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『ぴんぽんぱんぽーん。えー、この度は二つの世界が融合したお祝いということで、アリスピアでアルコールが飲めるようになったであります。もちろん節度をもって──』
「はい。というわけで取り出したるは、アルコール飲料各種とそこらへんで買ってきたおつまみセットにございます。先輩方、一杯どうですかい?」
「いや、どういうこと???」
何の脈絡もなく酒肴を取り出したながせに、思わずナビーユはツッコミを入れる
ここはアリスピア。女の子だけが訪れることが出来る世界。そこで女の子達のキラキラを守るために戦う存在、プリンセスがいた
女の子達が発するミューチカラを求めて彼女たちを襲うジャマウォックに対抗するため、みなも、かがり、ながせの三人がプリンセス・リップル、ジール、ミーティアに変身して大立ち回り……だったのは少し前の話
現在は老若男女問わず誰でも来ることができ自分のキラキラを表現できる夢の場所となったアリスピアの、その一客人となった元プリンセスたち
かつてプリンセス会議を行なっていた秘密基地にみなも、かがり、ながせの三人は集まっていた。友人となったバンドスナッチの四人と、みなも達と同じ元プリンセスのすみれとりりの姿はない
皆それぞれ予定があるということで留守にしている
親友のなつは少し前まで一緒だったが、彼女も用事があるらしく途中で別れた。多分次の新曲の準備だろう
「いや、この前ついにアリスピアでもお酒が飲めるようになったじゃないですか。しかも世界を跨げば酔いも綺麗サッパリって便利仕様。こんなの飲むっきゃないでしょ」
「それ、保護者が一緒にって前提じゃなかったかしら。どうやって手に入れてきたの?」
「一応ナビすけって原初のアリスピアンって話ですし。最早あたしたちにとって保護者といっても過言ではないでしょうか……!」
「原初ってそういう意味じゃないからね?」
二つの世界が融合しそうになり、結果として誰もが両世界を行き来できるようになってからしばらくたち、アリスピアでは大人向けの商品も手に取れるようになっていた
酒類の解禁に先立ちタバコやその他商品まで。販売している店で
一応どれも本物というわけではなく、あくまでも『それっぽい』品ということになるらしいがそれは今の彼女たちにとって特には関係ないこと
ナビーユを口実に酒盛りを始めようとする中学生
流石にかがりもナビーユも静止をかけるが、意外にもそれに興味を示したのはみなもだった
「少しくらいならいいんじゃないかな。ほら、最近はお菓子にもお酒が入ってるの結構あるし」
「お、みなもパイセン話がはやーい」
「みなも!?」
「みなもがそう言うなら大丈夫なのかしら……」
彼女が味方についたことで、かがりも乗り気に変わる
ながせは「酒! 飲まずにはいられないッ!」と訳のわからないことを叫びながら目の前にあるワインのコルクを一つ引き抜く。ぽん、と気持ちいい音が響いた
「それじゃあお二方も、お好きなものをお選びください。ああ、どれでも良いですよ。品質ならこのあたしが保証します」
ながせの言葉に、みなもとかがりはそれぞれ良さそうな酒を選ぶ
艶のある黄金色、琥珀色、そして赤色がグラスへと勢いよく注がれていき、アルコール酒精のほのかな甘い香りが鼻腔をくすぐった
慣れない香りではあったものの、少女たちにとっては初めて飲むお酒への好奇心の方が勝ったようだ
「それでは皆様グラスを掲げて——乾杯!」
「「かんぱーい!」」
もうこうなってはナビーユにそれを止める手段はなく
「あら、苦いとばかり思ってたけど甘くて美味しいわね」
「お、かがりパイセン分かってらっしゃる。これフルーティーで飲みやすいってこの前あいこにゃんに教えてもらったんですよ……え、そんな。何もなかったに決まってるじゃないですかー!」
「これお父さんが飲んでたやつだ! りっくんがこっそり飲もうとして怒られてたっけ」
「みなもパイセンのお父君、なかなかいい趣味をしてらっしゃいますね! こちら製造に時間がかかるため大変貴重になっているウイスキーでございます」
「不詳一条ながせ! 一気飲みいかせていただきます!!」
「おー、やっちゃえ。ながせちゃん!」
