金次に転生しました。   作:クリティカル

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タイトル通りだよ。


いろいろと注意するように。


40 カクレオニ

『一度だけ、柄にもなく恋と言う物をした事がある』

 

その言葉は、私―――ジャンヌ・ダルク30世の頭の中を走馬灯のように同じ組織に所属していたドイツの魔女との、あの時の私にとっては何気無かった会話が駆け巡っていた。

 

『そいつはな、自分の事を凡人と言っていた。其も冗談でじゃない。本気で言っているんだ。どの辺がだ!って、笑ってやるとそのたんびに不貞腐れやがる。其がまた面白いんだ……あぁ、ワリィ、話が逸れちまった』

 

床をスケートリンクのように凍らせながら、兎に角走る。

 

『んで、そいつはな、あることに関しちゃずば抜けた才能を持っているんだ』

 

「ヒャッハハハハハハ!待ちなって、お嬢ちゃ~ん!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

『其れはな』

 

凍らせた床の上を、意図も容易く滑り、狩りでもするように実に楽しそうに、私の友が好きそうなゲームに出てきそうな怪物(モンスター)のような笑い声を上げて追ってくる。

なんだなんだ。何故、アイツが私を襲う。

そんな疑問が、私の頭の隅にへばり付いている。

 

今の彼奴から見れば、私は逃げる兎に等しい。

何故なら

 

『追跡だよ。………そいつは、自分の獲物をわざと逃がすんだ。3秒と言う短い時間を与えてな。あぁ、けど、気に入った相手には5秒だったけか?まぁ、あんま変わんねぇか!クハハ!』

 

アイツにとっては、文字通り狩りなんだから。

 

(どうすれば)

 

此では、星伽白雪を連れ去る所じゃない。

遠山金次は、イギリスで呪いの男(フルヒマン)によって、殺されたと聞いていたがその後の学籍も残ったままだった。

 

(まさか、売られたのか……教授(プロフェシオン)に)

 

遠山の男は生命力が強いと聞いている。

其だけでは勿論確信は無いが。

あの男の推理は確かだ。

其処を疑わなかったのが、迂闊だった。

何が生きているだ、別人じゃないか!

学校のデータを見れば、アイツは諜報科のSランク、武偵の中でも確かに優秀だったのだろう。

だが、極度の引きこもりで、任務等で外に出ることはあっても学校には殆ど顔を出さない。

鏡高菊代と星伽白雪との二股の関係にあったと言うのも調べで分かった。

此に関しては、一人の女としてはどうかと、そいつに小一時間程説教して、人間樹氷にしてやりたい衝動に刈られるが……もうこの世に居ない奴にどうこう言う事は出来ない。

其は、そうと、呪いの男(フルヒマン)は、ドイツの魔女を通して、イ・ウーに勧誘されその後も様々な形で勧誘されたが、それをことごとく断って来たと聞いている。

だが、其をイ・ウーの会計士から先日呪いの男が遂に加入したと聞いていた。

私の知らないところで、何かしらの要求が有ったのだろう。

 

(その要求……星伽か!)

 

先程も、今私の後ろを追ってくるアイツは白雪じゃないと言っていた。

そして今、遠山金次に化けているのも、星伽に関する事なのだとしたら?

同じように星伽を狙う私は邪魔だと言うわけだ。

そして、ここ最近、ホームズとの接触も見られる。

その共通点は………緋々色金。

その事に関する交渉が行われていたのだろう。

恐らく、イヤ確実に私のイ・ウー退学は決定している。

皮肉にも、交渉の為に贄にされたと言うことだ。

馬鹿げている。

だが、今は目の前の事に集中だ。

殺るか殺られるか。

イ・ウーの事を考えるのはその後だ。

 

(勝算はある)

 

幸運にも今日は緋々粒子の濃い日だ。

あの呪いの男と言えど、超能力者(ステルス)とは聞いていない。

 

一気に凍らせれば幾ら呪いの男でも、命は無いだろう。

 

 

(私は騎士だ。この程度の誤算で諦めたりはしない!)

 

ぱき、ぱきぱきと体の周囲に小さな氷の結晶を作り出す。

 

ダイヤモンド・ダスト。

 

ダイヤモンドのように輝く氷の結晶を空気中に舞わせる先祖である初代ジャンヌ・ダルクから脈々と受け継がれ研究されてきた魔術。

漂う氷は次第に数を増やし、霞のようになって私の体を隠すように包む。

 

「お?何か始めるのか?」

 

スケートのように、凍らせた床を滑り此方へと迫ってくる。

 

――その、余裕な表情今すぐ凍り付かせてやる!

