遅くなりましたが、第3話です!書き終えた後にまだ3話?!と自分で驚いてしまいました。ほぼ月一更新のこんな作品ですが、読んで頂けたら幸いです
第3話
油断せず、慎重に、目の前の敵を見つめる。
吸血鬼。
はるか昔、個性黎明期よりもさらに昔に存在したとされる怪物。ガーデンに置いてたあった本で存在だけは知っている。曰く、人の血を啜り生きる。曰く、日光に当たると灰になる。曰く、不老である。
目の前の少年の言葉を信じるのであれば、今俺の目の前にいるのは紛うことなき化け物。ヒーローを呼ぶ時間はないだろう。俺の腕を千切り飛ばした時何をやったのか分からなかった。そんな相手に背を向けて逃げることができるとは思えない。
一周まわって冷静になったお陰で、自分が詰んでいるという事を理解してしまう。視界の端に落ちている切り飛ばされた自分の腕を見て舌を打った。腕が無くなったお陰で体のバランスが取りずらい。
せめて時間を稼ごうと思い、アル=シェ=ウィストリアに向かって声をかける。
「ヒミコはどうした?さっきの格好は一体なんだ?お前は一体何が目的なんだ?」
「そんな矢継ぎ早に聞かないでよーって感じなんだけど。うん、僕はあの引きこもり爺共と違ってフレンドリーだからね。特別に教えてあげちゃおう!」
ふふん、と鼻を鳴らしてドヤ顔するアルに心の底から怒りが湧くがそれはそれ。左手を体の後ろに隠してメッセージを打つ。さっきまで墨とやり取りをしていたから多分このままSOSを打てば墨に届くはずだと信じて。
「まず渡我被身子は僕のとこにいるよん。気絶してるから逃げれないんじゃないかなぁ?あの服もちょっとお借りしてネ。あぁ心配しなくていい、僕は紳士なのさ!」
「抜かせ、他人を慮るような奴には見えないな」
「まぁそこはちょっと事情もありまして、あの子は傷つけられないのよん」
イかれた奴の言葉を信じる気にはならないが、本当なら最悪ではない。今の俺はこいつの言葉を信じるしかないのだ、仮にヒミコが生きているとしたら俺が今すべきことは一つしかない。
逃げる
こんな化け物相手にして生き延びれる訳がない。ヒミコを探し出すのはまず生き延びてからだ。息を整え、心の中でカウントをしたらすぐさま後ろに振り向き走り出す。
「ッ――――!」
「お?鬼ごっこかな?僕が鬼だね!ふっふっふっー捕まえたら殺しちゃうかもよー!」
大通りだ、大通りにさえ出ればヒーローがやってくる。だか、クソッ!道が分からねえ!さっきアイツを追いかけてる時に入り組んだ道を通らされたせいだ。狙ってたのか偶然かはどうでもいいどうにかしないと――ッ?!
全力で逃げ惑う骸に対して、ビュンッ!と音を立てアルがなにかの破片を飛ばしてくる。飛んできたなにかに骸が目を向けると、それは血を固めた鋭い弾丸。後ろを振り向いている余裕なんてないが、意識しなければショットガンと化した破片に体を撃ち抜かれて死ぬだろう。
咄嗟に、骨のみとなった右腕から背中にかけて骨で傘を形成する。骨の傘に当たった玉はギャリッ!と音を立てて四方八方に飛び散って行った。
「おお!凄い凄い!器用だね君!」
うるせぇもう限界なんだよッ!
骸は既に声を出す余裕すらなく、ひたすらに路地裏を駆け回る。右腕を失ったことで一緒に大量の血を流したせいで視界は既にぼやけている。
しかしながらひとつ分かっている事がある。それは後ろの吸血鬼が遊んでいるという事。苦しんでいる骸を見るのが余程楽しいのか、先程から骸とアルの距離は変わっておらず、付かず離れずの距離を保っている。
お陰様で、骸は満身創痍だが瀕死ではない。ただこのままでは体力が尽き果てるのは分かりきっている。今取れる手段はひとつ、次の曲がり角を曲がった瞬間に、個性を全力で使って骨の壁を作り出す。限界を超えた出力であることは明らかだが、副作用など気にしている場合ではない。
「おーい、そろそろバテてるんじゃない?」
タイミングは一瞬。
三、二、一、今ッ!
