人間不信の元ヒーロー少女が助けた女の子に絆される話   作:96963

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お久しぶりです。
なんか色々してたら遅れました。


「おにぎり食べたい」「おにぎり好きすぎませんか?」「薊はおにぎり狂いですからね」

「…………椿さん?」

 

「え? ええ、はい。音切椿です、薊さん」

 

 悪夢から目覚めた私の視界に入ったのは、あの顔の無い誰かではなくて、昨日から一緒に住むことになった椿さんだった。

 それに気づいた瞬間、恐慌としていた頭が冷えていき、手を包む暖かい何かが目の前の椿さんの手である事に気づく。

 どうやら、私は椿さんに手を握られてたらしい。

 

「…………何で、椿さんが私の部屋にいるの? いや、別に怒ってるとかじゃないんだけど」

 

 そこまで冷静になって、何で椿さんがこの部屋にいるんだろうと疑問が湧き出る。

 昨日スノードロップ用の客間に案内した筈なんだけど。

 しかし。

 

「…………その、起きたら変な音が聞こえて…………それで気になって、音の元を探してみたら、薊さんが魘されていたので…………」

 

「…………」

 

 …………またやらかした。

 答えとして帰ってきた椿さんの心配そうな顔でそう悟って、頭が痛くなる。

 クソ、最近はあの悪夢を見なくなってたのに…………同居初日から、同居人に心配かけるって何やってんだ私。

 …………あの悪夢を見るのは、私の記憶から生まれたものだ。

 レッドライダーを倒した後も、色んな人から悪意を向けられたトラウマから生まれた、悪夢。

 最後に出た、あの顔の無い誰かがその最たるものだ。

 特定の誰か、ではなく周りのあらゆる人間から向けられた悪意は、私の中で凝り固まって、あんな人型になってしまった。

 あれは私の知り合いであり、私が出会った事もない人であり、私が過去に助けた人であり、私が助けられなかった人であり、私が迷惑をかけた人であり、私が迷惑をかけられた人であり、私が助けられた人だ。

 つまり…………あれは、私にとって人類という存在のメタファーになっている。

 そんな存在に、ああやって撃たれるのは…………私にとって、何回繰り返しても吐き気がするくらい嫌な体験だ。

 目覚めたら、パニックになってしまうくらいに。

 それでも、最近は見てなかったから、比較的落ち着いてたんだけど…………久しぶりに、見てしまった。

 よりにもよって、同居初日に。

 それで醜態を晒してしまった事実に、心が重くなる。

 

「…………ちょっと嫌な夢見てたから、魘されてたんだと思う。心配かけてごめん、椿さん」

 

「え? いや薊さんが謝る事でも無いと思いますけど…………私が勝手に心配しただけですし、嫌な夢なら仕方ないと思います」

 

「…………」

 

 椿さんが気にした様子が無いのが、気を遣わせている様でまた心を重くする。

 その時。

 

 ──────ッ! 

 

「…………っ!」

 

 嫌な音が、耳に響いた。

 今一番聞きたく無い類の音が。

 だけど…………今の精神状況で、耳障りなそれを無視する事も出来なかった。

 悪夢を見た事もあって、憎悪が吹き上がる。

 

「…………ごめん、ちょっと散歩行ってくる」

 

「へ?」

 

 椿さんに断って、壁に掛けておいたギアを抜き、ベランダの窓を開ける。

 

「いや散歩って、そこベランダですしここ一階じゃないですよ…………?」

 

「来い、『ドゥームズデイ』」

 

「え?」

 

 案の定、私の行動に椿さんが困惑するけど、今それを気にしてられる余裕はなかった。

 小さな竜が来たのを確認し、馬鹿みたいに高いマンションのベランダに足を掛け、飛び降りる。

 

「薊さん⁉︎」

 

 驚く椿さんの声を背に、地面に落ちていく私の元にやってきたドゥームズデイが勝手にギアの中に収まる。

 

「幻装」

 

『…………破壊、崩壊、幻壊、浄壊、裁かれよ!』

 

 それを確認してギアのトリガーを引くと同時に真紅の鎧が私を包み、落下が止まる。

 背中に生えた翼によって。

 その翼を羽ばたかせ、憎悪を激らせながら音のする方向へ…………黙示録の残党がいる方向へ向かう。

 …………この世界に来るなら、何度だって滅ぼしてやる。

 

 

 

 

 

 

『ふぁ…………おはようございます、椿さん。朝からどうしました? 薊が何かやらかしましたか?』

 

 魘されていた薊さんがいきなり変身してどこかに行きました。

 そんな、激動する環境の中で投げ込まれた更なる爆弾に、私の思考はついていけませんでした。

 なので、知ってそうな人にとりあえず訊いてみる事にします。

 しかし。

 

「おはようございます、スノードロップさん。朝早くに申し訳ありません。ですが、スノードロップさんの言う通り薊さんに関する事なので連絡させてもらいました。それで、薊さんなんですが…………さっき窓から飛び降りたと思ったら変身して何処かに飛んで行きました」

 

『はい?』

 

「薊さんが変身して何処かに飛んで行きました」

 

『えぇ…………何やってるんですかあの子…………』

 

 どうやら、知ってそうな人であるスノードロップさんも薊さんの行動にはついていけない様で、困惑する声が電話越しに聞こえてきます。

 

