づいていた。

リザードンは、震える右手をゆっくりと、炎帝へと差し伸べた。

 

「(何故だ……戦うことしか考えないはずのリザードンが、何故……)」

 

その差し伸べられた手は、幼い頃に初めて出会った時と同じ、

無骨だが温かな信頼に満ちていた。

機械の奥底に閉じ込められていたはずの、あの日のリザードンの魂が、まだそこにいた。

主人の過ちを、弱さを、すべて飲み込んだ上で。

お前が絶望しているなら、俺が立たせてやる。お前が戦うと言うなら、俺が火を吐こう。

 

その沈黙のメッセージが、炎帝の壊れかけた心に火を灯した。

 

「……許してくれるのか、リザードン。こんな情けない俺を……」

 

炎帝は、震える手でその鋼鉄の手を握り返した。

もはや、機械の冷たさは感じない。

そこにあるのは、共に地獄を潜り抜けてきた戦友の、赤く熱い鼓動だった。




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