クリスマス。それはイエス・キリストの誕生を祝う祭りのことである。
しかし、それは時代が進むにつれて本来の意味を失っていった。
今ではほとんどがパーティーをする日だったり、大切な人と過ごす日だったりする。
だから何だ、という話であるが···。
つまり、
人も神と一緒で賑やかなことが大好きってことだ。
◇◇◇
“ノーネーム”本拠地、広間
飛鳥は様々な物で飾られてクリスマス一色に染まった広間を見渡して頷いた。
今日は12月25日――ではなくて12月29日。
本来ならクリスマスなどもう終わっているはずだが、“ノーネーム”のクリスマスは終わってなかったのだ。
実はクリスマスである12月25日はあまりの多忙さにパーティーなどしている余裕などなかった。
やっと全てが片付いたのはその二日後。
ジンは、「今年はクリスマスパーティーが出来ると思ったけど残念だったな。その分、正月は盛大にしよう」など思っていたが、
「何言ってるのジン君?やるわよ、クリスマスパーティー」
「えっ?」
「あんだけ働いたんだぜ?いっちょ派手にパーティーして騒いでも文句ないよな御チビ?」
「えっ?えっ?」
「準備は任せて」
「えっ?えっ?えっ?」
「日にち的には、クリスマスパーティー兼忘年会かな?それじゃあ、各自準備を進めよう!」
「「「おおっ!」」」
といった感じでジンが状況をうまく理解できてない内に、怒濤のごとく問題児たちがパーティーの準備を始めたのだ。
理解した時に時既に遅かった。
そして、今日はそのクリスマスパーティー兼忘年会の開催日だ。
飛鳥の担当は、総務。全体の準備を見て開催日に間に合わせるようにすること。
そして、招待状を送るのも彼女の仕事だ。
送ったのは、“ウィル・オ・ウィスプ”、“六本傷”、そして嫌々だったが一応“ペルセウス”の三つのコミュニティ。
この三つは“アンダーウッド”でジンが交渉の末、作ることのでみた同盟に参加してくれたコミュニティだ(約一コミュニティを除く)。
“ウィル・オ・ウィスプ”は主要メンバーが出席、“六本傷”は代表として猫店員ことキャロロが出席、“ペルセウス”は当然欠席という感じだ。
なお、キャロロはすでに来ており、飾り付け担当の耀と話をしている。
「それで、三毛猫さんたら――」
「うん。三毛猫はそういうの――」
さて、飾り付け良し。次は料理の確認だ。
いくつかの料理はすでに完成しておりテーブルの上に美しく飾られている。
流石は十六夜だ。
今回のシェフたちは、メイド三人組+十六夜&黒ウサギ。
食材はコーキが良い物を安く交渉して仕入れて来たのを使い、レティシアをメインとしたメイド組が調理し、それを十六夜と黒ウサギがサポートしている。
「ツリーOK!飾り付けOK!料理も順次準備OK!さぁ、これでクリスマスパーティーを始めれるわ!」
とその時、チリンチリーンと来客を告げるベルの音がした。
「あ、黒ウサギ。私が出迎えるから大丈夫よ」
丁度料理を運んできていた黒ウサギをそう言って制して、飛鳥は玄関に向かった。
玄関を開けると、
「「「メリークリスマース!!!」」」
「メリークリスマス!いらっしゃい、アーシャ、ジャック、レーネさん」
「“ウィル・オ・ウィスプ”を代表して、今回はパーティーへの招待していただき感謝する」
「そんな堅苦しい挨拶なんていらないわ。だって、今日はパーティーなんだから」
「では、遠慮なく入らせてもらうよ」
「パーティーだ!パーティーだ!」
「こらこらアーシャ。はしゃいぎ過ぎるのはダメですヨ」
三人が中に入ると玄関を閉め、広間へ案内する。
「そういえば、ジャック。そっちのリーダーは、確かウィラって言ったわよね?彼女も今日来るのでしょう?どこにいるのかしら?」
「それでしたら、飛鳥嬢。私の後ろに···、後ろに···、いませんね」
「どうしようジャックさん?またウィラ姐がいない!?」
「落ち着けアーシャ。きっとこの館のどっかにいるはずだよ」
「ヤホホ、レーネの言う通りです。きっとこの館のどこかにいますよ。だって、ここには彼がいますから」
「あ、そっか。なら心配ないね」
そこで広間の扉を開けながら、飛鳥は振り返った。
「言ってなかったかしら?今日、カズマ君はお休みよ?」
「「「えっ?」」」
◇◇◇
白髪に翡翠色の瞳。アキレスはパーティーに出席するため、ではなく単純に腹がすいたから部屋を出て一階へと向かっていた。
今日は彼が表に出る日で、現在カズマは“真理の扉”の前にいる。
時たまこんな風にアキレスは表に出ては好きなように生活している。
「そォいや、今日はパーティーとかだったな···」
廊下には厨房から美味しそうな匂いがした。