『…………とりあえず合流しましょうか、椿さん。ギアを使ってるなら薊の居場所はわかりますから、一緒に薊のとこに行きましょう。なので、一旦薊の家にある私の部屋…………つまり、昨日貴女に渡した部屋に来てもらえますか?』

 

「え? ええ、はい」

 

 しかし流石というべきか、スノードロップさんはすぐに建て直した様で、電話越しの声が落ち着きます。

 でも代わりに、奇妙な事を言ってきました。

 薊さんの家と処理班の本拠地は結構離れているのに、合流するために私の部屋に来いとはどういう事なのでしょう。

 いえ、正確にはスノードロップさん用の客間を借り受けただけなのですが。

 疑問に思いながらも、とりあえず件の部屋に向かいます。

 そこには。

 

「どうもどうも、昨日ぶりですね、椿さん」

 

「え?」

 

 電話越しに話していた筈の、スノードロップさんがいました。

 

「あ、不思議に思ってると思うので簡単に説明しますと、この薊の家と処理班基地の私の部屋はワープゲート的なもので繋がってるんですよね」

 

「はあ」

 

「なので、電話しながらこっちに来たという訳です。あ、この部屋にそのゲートがある訳ではないので椿さんのプライバシーを覗いたりはしてませんよ?」

 

 なるほど、つまりスノードロップさんは来ようと思えばいつでもこっちに来れるという事ですね。

 しかし、それでは何故そのゲートではなくこの部屋に来いと言ったのでしょうか。

 

「その質問に答えましょう! というわけで、オープン!」

 

 そんな私の疑問を読み取ったと言わんばかりに、スノードロップさんが部屋の壁…………ちょうどマンションの隣室とこちらを隔てる壁に向かって、指を鳴らします。

 すると。

 

「うわっ⁉︎」

 

 壁の一部に幾何学的な光が走ると共に、地響きの様に低い音が鳴って、ぽっかりとした穴が開いてしまいました。

 

「このマンションは全部私の持ち家ですからね、薊の部屋の隣は私の倉庫として改造してるんです。さ、入りましょう。あ、椿さんのギアも持ってきてください。念のため」

 

 疑問を先読みした様にスノードロップさんが説明し、倉庫とやらに入って行きます。

 

「…………」

 

 スノードロップさんが入った黒々とした穴に少し身体が竦みますが、薊さんをスノードロップさん一人に任せるというのも選べません。

 私も薊さんが心配ですし。

 それに…………あんな酷い顔して飛んでいった人を、スノードロップさんに任せて自分は待つのは、同居人としてちょっとドライすぎる気がします。

 だから、出来ることなら助けたい。

 あの人を。

 …………どれほどの助けになれるかはわかりませんが。

 なので、スノードロップさんの言う通りにライフル銃の形をしたギアを引っ張り出して穴に飛び込みます。

 

「えーと…………確かこの奥に…………」

 

 穴に飛び込んだ先では、大量のアイテム…………恐らくスノードロップさんの発明品が、ずらりと棚に並んでいました、

 そこには、私達処理班の使うギアらしきものに、コアらしきもの…………後何に使うのかわからない物品が、所狭しとラベルを付けられて綺麗に並べられています。

 しかしスノードロップさんは、棚に並べられたものが本命では無かったようで、コアらしきものを数個取った以外は無視して私を手招きしながら棚の奥に進んでいきます。

 すると…………ぎっしりと棚の詰まったスペースから一転、ガラリと開いた場所に出ました。

 そこは何というか…………格納庫、といった様相の空間でした。

 バイクにスポーツカー、装甲車両、輸送機に戦闘機と…………ハンガーに収めれらた様々な種類の乗り物が、主人を待っているかの様に鎮座しています。

 

「今回は…………これで行きましょうか」

 

 マンションの隣室に、色んな乗り物の格納庫があった──────そんな摩訶不思議ま状況に天を仰いでる私を他所に、スノードロップさんが端末を操作します。

 すると…………格納庫に収められていた乗り物の一つ、小型の輸送機の様な形をした乗り物がアームで運ばれて格納庫の更に奥に運ばれていきます。

 それをスノードロップさんが追うので私もついていくと、ある場所で輸送機が降ろされました。

 そこには、レールの様な何かがあって、輸送機の足がレールについた爪でロックされていました。

 これは所謂、カタパルトという奴でしょうか。

 何だか大分ロボットアニメチックですけど。

 同時に、私達の後ろで壁が閉まります。

 

「さ、後ろに乗ってください、椿さん」

 

 それに驚いてると、いつのまにか輸送機のコックピットに乗り込んだスノードロップさんが、コックピットの後ろ側に乗る様に言ってきました。

 その指示に従って、スノードロップさんの後ろに座ると…………機械的な音と共に、輸送機の頭の先の空間が開き、快晴の青空が顔を覗かせました。

 …………どうやら、私がカタパルトだと思ってたのは本当にカタパルトだった様です。

 …………薄々思ってましたけど、外観と中身の広さが合ってませんねこれ。

 まあスノードロップさん前から大きさとか色々無視してましたけども。

 

「しっかりシートベルトして、捕まっていてくださいね」

 

「あ、はい」

 

 轟轟と低い唸りを響かせ始めた輸送機の操縦桿を握りながら、スノードロップさんが軽い調子で言ってきます。

 その声につい飲まれて、色々と出てくる疑問をすっ飛ばして、反射的に普段通りの声が出ます。

 そして、私がシートベルトを締めた時。

 

「いっきますよー!」

 

