金次に転生しました。   作:クリティカル

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もう夏ですね。
夏と言えば、熱中症。
皆さんは、どの様に対策しますか?
水分塩分を取る。
スタミナを付ける。

――もっと、簡単な方法が有ります!

其は、『部屋から一歩も出ない』
何処かの、ぼっちに見えてぼっちじゃない人も言っていた。

まぁ、私の場合クーラー壊れたんで、部屋から出ないと、熱中症なってしまいますけど。


27 この楽しくもクレイジーなステージで

「と、トウヤマ……来るのが少し遅いよ」

 

「エル……」

 

ふらふらと、俺を見掛けた途端に、生まれたての小鹿の様に歩いて来た先程まで、目の前の理子と激戦を繰り広げてたのであろう、エルは、俺にもたれ掛かると、息を切らし咳き込みながら崩れ落ちた。

エルは、此方を見ながら

 

「でも、来てくれたんだ。良かった……アリアを連れて来るにしては、時間掛かったじゃないか」

 

「向こうが、駄々こねてな。其よりエル」

 

俺が、口を開くとエルは、人差し指を俺の唇に当てて塞ぐ。

そのまま、弱々しく笑って

 

「いや、言わなくて、良い、分かっている。だが、少し疲れた。ボクは寝るよ――――――おやすみトオヤマ」

 

そう言い残して、糸が、切れた人形の様にダラリと、気を失った『フリ』をしたエルを抱き抱え

 

「菊代パス」

 

「はいはい」

 

ポイっと投げたエルが「フギャ」と菊代の腕に収まりながら短い悲鳴を上げて

 

「何をするんだ!トオヤマ!此処は感動的に悲劇的に君が、美しく優しく抱き締め涙するところじゃないか!」

 

と、俺に少し涙目で詰めよって来た。

お陰で少し、エルから香るシナモンの匂いを嗅ぎながら

 

「そんな今どき流行りそうも無いドラマ思考な事を言われてもねぇ………其に、ククリを人の首筋に突き付けながら、そんなドラマチックな事を坦々と言うヒロインなんて、俺は御免だ」

 

てか、そんなヒロインがいてたまるか。

テレビ見ててそんなヒロインがいたら、速攻でチャンネル変えるね。

そんな俺の気なぞ知らないエルは、リスみたいに頬を膨らませて

 

「折角、戦闘中に思い付いたシナリオだと言うのに君は、乗りが悪い」

 

呑気だなぁおい。

戦いの中でそんな事を考えられるのはお前くらいだ。

てかよ。

 

「あいた!」

 

ビシリとエルの脳天にチョップを食らわせる。

 

「何で患者と戦ってるんだよ?本末転倒だろうが」

 

辺りを見渡せば分かる通りで、所々ボロボロでイギリス着いたら知り合いの店に売ろうとちょっとだけ思っていた高級な酒の数々まで台無しだ。

どうして、こうなったよ?

まぁ、予想はしてたけど此処までとは

 

よっぽど、理子は盲信してるんだろうねぇ。

犬との約束を

此は面倒臭い。

 

「色々合って……つい?」

 

てへっと、漫画の『私ってばドジっ子アピール』みたいに舌を出して戯けて魅せる。

………何処で覚えた。

絶対に風魔の前で見せるなよ?

西洋忍者の変な所を吸収してしまったら、たまったもんじゃ無い。

取り合えず何かムカついたので、もう一発チョップを食らわせておく。

え?女に手を上げるなんて最低?知りません今の時代は白雪と菊代を除いて、男女平等です。

そもそも、そんな眠い事を言ってたら、直ぐ死にます。

 

「でも、ご苦労だった。約束通り後でリハビリ付き合ってやる」

 

「本当かい!」

 

途端に、元気になり無邪気に瞳の奥をキラキラと輝かせる。

どんだけリハビリしたいんだよお前

 

「やっぱり、面白いねぇ~キー君の所は」

 

「じゃあ。此方に来るか?歓迎するぞ」

 

「保留にしとく」

 

さっきまで俺と、エルのやり取りを見てケラケラとバーカウンターの椅子に座って笑っていた理子が、俺の隣にいた菊代の後ろにいたアリアを見て

 

Bon soir(こんばんは)日本までの長旅ご苦労様。オルメス」

 

くいっと唯一割れてなかった酒瓶に入っていた青いカクテルを飲みアリアに向けてパチリと、ウィンクしてきた。

畜生飲まれた。

後、どうでも良いけど、さっきまで息切らしてたよな?