「ッおおおおおらぁぁぁぁぁッッ!」
轟!!
瞬時に流動形となった骨の腕から5m以上の壁を生成する。路地裏の狭い道を埋めつくした壁は堂々と鎮座しており、壊されることはないだろう。
「ハァッハァッ、クソボケがッ。」
足がガクガクと震えている。おそらく今俺の身体中の骨は限界まで脆くなっているだろう。それこそ走ればその衝撃で折れてしまう程には。
ひとまず時間は稼いだ。正直もうぶっ倒れそうだが今のうちに人がいる場所に出なけ「いやびっくりした。こんなことも出来るんだね。」は?
声が聞こえる。
壁の向こうから聞こえたにしてはくぐもっていない鮮明な声。悪寒が止まらない。背中を冷や汗が伝っていくのがわかる。どこから聞こえたかと思い周囲を見渡してもあるのはコンクリートの壁だけだ。
「惜しかったね、君は今、壁を作るんじゃなくてボクを閉じ込めるようにするべきだったよ」
声の出処は上。そんな事があるのか。震える体に鞭打って視点を上にあげれば、奴が悠々と浮かんでいる。
背中に蝙蝠の羽を生やした奴が。
「僕は吸血鬼だよ?そりゃ空くらい飛べるさ。」
「ハ、ハハ……」
反則だろ。どうしたらいいのだ。こんな化け物から逃げれる訳がない。夜の王。その一言が頭に浮かぶ。人間以上の膂力、血の弾丸、飛行能力。どこをとっても勝ち目がない。唯一思い浮かぶのは太陽が天敵という事。だが日の出まではまだまだ先だ。
詰み
その二文字が頭をよぎる。そもそもこいつに目をつけられた時点で俺の運命は決まっていたのだと。人間の力ではどうしようもない災害。自分には個性がある?それがどうしたというのだ、生命として、種族としての格が違う。
「もうやれることはない感じかな?楽しい鬼ごっこだったよ。ほら、タッチだ」
アルが骸の首を掴み持ち上げる。骸の足が地面を離れていく。苦しさに何とか呼吸をしようともがくが、口からは空気の漏れる音しか出てこない。
「楽しませてくれたからね、遺言くらいは聞いてあげよう。ふっふー、僕って優しいだろ?」
人間を嬲って、死ぬ間際まで絶望させ続けるのが優しいというのならそうなんだろうな。ふとそんなことを思った。骸が喋れるように首を掴む手が緩くなる。
「ヒミコに、伝えろ。……君が、何かを隠してるのは気づいてた。それが何かは俺は知らん。だが、俺だけはそれを肯定してやるッ、月のように輝く君が何よりも眩しく見えた!だから俺だけはッいや、きっと上鳴も姐さんも墨もッ君を信じる!だから!……君は自由に生きてくれ。」
「へぇ、ずいぶんと惚れ込んでるみたいじゃないか。お熱い告白をありがとう。うんうん、僕は約束を守るからね。君の言葉は一言一句彼女に伝えてあげるよ。」
「ハッそりゃどうも。アァそうだ、もう一個言いたいことがある。」
「ん?なんだい?」
俺の首を掴む吸血鬼が首をかしげる。はは、この状況で言いたいことなんて一つしかないだろうに。
「なァ、アル=シェ=ウィストリア様よ」
「えー僕にまで愛の告白!?」
「バカか、そんなわけねぇだろ」
「地獄に落ちろ」
先ほどまで楽し気に喋ってたアルが黙り込む、ショックを受けたというより、まさかそんなことを言われるとはといった様子だ。遅れてアルの口が弧を描き、その口からは笑いが漏れ出す。だがしかし目が笑っていない。
「……くく、くはははは!まさか死にかけのネズミにそんなことを言われるとは思わなかったよ!今までの奴らは皆泣きわめきながら命乞いをしてきたって言うのに!あーあ、そのまま殺そうかと思ってたけど気が変わった。」
そういったアルは骸の口の中に指を突っ込む。その途端、骸の口内にあふれる鉄の匂い、それがアルの血であると骸が認識するまで、そう時間はかからなかった。