「カッコいいわよ、ながせ!」
「みんなお願いだから一回お水飲もう!!!」
ナビーユは、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた
だって大抵こういう時に被害を被るのは他でもない自分だったのだから
☆☆☆☆☆
宴会の開始からしばらく過ぎた。テーブルの上に広げられた酒瓶が一通り開けられて、つまみが片付いたころ
そこにはすっかりと酔いが回った少女達がいた
かなり早い段階でタガが外れていたようだし、ペース配分など存在しない状態だったのでアリスピアンではどうしようもなかったことでもある
その結果どうなったのかというと
「ナビーユ〜! あの時はほんとに心配したんだから〜!!」
「ナビーユ、ありすって誰なのよ〜!」
「み、みんな落ち着いて──ながせ、何とかしてよ!」
「あー、これほどまで効くとは思わず……てへぺろ?」
もはやテーブル上の諸々には目もくれず、二人の少女に詰められるアリスピアンの姿がそこにはあった
みなももかがりも、どこかぼうっとしていて頬が赤く色づいている
かつてのアリスピアを知る女の子たちも、まさか憧れのプリンセスが絡み酒するなど夢にも思うまい
信頼する相手しかいない閉ざされた空間だからこそのこの状態なのかもしれないが
一方で主犯のながせはというと「やっべ」という顔で惨状を眺めていた
彼女が持ち込んだものは全てこの世界で手に入れられるアルコールっぽいもの。つまり子供向けのなんちゃってアルコールに少し手が入ったものだ
探せば両親と飲んでいる子供も探せばいるし、だからナビーユも本気で止めてはいなかったというのはあるのだが
本当にどうしてこうなった
「ナビーユ、正座!」
「はいはい」
「その姿じゃ伝わってこないでしょ? 誠実さは」
「人型になれってことか……これでいい?」
「……なんかイヤイヤやってない? ナビーユが悪いんだからね。ちゃんとやって」
「あ、はい」
酔っ払い二人に絡まれ、ナビーユは抵抗せず大人しく彼女たちに従う。それには子供の姿に相応しくないある種の哀愁すらあった
「……ねえ、ナビーユ。本当に大丈夫なの? 失敗したとはいえミューチカラをあんなに集めて」
「うん、大丈夫。別にあの時のミューチカラはぼくに吸収されたわけじゃない。みんなの前から消えたりしないよ」
「本当に本当なんだよね、ナビーユがいなくなっちゃったらわたし、わたし……!」
これからどんな無理難題が吹っかけられるかと身構えていたナビーユだったが、意外にもかけられたのはそんな言葉だった
目を潤ませながら上目遣いで彼を見つめるみなもとかがり
そうだった、彼女達は心の底から自分のことを心配してくれているのだ
だから自分はアリスピアンとして、彼女達の隣人としてその心配を拭わなくてはならない
そんな使命感に似た感情を胸に、ナビーユはおもむろに立ち上がる
「ほら二人とも、ぼくがそんな簡単にいなくなるように見えるかい?」
「いいえ、すごく元気そう」
「そうそう。だから心配しないで」
だからナビーユは心を込めて彼女たちに──
「へいへいへーい! ナビーユ、飲んでるか〜い!?」
「…………」
なおそんな気持ちは一瞬で搔き消えたようだった
渋い顔になった彼は、背後から勢いよく絡んできたながせを見つめた
片手に酒の入った紙コップを持っていて、背後には転がっている瓶が一つ
彼女もまた顔を赤らめており、完全にできあがっている
さっきから声が聞こえないと思ったら、どうやら一人で黙々と飲んでいたらしい
「よりによってここであたしが素面って変じゃないですか〜!」
それはそう
思わず頷きそうになったナビーユだが、すぐに頭を振ってそれを引っ込める
もう彼女たちを止められるのは自分だけなのだ
ここは始まりのアリスピアンとして、彼女らの信頼に相応しくしゃんとしなくてはならない
ナビーユはそう決意したものの
「全然飲んでないじゃんナビすけ! さあさあ、グイグイよし来い〜!」
「ちょ、ながせ。やめ──」
抗議も虚しく、ながせにテンポよく突っ込まれた酒は全てナビーユの体内へ
一本、二本、三本
最初は力強かった抵抗も徐々に弱まっていき、次第に体の力は抜けて……いかない
「あれ?」
「お、ナビーユお酒に強いタイプ? おっとなー!」