今のアキレスはエネルギーのほとんどを身体の修復に使っているため、こういうご馳走とかは嬉しい限りだ。
アキレスが階段にさしかかった時だった。
ズカシュ。
そんな鈍器で殴られた音がした。
アキレスは無言で床に落ちた凶器に手をやった。
ギロリ。
気配のした方を獣のような鋭い目付きで見た。
が、誰もいない。そのまま辺りをゆっくり見回していくと、
「ヒィッ!」
「そこだ」
シュンとアキレスが消えた次の瞬間には、ドサッという人が倒れる音がした。
「さァて、人に鈍器投げつけるなんて随分いい度胸してンじゃねェか?人にンなことするなら同じことされても文句ねェ――て、何だコイツ?」
「うぅ、カズカズ恐い···カズカズ怒った···。今まで怒ったことなかったのに···」
と取り抑えられている少女、ウィラは涙目だった。
カズマの記憶領域にアクセスして、ようやくアキレスは納得した。
許されるかは別として、ウィラには気になる相手鈍器を投げる悪癖があるらしい。
そして、どうやらアキレスのことを知らないようでカズマが怒っていると思ってるみたいだ。
涙目で怯える少女とそれを無理矢理床に押さえ付けてる自分。
「チッ」
アキレスに女を虐めるような趣味もないし、これじゃあ悪者はアキレスみたいだ。
力を緩め立ち上がると、
「二度とオレに投げンじゃねェぞ、木っ端悪魔が」
そう吐き捨て立ち去ろうするアキレス。
「待って!」
振り返るとまだちょっと怯えた感じのウィラが真っ直ぐこちらを見ていた。
「······あなたはカズカズ?身体の感触とか匂いとか一緒だったけど、何か違う気がする」
「オレは錬金術師じゃねェよ。ンなこと今頃気づいたのかよ」
「でも、身体はカズカズの。···あなたは誰?カズカズはどこにいるの?ねぇ、カズカズは?」
正直この問いに答えるの心底面倒だが、答えなくてもウィラはきっとしつこく聞いて来ることはカズマの記憶を覗いたことで予想できた。
メンドクサイ、本当にメンドクサイ。メンドクサイ奴は嫌いだ。
「クソッたれ」
そう言ってアキレスは瞳を閉じた。
◇◇◇
“ノーネーム”本拠地、広間
パーティーは始まった。コーキがどこからか調達してきた音楽を録音再生するスノウボールからBGMが流れている。
料理も大体出揃ったようで、厨房にいたメイド組もパーティーに参加しつつ給仕をしている。
よくもまあこんな盛大なパーティーを開いたもんだと思った。
そもそも、アキレスもアキレスだ。いきなり“真理の扉”の前の彼岸花畑で寝ていたと思ったら表世界に戻されていた。
そして、なぜか床に座り込んでいたウィラに抱きつかれて何か「いつものカズカズだ!」って何かよくわからないことになっていた。
で、現在のカズマだがウィラがいつも通りくっついてくるのでそのまま広間に行ったらレティシアに見られたのだ。
「どうしたのカズカズ?」
と途中で立ち止まったカズマにしっかり抱きついて離れないウィラがキョトンと聞いてくる。
「多分、レティシアが怒ってる·····気がする」
レティシアはツカツカと足早にこちらに向かってくると、
「白カズマが気をきかせて交代してくれたのか?それはともかくとして、カズマもパーティーに参加できてよかった。今夜は一緒に楽しもう」
「あ、うん···そうだね」
怒ってると思ったのに、こうもニッコリと言われるのは予想外だった。
まるでウィラのことなど見えてないようだ。
「というわけだからカズマから離れてくれるか?ウィラ=ザ=イグニファトゥス」
前言撤回。やっぱり超怒ってた。しっかり見えていた。
でも、次にウィラが何て答えるかはカズマもわかっていた。
「ヤダ。今日は久しぶりにカズカズと一緒に過ごせるんだから邪魔しないで」
取られまいとカズマの腕を強く抱き締める。そのせいで彼女の童顔のわりに豊かな胸がより一層カズマの腕に押し付けられる。
それを見てレティシアの顔が引きつる。
正直、全然怒りを隠せてないから無理に笑顔作らなくていいのにと現実逃避気味にカズマは考える。
「おうおう、いい感じに修羅場じゃねえか!ヤハハ、もっとやれ!」
「レティシア、ファイトー!頑張るのよ」
「そんな奴に負けんなウィラ姐!」
「黒猫の常連さんもファイトなのです!」
外野が完全にこれを余興として楽しんでいるのが憎たらしい。
「そうか。警告はしたからな?」
レティシアの影が立体的に浮き上がり鋭い槍となって構えられる。
「脅しても無駄。私は譲る気はない」
そう言うウィラは、彼女にしては珍しく闘志を燃やしていた。
睨み合う二人。多分、ほんの少しのきっかけで闘いは始まるだろう。
それは別に構わないが、そこに全力に巻き込まれる位置にカズマがいることを忘れているのでないだろうか?
