まあまあ人に近い邪神が人に力を貸す話   作:はすはす

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鬼滅の刃 × クトゥルフ神話の試みです。


拾い上げるもの Lyzg'ham

 Lyzg'ham(ウィズグァム)は魔王アザトースの最後の落とし子である。

 その用命は文字通りの"継母"。即ち、アザトースの子守役である。

【拾い上げるもの】としての権能をもつウィズグァムは、アザトースの飛び散り、泡立つ欠片を回収するいわば掃除屋だった。

 全ては彼の魔王の安眠のため。

 

 ある時──いや、時という表現は正確ではない。「宮殿」は時間という概念の外にあるし、そもそもあらゆる外神は時間の領域に留まることは少ない。

 ただ、彼の盲目白痴の行動を知るものなどナイアーラトテップを除いていないため、あたかもその時唐突に起こったかのように思えるだけだ。

 魔王が──寝息を立てた。

 それだけで、宇宙が慟哭した。

 いくつかの"つまらない夢"は泡のように──そしてそれは実際に泡でしかなく──消えた。

 いくつかの"おもしろい夢"は星のように──自らを燃やし尽くすほどの勢いで──爆ぜた。

 いくつかの、いくつかの、いくつかの、……。

 そして、ある夢は、ほんの少しばかり捻じ曲がった。

 

 

 その捻れは、人にとっては、致命的なものだろう──。

 

 

 

 

『助けて……』

 

 外神ウィズグァムは祈りを聞いた。

 人間という矮小な種の、ほんの泡沫に過ぎない雑音とも言えるその声を、確かに聞き届けていた。

 あるカルトは彼を【呼ばれざりし応へ】と呼んだ。彼は打ち捨てられしものの神。あらゆる"所有者の消えた存在"は、必然的に彼の領域に入る。絶望し、打ち拉がれ、投げ遣りに呟いた最期の言葉が、誰に宛てられたでもない祈りが、彼の耳に入るのだ。

 ウィズグァムは人間的な神だ。彼自身のあり方が、「顧みられないもの」の典型だ。精神的な苦悩の多い人間という低俗な種族にこそ、彼は同情的になることができるのだ。

 

「……離れるか? 行かざるべきか?」

 

 ウィズグァムはアザトースの肥大した腫瘍を幾千の触手で抱えながら、自問した。使命そのものなるアザトースの()()()と、自らの感情。

 このような些事を天秤に掛けることのできる彼は、外神の中でも異端であることが伺える。

 

「行ってもよいですよ、収集癖の弟よ」

 

 背後からのどこか浮ついたような声は宇宙的恐怖を体現するトリックスター、ナイーラトテップのものだ。

 ウィズグァムが触手の1本に生じた"拾った目"でナイアーラトテップを見遣る。

 

「本来の目では見てもくれないですか。嫌われたものです、弟よ。私がいつ貴方に気の障ることをしましたか?」

「その不快な表情で人間の化身を象るのが気に食わないのですよ、兄者。それに、私のような乙子を弟などと思ったことは微塵もないでしょう」

 

 ウィズグァムが権能で所有権を持つ"自死した人間の目"が捉えたものは、神父の姿で嘲笑を浮かべるナイアーラトテップ──否、ナイ神父だった。

 

「ええ、そうですね。敬意も忠誠もない貴方が我らが魔王の目付役とは甚だ遺憾です」

「主にまで嘲笑を向ける兄者には言われたくもありません。……それで、態々人語で話し掛けた理由は?」

「ああ、そうそう。副王より伝言です。『貴様の次の役割は道化である』と」

「……はあ?」

「我らが魔王の眠りの安寧に、音楽神のフルートやオーボエでは十分ではなかったようです」

 

 くい、と5次元的にナイ神父が指差す方向を見ると、戦く蕃神の音楽隊がある。

 

「早くしないと、トルネンブラが夢に顕現しますよ。私は気にしませんが、貴方は違うでしょう」

「分かりました。行きましょう。ちょうど呼び掛けがあったところでもありますし」

 

 幾万の触手で虚空を掻き出したウィズグァムは、瞬時に光速に達して3次元世界へと飛び立っていった。

 

 


 

 

「 君のことは、俺がちゃんと食べてあげるから──」

 

 目の前の男が、支離滅裂なことを言いながら私に近付いてくる。

 この鬼の氷の血鬼術によって凍て付いた肺がジクジクと痛む。脳に酸素が回らない。

 もはやどんな戯言を言われているのかすらも認識できず、ただ、その男の扇子が自分の首を跳ねるためだけに向けられるのを認識した。

 

 ごめんね、しのぶ、カナヲ──。

 

 死を目の前にして、自分の目に入れても痛くない大切な家族のことを思い出す。ああ、きっと彼女達は自分の死を知り、嘆き、復讐を誓うのだろう。そして、その身が燃え尽きるまで鬼を狩り続けるのだろう。

