細かい設定は気にするな!

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 この作品を読むときは頭の中を明るくしてリアリティほか細かいことから目を離してお楽しみください。



◯◯の声が聞こえるヤツ。(武器)

「前世の日本はさ、擬人化が流行っててさ」

 

『いわゆる、鳥獣戯画みたいな感じかしら?』

 

「いや、もっと露骨に人間になってる。武器もそう。刀もイケメンだらけになって、本人が本体を振るって戦うの」

 

『あら、男性なのね。わたくしなら美人に描いてもらえると嬉しいのだけれど』

 

「そのタイミングはなぁ。女性化が主流だったから、あえての逆の需要を満たした的なヤツかも」

 

『歴史的に衆道趣味を否定するつもりはないわよ。人間だもの、感情は理屈ではないのでしょう?』

 

「さすが、二百年以上も年上のお姉さんは見識が広いことで。俺にその趣味は無いけど」

 

『人斬り包丁と当たり前のように会話をするようでは、普通の女性との交際も厳しいかもしれないわね。わたくしとしては、とても助かるわ。仕事でほかの武器(オンナ)と話すのは許せるけれど……フフッ、嫉妬で妖刀になってしまうかも』

 

「そんときゃまた丁寧に磨き直してやるよ。そのためのチート転生なんだろう。名声はいらんが生活の糧は必要だし? ……よし、終わり」

 

『わたくしの声が聞こえるのはそうだとしても、研ぎの技は努力で培ったものでしょうに。それで……今夜は、わたくしを選んでくれると期待してよろしくて?』

 

「えー? せっかく磨いたんだから大人しくしとけよー」

 

『せっかく磨いてもらったのだからこそアヤカシを斬りたいの。別にいいじゃない、アナタはわたくしに身体を委ねるだけ。そういうゲームの世界に似ているのでしょう?』

 

 

 重ねてランク上げてレベル強化してポチポチして殴る、コレクション要素のオマケに戦闘がある程度の気楽なゲーム。俺が意識を失う前には普通に遊べるタイプの無料ゲームもたくさんあったけど、携帯の進化と一緒に青春を過ごしてきた世代にとってソシャゲの始まりはそんなもんだ。

 俺はこうして武器の手入れをして準備するだけ。朝になれば、身体を貸し出していた間に外でアヤカシなる化け物を倒して手に入れた素材が並べてある。何故か俺の身体は疲れていないが……その代わり武器のほうは露骨に表面が鈍く曇っていたり、よほど苦戦したらしいときなど錆びまみれになってたりする。

 

 戦いとか面倒だし、武器たちは俺の記憶の引き出しから前世のアレやコレの技を選んで使うの楽しいって言ってるし、まぁ、気楽な生活ではあるけれど。

 

 

「……ま、いいか。せっかくこうして声が聞こえてんだし、応えられるリクエストには応えてやるのが俺の役目なんだろ。わかった、今夜の稼ぎはお前に任せるよ」

 

『えぇ、期待して頂戴。もちろん、アナタの名誉と尊厳を傷つけるような真似だけはしないと誓うわ』

 

「その気持ちは嬉しいけど、俺を護るために刀身が粉々になったとかは勘弁して欲しいかな。いや、まぁ、ファンタジー日本だし……治す手段があるなら気にするほうがアレなのかもしれないけどさ」

 

『心配は無用よ。危険を感じたら素直に逃げるから。たった1度の過ちとはいえ、妖刀に身を堕としたのだもの。これで引き際を間違えるようでは……ねぇ?』

 

「うん、信じる。そんじゃ、俺はバイト行ってくるから留守番よろしくね。万が一のときは、不審者への手加減も忘れずにな」

 

『そうね、血の汚れは跡始末が大変だものね。わたくしたちに手足があればアナタが帰ってくるまでに掃除も済ませておくのだけれど』

 

 

 うーん、物騒! 

