外の戦場では、炎帝とリザードンが神の怒りに身を焼きながらも、
泥臭い不屈の闘志でレックウザに食らいついていた。
しかし、その勇壮な死闘を嘲笑うかのように、地下深くの作戦本部では、
人類の傲慢を煮詰めたような「最終指令」が冷徹に進行していた。
「魔獣殲滅命令 決戦兵器ミュウツー作戦」。
それは、自衛隊が極秘裏に作り上げた「神殺し」のための禁忌。
その最高責任者は、組織の『頭脳』と称される冷酷な教授。
彼にとって、決戦兵器『ミュウツー』は国の防衛の要であり、
同時に既存のあらゆる戦力を旧式へと追いやる、絶対的な守護神であった。
厚い防壁に守られた「謎の生命体」の部屋。
数十人の幹部、研究員、そして正人指揮官たちが、
静寂に包まれた円筒形の水槽を囲んでいた。
そこには、数多の管に繋がれ、強制的な昏睡状態にある魔獣が横たわっている。
「……医師団長、現在のミュウツーの状態はどうであるか?」
教授の低く、乾いた声が響く。
「薬剤の投与により、覚醒の閾値を下げてあります。今、彼の脳に直接パルスを送り、
出撃命令を書き込めば、自我を持つ暇もなく殺戮人形として機能するでしょう……」
医師団長が、眼鏡の奥で不気味に目を光らせる。
「宜しい。……そこの研究員、プログラミングされている指令を再確認しろ」
「んふっ……簡単ですよぅ。『視界に入るすべての魔獣を殲滅よ』……。
それだけを、彼の深層意識に刻み込みますよぅ……」
脂ぎった顔の研究員が、粘りつくような手つきでコンソールを叩く。
「ちょっと待ってくれ……!」
堪りかねたように正人指揮官が割って入った。
その顔は怒りと悲しみで歪んでいる。
「もう、前線で戦っている雷光君たちは全滅だと決めつけるのか!?
彼らはまだ、命を懸けて戦っているんだぞ!」
「通信は完全に途絶。神獣を相手にして、
子供たちが生き残っているなどという幻想は捨てたまえ」
教授が冷たく切り捨てる。
「だが、万が一にでも彼らが生存していたらどうする!
ミュウツーの攻撃は敵味方の区別をつけないはずだ。
私は……この作戦には断固として反対する!」
「フン、陣内一左。
一指揮官の立場で、国家の総意たるこの決断を覆せるとでも思っているのか?」
教授の目に、明確な軽蔑が宿る。
「それでも……!私は彼らを見殺しにはできない!」
「構わん。所詮、彼らは時間を稼ぐための捨て駒だ。
おい、早いとこミュウツーを起動させろ!」
「やめろッ!!」
――パァンッ!!
乾いた銃声が室内を劈(つんざ)いた。
正人は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
自分の身体を確認する。血は出ていない。
視線を上げると、そこには信じがたい光景があった。
教授の胸から鮮血が噴き出し、背後の壁まで赤く染まっている。
教授は信じられないといった表情で口から血を吐き、膝から崩れ落ちた。
「……な……に……」
崩れ落ちた教授に駆け寄る自衛官たち。
ハンカチを押し当て、必死に止血を試みるが、弾丸は心臓を貫通していた。
銃口から立ち昇る、一筋の煙。引き金を引いたのは、あろうことか医師団長だった。
「……これはどういうことだ!?狂ったか!!」
正人が叫ぶ。医師団長は歪な笑みを浮かべ、銃口を周囲の幹部たちに向け直した。
「ハッ!貴様らの自己中心的な国家主義にはウンザリだ。このミュウツーは我々の組織が頂く。
これさえあれば、軍隊も魔獣も一撃で潰せる。世界は我々に服従するのだ!」
「貴様、スパイだったのか!奴を取り押さえろ!!」
「無駄だ。貴様らが言い争っている間に、プログラムは完了している。
手始めにこの国を潰し、焦土に変えてやる。ミュウツーの業火に焼かれるがいい!」
「……お前、狂っているのか」
正人が苦渋に満ちた声で告げる。
「もう、他の国は魔獣によって壊滅したも同然なんだぞ。
数時間前、お前の母国の防衛機関とも通信が途絶えた。
衛星写真に映っていたのは……一面の焼け野原だ」
「なっ、なんだと……!?ふざけるな!!我が国が、魔獣如きに……!!」
動揺した医師団長の指が、引き金に力を込める。
「させるかぁぁッ!!」
正人と数名の自衛官が一斉に飛びかかった。
もみ合いになり、部屋の中に怒号が飛び交う。格
闘の最中、医師団長の銃口が正人の胴体に押し当てられた。
再び響く銃声。正人の腹部を衝撃が突き抜ける。
「う、ぐあぁっ……!!」
その場に倒れ込む正人。
しかし、惨劇はそれだけでは終わらなかった。
「キヒャヒャヒャヒャッ!全て終わりだ!何もかも終わりだああぁぁぁぁっ!!」
狂乱した研究員が、混乱に紛れてミュウツーの緊急起動スイッチを力任せに押し下げたのだ。
決戦兵器ミュウツー。
今、人類が最後に縋った希望は、
人類そのものを焼き尽くす審判の炎となって解き放たれた。
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