 それを確認した元気なスノードロップさんの声と共に、カタパルトで加速した輸送機が、外に打ち出されました。

 

 

 

 

 

 私の家を飛び出してから、数分後。

 私は、頭に鳴り響く不快な音…………黙示録が奏でる音のありかを探し、飛び回っていた。

 …………これはスノードロップにも話して無いことだけど、私は、黙示録の位置がわかる。

 と言うか、聴こえる。

 黙示録が現れた時や、この世界で暴れている時に、その存在を叫び声という形で捉える事が出来る。

 だから、脳内に響く不快な音が強くなる方に飛んでいけば、黙示録の位置がわかる。

 とはいえ、黙示録が言うとこの下級中級くらいの連中の音は基本的に聞こえないから実質上級以上じゃないと使えないんだけど。

 私の脳内に響く音は、黙示録と私の間の距離、黙示録の存在としての強さ…………要は、黙示録がどれくらい強いかに比例する。

 だから、下級や中級くらいの強さだと、よっぽど距離が近くないと聞こえない。

 つまり…………私が音のありかを求めて探し回る時点で、今回出たのは上級以上、つまり準幹部クラス。

 数日前、処理班が苦戦してたのと同じくらいの強さがある。

 そんな奴が、私以外に瞬殺されるとは思えない。

 だから…………私が滅ぼす。

 お前らは、この世界にいてはいけない存在なのだから。

 

「…………そこか!」

 

 そうこうして探し回ってる内に、一際強い音…………音源とも言える場所を見つける。

 高高度からそこを覗き見ると、予想通り、黙示録がいた。

 

「…………さっさと仕留めよう」

 

 該当の黙示録の姿は何と言うかキメラとしか言いようのないぐちゃぐちゃに色んなものを混ぜて無理矢理人型にしたような姿で、今日見た夢の事もあり嫌悪感と憎悪が湧いてくる。

 なので。

 

『裁きの時!』

 

 一撃必殺で仕留める事にする。

 リミッターを解除され、大幅にギアの出力が上がる。

 真紅の鎧が燃え上がり、キメラの黙示録以外の全てが視界から消えていく。

 全身に力が入り、身体が引き金を引かれる銃の様に張り詰めていく。

 そして。

 

「──────っ!」

 

 緊張の限界を迎えた身体が、空を蹴った。

 そのまま、私の身体が撃ち放たれた弾丸となってキメラに突撃する。

 

『何、ダ⁉︎』

 

 私の身体が空を切る音に気づいたのか、慌てた様子でキメラが頭を上げるがもう遅い。

 お前の用意が整うより、私という弾丸がお前の喉笛を抉り穿つ方が早いのだから。

 そのまま、防御しようとした腕をすり抜けて、ギアを叩きつける様に奴を切り裂く。

 

『終刻終焉撃!』

 

『──────』

 

 完全に不意打ちの状態で決まったからか、断末魔を上げる余裕すら奴には無かった様で、静かに奴の身体が崩れ落ちていく。

 それに不快な音が消えた、と一息吐いた瞬間。

 

 ──────ッ⁉︎

 

「…………っ⁉︎」

 

 こことは別の場所で、再び不快な音が響いた。

 

「…………どういう事?」

 

 その事実に、一回黙示録を倒したこともあり冷えた頭が、疑問を呈してくる。

 何故なら、黙示録の最盛期でもそんな事は無かったからだ。

 こっちの世界に来るのに何か事情でもあるのか、奴らは基本的にまとめて出てくる。

 だから複数体出てきても、出現当初は纏っている筈で…………この頭に響く不快な音が、止まるはずが無い。

 この音が聞こえなくらいなるのは、黙示録がいないか、いても私が気づかないくらいに弱いかのどっちかだから。

 しかもこんな風にバラバラに、しかも準幹部級が立て続けに来るなんて経験した事がない。

 …………まあ。

 

「…………しょうがない、行くか」

 

 不思議に思ったところで、私にはわからないからとりあえずさっきと同じ事を繰り返すだけなんだけど。

 私の頭に音が響く時点で準幹部級だから、この音をさっさと消したいなら私がやる必要があるし。

 面倒な事が増えた、とため息を吐きながら翼を羽ばたかせ、音の元に向かって飛翔する。

 若干落ち着いて、碌に説明せずに飛び出した事を椿さんとついでにスノードロップにどう謝ろうか、なんて余計な考え事をしながら。

 

 

 

 

 

「…………はぁ?」

 

 音の震源地に辿り着いた私を、困惑が襲う。

 何故なら、そこには…………先程倒した筈の、キメラ黙示録にそっくりな黙示録がいたからだ。

 少なくとも私の目には、さっきの奴と全く一緒に見える。

 おかしい。

 …………黙示録にはモチーフの関係か似た様な連中はいたけど、完全一致してる奴なんていなかった筈。

 兵隊の様な分身を生み出して数を頼みに襲ってくる奴もいたけど、そういう感じもしない。

 さっきの音の感じ的に、キメラ黙示録は一回ちゃんと倒されてるし。

 と、すると…………

 

「…………試してみよう」

 

 さっきと同じ様に、空中からの奇襲を仕掛ける。

 但し、さっきとは違って必殺技は無しで。

 

『! マタ、オ前、カ!』

 

 それに今度は気づいたのか、キメラが爪を伸ばして私の剣を受け止める。

 そしてその反応で、私の疑問が解消された。

 