「僕の血をあげる。ようこそこちら側へ。言ったよな?地獄に落ちろって。いいじゃないかいいじゃないか!なぁ少年、君が落としてみろよ。」
「アッ、ガァ!ガハ、ハァハァ」
「人の体に吸血鬼の血を入れるんだ、拒絶反応のひとつもあるさ。頑張ってみろよ。それじゃあね、せいぜい生き残ってみろ、君が先に死ぬんじゃないぞぅ!」
そう言って笑いながらアルは骸を放り捨て、夜の空へと羽ばたいていった。
「ガァァァァァァ!?」
残された骸は体を書き換えられるような感覚に襲われ、その場でうずくまり苦痛と戦っていた。疲労によって眠ることができればまだ楽だっただろうが、体を食い散らかされる苦痛がそれを許してくれない。
そうして骸が体を蝕む血に耐えているとその場に一人の女性が現れる。走ってきたのだろう、息は荒れ、赤い髪は乱れている。それは骸のよく知る人物。
「姐、さんっ!ガハっ」
「そう……あれの血を飲んだのね。私はいつも間に合わない。あの時も、今も。」
なにか言っているがよく聞き取れない。いや、聞き取れすぎる。姐さんの言葉だけではなく、はるか遠くの車の走る音、通行人の足音までが鼓膜に響き渡ってくる。
喉が渇く。
血を失ったせいか?それともこの苦痛のせいか?
あぁ、どうでもいい。
この乾きを潤せれバ
きっと
この苦しみもマシになる。
あァ
目の前にこんなに美味しそうなものが
「菫コ縺ォ鬟溘o縺帙m盧ァ!」
「ごめんなさい骸。私ではあなたを救えない。でも、今だけは、その苦しみから解放してあげる。」
**
獣。今の骸を見た者は多数がその認識になるだろう。実際、四足で地を蹴り、口から涎を垂らし、目を血走らせながらながら獲物へと向かう姿はそれに酷似している。
人が出せるスピードをゆうに超えて骸が恵へと突進する。意識が朦朧としているせいかなんの小細工もなしに真正面から。既に限界を迎えた体、今の骸は吸血衝動という本能に動かされているに過ぎない。骨で作られた右腕を突き出し恵の首を一閃する。だが、そんな攻撃を易々と食らう者はここにいない。
骸の攻撃をしゃがんで避けた恵は、したから掌底を骸の腹にぶち当てる。衝撃が骸の体内を駆け抜けて背中に抜けていく。二の打ち要らず、一つあれば事足りる。かの武人を彷彿とさせる、人間であれは一撃で意識を刈り取ってしまうであろう拳。
だがそれは人間相手の話。
今の骸は夜の王たる吸血鬼に片足を突っ込んだ状態であり、今だ気絶には至らない。このままでは本能のまま街に繰り出し被害を出すだろう。吸血鬼の乾きを癒す方法はひとつしかない。
血を飲ませる。それ以外に手段などないのだ。
限界を超えてなお、血を求める骸は止まらない。恵としても今の一撃で動きを止めれなかったのは予想外だ。どうやら愛しい弟分は吸血鬼としての才能があったらしいとため息を吐き、再度拳を打ち込めるように構える。
恵に打たれた腹を押さえながらうずくまっていた骸は、背中から骨で羽根の骨格を作り出し、それに血を纏わせる。どこにそんな余力を残していたのか、生死の境にいることで火事場の馬鹿力でも発揮しているのか、この上なくやりにくい。
「GrrrLAAAAAAAAAAAAッッ!!!」
聞いたもの全てが怯えるであろう咆哮をした骸が恵に突進する。
血を飲ませれば満足して動きを止めれるだろうがそれをする暇はない。自滅覚悟で自らに喰いつかせるのは不可能ではないだろうが、正気に戻った骸の精神状態を考慮するとそれは悪手だ。
結局のところ一度ノすしかないかと考え、突っ込んでくる骸の首根っこを捕らえて地面にたたきつける。地面に大の字で骸がめり込み、翼も出していい加減体力も尽きたのか動きが鈍る。