彼はしっかりと腕をウィラに抱かれているため逃げることができない。
周りの者は固唾を飲んで見守っている。
そして、両者がギフトを行使しようとした時だった。
「そこまでだ、二人共!!」
ビリ、ビリビリと空間自体が震えたように響き渡る。
話し声は無くなりクリスマスソングだけが広間の中を流れる。
槍を静止させたレティシアが、地獄の業火の召喚を中断したウィラが、声の主であるレーネの方を向く。
レーネは飲み干して空になったグラスをテーブルに置く。
そして三人の所に歩み寄ると、静かに言う。
「今日はパーティーであるからにして、ある程度の“騒ぎ”は許容しよう。しかし、それも笑い話にできる範囲でだ」
ウィラの方を見ながら、
「ウィラ。君はこの“ノーネーム”の本拠を灰にする気か?こんな所で地獄の業火を召喚すればどんな被害が出るか分からない君ではあるまい。譲れないものがあることは分かる。しかし、冷静さを失い過ぎだバカ者」
声を張り上げずに、しかして怒りを感じる静かな声色で叱る。
「······はい、ごめんなさい。レンレン」
ウィラはしゅんと小さくなっていた。
「次にレティシア君、君だ。いくら警告をしたからとはいえすぐに実力行使をしようとするのは、いささか短絡的過ぎやしないか?私が思うに、君は本来もっと冷静に物事を見れるはずだが
「······」
レティシアは何も言い返すことはできなかった。
考えれば“クロナ=クロニクル争奪戦”の時も今回も冷静さに欠いていた。
このまま止められなければ、せっかく飛鳥たちが準備したパーティーをぶち壊していたかもしれない。
そう考えると自分が愚か者に思えてきた。
レティシアはただただ無言で立っていることしかできなかった。
「そして、最後はカズマだ」
「―――――えっ?俺!?」
まさか自分まで説教の対象にされているとは思ってなかったカズマはビックリした。
「自分は関係ないと思ったか?バカ者め。これの原因はお前だから無関係なわけないだろう。そもそも、お前が何も話そうともせず流れに身を任せていたのが悪い。お前が二人の会話に参加し、間を取り持てばこんなことにならなかったかもしれない。これを期に人としっかりコミュニケーションを取るようにしろ」
「······はい」
色々理不尽な気もしたが、全体的には今後人間っぽくなるために必要なことだと思うので頷く。
「さて、せっかくのパーティーだったのに水を差して悪かった。続けてくれたまえ」
パンパンと軽く手を叩いてそうレーネが告げると、またガヤガヤと騒ぎ始めた。
そんな中でカズマは一つため息を吐いた。
腕にはさっきから落ち込んだままのウィラがくっついている。
レティシアも下を向いて落ち込んでいるようでパーティーが再開されたというのに動いていない。
それをレーネも見ていたようで、
「ウィラ、レティシア君。二人共こっちに来てくれまいか?せっかくのパーティーだと言うのに暗い顔のままなのはあまりに不憫だ」
そう言って二人を部屋の端に呼ぶレーネ。
ウィラは「また後でカズカズ」と言って離れていった。
それに対してレティシアはつ立ったままだった。
ここでまたカズマはため息を吐くと、レティシアの側に行った。
「行かないのか?姉さん呼んでるぞ」
「あ、ああ。そうだな。うん···」
「まったくお前は···。さっきの事なんか気にするな。姉さんが止めなくても他の誰かが止めたし、もし闘って壊してしまっても俺が直して笑い話にしてやったさ。誰にでもそんな時はあるんだって」