「…………お前、命のストックがあるタイプの不死身だな?」

 

『!』

 

 こいつは、さっきと同じやり方の私の奇襲に対応した上に、また、と言った。

 つまり、こいつは私が倒した筈のキメラ、あるいはキメラと連続した記憶を持った何かだ。

 それなら、さっきまでの変な挙動も納得できる。

 こいつは多分、死んでから何らかの方法で蘇るタイプの黙示録だ。

 だから、倒した感触もあったし音も一旦は止んだんだろう。

 似たタイプに昔出会った時の経験的にも、間違いないと思う。

 まあ蘇りのプロセスが大量に肉体を用意して死ぬ度に別の肉体が起動してるのかこいつ自身が大量の命が一塊になった特殊なタイプの生命なのかはわからないんだけど。

 少なくとも死なないとか再生とかそういう類では無いね。

 四騎士以外の黙示録が今の私の必殺技を受けたら、不死身だろうが超再生だろうが関係なく滅ぶし。

『ドゥームズデイ』は、私が生み出した、黙示録を滅ぼす為の兵装だ。

 滅びの象徴を気取る傲慢なあいつらを、滅ぼし尽くすために生み出した、私の憎しみの結晶。

 その裁きの炎は、黙示録の全てを焼き滅ぼす。

 だからドゥームズデイの力を叩き込めば、不死身だろうが超再生だろうが、その能力ごと塵芥と化す。

 …………んだけど、命のストックがあるタイプに関してはちょっと事情が違う。

 そういうタイプの場合、一回完全に滅んでから再誕してるから、今の私だと一回で滅ぼし切るのは無理だ。

 例えるなら、燃え尽きた灰を更に燃やそうとする様なものだ。

 無理難題にも程がある。

 …………まあ、昔の私ならその灰ごと滅ぼせるくらいに無理難題を押し通る出力があったから問題なかったけど。

 今の私にはそんな非常識な出力は無いから、こういう奴相手だと、チマチマストックを削っていくしか無い。

 

『…………成程。貴様ガ、統括ノ四騎士ヲ滅ボシタ…………!』

 

「そうだよ。そして…………お前も今から、あいつらの仲間入りだ」

 

『チ、ィッ!』

 

「遅いっ!」

 

『ドゥームズデイ!』

 

 咄嗟に私の剣を弾き、逃げようとしたキメラを縛る様に、脚を思い切り地面に踏み込んで奴の体勢を崩し、その場に縫い付ける。

 その隙に、ギアをドゥームズデイのエネルギーで包み、逆袈裟斬りに、ギアの刃をキメラに滑り込ませた。

 

『グ、ガ…………ッ』

 

 滅びの力で覆われた刃が、するりとキメラの身体に潜り込み、キメラが真っ二つになる。

 それが肉体の限界だったのか、キメラが断末魔を上げながら消えていく。

 そしてその完全消滅と同時に頭に響く不快な音が消えた事から、キメラの滅びが確かなものだと再確認する。

 でも、これは仮初の滅びだ。

 だから。

 

「まだ終わらないよ。お前の様なタイプはストックに上限があるけどほっといたら回復する。だから…………今から、お前を徹底的に追い回してその命のストックを全部滅ぼしてやる」

 

 この場にいないキメラに宣告する様虚空に呟きながら、再び音のした方向へ向かう。

 さっきの一戦で、奴の耐久性は把握した。

 必殺技を使わなくても、ギアを少し強化すれば軽い負荷で斬り滅ぼせる。

 長期戦になりそうだから、消耗が大きい必殺技をいちいち使わなくていいのは朗報だ。

 効率を落とさず戦えるし。

 という訳で。

 ここから先は、私が奴を斬り続けるだけの作業だ。

 奴に与えた仮初の滅びが、真実になるまで、ひたすらに斬り続けるだけの。

 判決は既に下っている。

 さあ…………処刑を、始めよう。

 

 

 

 

 

「─────そこか」

 

 幾度目かわからないキメラ黙示録との戦闘。

 

『貴様、イイ加減ニ…………! シツコイ、ナ!』

 

 何度も滅ぼしてるからか、苛立った様な声でキメラが叫ぶ。

 

「しつこいのはそっちだよ。四騎士もいなくなったのに、性懲りも無くこの世界に現れて」

 

 まあ苛立ってるのは私も同じだけど。

 もう軽く百回くらいは滅ぼしてるのに、ストックが無くなる気配がまるで無い。

 まさか獣の数字と言われる666と同じ数ストックがあるとか言わないよね? 

 この感じだと本当にそれくらいありそうで怖いんだけど。

 …………まあ、仮にこいつの命のストックが無限にあっても、それならそれで最後の手段を使うから良いけどさ。

 あまり使いたく無いけど。

 

『フン、統括者タル四騎士ガイナクトモ、世界ヲ滅ボスノハ当然ノ事ダロウ! 黙示録ガ、滅ボスト決メタノダカラ! 故ニ、コノ世界ハ滅ボサレルベキナノダ! ソレガ、自然ノ摂理ダ!』

 

「…………あっそ。なら、自然の摂理に従ってお前が滅べ」

 

 幾つもの声が重なった様な不快な音で相変わらずの世迷言を吐く傲慢さに呆れにも似た怒りを抱きながら、強化したギアで叩き斬ろうとする。

 しかし。

 

『馬鹿ノ、ヒトツ覚エダナ! ソレハモウ、見切ッタ!』

 