 

 でも仕方ないね、彼女たちは武器だから。敵対する者は斬り捨て御免がデフォルトだと思えば、俺の頼みを聞いてくれるだけでも感謝するべきなんだろう。助けてもらっている側がアレコレ文句を言ったり注文つけたりするほうが無作法ってなもんだ。

 

 

 †††

 

 

 学生が武器を携帯し夜にそのへんを跋扈するアヤカシと呼ばれる化け物を倒す世界観、申し訳なさから保護者に頼りたくない自分の生活費を自分で稼ぎたい転生者にとってはとても好都合だ。主にアルバイトの種類的な話で。

 武器の声が聞こえる、という特殊能力をここで活かさない手はない。彼女たちに身体を任せて素材集めしたり、ってほうの稼ぎも悪くないけれど……あまり稼ぎ過ぎると言い訳が厳しくなる。戦闘系の能力やスキルを持たない俺が大量に素材を持ち込むのは不自然だからな。

 

 

「おぅ、坊主。今日も懲りずにやってきたか。まったく、お前さんほどの腕があるなら、もっと大きくてマシな設備のある鍛冶屋でも雇ってくれるだろうに……物好きよなぁ」

 

「金は欲しいですけど、労働環境も大事ですよ。どれだけ看板が立派でも、職人さんたちの武器の扱いに納得できないようではちょっと……遠慮したいってのがありまして」

 

 

 店長のお爺さんがケラケラと笑う。若造がなにを偉そうに、という雰囲気ではない。純粋に面白がってくれている感じだ。

 実際のところ笑い話ではなく真面目にこういう結論に至っている。人間が景気の良いことばかり話していても、肝心の武器たちが淀んだ空気を吐き出しているような工房とか立ち入りたくない。

 

 その点、このお爺さんの工房はすんパらしーデスね〜。アヤカシ狩りに使う武器たちはもちろん、ハサミや包丁なんかの日用品に至るまで鼻歌でも聞こえてきそうなほどゴキゲンですよ〜。つーか聞こえてんだけどね。

 

 

『おやおや、今日もアルバイトかい? 若いウチから健全に汗を流してお金を稼ぐのは良いことだよ。アヤカシとの斬り合いを否定するつもりは無いけどねぇ、そういうのは本来なら大人がやるべきことさね』

 

 

 工房で一番のご年配らしきダガーナイフもよう歓迎してくれとる。お爺さんが言うには元々は刀身の幅広めの西洋剣だったそうな。アヤカシ狩りを引退した友人が、いまでも趣味のジビエ料理の仕込みに使っているので手入れを任されているらしい。

 そういうのでいいんだよ、そういうので。ファンタジー世界に転生したからって、なんでんかんでん戦って立身出世せなアカンことないでしょ。俺もな〜、いつかは……スローライフまで行くと面倒だから文明的な生活は維持したいけど、贅沢しなくても心に余裕のある老後を過ごしてぇなぁ〜。

 

 そのためにも。

 

 

「……邪魔するぞ。いつものだ」

 

 

 このお得意様になりつつある学校でも有名なアヤカシ狩りのエース君との縁を何処かでプッツリ切らんといかんなぁ〜。

 

 

「あいよ。じゃ、適当に待っててくれ。すぐに取り掛かるから」

 

「……わかった」

 

 

『いよぅ! 今日もピッカピカよろしく頼むぜ!』

 

「手入れは光らせりゃいいってモンじゃないんだってば。展示品として自慢したいならともかく、お前さんは戦うための刀だろう?」

 

『ま〜ね。そんなことアタシだってわかってるけどさ、やっぱこう、見栄えとかも大事じゃん? 真剣勝負だからこそ気合で負けてらんねーんだってば』

 

「ふーん? なーんか怪しいなぁ〜?」

 

『は、はぁッ?! 別になにも隠してねーしッ!!』

 

 

 フッ。

 

 語るに落ちるとはこのことか。

 

 

「……おい」

 

「なに?」

 

「お前は……本当に、その」

 

「用がないなら作業に集中させてくれないか?」

 

「あ、あぁ……」

 

 

『なぁ、アタシの相棒になんか塩対応じゃね?』

 

「狗竜家ってのはアヤカシ狩りの名門なんだよな」

 

『そーだな。アタシは雷葉の護り刀として打たれたから知らんけど、蔵のババァどもからウンザリするほど話は聞かされてるよ』

 