エルとの小芝居の間にワザワザ移動したのか。

雰囲気重視だな本当に。

 

ホームズをフランス語で呼び、煽るように、くいくいと手を曲げて、アクション映画なんかで見る『掛かって来いよ』のポーズを取る。

勘が鋭いアリアは、何となく感づいたらしく

キッ!と菊代と俺を押し退けて

 

「あんたなのね?武偵殺しは?」

 

「正解」

 

語尾に♪マークでも付き添うな程即答した、理子にアリアが先程菊代から返して貰ったガバメント二丁を其々両手に持ち襲おうとした所を間髪入れずに俺と菊代が押さえ付ける。

 

「は、離しなさいよ!」

 

「……キー君其は、どう言う事かな?」

 

アリアと、理子から疑問の声が此方に向かう。

理子なんかは、俺にまで殺意を向けながら。

俺に向けてもどうしようも無いでしょう?

取り合えず、理子の疑問には答えますよ。

 

「中ボスほったらかして、ラスボスと戦おうだなんて通じないでしょう。常識で考えたら」

 

「キー君に常識を解かれるとはねぇ。理子よりも悪人なのに」

 

確かに、世間から見たら目も当てられない極悪人だろうけど

 

「ラブ&ピースを、無責任にクルクルポッポーと、喧しく騒ぐだけ騒いでクソ置いてって、掃除を他人任せにする其処らの平和主義者もどきの鳩人間達よりはよっぽどマシだろ」

 

理子は、口元に手をやって、同意するように頷き、クフフと笑いながら

 

「あぁ、確かにキー君の身近にいたもんねぇ~そんな人」

 

理子が言っているのは間違いなくクソ兄貴の事だろう。

何となく分かる。

 

「今どうしてんだろうなぁ~元気にしてるかなぁ」

 

わざとらしく言うと

 

「クフフ、元気にしてるよ。何を隠そう理子と同じ『学校の』恋人なんだから」

 

別に隠す程の事でも無いから。

そのどや顔止めなさい。

 

「止めとけ。お前のボスにも言っとけよ。今すぐ退学にした方が良いってな」

 

「どうして?」

 

「裏口入学だからかな?まぁ、そっちで処罰するよう言ってくれよ」

 

「うー!ラジャ!」

 

ビシッと両手で敬礼?のポーズを取り直ぐに

 

「で、何でソイツとの戦いを邪魔すんだよ?消すぞ?」

 

殺意を含めた声に戻る。

おぉ、怖い怖い。

 

俺は、肩を竦めてヤレヤレとウンザリしたように見せながら

 

「忘れて貰っては、困るな。エルとの戦いは単なる余興。本題は、俺とお前の楽しい楽しいゲームだろうに」

 

余興と言うように、エルをさっき良く観察したが、怪我なんか一つもしていない。

この状況を見るに、一歩間違えば大怪我処かとっくに死んでいただろう。

だけど、エルとやんちゃしてきたから、分かる。

何だかんだで、此はエルに取っても治療とかお題目掲げたお遊びでしか無いと言うことを。

それこそ、遊びの最中に俺とのリハビリのシナリオを考える程に。

余裕だからだ。

 

そして

 

「アリアは、約束通り連れて来たが、まだ戦わせるなんて一言も言ってねぇぞ」

 

そう言うと、理子は俺とアリアを交互に見て、あぁと納得したようで

 

「先に、呪いの男(フルヒマン)お前が戦うんだな?」

 

その言葉に、俺はテレビのコントなんかのズッコケポーズをしてから呆れた声で

 

「何でそっちのお前は、バーサーカー思考なんだよ。全然違うっての」

 

「じゃあ、何だってんだよ?」

 

「自分で、言っておいて忘れんなよ―――俺は、ギャンブルしに来たんだぞ。お前の用意してくれたこの、豪華なファイナルステージで」

 