ひゅー、とながせは口笛を吹いた
どうやら自分はアルコールには強い体質だったらしい。どうでもいい所で自分についての見識を深めたナビーユ
しかしそれはこの酔っ払いたちの中で自分だけが正気という悲しい現実を示していた
「ナビーユ? どこに行くの?」
「やめてよ、かがり。離して!」
「そうだぞナビすけ。まだまだ時間はたっぷりあるんだかんね!」
思わずアリスピアンとしての姿に戻ってこの場から逃げだしそうとするも、あえなくかがりに捕獲される
ついでとばかりに後頭部を思いきり吸われるものの、どうやらナビーユの匂いに酔い覚ましの効能は無かったようだった
「よーし、先輩方! まだまだじゃんじゃん飲みましょーう!」
「「おー!」」
そしてそのまま騒ぐ少女たちをよそに時間は流れていった
☆☆☆☆☆
「…………」
「…………」
「…………」
「あの、三人とも……?」
翌日、みなも達はいつものように集まって、しかしその雰囲気はいつもとは違いどこか重々しかった
「ねぇ、ナビーユ。昨日何かあった? なっちにすごい怒られたんだけど」
「私も……全く覚えてない」
「あたしはまあ、しっかりと覚えておりますねー」
「言わないであげたほうがいいと思うよ」
「そんなに!?」
あの後騒ぎまくった末に潰れた彼女達
それをそのままにしておくわけにもいかないナビーユはなつを招集。かけつけた彼女と二人がかりでなんとかみなも達の世界に送り返したのだった
流石のなつも堪忍袋の尾が切れたようでコッテリと絞られたようだ
彼女の事ととなると話し出すと止まらないみなもであっても口を閉ざすほどの迫力だったらしい
ながせは違うらしいがどうやら他の二人は昨日の記憶が飛んでいるようだった。アリスピアの酒類にそんな効果があるとは聞いたことがなかったが、おおよそ限度を越えたのだろう
元プリンセス達は中学生でありながら禁酒の誓いを結び、今後昨日のことは口にしないようにと取り決めることになった
「よ、よし、みんなお菓子食べよ。さっき焼いてきたんだ!」
「い、いいわね。今日のは何?」
「フィナンシェだよ。上手くできてたらいいんだけど」
「みなもパイセンのお菓子にハズレはないですって。無問題!」
気持ちを切り替えていつもの空気感を出そうとするみなも達。しかしそうはさせないとばかりに勢いよく部屋のドアが開かれる
「やあ、プリンセス達!」
「カリスト⁉︎」
「アリスピアで飲酒が可能になったのは聞いているだろうか。聞いている? なら好都合。さあ、パーティーを始めようじゃないか!」
後ろに目をやると、バンドスナッチの他のメンバーが酒瓶を抱えている。ドランに至っては樽だった
ナビーユは彼らに駆け寄る
「ちょっとちょっと、三人はまだ未成年だよ。ぼくたちが率先して道を踏み外させちゃまずいでしょうが!」
「何を言っているのですかな、王よ。昨日あんなにも楽しまれていたではないですか」
「……見てたの?」
「さて、お嬢ちゃん達が無かったことにするなら俺たちはそれに従うだけさ」
バンドスナッチの目的はみなも達ではない。と、なるとどういう……?
「オレたちは最初からアンタが目当てなんだぜ」
「一度王が潰れる姿を見てみたかったのだ」
口々に言っていくことを聞くに、つまり彼らは昨日のみなも達の姿を見てナビーユを酔い潰してみたくなったらしい
「待ってよ君たち、流石にそれは辞めて欲しいんですけど⁉︎」
「そうだそうだ!」
「ながせ、君も言ってやれ!」
「そんな面白そうなこと、あたしたちもやりたいに決まってる!」
「うん、聞かない方が良かった!!」
困った、ながせは彼らについたようだった
ナビーユは縋るようにみなもとかがりへと視線を送る
「わ、わたしもナビーユのそういう姿見たかったり……」
「私たちのはしたない姿を見たんだから、あなたも見せないと不公平よね?」
「……」
ここに彼の味方などいなかった
「さあ、饗宴を始めようじゃないか!」
ナビーユが観念したようにうつむくと、カリストは我が意を得たりとばかりににやりと頷くのだった
「うわーん、もうお酒なんてこりごりだーーー!!!」
夏のライブイベント当たるといいな
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