「狗竜が家の名前を理由に不遜な態度してんならそれはそれで構わない。だけどコイツは家は関係ないと言う。つまり狗竜雷葉という男はシンプルに社会性と常識とマナーが足りてない失礼なヤツということになるワケだ」

 

『あー、うん……』

 

「それでも1度は手を差し伸べた。だけどソレを振り払ったのはお前さんの相棒のほう。ま、それでも仲良くしてくれる連中もいるようだけど……人間関係には取り返しのつかない場合もあるって、勉強になっただろう?」

 

『でもアタシと話してるトコは普通に見せるんだね』

 

「こんなん他人に話したって誰も信じねーよ。狗竜が頭の痛いヤツだと思われるだけで」

 

 

 少なくとも最初は俺がそう思われていたハズだ。頭のおかしいヤツ、ただ研ぎの腕は良いから値段も安上がりだし任せておこう……みたいな。単に実家との繋がりのない鍛冶屋なら誰でもいいとか考えてたかもだけど。

 それでも、自分の刀と会話してて他人の知りようのない情報や単語が飛び出てくればもしかして? と疑いたくなるだろう。もしも俺が主人公なら、それを切っ掛けにして交流を深める道もあったのかもしれない。でも俺はやらない。だって面倒だから。

 

 相手は所詮、学生。ならば、ここは仕方ないと歩み寄ってやるのが大人の対応だと言う人もいる。だが俺はやらん。たった1度でも“信用できない”と思われることのリスクを学ぶがいい。

 こういうタイプほど反省したときの伸び代がデカかったりするんだ、きっと良い方向に転がってくれる。本当に孤立してたらさすがに別だったかもしれんけど、いまの狗竜には友人がちゃんといるからな。

 

 

「で、肝心の手入れのほうは……ふむ、手加減された上で負けたな?」

 

「……オレは負けてない」

『負けてねーしッ!!』

 

 

 チラッ。

 

 

「……チッ」

 

 

 舌打ちをしてそっぽ向くキミ。

 

 そういうトコやぞ。でも俺としては助かる。アヤカシ狩りの名門とかいう露骨にメインストーリーがありそうなキャラとはビジネスライクな関係でありたい。戦えない俺を巻き込まないで欲しいから。仕事だから頼まれれば手入れはするけど。

 

 

「で、どんな相手だったん?」

 

『……新選組のコスプレをした小柄の女。身長はアンタの肩らへんまで、髪型はツインテールで一人称は“ボク”で────名乗りは“菊一文字則宗”だった』

 

「菊一文字? そこは沖田総司じゃないのか。でも、菊一文字って」

 

『博物館に展示されてるヤツは本物、だと思う。アタシだって産まれて20年もしてないから自信は無いけど、たぶんそう。だから、刀を使ってはいたけど、まさか本物ではない……のかなぁ? ぶっちゃけ、もしかして? って思わせるぐらいにはメチャクチャ強かったんだ』

 

「そんなに?」

 

『コッチの攻撃は全然当たらない。雷葉だけじゃない、紅輝も達也も空振りばっかりで……向こうは峰打ちで、回復役の星美が巻き込まれてケガしないように、そんでアタシら武器を壊さないように優し〜く戦いやがって……あぁ、クソがッ!! 思い出したらすっげぇ〜ムカついてきたッ!!』

 

「急にキレるじゃん」

 

『あのメスガキ、いかにもぷ〜くすくすwww って感じで笑いながら煽ってきやがったんだよッ!! 安い挑発だってわかっててもムカついたんだもん、殴りたくなるだろ』

 

「刀身に大した損傷が無いのに変な曇り方してんのはそれが原因か。心因性ストレスによる肌荒れだな、ビタミンをしっかり摂取して睡眠時間をちゃんと確保するのが一番だよ」

 

『今夜も見廻りするんだ、アヤカシどもにお披露目するにはもったいないぐらいの美肌にアンタが仕上げてくれよ。今度あのメスガキとエンカウントしたら絶対にずぇ〜ったいにアタシがぶった斬ってやるッ!!』

 

 

 武器にもメスガキって概念あるのか……。なんだかんだで俺が拾った呪いの武器の中にも適性ありそうなの何人、いや何本? かいたな。西洋剣に、槍に、弓に……そういえば昨日の素材集めをお願いしたのも刀って部分は一緒だわ。

 意外といるもんだな、メスガキ属性の武器。そりゃ武器だって多様性が適応されてんだもの、能力者にだってキャラ濃いのもいるよな。しかも新選組のコスプレで、何故か刀の銘を名乗るとか……キャラ作りにこだわり感じちゃうね! 