「おーー!そうだった!そうだった!理子、忘れちゃう所でしたーー」

 

殺意は、振り撒いたまま、椅子の上で器用にクルクルと周り普段の戯けた理子の方の口調で言い。

ピタリと止まったかと思えば

 

「ソイツが景品なんだろ?さっさと寄越せよ」

 

「そりゃ、反則だ。ルールを守って楽しくやろうよ」

 

「言って見ただけだよーーん」

 

表情クルクル変わって大変そうだなぁと思いながら

 

「うわわ」

 

「ハニャ!ちょっと!何すんのよ!ネクラ!」

 

「名前みたいに呼ぶんじゃねぇよ」

 

押さえていた、アリアと何となくわざともたれ掛かって来たエルを其々脇に抱えてバーカウンターまで移動する。

そのまま、カウンターの中へと放り込む。

 

「ネクラ!何すんのよ!」

 

「トウヤマ!ボクは関係無いよね!?」

 

後ろに、放り込まれた割りには、確り着地した二人を放とっいて隣に座っている理子に向き合って、ドサドサと全ての武器を理子の方に放り投げる。

靴ナイフ、毒瓶、煙玉、此だけはお客様の前でも失礼と分かっていても外さないグラッセさんから貰ったナチのベルト・バックルに、似た中心に斜め卍を掴んだ鳥のデザインが施された珍銃。

護身用のバックル・ピストル。

銃検は通した事にしてあるからご安心―――それら全てを理子の前に出す。

今の俺は、屁理屈でも、嘘でもなく見たまんま、丸腰である。

 

此には見守っていた、菊代も流石に驚いて

 

「遠山……どう言うつもり?バックルまで手放すなんて」

 

「あぁ、分かっているよ。バカな真似してるってな」

 

CQC(近接格闘術)?良いじゃん来なよ」

 

椅子に座ったまま手招きする理子に、俺は首を振り

 

「其も、違う。俺はエルと違って『一切攻撃しない』」

 

その、言葉に理子、エル、菊代、アリア全員がポカーンと、口を開ける。

 

「俺は、ギャンブルをしに来たんだぞ?俺はこう言ってるんだよ『俺は、アリアと俺自身を賭ける』理子お前は、どうするよ?お前は、俺に攻撃し放題だぞ?俺が、くたばったらアリアを好きにしろよ」

 

「クフフ……フフフフフフ」

 

理子が、肩を震わせて顔を下に向けて笑いだし

 

「やっぱり、キー君はサイコーだよ。サイコーに、面白くて――イカれてる」

 

ニヤリと、普段周りの男子が、騒ぐキュートな理子とはまた違う、ドラマの悪女がやりそうなミステリアスな色気を出す笑みをする。

其に俺も笑って見せる。

理子の後ろの窓に写った自分の顔は、アリアの言う通りのここ最近余り眠っていなかったせいか少し目立つクマがよりネクラさを出し十人中十人が答えるだろう悪人顔である。

 

「でも」

 

理子が、俺の顔を表情変えずに見ながら

 

「本当に丸腰なの?」

 

「なるほど」

 

一理ある。

確かに、エルとの戦いの後だ疑うのも当たり前だろう。

だったら

 

「アリア……そして、理子」

 

「な、何よネクラ」

 

「ん~?」

 

いきなり名前を呼ばれてカウンターかる頭だけ出して答える理子

椅子から降りてとっくに距離をとっていき何が始まるのかと、楽しくそうに見る理子

俺は、その二人と呆れた顔の菊代イタズラのつもりか、次のリハビリのネタにするつもりか、携帯を構えるエルの携帯を手で払いながら、シャツのボタンを外しながら、独り言のように呟く。

 

「『無理』『疲れた』『面倒臭い』この3つは、人間の可能性を自ら押し留める良くない言葉。私の前では、二度と言わないこと良いわね?」

 

「ネクラ、あんた私の台詞を」

 

さっきのネクラ呼ばわりにのお礼にちょっとした嫌がらせを予てアリアの声で病院で言われた台詞を真似して言う。

シャツのボタンを全て外し今度は其を脱ぎながら

 

「俺は、この言葉を全否定した。何故なら俺は、生まれた時から『可能性』その物が存在しないからだ」

 