「…………っ!」

 

 キメラの剣の様に伸びた爪が、最適な角度でギアの刃を弾いた。

 そのせいで身体がギアに引っ張られてたたらを踏んでしまい、無防備な隙を晒してしまう。

 …………だけど。

 

『ドゥームズデイ!』

 

 その程度で、私が負けることはありえない。

 ギアの機構を一時的にハックして、出力を一瞬だけ安全域以上に上げる。

 それで生じた反動を利用して身体の動きを無理矢理修正し、両手でしっかりと剣を持ち上げる。

 そして。

 

『ナ⁉︎』

 

「馬鹿の一つ覚えで滅べ」

 

 唐竹割りの要領で、キメラの防御ごと真っ二つに叩き斬る。

 

『オ、ノレ…………!』

 

「それはこっちのセリフなんだけどなぁ。全く、どんだけ蘇れば気が済むのか…………」

 

 キメラが消えたのを確認して、次の出現場所に向かおうと、翼を広げる。

 しかし。

 

「…………っ」

 

 広げた翼で飛ぼうとしたその時、身体がぐらりと揺れた。

 どうやら、一戦一戦はすぐ終わる作業じみたものとはいえ数えきれなくなるくらいの連戦をしてるから、身体が疲れてるみたいだ。

 よく考えたら私今日、起きてからご飯も食べずにそのまま飛び出してきたし。

 思えばギアでこんな長く戦うのって、初めてだし。

 でも、止まるわけにはいかない。

 …………あいつが私の動きを読んだ様に、私もあいつと戦ってわかった事がある。

 あのキメラは、私じゃないと滅ぼしきれない。

 処理班じゃ無理だ。

 他の準幹部級なら、時間と人員を消費すればどうにかなるんだろうけど。

 あいつに関しては、時間をかけたら命のストックが回復してしまう。

 瞬殺して漸く、探す時間と合わせて、ギリストックを削る方が有利って感じだ。

 まあ、単体の強さそのものは、この間戦った奴と比べて結構弱いから、椿さんがいた班なら一回くらい余裕で倒せるくらいだろうけど…………瞬殺は多分無理だ。

 そこに無限復活が入ると、あとはもうジリ貧だね。

 だから…………私が全部、滅ぼさないと。

 

「…………あっちか」

 

 気合いを入れ直して、次の音の方向へ翼を羽ばたかせる。

 こんな事になるなら、ちゃんとご飯食べとくんだったな…………

 

 

 

 

 

「…………それで、薊さんはどこにいるんですか?」

 

「少し待ってください、今薊のギアから情報を…………って何ですかこれ⁉︎」

 

 スノードロップさんと一緒に乗り込んだヘリコプターの中。

 薊さんの行方を解析したスノードロップさんが、素っ頓狂な声を上げました。

 それに何事かと驚いていると、スノードロップさんが私にも見える様拡大して表示します。

 

「…………これは」

 

 それは確かに、変な声を上げても仕方ないと思えるものでした。

 何故なら…………薊さんは色々な場所を無軌道に転々としながら、黙示録と戦っていたのですから。

 その数、およそ数十回。

 単純に考えると、薊さんは飛び出してから私達が出発する少しの時間で、それだけの黙示録が来たということになります。

 しかし、妙です。

 そんなに沢山黙示録が来てるなら、民間の通報や処理班が有する探知機器からの連絡が私達にも来て、処理班も出動してる筈なんですが。

 

「…………あー、これ不死身タイプの奴ですか」

 

 その時。

 私の疑問に合わせたかの様に、スノードロップさんが気になることを呟きます。

 不死身タイプ。

 処理班の座学で学んだ黙示録の分類ですね。

 不滅、不死、不壊…………まあ要は、『死なない』という性質のある黙示録共です。

 滅びの物語にはちょくちょくその手の存在が出てくるのでそういうのをモチーフにした存在なのでしょう。

 現れる数は少ないですが、その特性上通常兵装では倒すのがかなり難しいので性質が分かり次第専用兵装を用意する必要のある驚異的な連中です。

 …………でもおかしいですね。

 戦ってるのが、複数の黙示録ではなく一体の黙示録という事は理解しました。

 でも薊さんなら、そんな不死身タイプでも普通に倒せますよね? 

 この間私達の班が壊滅的被害を受けて、乱入してきた薊さんが倒した騎士の黙示録も、不死身に分類されるタイプの黙示録だった筈ですし。

 なのに何故、薊さんは何度も戦っているのでしょうか? 

 

「それはですね、この不死身タイプが椿さん達が普段戦う不死身タイプとは違うからですよ。このタイプは一度完全に死んでから蘇るタイプなので、今の薊だと一回一回倒してそのストックを削っていくしかないんですよねー。だから、薊は今こうやって連戦を続けているわけです。処理班や私達の方に連絡が来てないのも、この黙示録が暴れて探知に引っかかる前に薊が始末しているからみたいですね」

 

「へー、そうなんですね…………え?」

 

「どうしました?」

 

 いえ、どうしたも何も。

 今私、口に出してませんでしたよね? 

 それなのに何で私の疑問がわかったんですか? 

 

「天才ですので」

 

「は、はあ…………」

 

「まあというのは冗談で、不死身タイプって言葉に顔に疑問が浮かんでいたので、椿さんが知ってそうな情報を推測して疑問に答えただけですね」

 

 ほら私、処理班のボスですし。座学で教えてる情報くらい把握してますよ。

 と、何でもない様な様子でスノードロップさんが説明してきます。

 さらりと言ってますけど、結局私の思考読んでますよね…………? 