 

 

 †††

 

 

 日が落ちるだけではまだ足りない、月すらも隠れるほどに夜の翼が天を覆うとき。世界は人間の理から外れ至る所に“穴”が穿たれる。

 それを入り口とし人の世に這い出るモノを、湧き出る食欲と破壊衝動に支配されるがままに暴れる敵対存在を、誰が名付けたか由縁も分からぬが……それを古来より“アヤカシ”と呼んだ。

 

 無論、闇に蠢くモノ有れば、それを狩る光となる者たちがいる。

 

 

「……静か、だね。魔力の流れは感じるけれど、アヤカシの姿は全然見かけないし……今夜も、出るのかな?」

 

「わからない。けど、もしも彼女がオレたちにとって危険な存在なら……もう一度、まずは話をしてみる必要があると思うんだ」

 

「フンッ……オレも偉そうなことは言えないが、あれだけ一方的に打ちのめされたわりにはお気楽なことだな」

 

「あっはっは! まぁいいじゃないか、グダグダ落ち込むよりはさ! それに、話がまったく通じないって感じでもなかったしな! いや、そりぁ、少しはこう……オレも、ちょっとイラッとしたけどさ」

 

 

 不安そうに杖を抱く少女がひとり。

 

 真剣な眼差しで双剣を構える少年がひとり。

 

 少し不機嫌そうに刀を担ぐ少年がひとり。

 

 夜の闇に負けぬ快活さで打棍を握る少年がひとり。

 

 そして。

 

 

「無駄口もほどほどにしておけヒヨッコども。緊張で動けないよりはいいが、それで気配を掴みそこねたら死ぬぞ。強いアヤカシの気配が無いとはいえ、お前たちが襲われたってコスプレ剣士みたいなヤツが他にもいないとは言い切れんだろうが」

 

 

 子どもたちのお守り役らしき、両手剣を背負った女性がひとり。

 

 

「特に真部、元気なのはいいが声がデカい。ほかのアヤカシ狩りの邪魔になる。今夜は……この辺りは私たちしかいないからいいが、少しは息を潜めることを覚えろ馬鹿者」

 

「ウッス!」

 

「……まぁ、素直なのは良いことだ」

 

「紫城センセイ」

 

「なんだ、朱迅」

 

「今日もアイツは出てくるんでしょうか?」

 

「そんなこと私が知るワケないだろう。だが、これまで封印が解けず誰も扱えなかった【日将剣】と【斬星剣】を使えるお前が手も足も出ないような相手を放置するのが危険なのも事実だ」

 

「でも、オレは能力者としてはまだまだ未熟ですし……たまたまスキル適性が見つかっただけで、ランクだってようやくコボル級からブロンズ級になったばっかりだし……」

 

「そうだな。お前の強さは武器の強さとスキル運による部分がまだまだ大きい。謙虚なのは結構なことだ。しかし、それを含めてお前はアヤカシ狩りとしては決して弱くないんだよ朱迅。それに狗竜と真部、ついでにサポート役の広院が一緒にいてボロ負けした事実は無視できんのさ」

 

 

 正体不明の能力者に襲われる。本来であればアヤカシ狩りに使うべきスキルを私利私欲のため利用する連中の存在は協会にとって頭の痛い問題であった。

 だからこそ学生たちの証言だとしても無視するような真似はしない。政治的な人間特有の色合いの……つまりは様々な思惑が絡むことは避けられず、お世辞にも万全な対策ができている、とは言えないが。

 

 それでも久しく使い手が現れなかった対の宝剣に認められた朱迅紅輝という少年だからこそ、昨日の今日で人が動いたともいえる。

 同じ刀剣適性を持つジョブスキルの中でも【フェンサー】や【セイバー】の上位互換と言われている【ソードマスター】のスキルを所有していることも無関係ではない。

 