「でも、ん···んぅ」
反論しようとしたレティシアをカズマは頭を撫でて黙らせた。
何やら抗議の目を向けられるが上目遣いになって可愛いだけだった。
「レティシア君、早くしてくれ。そうしないと、ウィラが君たちの間に割り込んでくるぞ?」
と再びレーネから声がかかる。
「ほら、早く行ってこい」
「······ぁ」
手を離すと名残惜しそうにしていたが、促すとすぐにレーネの元へと向かった。
「いかがですか?」
適当にパーティーをするみんなを眺めているとジャックがグラスを差し出してきたので、礼を言って受け取る。
「レティシア嬢は相変わらず貴方にご執心のようですね」
「ん、まぁそうだな···」
「まさかウィラとあんなことになるとは、かなりヒヤッとしましたよ」
「ジャックならいつでも止められたんじゃないのか?」
「ヤホホ、ご冗談を。彼女が本気を出したらいくら私でも止めることなど到底できません」
「つまり、今回はその本気だった···と?」
「ええ、そうです。カズマさんも知っているでしょう。ウィラが自ら闘志を燃やすことなど無いと」
「まぁね」
「それほど、貴方のことを好いているんですよ。どうです、“ウィル・オ・ウィスプ”に来てくれませんか?カズマさん。私たちは勿論、子供たちも喜びます。待遇だって悪くありませんよ」
ジャックのあまりにストレートな言葉にちょっと驚いた。
まさかジャックからも誘われるなんて意外だった。
何か笑えてしまう。
「でも、まぁ「ストォォォォオオオオップ!!!!」」
とカズマの言葉をかき消すように叫びながら飛鳥が飛び込んで来た。
そして、カズマをジャックから守るように間立った。
「“ノーネーム”は勧誘禁止よっ!いくらジャックでも禁止!!ダメなものはダメなんだからね!!!」
どうやら飛鳥はジャックの勧誘の話が聞こえてカズマを守るために来たようだった。
そう言えば、“アンダーウッド”でサラに耀が勧誘されて大変だったとか言っていたことがあったなぁ。
多分、それで勧誘に敏感になったのだろう。
「ヤホホホホ。別に私、勧誘などしていませんが。ただ提案をしていただけですヨ?」
「とぼけても無駄よ!ちゃんと私はこの耳で聞いたんだからね。そもそも、サラさんの時もそんな風に――」
と飛鳥がジャックを責めている間にカズマは場所を変えた。
食べ物を置いてあるテーブルを見ると、所々に白雪とペストが作ったであろう少し不恰好な料理もあった。
でも、大体のものがカバーされているので全体としては問題ない。
そんな料理を適当に食べているとアーシャがやって来た。
「よっ、カズマ」
「今度はアーシャか」
「今度はって何だよ今度はって。私は別にジャックさんが失敗した時の予備じゃねーし」
「それで、何の用だ?」モグモグ
「用がなけりゃ話かけちゃダメってか?」ヨコカラウバウ
「別に。でも、耀とかキャロロはどうした?さっきまで一緒だったろ」キニシナイ
「ああ、耀なら今食事で忙しいみたい。キャロロはあのザマだよ」モグモグ
と指差された先には、幸せそうに酔い潰れて寝ているキャロロがいた。
そして、よく見ると近くに“猫ごろし”と書かれた酒瓶が転がっている。
さらによく見るとジンも酔い潰れていた。そして、恐らく犯人である十六夜はハイテンションな黒ウサギと飲んでいた。
もしかしてあの時の飛鳥のちょっと過剰な反応って酔ってたから?