その隙に、地面に仰向けになり蠢いている骸の口の真上で、恵は自らの手を切り、血を垂らした。一滴、また一滴と骸の口の中に血が入る度に骸の様子が落ち着いて行く。そうしてペットボトル一本分になるだろうという量を飲み終えたあと、骸は静かに眠りについた。
食べた途端寝るとは、まるで幼子のようだと恵が苦笑いしていると、後ろから複数の足音が聞こえた。ふと振り返ると、そこには一人のヒーローと上鳴電気の姿がある。
「師匠!骸は!」
「大丈夫、今終わったわ。全く、遅いじゃないの。」
自分を棚に上げてよく言ったものだと自嘲する。それよりもか、上鳴と一緒にいるヒーローには見覚えがある。最近ヒーローチャートに乗り出した新人ヒーロー。曰く早すぎる男と呼ばれている者。そして、面識のない私の後輩。
「どうもー、ヒーローやってるホークスって言います。」
「あぁ、あなたが、活躍は聞いているわよ。早すぎる男なんでしょう?」
「いやぁ皮肉ですね、早いのは事件が起きてからですから。それにどうやら、今回は間に合わなかったみたいで」
飄々とした表情が真面目なものに変わる。案外しっかりしてるじゃないかと感嘆する。次の質問は分かっている、いつから見ていたのか知らないが。
「何があったんです」
「……ここではなんだし、一度院に戻りましょう。上鳴君もホークスも、知らないといけない事があるわ。……吸血鬼についてね。」
「(すみません、先生。どうやら、また次の世代に重荷を託すことになりそうです。)」
恵はそう内心で呟き、骸を背負ってガーデンへと戻る。急げ、急げと頭の中で声が響く。既に安寧の時は終わり、新たなる夜がすぐそこまで来ている。早く彼女を探し出さなくては。
女王の目覚めは、もうすぐそこなのだから。
**
「ん、んん……っ?」
やけに心地のいい感覚に違和感を覚え、トガヒミコは目を覚ました。目を開ければ、高級ホテルもかくやと入った豪華な洋風の家具の数々。今彼女が寝ているベットもそうだ、ふかふかで天蓋のついた最高級の物。これは確かイギリス王室御用達の物ではなかったか、と昔テレビで見た記憶がよみがえる。
「(私はなんでこんなところにいるんでしょう?確か町を歩いていた気がするのですが……)」
手入れの行き届いた部屋、ベットだけではなく、ソファにモニターなど、生活に必要な物がすべて揃えられている。とにかく連絡しなくては、骸君が心配してしまう。そう思って、なぜ一人で街中を歩いていたかを思い出した。
好きな人と一つになりたい。好きな人の血をチウチウしたい。そうすれば一緒になれる。ヒミコにとって、それは当たり前の感情であり、愛情表現の一つである。言葉で好きと伝える、キスをする、その行為と何ら変わらないと。
だが彼女の周囲はそれをおかしいといった。気味が悪い、異常、悪魔、幼いころから何度否定されたか分からない。
だからいつしか蓋をした。
仮面をかぶり、感情に蓋をし、親や友人、周囲の人間が言う『普通』になろうとした。それが正しい事だと言われたから。
しかしそれは無理だった。どうやっても、何があっても、彼女の精神状態は変わることはない。どころか、無理に感情に蓋をし続けたせいで、悪化してしまった。
その結果が1か月前の事件である。
彼女は中学校の卒業式の日、当時好いていた青年を襲い、その血を吸ってしまった。当然、他のクラスメイトにも目撃され、その場を逃げるように離れた。なぜか報道されていないが、クラスメイトから親へ連絡も行っているだろう。だから家出していると嘘をつき、ガーデンへと逃げ込んだのだ。
正直言って、人を襲ったという事に関しては罪悪感はあまりない。傷を負わせ、血を啜った事で想い人――齋藤くんに嫌われてしまったという事実だけが、彼女の心に重くのしかかる。でも、だからどうすればいいのか。どうすればヒミコの気持ちは満たされるのか。血を吸い、一緒になるしかないだろう。