 宝剣のことも含め、貴重な戦力を無駄死にさせてしまったのでは協会の面子にも傷が付く。ならば、と……紅輝の指導役として交流があり、能力者としてもゴールド級と申し分ない紫城佳代が同行者として選ばれた。

 そこには学生である彼らの心理的負担を考えて、なるべく揉め事が起きにくいようにという配慮もあったことだろう。関係者の誰もが人の心を無視するワケではない。

 

 

「あっはっは! 心配すんな紅輝! もしもあの女の子がもっぺん襲ってきたとしても、小さい頃からマブダチの真部達也が今度こそ守りきってやるさ! 防御力に優れた【ナイト】のジョブスキルは伊達じゃないって証明してやるぜ!」

 

「……イチイチ大声を出すな、鬱陶しい」

 

「もちろんお前のことも忘れてないぞ雷葉! それに星美のこともな!」

 

「うん、いざというときは頼りにしてるね達也くん」

 

「言っておくがな広院。ナイトの真部がしっかりと壁役を務められるようサポートするのが【プリースト】のジョブスキルを持つお前の仕事なんだぞ。真部がパーティーを守れるよう、お前が真部を守らなければ意味がないんだ」

 

「あ、う……ゴメンなさい、先生……」

 

「よろしい。それではさっそく実践開始だ」

 

「「「え?」」」

 

「む?」

 

「反応が鈍いぞお前たち。向こうのほうで大きな魔力の乱れがある。それとひとつ、どうにも異質な魔力もな。急ぐぞ、当たりを引いたかもしれん」

 

 

 †††

 

 

 返事も待たずに駆け出した紫城佳代を追い掛けて、4人の学生能力者たちが辿り着いた先に待ち受けていたのは。

 

 

 

 

「あら、見つかってしまったのね。面倒事はなるべく避けるつもりだったのだけれど、少し夢中になり過ぎてしまったかしら?」

 

 

 

 

 斬殺されたアヤカシの残骸、その山に囲まれて女性がひとり。

 

 理がズレた影響か、はたまた能力者だからこそなのか。5人それぞれがお互いにそうであるように、その女性の姿もまた昼間と変わらぬようにハッキリと視えている。

 身長は170ほど。柔らかい表情にスラリとした眼差し。艶のある長い黒髪は首の後ろで簡素に束ねられ膝の下まで。そして、なによりも目を引くのはもちろん────血の滴る刀身と、まだら模様に赤黒く染まった羽織と着物。

 

 

「報告で聞いた能力者とは別人のようだが、その格好……まったくの無関係ってワケではなさそうだな? 貴様、後ろの連中を可愛がってくれた剣士に心当たりがあるだろう。詳しい話を聞かせてもらおうか」

 

「フフフ……。たしかに、知らぬ存ぜぬと言えば嘘になるけれど」

 

「大人しく従うなら手荒なマネはしない」

 

「そう。従うつもりは無い、と言ったら?」

 

「そんなもの、決まっているだろう。協会に登録していない能力者は現場の判断で“然るべき対応”が許可されている」

 

「そう。なら、仕方ないわね」

 

 

 女剣士が懐に手を伸ばす。

 

 そして。

 

 

「少しだけ待ってもらえるかしら? すぐに済ませるから」

 

「貴様……ふざけているのか?」

 

 

 手のひらにスッポリおさまる何物かを取り出したことに、なにか武器でも取り出されたかと佳代が両手剣を構えて警戒する。

 が……その中身を女剣士が小指で掬い取り唇に塗り始めたとなれば、こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ文句も言いたくなるだろう。

 

 

「わたくしなりの方法でアナタとの死合に敬意を払っているのだけれど。決して負けられぬ身の上ではあるけれど、それでも……討ち取られた首が土気色に醜く劣化したのではアナタに対して失礼でしょう? 死してなお桜色、それも戦士としての嗜みよ。もっとも……これは御館様から教わった知識だから、わたくしもあまり偉そうなことは言えないわ」

 

「そうか。貴様なりに礼を尽くしてくれていると言うのであれば、それを邪魔するのも野暮というものだな」

 