シャツを脱ぎ其を、武器を投げたその上に投げ

 

「アリアの母親は、努力や運その他の様々な巡り合わせで可能性として助ける道が存在するだろう。だが、世の中には、努力しどんなに仲間を集めても金を集めても絶対に手に入れる事が出来ない物だってある。他の多くの奴等は生まれたその瞬間から当たり前に手に入れる事が出来る物だ」

 

理子は、どれか分かったんだろう。

其もそうだ。理子は最初は持っていた。

そして、失った。

自分のベルトのもカチャカチャと音を立てながら外し

 

「其は、普通と言う名の平穏だ」

 

「平穏……?」

 

アリアの疑問の声に俺は頷きながら、ベルトも捨てる。

 

「ガキの頃に僅かに夢見た。其処らの鳩人間の言う常識を他人に無責任に押し付けのうのうと高みの見物をし、飛べずに地に落ちた奴の上にクソして知らん顔するごくごく普通の一般人と呼ばれる、俺からしてみれば雲の上の奴等のような生活だ。だが、俺には『無理』だ。変な力を受け継ぐ家庭に生まれた時からな」

 

もしかしたら、俺も前世とか呼ばれる時が合ったときは、雲の上の奴等みたいな普通の生活をしていたのかも知れない。

所詮過去のどうでも良い話だけどもし、そうだとすれば

俺、結構落ちる所まで落ちたよな。

少し、自嘲気味に理子に笑いかけると理子は口の端を少しつり上げて

 

「何だよ。お涙頂戴話か?それとも時間稼ぎか?」

 

「どちらでも、無い。単なる独り言だ。だが、短い人生の中で自信を持って言える物もある。興味があるなら聞いておけ損は無い特に、アリア」

 

後ろを見ると、アリアは頭を隠しているが、どう言う体の構造なのか、頭から煙を出している。

 

「どうした?」

 

「ど、どどどどどうしたもないわよ!この変態!露出狂!な、何で服脱いでるのよ!」

 

少し、口を押さえて笑ってもいる菊代と再び携帯を構えるエルに挟まれてアリアが赤面して叫ぶ。

叫ぶ程か?脱ぐも何も上半身だけだろうに。

こんなんプールとか海行ったら皆こうだぞ?

 

まぁ、良いやと、再びエルの携帯を遠くに手で払って理子と向き合い

 

「一つ。余り、盲信するな。盲信は周りが見えなくなっている分、見えている部分に対する集中力は半端ない。正にお前ら二人の状態だ」

 

此は、風魔にも昔言った言葉だ。

どう言う時に言ったのかは、忘れたけど。

もう片方の靴下も脱ぎながら

 

「二つ。良く周りを見渡せ、横を向け、どんなに暗闇の鉄骨を渡ろうとも良く周りを見れば別の道がある」

 

最後に時間を欠けてゆっくりとズボンに手を掛けて

 

「三つ。猪になるな。俺も昔、其処のピンク猪みたいに、がむしゃらな時代が合った。だけど、いつか、真っ直ぐ走っていれば、穴に落ちて落ちる所にまで落ちて行くんだよ」

 

最後のズボンも脱ぎ捨て、旗から見たら確かに、女子の前でパンツ一丁になる直ぐ様お縄のド変態。

まぁ、そんな性癖は無いが。

ズボンを、横に投げながら

 

「最後に、雨が降ったら、雨を浴びて楽しめ――此がこの先出来ない奴から、俺みたいになっていく」

 

理子は、山積みにされた武器と服を横目でチラリと一瞥してから

 

「演説は終わり?パンツは脱がないの?」

 

「ご所望と有れば脱ぎますが?」

 

「良いよ。で其は、何の真似?」

 

何処か、楽しそうに、俺の周りの武器やら服やらを指差す。

其にさも当たり前のように

 

「この服の中に、武器を仕込んでんじゃないかって疑ってたんだろ?だから、脱いだのさ、ほら、もう俺は正真正銘」

 

―――丸腰だ。

 

そのまま、何処かのラボの厨二病科学者のようなポーズを取り理子に合わせた雰囲気を作り出来るだけ、標的を俺だけに絞る。

 

 