 それは。

 誰の前でも、常に笑顔を絶やさなかった。死ぬとしても、笑顔で、できることなら最期にこう伝えてあげたい。

 普通に生きて、と。

 

 いや。

 嫌。

 やっぱり嫌よ。

 あの子たちの幸せな未来を、私は見届けたい。それまで、死ねない。

 

 この男は死後だとか、救済だとか言うが、そんなのは嘘だ。

 生きて幸せでなければ、一体どのように報われるというのか。

 きっとこの世には、神も仏もいないんだろう。でなければ、鬼の存在など許すはずもない。

 だから、これはただの狂言だ。

 それでも──

 

「助けて……」

 

 

 

 その祈り、聞き届けよう。 

 

 

 

 光。轟音。残り数寸といったところの扇と私との間に、紫に発光する幾何学的な紋様が浮かび上がった。

 男──童麿とか言ったか、まあ今さら呼び直しても仕方あるまい──が警戒心を露にし、ダンッと跳躍し下がる。

 発光と回転を続ける紋様は、いつか鬼の情報を求めて西洋の記述を漁ったときだったかに見た、何らかの呪術の産物に思えた。

 そして、その紋様からどす黒い触手が現れた。

 狭い穴を押し広げるように、"枠"を掴んで空間を引き裂いて、それは現れた。

 見た目は()()()人型。死んだように濁った目と、青白い肌。不定形に蠢く黒髪。しかしよく見ると、腕に浮き出す血管の細部はまるで生きているかのように脈動し、未だ枠に凭れる触手は彼の腕を突き破って出たそれらの一つであるように見える。

 

「私を呼んだのは君か?  うら若き人間よ」

 

 人目で人ならざるものだと分かるその存在は、鬼にまるで注意を払っていないかのように背を向けて私に語り掛けてきた。

 目と目が合う。否、遭う。

 私は自分が救いを求めた存在を理解した。それはどうしようもなく邪悪で、醜悪で、巨大で、高次で、偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で偉大で──

 

「おっと、人化が完璧ではなかったか。やはり兄者のようにはいかないな。すまないが、少しの間寝てもらおう」

 

 そこで私の意識は途絶えた。

 

 


 

 

「君はっ、一体、何……だ?」

 

 童麿はかろうじて声を出す。

 人の姿をとり、しかし尋常ならざる空気を醸す眼前の存在から、目が離せない。未だ正気を保っているのは、闇夜と距離のお陰だろう。

 皮膚を刺すような感覚は、長いこと忘れていた生存本能による逃走本能の現れ。逃げ出したいと叫ぶ全身の細胞を理性で押さえ付け、童麿は問う。

 

「ん? グールか? 随分と人間らしい見た目だが……それに()()

「……は……」

「モルディギアンはよくやっているだろうか。彼の取り分から自殺者を奪ってしまうことはかねてより申し訳ないと思っていたのだが……謝罪の機会が来たようだ。君、招来の呪文を使えるかい?」

「何なんだ、その名前は……!」

 

 童麿は繰り出される邪悪な音の並びに戦く。彼の歴戦の本能が、どうにか「核」の理解を避け、目を背けている。

 

「ぐっ、来るなっ……!」

 

 童麿はそうか細い声を残して、夜を去った。

 

 

 

 

 

 

 

「……???」

 

 残されたのは、「一体何を助ければよいのだろう」と首を傾げる外神と、眠らされた鬼殺隊花柱胡蝶カナエだけであった。

 




はい、オリ主兼オリ神格のウィズグァムさんの最初の仲間(場合によっては信奉者)は胡蝶カナエさんです。
ではここでウィズグァムさんのスペックをば。

真名: Lyzg'ham
種族: 外神
説明:
拾い上げるものとしての権能をもつ。打ち捨てられた、顧みられないものたちは彼の領分。
アザトースの身の回りの世話(主に掃除)のために生み出された最後の落とし子。外神スケールでは、魔王直の落とし子であるのにもかかわらず権能がゴミ拾いであり、本人もそれを生き甲斐としている収集癖の異端児。
人間からは【拾い上げるもの】【呼ばれざりし応へ】 【継母なる乙子】などの名で呼ばれることがある。他にもありますが、それは後々。
存在のあり方からして人間に同情的であり、誰も受話器を取らないようなお祈り着信は全てこいつに届く。
ナイアーラトテップとは兄弟の関係になるが、温度感は冷え切っている。
全部に絶望して、自分自身すら手放して自死した人間はこいつの元に来ることがある。死者を自分の取り分とするモルディギアンはブチギレているが、存在格的に外神に喧嘩を売るわけはないのでグールが八つ当たりされている。

亀更新になるとは思いますが、気に入った方はどうぞ気長にお待ちください。
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