 

 困惑する4人の気配を背中で受けながら、佳代は警戒を維持したまま切っ先を下げた。相手側に逃走の気配が無いのであれば、この空白の時間で少しでも情報を整理するほうが良いとの判断である。

 まだまだ憶測でしかないが……ほぼ確実に、彼女らは個人単位ではなく組織的な活動をしていると思って間違いない。まともな防具ではなく着物と羽織という軽装でも、敢えてそれで揃えているのは意図がそこにはあるからだ。

 

 ごっこ遊びの延長線だとしても、スキルを使える不審者たちが“御館様”と呼称される何者かに仕え使われ力を振るっている。アヤカシ狩りに興じているだけなら人々に対しては無害だろう、と楽観視できるほど紫城佳代という能力者は人間の善性を盲信していない。

 

 

「あら、そちらは仕事中でしょうに戦事の妙味を理解してくれるのね。ステキよ、そういうの。まぁ、だからといって────アナタ如きに後れを取るつもりなど微塵もないのだけれど」

 

 

 懐紙を咥えて余分な口紅を取り払った女剣士が艶然と微笑む。冷静を装っていながらも内なる暴性が牙を剥き始めたのか、両の眼を鮮やかな血の色に煌々と喜ばせながら。

 

 

「生憎と、私もゴールド級の狩人として教え子たちの前で無様を晒すワケにもいかないのでな。その首、遠慮なく我が“鬼捨壊剣”で斬り落としてやろう」

 

「そう。待たせてしまったお詫びとして先手は譲るから、期待以上のモノを見せてくれると嬉しいわ」

 

「その言葉、後悔────するなよッ!!」

 

 

 勝算は、ある。

 

 あくまで佳代の経験則でしかないが、恐らく目の前の女剣士は実利ではない精神的な部分で繋がる組織に所属しているタイプである。学生向けの訓練用プロテクターにも劣る魔力しか込められていない衣装で戦場に出る理由などほかに考えられなかった。

 そういう手合いの能力者は、スキル構成もロールプレイに傾倒することが多い。この場合、まず間違いなくジョブスキルは剣技に特化したフェンサーかソードマスター。力押しを得意とする佳代の【グラディエーター】とは相性の悪い相手だが、もちろん自分の弱点を放置するような狩人では上位ランクのゴールド級として認められはしない。

 

 慢心して油断してくれるなら好都合。悪鬼羅刹の尽くを斬り捨て叩き壊すために鍛えられた鉄塊ともいえる鬼捨壊剣(オーガバスター)で両断してやろう。それなりに使()()()なら、話を聞き出すなら即死でなければ回復スキルでどうにでもなる。

 

 

(その細身の刀で両手剣を受け止められるものか。その余裕ごと粉砕してやる……ッ!)

 

 

 グラディエーターは攻撃に特化したジョブスキル。防御には多少の難はあるが、ソードマスターほどではないが速さにも優れている。

 完全に“受け止める”姿勢の女剣士ではもう避けられる距離ではない。様子見の一撃などと甘いことは考えず、このまま初撃で終わらせる。

 

 動き出し、

 

 距離を詰め、

 

 武器を振り下ろす。

 

 常人では目で追うことなど叶わぬ一瞬の。

 

 

「────受けてみろ。【メガスマッシュ】ッ!!」

 

 

 だが。

 

 

 

 

「あら、素直で可愛らしい戦い方をするのね?」

 

「な────ッ?!」

 

 

 

 

 金属と金属の触れる音。

 

 それは誰が聞いても激しい衝突音などではなかった。

 

 

「ジョブスキルの恩恵、攻撃スキルの火力、共に申し分無し。なれど……正面から武器を叩き付けるだけでは、ね? この程度であれば受け方と呼吸ひとつで簡単に、如何様にでも捌けるわ」

 

「くッ?!」

 

 

 不味い、と思ったが既に遅い。

 

 女剣士が引き寄せるように力を受け流したことで、佳代の体勢が崩れてしまう。生じた隙は時間だけならほんの僅かでしかないが、このレベルの戦いの最中であればあまりにも大き過ぎる。