 

床の氷に冷気を送り滑る呪いの男の足元の氷を盛り上がらせ

 

ドドドドドドンッ!

 

槍のように先端の鋭く尖った二本のつらら。

それらを氷の床から呪いの男の目の前に出現させる。

 

「おお!あっぶねぇ~、死ぬかと思ったぞ!」

 

止まる為にその氷の柱を足で蹴り体を止め、全くそう思っていない顔で、此方を挑発する。

 

だが、呪いの男よ。

 

「其処は止まらない方が身のためだぞ」

 

「あぁ?」

 

周囲に出現させた霞を呪いの男目掛けて包み込むようにして射ち出す。

 

「あ~涼しいぃ~夏にはピッタリだろうな」

 

「―――ッ!言っていろ!」

 

この霞は、攻撃用では無い悪魔で視界を遮る為の物だ。

 

(だが、視界を遮ってしまえば此方のものだ)

 

此で理子風に言うのであれば、もう何も怖くない!と言う状況なのだ。

仕留めたも同然。

 

(銀氷となって散れ!―――オルレアンの氷花!)

 

ぱきぱきと、両手の間にバレーボール位の青白い光を蓄える。

 

(此で仕留めて体制を立て直すしかない)

 

カッッッ!!!!

 

 

青い光の奔流を巻き上げ光る氷の結晶の渦を垂直に構え

 

(当たれ!!)

 

蒼い砲弾としてつららの間のスキマを通って呪いの男に直撃した―――筈だった。

確かに、パキィンッ!と音を立てて凍った筈だった。

手応えも有った。

だが、私の目の前には、つららの一本が根本から綺麗に切り取られ其が、先程まで呪いの男がいた場所に立ち、その短くなったつららの先端が巨大な氷の花が咲いたように広がり、一本の氷樹となっていた。

 

(身代わり―――!?)

 

人一人の分の大きさと太さのつららを切り其を移動させたと言うのか?ほんの数秒で?

 

『あ、そうだ。さっきの狩りの話なんだが、わざと逃がすと言ったろ?其な』

 

不意にまた、ドイツの魔女の言葉が脳裏を過る。

不吉な予言のように

だけども、今は其を気にしている場合では無い。

 

(本物は何処だ?)

 

辺りを見回そうと首を動かしかけた瞬間

 

『逃げ切った奴は一人もいないんだとさ』

 

「こりゃあ綺麗だな~芸術の価値の分からん俺でも綺麗だって素直に思うぞ」

 

「――――ッ!?」

 

『気が付いたら背後にピッタリとくっついている。幽霊みたいにな』

 

首筋にピタッと冷たく張り付くような感触と、背後から声がしたのは同時だった。

 

「なんだ?もう手品は終わりなのか?」

 

背後からの声が心臓を鷲掴みにしたような錯覚まで感じる。

動機が激しい。

呼吸すらもやっとの思いで辛うじて、出来るくらい。

 

首筋に当てられた何かが、死神の鎌を思わせる。

 

魔剣(デュランダル)は、持っていない。

 

なにせ、今日やっていたのは、情報収集。

変装してあれを持つのは、かさばって余りにもリスクが高かった。

 

(不覚)

 

「良いね~その絶望に沈みきった顔!」

 

そんな私を嘲笑うように呪いの男は口を開く。

 

「もっとだ……もっと見せろ!最高に絶望した瞬間」

 

確かにこの男の言う通りだ。

変装はバレ、イ・ウーには切り捨てられ、油断から魔剣は持っていない。

おまけに魔力も底をつき。

確かに絶望だ。

私の心は折れかけている。

今唯一の希望は、本来の目的を為し遂げその実績でイ・ウーに戻ること。

こんな時期に退学なんて馬鹿げた話があるか。

其に、此処で終われない理由がもう一つある。

 

(理子……)

 

せめて、もう一度、お前に会いたい。

イ・ウー無いで、最も心許せる存在で、教え子でもあり教師でもあり――友でもあった。

だが、お前がホームズとの戦いの後、一切連絡が着かない。

今、お前は何処にいる?無事なのか?

其を知るまで、私は終われない。

だったら、考えろ。

こんな状況でもなにか勝機はある筈だ。

考えろ!私は策士だ。

この程度の事で何一つ思い付かなくてどうする!