それは普通ではないらしい。私は異常者なのだろう。
でも骸くんは違う。
『いってぇ!おいこら鳴っち!もうちょっと加減しろ!』
『どうした?あぁ転んで擦っちゃったのか、血が出てるから消毒しないと……ほら、ちょっと痛むぞ。うん、よく頑張りました!後で飴ちゃんあげるからなー』
『なぁヒミコ、大丈夫か?ほら、慣れない環境だろ?なんか困ったことあったらすぐ言えよな。大丈夫、俺はヒミコの味方だから!』
骸君はとってもカッコイイのです。血だらけになって私を守ってくれた日から、私は彼の血をチウチウしたい。でも、そうしたらきっと普通の骸君は私を嫌いになる。齋藤くんと同じ、人間じゃないって思われちゃう。だって、これは正しくない気持ちだから。
骸君になりたい。一緒になりたい。私はこの気持ちを抑えられない。そんな私が、骸君のそばにいていいのだろうか。
ガーデンはいいところです。骸君もいるし、墨ちゃんもカァイイ。恵ちゃんも優しいし、子供たちも可愛い。
だからこそ、あの場所は私を優しく否定する。
そう思ったから、ガーデンを抜け出したのです。
「お別れくらい、言っておいた方が良かったかな……」
「誰にだい?」
「ッ!?……誰です?」
声が聞こえた方向に目を向ければ、開けられた窓に腰掛ける少年がいる。蝙蝠の翼を生やした銀髪赤目の少年が。
「今日はよく名乗る日だなぁ、アル=シェ=ウィストリア。君を連れてきた吸血鬼さ。」
「吸血鬼……?」
「そそそ、君なら抵抗は無いと思うんだけど?血の味を知る君ならね。」
アルにそう言われ、ヒミコは驚愕した。名前の通り本当に血を吸う生き物だとはという感情と、上手く言葉に表せない安堵感が体を満たす。どこか奇妙な感覚に身動ぎしていると、アルが目の前の机にひとつの瓶を置いた。
「開けてご覧。いやめんどいや、ご開帳〜!」
「自由です……っ!これ!」
瓶の中にはなみなみと満ちた赤い液体。ヒミコが欲してやまない物、そう血である。余りの驚きに跳ねて喜びたくなるがそこを一旦我慢し『普通』のことを聞く。
「これ、これ!いいの?!じゃなくて、どうしたんです!?」
「もちろん、僕から君への友好の証さ。長い付き合いになるし、君のことは大事にしたいからネ?ほらほら、グビっと1杯行きなって、あ、ストローもアルヨ!」
用意がいい謎の吸血鬼にどこか感心しながらヒミコは迷わず血を吸った。好きになった相手の血であれば最高だが、普通の血でもいいのだ。ただし、あの高揚感は味わえないが。そう思っていたのだが、渡された血を飲んでいると妙に気分が高鳴ってきた。
これは一体なんの血だろう?そんな疑問を読み取ったかのようにアルが口を開く。
「骸君だっけ。いい子だったねぇ。」
「ッ――!?骸くんに何したの。」
「ちょっとお話してきただけさ。運が良かったら生きてると思うよ?いや、きっと生きてるさ!なんてったって僕を地獄に落とすらしいからネ!」
そこまで聞いて、ヒミコは瞬時に目の前の少年を敵だと認識した。もはや同じ血を吸う同族だとは思えず、愛する者を傷つけた害虫に過ぎない。
咄嗟に咥えていたストローをアルに投擲し、アルが気を取られたその瞬間にアルの視界からヒミコは消えた。
ミスディレクション。相手の意識を誘導し、自らの行動を隠すテクニック。隠密、暗殺という分野において、彼女は天賦の才を手にしている。アルの背後を取り、机の上に置いてあったペンをその首に突き立て、すかさずもう一撃入れようとペンを抜こうとしたところでヒミコは固まった。