 強制的に振り切らされた両手剣を戻すより速く、女剣士の身体が低く沈み込む。水平の刀身に、柄頭に空いた掌を添え当てた押し込めるような構え。次の攻撃を予測した佳代は瞬時に反撃の可能性を全て捨て、両手剣を盾にした。

 

 

 再び、コツン……と。金属の触れる音。

 

 そして。

 

 

「少し強くいくわよ?」

 

「ぐ……うぉぉぉぉッ?!」

 

 

 誤って両手剣を穿ってしまわないように、

 

 勢いのまま心ノ臓を貫いてしまわないように、

 

 しかし決して反撃など許さぬ勢いで。

 

 

「がはァ……ッ!!」

 

 

 世界がズレた状態では、基本的に魔力の通わないモノに干渉するには幾つかの手順がある。だからこそ能力者たちは周囲の被害を気にすることなくアヤカシと戦えるのだが……いまは、それが仇となる。叩き付けられた道路標識は折れず曲がらずの凶器となって佳代に深いダメージを与えてしまう。

 

 

「紫城センセイ……ッ! 星美、回復スキルを頼む。時間は、オレたちが稼ぐ……ッ!」

 

「朱迅くん……気をつけて……ッ!」

 

「ヘヘッ、心配はいらねーぜ星美。紅輝も、お前も、紫城さんも、オレがバッチリ守ってやるからな! もちろん雷葉もだぞ!」

 

「そうか。なら頼りにさせてもらうとしよう」

 

「な、なん……だと……?! 雷葉が素直にお礼をッ!? ついにデレ期が来たか!」

 

「人間関係について……少し、学ぶ機会があった。それだけだ」

 

 

 4人に“逃げる”という選択肢は無かった。

 

 勝ち目の無い相手を前にして、それでも立ち向かおうとするその気概を、ある者は“勇気”と称賛するのだろう。

 相手側に戦闘行為を継続する意思が無く、見逃すつもりで刀を鞘におさめようとしていた、という事実を考慮しないのであれば。

 

 

「……そう。退くつもりは無い、と受け取っても良いのかしら?」

 

「まだまだランクは低くても、オレたちだってアヤカシ狩りの狩人なんだ。勝てないかもしれないから、って簡単に逃げてばかりはいられな────うわッ?!」

 

 

 戦わねばならぬと双剣を構えるまでは良かった。だが、構えてから悠長に自分語りを続けるのはどうぞ攻撃してくださいと言っているようなもの。

 どれほど優れた武器を装備していたところで使い手が油断したのでは意味がない。ギリギリで防御は間に合ったが、もとより斬撃ではなく押し出しを狙っていたらしい女剣士には関係なかった。

 

 師匠である紫城佳代のように、弟子である朱迅紅輝の身体も横方向へ大きく吹き飛ばされる。それでも、武器だけは手放さなかった根性だけは一人前と言っていいかもしれない。

 

 

「紅輝ッ!」

「朱迅ッ!」

 

「ぐッ?! く、うぅ……わ、悪いふたりとも。助かった」

 

 

「反応は決して悪くないようね。いいわ、少しだけ遊んであげる。この【和泉守兼定】との戯れを、せいぜい学びとすることね」

 

 

 †††

 

 

 転生して若返りを実感したことのひとつ。朝が辛くなくてスッキリ起きることができる。社会人として働いてるとね、疲れを残さないようにって早めに就寝してもホント……肉体そのものが劣化してるって、ハッキリわかんだね。

 

 

『あら、起きたのね。今日も休日なのだからゆっくり寝ていれば良いのに』

 

「おはよう。規則正しい生活こそが健康年齢には重要なんだよ。せっかく若返ったからこそ、今度は気兼ねなく美味しいもの食べられるよう体調管理には気をつけたいんだ。で……これが、昨日の戦利品か。わざわざ並べてくれたんだ?」

 

『えぇ、もちろん。身体を借りているのだもの、それぐらいはね』

 

「どれどれ……ふむ、ふむ。なるほど」

 

 

 半分くらいは普通に売れる。残りは保留だな。価値が高い物はもちろん、自力で判別できない物を迂闊に納品してはいけない。武器のメンテナンスに使うだけならアドバイスが聞き放題だから困りはしないが。