「ギャンブルのルールは、一回戦で勝った俺が、決める!ルールは簡単だ、『俺は、攻撃せず、理子に降参させれば、勝ち!理子は、俺の後ろのワトソンとホームズに少しでも傷を付けれれば勝ち!お前が勝ったらアリアを煮るなり焼くなり好きにしろ!』……此で良いか?」

 

「はぁ!ちょっとネクラ!あんた何変な事を言い出すのよ!」

 

「ボク巻き添え!?」

 

「二人とも落ち着きなさい!」

 

後ろで、文句言う、二人を菊代が押さえ付ける。

何故ワトソンもかって?やたらセクハラ行為をしたからです。

 

そんな後ろの騒ぎなんてどこ吹く風な理子は、パチパチと手を叩き

 

「文句は無いよ。でも、理子は降参なんてしないよ」

 

「言わせて見せるさ。其がギャンブルだ」

 

「じゃあ、理子が、賭けるのは理子自信って、事だね?」

 

「そうなる」

 

その言葉が合図となり、理子が、此方へと助走をつけて走って来る。

 

じゃあ、イギリスに着くまでの間、お互いに楽しく遊ぼうぜ理子

 

★ ☆ ★

 

同時刻――場所は、不明の何処か暗い場所。

何の曲だろうか?

薄暗い暗闇の中やけに高く其でも何処かすんだピアノの音が静かに止み。

 

「どうやら、始まったみたいだよ」

 

「推理通り?」

 

その中に。二人の男女

男の方が先程まで演奏していたのだろう。

椅子に座り何処か気品のある出で立ちでパイプを加える男は、ひょろ長く痩せた体に、鷲鼻に、角張った顎、足でも悪いのか、ピアノの横には、ステッキを立て掛けている。

その、男の後ろにいる女性は、十人中十人が見惚れるであろう、正に絶世の美女と呼ぶに相応しい、ロングスカートのワンピースに、編んだ後ろの三つ編み長い睫毛の下の瞳は柔らかな視線は裏腹に、氷のように冷たい殺意を潜めていた。

其は、この目の前の男ではなく、もっと遠くの誰かを見つめて。

そんな、彼女の考えいることが、分かるのか、男は静かに

 

「カナくん。君もそろそろ、部屋に戻ってテレビを付けると良いよ。ぼくの推理だと行方不明の君の弟が空の上で活躍している頃だろうから」

 

カナと呼ばれた、女性はピクリと後半の台詞に長い睫毛の下の目の端を僅かに震わせて

 

「可笑しいわね?私の弟は死んだと聞きましたわ。他ならぬ、《教授》(プロフェシオン)貴方によ?」

 

教授と呼ばれた男は、一度パイプを口から離し

 

「ん?そうだったけ?僕も歳かな?忘れっぽくなってしまったようだ。気を付けないとね」

 

ニコォーと、まるで、無邪気な少年のように冗談目かして笑う男に、カナと呼ばれた女性は、はぁと、溜め息を吐いて長い三つ編みを揺らしながら踵を返し扉のある方へと歩き出す。

その、後ろ姿に

 

「行方不明の可愛い弟が、見つかったと言うのに全然嬉しそうでは無いね?」

 

ピタリと、ドアノブを掴んだカナの手が止まり

 

「いいえ。嬉しく思っているわよ。だって」

 

―――ちゃんとこの手で殺せるから。

 

男は、その、言葉に驚く処か、ふっと笑みを深くして

 

「其もまた、一つの姉弟の形かも知れないね」

 

そう言うと、ピアノに向き合ってまた引き始めた。

もうカナの方は見向きもしなかった。

 

「姉より優れた弟など存在しないわ」

 

憎々しげに放たれたその言葉は、何処かに届くこともなくピアノの音にかき消されバタン!と最後に扉を強く閉める音だけが響いた。

 

「……兄ではなく……か」

 

ピアノを引きながら呟く男を残して




かつて私の父と祖父は言った。

『夫が大黒柱なら、妻はチェーンソー持った木こり』だと。

まだ、小学生だった私は場違いにもこう思った。
斧じゃないのと。

今思えば、嫁には逆らえないと言う意味なんでしょうね。

この作品を書く度にその言葉が浮かびます。
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