ともかく、あそこには近づかないことにした。
「そんでどうだった?」
「どうだったって、何が?」
「何がって決まってるだろ。ウィラ姐のおっぱいどうだった?」
「·······。ん、何て?」
「だから、ウィラ姐のおっぱいの感触どうだったって聞いてんだよ。お前の腕にウィラ姐のが当たってたのは知ってるんだぞ」
「何でそんなこと聞くんだ···?」
ちなみに当たっていたのは事実だ。
「だって、私のは外見相応っていうかまだまだ小さいじゃん。耀もまな板だし。レイ姐はスレンダーで大きい部類ではないし。大きいのってどんな感じか気になるじゃん?」
「いや、そんなの知らないし。気にならないし」
「ケチケチしないで、教えてくれよ~。頼むから~」
「そんな気になるなら、自分で確かめてくればいいだろ」
「いや、ウィラ姐にそこんとこ説明しても理解できねーし。かといって、普通触ったらセクハラだろ」
「そう思うなら諦めろ」
「クソ~、教えてくれてもいいじゃんかよ!別に変態とか思ったりしないから」
「そういう問題じゃないっての」
とアーシャと雑談をしていると、
「カズマ。ちょっといいか?」
「話しは終わったの姉さん?」
「ああ、もちろん。平和的に終わらせて来たさ」
「平和的って逆に不吉な言い方だなレイ姐」
「そう思うかい?まぁ、いい。アーシャ悪いがカズマを借りていっていいか?」
「構わないぜ。というか、返さなくていいよ。姉弟水入らずで話して来な!」
「ありがとう、アーシャ」
そう言って離れるレーネについて行き、広間を出た。
◇◇◇
廊下は冬の冷気で冷えていてパーティーの熱気と暖が合わさり暑かった肌に心地いい。
「ふぅ。ここは涼しくていいな···」
「姉さんもしかして飲んでる?」
「ん、ちょっとだけ。せっかくのパーティーだし、それくらい見逃してくれ」
「まっ、箱庭にアルコールの摂取に関する法律なんて無いからとやかくは言わないけど。ほどほどにね」
「もちろんだよ。でも、コミュニティの代表として行くと嫌でも飲まないといけない場面がある。大人の付き合いってやつさ」
そう言って笑う。やっぱりちょっと酔っぱらっているようだ。
「それで。わざわざ場所を変えてするような話って何?」
「別に大したことじゃないさ。この前は一方的に事情を聞いただけだったからな。今度は私の事情を説明するべきかなって思っただけだよ。等価交換だ、等価交換」
「なるほど。そういうことか」
非常に納得のいくことだった。錬金術師的に。
「じゃあ、何でも聞いてくれたまえ」
「いつから箱庭に?」
「二年前。気がついたら“煌焔の都”の街中にいたんだ。懐かしいな。フフフ、あの時の驚きは人生最大だったよ」
「なぜ“ウィル・オ・ウィスプ”に?」
「とりあえずその日暮らしでギフトゲームに参加していたらハンマーが飛んで来てな。それからの付き合いだよ」
「姉さんもやっぱり投げられたんだ」
「まぁな。あの悪癖を治そうとはしてはみたが、結果はご覧の通りだ。一度ついた癖は中々治るものではないな···」
「まぁ、俺当たったことないけど」
「何だと!?」
「いや、そこまで隙だらけで生活しなければ当たらないだろ」
「そういう問題じゃない!じゃあ何だ。お前はいつも一瞬たりとも気を抜かずに生活しているというのかッ!!?」
「そうなるかな、多分。あ、でもたまに作者からのジャミングがかかる」
「くっ!我が弟ながら恐ろしい奴よ···。なんてな、フフフ」
とわざとらしく演技して笑う。
カズマは苦笑しながら肩をすくめた。
さて、これくらいでいいだろう。お遊びはここまでだ。
「それじゃあ次の質問――」
「ああ、何だ?」
「――何で錬金術使わないの?」
「あ、ああ···。それは「嘘はいらない」」
「重ねて質問すれば、どうやって姉さんは箱庭に来たの?」
そうこの質問とさっきの質問は同意義だ。
「姉さんはもしかして錬金術が使えないんじゃないの?」
「やっぱり気づいてたか···」
やれやれといった調子で答えるレーネ。
「当たり前。“クロナ=クロニクル争奪戦”の時姉さんは、陣を書いた上に龍脈のパスを形成する触媒が必要な錬丹術ばかりを使っていた。一工程増えて錬金術より時間がかかるというのに。そもそも、錬丹術は医療方面に発展した錬金術だ。ああいう戦闘では、わざわざ使うメリットはない。遠隔錬成は魅力的かもしれないけど、錬丹術しか使わないのはおかしい。どうせなら二つを切り替えて使った方が効率的だ」