 それに底知れないものを感じ、少し背中に寒気が走ります。

 しかし。

 

「それにしても、出る事は近年だと殆ど無かったのに、ちゃんと覚えていますね。えらいえらい」

 

 次の瞬間スノードロップさんは顔をからりと変えて、満面の笑顔でこちらを撫でてきました。

 この世界じゃ中々見ない色彩をしたスノードロップさんですが、その笑顔は世界関係なくとても魅力的で、先程抱いた寒気が消えていきます。

 …………いやほら、可愛い子に褒められるのって嬉しいじゃないですか。

 しかもスノードロップさんって薊さんと同じくらい小さいからちょっと微笑ましさがありますし。

 

「…………最近出たのもそうだったので、印象に残っていたんです」

 

「そういえばそうでしたね。薊が久しぶりに壊したって方に意識が持ってかれて、忘れていました。まあそれでも、死にかけた場面からちゃんと学んでてえらいです」

 

「あ、ありがとうございます…………」

 

 そのまま、しばらくスノードロップさんに撫で続けられます。

 何でしょうこれ。

 ご褒美タイムですか? 

 その小さな手で褒められるのが嬉しくて。

 気づけば、スノードロップさんがさっき見せた底知れなさに対する畏れが、すっかり消えていました。

 その時。

 

 チーン。

 

「…………お、出来ましたか」

 

「え?」

 

 奇妙な音が響くと共に、スノードロップさんが奇妙な事を言い出しました。

 見ると、スノードロップさんの座席の近くから、短剣型のギアと青白いコアみたいなものが出ています。

 

「ではこれを。はい、椿さん」

 

 スノードロップさんが、その持ち手を私に向けてきます。

 

「は、はあ…………スノードロップさん、これは?」

 

「あの黙示録を観測して得たデータを元に調整した、薊用の不死殺しのギアです」

 

 それを困惑しながら受け取ると、スノードロップさんが軽い調子で説明します。

 言われて渡された短剣をみると、座学で見た対不死身タイプのギアと同じ形をしていますし、コアらしきものも嵌っています。

 座学で見た奴が紫色なのに対して、こっちは見ているだけで火傷しそうなくらい赤色に染まっていたから気づけませんでしたけど。

 

「薊さんの?」

 

「ええ。このまま戦ってると、恐らくですけど薊のギアが先に壊れます。なので、短期決戦を目指そうかと。それは通常の不死殺しの力に加えて、薊の出力を一時的にですが全盛期のそれに引き上げます。あの黙示録を滅ぼすには十分でしょう」

 

「はあ」

 

 なるほど、このギアの存在理由はわかりました。

 では何故薊さん用のギアであるこれが私に渡されたんでしょう。

 そう思い、首を傾げると。

 

「というわけで椿さん、いい感じのタイミングでこれを薊に渡して来てください」

 

「…………はい?」

 

 唐突に、とんでもないミッションを言い渡されました。

 

 

 

 

 

 

 

「見つけ、た!」

 

 ガン、とキメラを追いかけてる内に辿り着いた無人の広場で私の剣とキメラの爪がぶつかり合う金属質な音が響く。

 何度繰り返したかわからないその音にいい加減イライラしてきて、そのまま力任せにキメラを叩き斬ろうと出力を上げる。

 しかし。

 

『…………フン!』

 

 意外にも、キメラはさっきの様に弾いたり反撃したりということはしなかった。

 そのままあっさりと、爪が断ち斬られた。

 でも斬れたのは爪だけで、キメラ本体は全くの無傷だ。

 どうやら、爪を犠牲に受け流されたらしい。

 しかも爪はどうやらキメラ本体扱いではないらしく、滅びの炎がキメラを焼く様子もない。

 ついでに、斬れた場所からニョキニョキと新しい爪が生えてきた。

 再生、というより新造か。

 よく見ると微妙に生えてる位置が違うし。

 どうやら、力任せの脳筋プレイに三桁超えるレベルで殺されてるからか、相手はかなり学習してる様だ。

 …………面倒くさい。

 

「…………面倒くさい」

 

『言ッタダロウ、見切ッタト! イクラ貴様ニ力ガアロウガ、同ジ事!』

 

 心情が口から漏れてたのか、勝ち誇った様にキメラが笑う。

 

「…………ああ、本当に面倒くさい。ただでさえお前を滅ぼさないといけないのに、力任せじゃ駄目だって?」

 

 その顔(色々な生き物が混ざったぐちゃぐちゃのモザイクすぎて具体的にどこが顔かはわからないけど何か勝ち誇った雰囲気は感じる頭っぽい場所)に苛立ちが増して、面倒くさいという気持ちが更に強くなってくる。

 だから。

 

『ソウ言ッテルダロウ!』

 

「…………そう。なら」

 

 本当に面倒くさいけど、ここからは少し技を使おう。

 

「斬れろ」

 

 居合の要領でギアを腰だめに構えて、抜き放つ。

 

『ガッ⁉︎』

 

 奴の悲鳴と共に、斜め一文字が胴体に走る。

 だけど久しぶりに技を使ったからか、ちょっと失敗した。

 斬り込みが浅かったらしく、まだ死んでない。

 やっぱ技を使うのって苦手だ。

 力加減が難しい。

 溜息を吐きながら、もう一度斬ろうとギアを収める。

 その時。

 