 

 

「学費のぶんを差し引いても結構余裕が出てきたな。メンテナンス用品のグレード上げてみるか? 個人で購入するよりバイト先の店長に相談したほうが面倒は少ないだろうし、ちょっと頼んでみよう。それにしても……」

 

『あら、なにかお気に召さないモノでも?』

 

「いや、ソシャゲのザコ周回で素材集めしてるみたいな気分なんだけどさ。それを自分じゃなくて誰かにやらせてるみたいで、なんつーか、こう……申し訳ないというか」

 

『わたくしがアヤカシを斬らせて欲しい、と申し出たのだから気にする必要など無いのに』

 

「気分の問題。面倒な男で悪いね」

 

『フフッ。わたくしはアナタのそういうところ、キライではなくてよ?』

 

「変装グッズの使い心地は?」

 

『問題ないわ。もっとも、戦いの最中に崩れてしまっては万が一のことになるかもしれないから、わたくしの魔力とアナタのメンテナンス系の補助スキルを使って()()()()()()()()()()()()()()させてもらったけれど』

 

「いいよいいよ。道具は使う人が使いやすいのが大事なんだし」

 

『わたくしも本来なら使われる側の存在なのだけど?』

 

「意思疎通が出来てるからセーフ」

 

『あら、判定が緩いのね。でもキライじゃないわ。そういえば、確認するのを忘れていたけれど……寝覚めは良好、ということで良さそうね』

 

「おうよ。お任せとはいえ身体を動かしてるとは思えないほどすこぶる元気いっぱいだぞ。貸し出してる間はずっと寝てるのと同じ判定なんかね?」

 

『さぁ? どうかしらね。取り敢えず、だけれど……わたくしたちの遊びでアナタのことが周囲に知られることは絶対に無い、とだけは言っておくわ。そもそも戦うためのスキルを持っていないのだから、疑われることがまず起こり得ないとは思うけれど』

 

 

 隠しておく、黙っておく、ではない。本当に持っていないのだからバレるとかそういう問題ではない。補助スキルは俺以外でもサポート系の役目を担うのであれば誰だって持っているから気にするようなことでもない。

 

 そういう意味では武器と会話できることを狗竜に隠さなかったのは、この先どうなるかは半々だろう。俺のメンテナンス技術は会話を前提とした技術である以上、必ず何処かのタイミングで誰かにバレる可能性はある。

 そういう変わり者キャラで押し通すにしても、大切な武器を預けても良いという信用を稼ぐ必要があるのだ。なら、口下手でコミュニケーション範囲の狭い狗竜はまだ利用しやすいほうだろう。直接、脳内で会話できりゃこんな小細工しなくてもよかったんだろうが……無い物ねだりしても仕方ないし、会話できるってだけで反則なんだから感謝しないとな! 

 

 

 っと、大事なこと忘れてた。

 

 

「で、お前さんのほうは……うん、ちょっと汚れたぐらいか。ザコ狩りだけじゃ物足りないかもしれないけど、帰りを待つ側としては一安心だよ」

 

『そうね、特に報告が必要なほど強い相手とは出会わなかったわ。それでも磨いてくれるというのなら、喜んで』

 

「道具は使う前より綺麗にするつもりで片付けろ、って前世でも今世でも伊達に小学校で習ってないぜ! ファンタジー物質だから磨り減った刀身を戻す作業も出来るしな。ま、それをしないで自然のままに、って店長のスタンスも尊敬しているんだが」

 

『わたくしはアナタが終の使い手になってくれるならそれでも構わないのだけれど』

 

「俺がじーさんになっても?」

 

『アナタが骨になっても。きっと、わたくしだけでなく皆も同じことを考えているわ。また負の魔力に取り込まれて妖刀や魔剣になるよりは穏やかに終わりを迎えたいもの』

 

「そいつは素敵だな、光栄だよ。だけど」

 

『だけど?』

 

 

 

 

「俺、一生結婚出来なさそうだなーって」

 

『喜びなさい。世界でアナタだけの、最も身持ちの“カタい”ハーレムの始まりね?』


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