ペンが抜けない。アルの首に突き刺さったペンはまるで内側から掴まれているかのようにビクともしない。舌を打ち、ペンを手放して離れようとするがそれより先に首を掴まれて宙に掲げられた。
「躊躇ないんだから全くー。ま、残念だったね。この程度じゃぁ死なないナァ?」
「くっ……」
「それにしてもねェ?さっきも骸っちをこんな感じで捕まえたけどさぁ。君たちは好き同士お揃いが好きなのかね?そうそう!あいつの遺言(仮)聞きたい?なんだっけ、ええっとー」
ヒミコの同意などお構い無しだと言うようにアルは言葉を紡ぐ。それは先程の骸の発言と一言一句一致しており、それどころかイントネーションや口調の癖など完璧に模倣したものであった。ブレスのタイミングまで一致させられるとはやはり僕は天才。とアルが自己肯定感をぶち上げてるさなか、トガヒミコは呆然としたようにその言葉を噛み締めていた。
思ったよりも無反応だったことに興を削がれたのか、つまらなそうに鼻を鳴らしたアルはヒミコをベットに優しく放り投げ、「あ、勝手に逃げ出したら君の四肢もいでついでに骸君殺すからー♪」と余計なことを言い残し部屋を後にした。
残されたヒミコであるが、再起動したのはその一時間は先であった。アルは知りえない事であったが、骸の遺言を聞く直前に骸の血を摂取していた事、また、現在眠っている骸が夢の中でヒミコのことを強く考えていたために、一時的に彼らは精神で繋がりを果たしていた。
奇跡のような話ではあるが、事実である。
その結果、ヒミコは先程の骸の遺言を、まるでその場で実体験していたかのように夢想出来てしまったのである。
「(え?ええええ???え?!え?!骸君カッコよすぎない?!腕も切られて凄い痛いはずなのに!あんなにかぁいくなりながら肯定するって!私を認めてくれるって!普通にならないとダメだと思ってた!そうじゃないと嫌われちゃうって!でも骸君は違うの?ていうか月のように輝くってなんですか?!そんな言い回し出来ちゃうの?!そんなの狡いです。それに――)」
「自由に……」
余りの気持ちからベットの上でびったんびったん跳ねながら骸の言葉を反芻していた彼女は自由という言葉を噛み締めながら枕に顔を埋めた。自由に、それは普通に生きてもいいのだという肯定。まだ彼にヒミコの吸血衝動を話してはいないが、きっと受け止めてもらえると半ば確信している。
こうしている暇はない早く骸君の所に行かなければ!という思いで顔を上げたヒミコは先程聞き流していたアルの脅し文句を思い出した。今逃げ出しても間違いなくまた誘拐されるのは目に見えている。それも骸を人質に取られた状態で。
あの怪物からどうやって逃げればいいのだと頭を抱えた彼女にとある天啓が落ちる。もし骸や恵を始めとする人達が聞けば、正気じゃないと口端を引き攣らせるであろう名案を思いついた彼女はルンルンのスキップで部屋を後にした。
恋する乙女を閉じ込めておくことなど出来ない。
優雅にリビングで血を飲んでいたアルは、ヒミコの名案を聞いた時心の底からそう思った。
前回のあらすじ必要です?更新頻度遅くて前の話思い出せないよなぁって気持ちと一気見する時に邪魔かなぁって気持ちがせめぎ合ってまして、
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いる(真面目な語り口)
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いる(ボケ寄り)
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いらない
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なんならもう前書きに何も書くな