こんな戦略的状況の中で今出来る事は………有った。

 

何処だ?どのタイミングで実行する。

今は待つんだ。今は耐え忍ぶ時だ。

 

「其処をぶっ刺してやるよ!」

 

(今だ!)

 

バサッ!

 

「ウワップ!」

 

(戦略的撤退のみ!)

 

呪いの男が、私の首筋に当てていた、大きな刃物――其は、板のような刀身を持ち先端は、18世紀から19世紀の帆船時代の狩猟や陸戦に用いられたハンガーのように反り上がり、峰の部分は、ノコギリのようにギザギザとしている。

刃渡りはざっと見たところ、1mと刀のようにも見える――マチェット。

なるほど、あれがメイン武器と言うことか。

もう一つのサブ武器となるものは、小振りのようで、ズボンのベルト部分から鞘の中に入り仕舞い込まれている。

 

其を呪いの男がギロチンのように振り上げたその僅かな隙を狙い身に付けていた、カツラを顔目掛けて投げる。

 

横へと周り、背を向けて兎に角走る。

 

「おー。そう来なくっちゃ面白くねぇよな!ヒャハハ!今度は一秒も待ってやんねぇ!」

 

「そう笑っていろ!最後に笑うのは私だ!」

 

「おー。その威勢は“気に入った”な………つくづく殺すのが惜しいな」

 

さっきの一瞬で、僅かだが、距離が空いた。

何処か、身を隠せる場所は無いか?

このまま学園から逃げ切る事は不可能に近い。

ならば、身を隠しあいつが遠ざかった所を狙って脱出するのが一番良いだろう。

 

(理子……お前ならこう言う時何処に隠れる?)

 

兎に角走る。息が苦しい、だが、後ろからの恐怖が止まることを許さない。

止まれば、この首を切り落とされるだろう。

止まれば、この心臓を貫かれるだろう。

 

そうならない為にも理子……私に知恵を貸してくれ!

 

『ホラゲーとかで、追われた時って取り合えず押し入れとかロッカーとか探しちゃうよね~。正にロッカー最強説だよ!』

 

そうだ……ロッカーだ!

 

ゲームはしたことが無いが、理子が昔そう言うことを言っていたのを思い出した。

ならば、一か八か、其処に賭けよう。

 

廊下の曲がり角を曲がる瞬間後ろになけなしの魔力を使い氷の粒の弾丸を形成し呪いの男に向けて撃つ。

 

ダタタタタタタタタンッ!

 

「器用な奴だな!」

 

ギキキキキキキキンッ!

 

後ろからの音からして、恐らくあの大きなマチェットで弾いているのだろう。

やはり時間稼ぎにしかならなかったようだ。

だが、此であの男とは完全に距離が離れた。

と言っても、後数秒で曲がって来るだろう。

 

スピードが命だ。

 

曲がった先のドアに人差し指を押し付け雑巾を絞るようにして無理に出した魔力の氷で鍵を作り開けて中に入る。

もう足音は迫っていた。

 

幸い此処は更衣室らしく所狭しとロッカーが並んでいる。

 

(こう言うのは、奥のに隠れた方が良いんだったな)

 

気休めの時間稼ぎだが、直ぐに鍵を閉めて奥へと滑り込むようにしてドアを開けて中に入る。

 

ガン!ガン!と直ぐにドアを乱暴に叩く音がして、バカン!とドアが外れた音がする。

 

「あー?アイツ、どぉこ消えやがった?」

 

ロッカーの隙間から恐る恐る覗くと、呪いの男が、頭の後ろをガリガリとかきながら、辺りを見回している。

 

「此処かぁ?」

 

直ぐ手前のロッカーをバタン!と乱暴に開ける。

その隣もその隣もその隣も。

そうして残るのは私の場所だけ。

 

(もう、ダメか)

 

無念だ。

理子、すまない。

お前をあの狼から救い出すことも出来なかった。

 

「恥ずかしがらずに出てきなよ………良い子だからさ」

 

心の中で謝罪しそれと同時に扉が開けられその隙間から光が見え始めた時だった。

 

~♪~♪

 

「……んだよ。今、良い所なのに」

 

外から、和楽器を使った音楽が流れて来た。

この曲には聞き覚えがある。

イ・ウーでも聞いていた奴がいた。

確かタイトルは『かごめかごめ』とか言うものだった気がする。

いや、其よりも

 

(……携帯?)