『…………浅イ、ナ!』

 

 キメラが粘ついた声で嘲りながら、思い切り空中に飛んだ。

 その姿に逃げようとしたのかと思い、こちらも翼を出すが、キメラは不思議な事に逃げようとしなかった。

 それに疑問を覚えていると、キメラの中のエネルギーがいきなり膨れ上がった。

 

『ダガ、コレデ我モ、動ケル…………! 貴様ヲ、我ノ全テヲ以テ、滅ボシテヤロウ!』

 

「ちっ…………」

 

 どうやら、キメラは自分の命のストックを消費して大規模攻撃をしようとしてるらしい。

 ギアが測定したキメラの内部エネルギー量がさっきの数百倍くらいになってるし、多分間違い無いだろう。

 そして。

 

『サア、消エ失セロ!』

 

 キメラの吼える様な声と共に、うんざりするくらいの数のエネルギー塊が私にめがけて放出された。

 さてどうしようか。

 私がこれから生き延びてストックを消費して弱った奴を倒すってだけなら簡単だけど、場所が場所だ。

 普通にかわすだけじゃ、この広場を超えて住宅街とかに被害が行くし。

 まあ迎撃出来ないって訳じゃないから被害は逸らせるけど。

 この物量を捌くとなると、今の私じゃ相当の無理をギアに強いる事になるから防いだ後にギアが止まる。

 つまり、奴を倒せなくなる。

 奴を倒すか、街を守るか。

 二つに一つだ。

 さて本当にどうしようか。

 モタモタしてたら普通に死にそうだから、決断に割ける時間も少ないし。

 なので。

 

「…………ま、仕方ないか」

 

 さっさと二択を選んで、ギアに力を込める。

 

「ドゥームズデイ!」

 

 黙示録を滅ぼす、赤き竜(私の憎しみ)の力を引き出すために。

 

 

 

 

 

「あ、説明不足でしたね。ざっくり言うと、薊がこれから多分特大の無茶をやるので、そのタイミングで椿さんのギアで狙撃してあの黙示録を拘束、降下して薊にそのギアを渡してください」

 

「ああ、そういう事ですか」

 

 つまり、ギアを纏って薊さんのサポートをして欲しいと言うことらしいです。

 良いタイミングでというアバウトな指示で面食らいましたが、そういう事なら納得です。

 しかし、一つ問題があります。

 

「すみません、スノードロップさん」

 

「どうしました?」

 

「私のギアとコアでは、狙撃はともかく高さから降下するのは無理だと思うのですが…………」

 

 薊さんみたいに規格外のコアとギアならともかく、私が持ってるのは処理班用の一般規格です。

 そのギアのスペックだと、ここからの降下はサポートする前に普通に死ねます。

 ここから黙示録を狙撃、というのは元々後方支援で状況によっては狙撃とかしてましたしギアを纏う前提なら出来ると思いますけど。

 

「そこに関してはこれを使ってください」

 

「これは?」

 

 すると、スノードロップさんがさっきギアと一緒に出て来た青白いコアを私に渡してきました。

 

「昔、薊がドライバーを使用していた頃に開発した強化プランの一つを、椿さん用に再調整したものです」

 

「私用に?」

 

「ええ、薊と一緒に暮らすのを決めた時点で、こういう事になるのはある程度予想してましたから…………椿さんにも専用の装備が必要だと思ったので、設計していたんです。こんな早いとは思っていませんでしたから、専用ギアの方は間に合いませんでしたし、コアもさっき漸く調整が終わったくらいの突貫工事でしたけど」

 

「…………」

 

 そう言われて、掌に乗せられたコアを、じっと見ます。

 幻想を封じ込めた心臓と言われるファンタズムコア。

 そこに開けられた鍵穴から、荒々しい獣の息吹の様なものを感じます。

 まるでさっさと使え、と言ってる様でした。

 そして私ならこれを使える、という奇妙な確信が胸の中を支配しました。

 なるほど、確かにこれは私のコアらしいです。

 これなら、さっきスノードロップさんが頼んできたことも出来るでしょう。

 なら、答えは一つです。

 

「わかりました。薊さんのサポート、任せてください」

 

 ギアを取り出して、ヘリコプターの後ろに移動します。

 そう、薊さんの為になるなら答えは最初から決まってるんです。

 私は、薊さんに笑ってほしくてここにいるんですから。

 

 

 

 

 

 

 

『──────浄壊』

 

 能力を解放したドゥームズデイに、緑色のエネルギーが渦巻き、天に掲げたギアを中心に螺旋を描き始める。

 同時に暴風が吹き始め、生じた圧力が無数のエネルギー塊をその場に押し留める。

 

『…………何?』

 

「…………破滅の嵐よ。全てを飲み込め…………ストームデストラクション!」

 

 そしてそのまま、吹き荒れる暴風を叩きつける様に、ギアを振り下ろす。

 目論見通り暴風がエネルギー塊にぶつかり、相殺…………いや、滅ぼされていく。

 

『何ダ、コレ、ハ…………⁉︎』

 

 浄壊。

 ドゥームズデイに秘められた、黙示録を滅ぼすための機能。

 黙示録による攻撃を、その被害も含めて全て滅ぼす事で無かった事にする、防御技だ。

 そして。

 

「…………っ」

 

 ギアが軋む音とけたたましいエラー音を響かせながら、予想通りギアが停止して、身体が固まる。

 ドゥームズデイは元々、ドライバーで使うのを前提に私が生み出したもの。

 だからギアでドゥームズデイの機能を十全に引き出そうとすると当然、ギアに想定外の負荷がかかる。

 変身と必殺、ブーストだけならギア側の機能だから問題ないんだけど。

 今回は長時間に渡る戦闘で結構負担を掛けていた上に、防ぐ為に広範囲に渡って広げた浄壊の暴風だ。

 流石にギア側も耐えきれず、安全装置が作動している。

 多分普通のギアだったらとっくに壊れてるから、そこは流石スノードロップと言いたいとこだけど。

 仕方ないこととは言え、奴を逃す事になってしまう。

 …………この嵐は、黙示録の攻撃だけを滅ぼし尽くす嵐だ。

 それ以外には一切のダメージを与えない。

 …………黙示録本体ですら、それは例外じゃない。

 だから、奴はまだピンピンしている。

 そして奴も、私が動けないことを察した様で、逃走し始めていた。

 

「…………クソっ」

 

 それを、苦々しい目で睨むも、今の私は動くことすら出来ない。

 強制ハッキングによるリミッター解除も、ギア側のシステムがダウンしてるからそもそもアクセス出来ないし。

 選択に後悔は無いけれど、それでも黙示録を見逃す事を、正確には見逃す事を選ばざるを得ないくらい油断した自分に嫌気が指す。

 何のために、私は──────

 そう思った、その時。

 

『OVER DRIVE THE FENRIR』

 

『何…………ッ⁉︎』

 

 狼の遠吠えの様な風切音と共に、鎖の弾丸が黙示録を貫いた。

 その鎖は黙示録をに打ち込まれた場所から見る見る間に増殖して、動けないくらいに黙示録を縛り上げる。

 同時に逃げようとした黙示録が墜落して、地面の上でのたうち回る。

 

「どういう事…………?」

 

 予想外の闖入者に、動けない身体で疑問を巡らせていると、上空に気配。

 見上げると、ライフルと短剣らしきものを背負った、狼の鎧を纏った誰かがこちらに降下してくるのが見えた。

 

「薊さん!」

 

「椿さん⁉︎」

 

 その狼人から聞こえてきた声に、再び驚かされる。

 その声は、今朝私が部屋に放置してきた椿さんのものだったからだ。

 

「これを! スノードロップさんから!」

 

 その事実に更に困惑していると、椿さんが背中に背負った短剣を渡してくる。

 スノードロップから、というそれを握ると。

 

「!」

 

 ダウンしていたシステムが復旧した。

 どうやら、スノードロップは私がこうなると見越していたらしい。

 しかも渡されたの不死殺しに特化したギアだし。

 さっさととどめを刺せって事ね。

 

「椿さん、あいつの足止めお願い! 今から決めるけど、ちょっと時間がかかる!」

 

「わかりました!」

 

 スノードロップの意図を察した私は、それに沿うために椿さんに指示を出しながら、奴を完全に滅ぼすためのシステムのハッキングを開始する。

 

「…………不死殺し、タイプ『HYDRA』の接続を確認。出力上限の拡張を確認。安全装置全解除。ドゥームズデイ、炉心最大稼働状態へ移行。全機能、超過出力で稼働開始。…………目標状態への到達を確認。収束開始…………収束完了」

 

 ドライバーがある時はリナリアが全部やってくれたけど、今は私がやらないといけないのが少しめんどくさいな。

 だけど…………これで、一時的、厳密に言えばこの一撃だけだけど、私は全盛期の出力を取り戻した。

 その証拠に、私が両手に持つギアにはさっきの浄壊の比にならない程のエネルギーが収束している。

 

「椿さん、ありがとう! 危ないから離れて!」

 

「はい!」

 

 私と黙示録の間から椿さんが退いたのを確認して、二刀のギアを構え、足を踏み込む。

 そして。

 

「いい加減、私も飽きた…………だから、何もかも残さず、滅び去れ!」

 

 一息に黙示録に近づき、不死殺しのギアを胸に叩き込む。

 不死性を手放したくなるくらい苦しいとされる毒をモチーフに作られた不死殺しのギアに、黙示録から苦痛の声が上がる。

 そこに畳み掛ける様に、今までとは比にならないくらいエネルギーの収束したギアを振りかぶる。

 そして。

 

『裁きの刻!』

 

『終刻終焉撃!』

 

 自身を縛る鎖ごと真っ二つにされた黙示録が、その不死性を喪失し、音もなく消えていく。

 それは、今までとは明確に違う滅び方だった。

 その証拠に、頭に響く不快な黙示録の音が消えたままだ。

 同時に、酷使されたギアが紫電を走らせた。

 

「うわっ」

 

 それに思わず手を放すと、砂にはならなかったけど、頑丈に作られたギアが修理不可能なくらいバラバラに砕け散り、変身が解けてしまう。

 同時に朝ごはんを食べてない事を思い出した身体が空腹を訴え、疲労で足元が覚束なくなり、眠気がやってくる。

 それに気づいた椿さんが近寄る気配を感じながら、またスノードロップに怒られる…………と状況に合わない心配事が脳裏に過ぎり、身体が傾いでいく。

 そのまま、柔らかい何かにもたれかかるのを感じながら、意識が沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 




イメージはAC6のレールキャノンとかガオガイガーのプロテクトウォールとか
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