 

どうやら、此れは携帯の着信音らしく、外で呪いの男が不機嫌そうに応答している。

 

「……潮時か。いや、なんでもねぇ……分かった直ぐ戻る」

 

ピッと音がなり通話を終了したらしく、ゴソリと携帯をポケットに終う音がする。

 

「……って訳だ!楽しかったぜ!また近い内にまた会って遊ぼう!」

 

「――ッ!」

 

出したい悲鳴をグッと堪える。

心臓と肩がビクン!と、電気ショックでも喰らったかのように跳ねる。

 

そんな私にお構いなしに、呪いの男は此方に向けて話す。

 

「今日はもう充分遊んだからもう良いや」

 

所詮アイツにとって此れは、遊びに過ぎないと言うことなのだろう。

良いように扱われる自分の余りの無力さと愚かさが恨めしい。

 

「そうだ。お礼にに良いこと教えてやるよ」

 

「……え?」

 

突然、呪いの男の殺気が消えて、先程まで聞いた事もないまるで、長年の友人に声を掛けるような優しい声で

 

「其処の窓を、よじ登れば直ぐにこの学校の外に出られる。俺の調べじゃ其処は、誰にも見つからない絶好の逃げ場所だ。因みに後数分でテニス部の奴等が帰宅するんに此処を使うようだから急いだ方が身の為だぞ」

 

そう忠告してきた。

 

(なにかの作戦か?)

 

罠……そう考えるのが、普通だろう。

 

「因みに、俺はお前が気に入った。……だから、こんな所で捕まるんじゃないぞ。()()()()

 

「な!」

 

何故私の名前を!?

思わずそう聞こうとしたタイミングで

バタンと扉は閉まった。

 

何故、私を見逃した?

邪魔なら普通この場で殺す筈だ。

イ・ウーに所属しているのなら、その後の処理だって心配しなくていい。

 

呪いの男(フルヒマン)が私を見逃す理由が無い。

 

そう思った時私は、またふっとドイツの魔女の言葉を思い出す。

 

『滅多に無いことなんだが、アイツに狙われても助かる方法がある』

 

そうだ、確かにあの時

 

『俺はお前が気に入った』

 

『アイツが気に入った時だ……どういう意味かは、運悪く出会った奴しか知らないだろうな』

 

あの男は、そう言っていた。

つまり

 

「私が……気に入られた?」

 

どういう意味で?獲物としてか?

なら此処で仕留めればいい。

 

なのに、何故遠回しに助けるような事を……?

 

分からない。

カツェは、何を知っているんだ?

そんな数多くの疑問は、扉の向こう側から聞こえて来る集団の声によって、中断される。

 

(逃げ道は此処だけか……ええい!ままよ!)

 

意を決して、後ろの、両手を伸ばせば届く距離の窓に手を掛けて鍵を開けてよじ登って外に出る。

幸いと言うべきか否か、罠はなく寝床としているホテルまで無事に帰ることが出来た。

此処にも余り長居は出来ないだろう。

直ぐに、別の場所を探さなくては。

もう、後には引けないんだ。

証明しなくては………教授(プロフェシオン)の寿命が尽きる前に。

だが、組織から切り捨てられた私は、此れからどうすれば良いんだ?

頭を冷やして本来の冷静さを取り戻すようにしてシャワーを浴びながら、私は、この先の真っ暗な未来を想像していた。

 

(理子……)

 

今だ連絡の取れない友人を頭の隅で想いながら。

 

――なお、時を少し戻して、先程の呪いの男とある男装貴族の会話の一部

 

『トウヤマもう、充分だ。戻って来い』

 

『いいのか?……捕まえなくて?』

 

『目的を忘れた訳じゃないだろう?兎に角戻って来てくれ。話はそれからだ』

 

『…潮時か』

 

『何か言ったか?』

 

『いや、なんでもねぇ……分かった、直ぐに戻る……所で、あの笑い声は必要か?』

 

『何を言っている。『ベルセ』の君には欠かせない代物だろう?……まぁ、覚えてないだろうけど』

 

『意味が分からん。まぁ、良いや』

 

どうせ下らない理由だし。

そう付け加えて、ポケットに携帯を彼は閉まった。

 

所々小声のこの会話が、鼓動が激しく動いていたジャンヌに聞こえる筈もなかった。




そう言えば、新しくあるゲームのストーリーの更新が入ったんですけど、絶賛神父の所で積んでます。

……其だけ。
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