「その切り替えて戦うという方法に気づいてないという可能性は?」
「ほぼゼロだ。姉さんはそこまでバカじゃない」
パチパチパチとレーネは拍手をする。
そして、嬉しいような悲しいような笑みを浮かべる。
「正解だ。お前の推測は正しい。なぜ私が錬金術を失ったかを含めてな」
「簡単に説明をしよう
「お前の知っての通り私はシン国で錬丹術を学んでいた
「そこの宮殿の錬丹術研究所とでも言うような施設にいたんだ
「今はどうなっているか知らないが、その頃皇帝陛下殿の具合が悪くてね。治る気配が全然なかったんだ
「そこでその施設では様々な方法を試して、陛下が回復するよう全力で模索していた
「中には無茶な術式もあってね
「私その無茶な術に巻き込まれたのさ
「術はかなり大がかりなものだったから私以外も何人もの人が巻き込まれていた···
「腕から分解されて身体がなくなっていくのを見て寒気がしたよ。私は死ぬんだ、と
「恐怖?確かに周りは阿鼻叫喚だったけど、私はそれよりも悔しかったね
「こんなとこで死んでしまうことに
「そして気づくと私は門の前に立っていた
「扉···?いや、私の見たあれは門だった。扉じゃないあの造りは確実に門だ
「門が開くとそこから無数の瞳がこちらを見ていた
「赤子のような無邪気な笑い声がして、いくつもの手が私を掴んで引きずり込んだ
「中では、頭が割れてしまいそうな程の大量の情報を無理矢理入れられたよ
「その最中に唐突に私は理解した。これが“真理”だと
「そして、気づくと私は“煌焔の都”の街中に立っていたと言うわけさ
「今にして思えば、あれは通行料だっただろうな。あの門を潜り抜ける」
レーネはそう締めくくった。
でも、カズマは違和感しかなかった。
自分の見た“真理の門”。あれは錬金術師の、誰の中にもある存在。
それをギフトとして行使できるかは別問題として、そう彼の中の“真理”が囁いていた。
だがしかし、レーネは門と断言したこと。そして本来
レーネは他のギフトがあったから良かったものの、もしそれが唯一のギフトだったらと考えると恐ろしい。
「まぁ、深く考えても仕方のないことだ。そろそろ中に入ろう。十分にお前と話もできたし涼めた」
肩をポンッと軽く叩かれてカズマは思考の海から出た。
確かにレーネの言う通り今あれこれあれこれ考えても答えは出ない。でも、今後調べておく必要はあるなと思った。
「ちょっと待って姉さん」
「どうした?」
広間の扉に手をかけていたレーネは振り返りながら聞き返した。
実はさっきの質問は
本当に聞きたかったこと。この前“アンダーウッド”で再開してからずっと疑問に思っていたこと。
「姉さん、いやレーネ・K・エノモト。アンタは何故俺のことを弟と呼ぶ?」
「はは。何を言っているんだ、お前は。私の弟だからに決まっているじゃないか」
「いいや、分かっているはずだ。アンタの弟のカズマ・N・エノモトはもう死んでいる。俺はその身体に入っているだけの別人。厳密に言えば、俺は弟じゃない」
カズマは先ほどまで弟として話していたが、今は死んだ身体と記憶と残留思念で作られた人形、カズマとして話している。
それが察したレーネは真面目な顔つきでカズマの話を聞いている。
「なのに···。それを分かっているはずなのに何故アンタは未だに俺のことを弟と呼ぶんだ?弟の身体を勝手に使って成り済ましていたんだ。それは死者の冒涜に等しい。俺はアンタに恨まれていても仕方がないんだ···。例え、殺されたとしても、それは俺が生み出された時から背負っていた罪に対する罰だ。本当は、どうだったんだ?弟のフリをしてのうのう生きる俺を見て本当はどう思っていたんだ、レーネ」
カズマは言い切った。本当に聞きたかったこと。聞いておかなければならなかったことを。
これは逃げることなんてできないことだ。
「確かにお前の言う通りだ。お前は私の本当の弟とは言えない」
静かな感情の読み取れない声色だった。
レーネは組んでいた腕を解くと、右手をカズマへと伸ばしていく。
カズマは何もせず、ただ受け入れる。
殴られても頭蓋を割られても構わない。彼女には何をされても仕方がないからだ。
カズマはそれほどのことをしていると自覚している。
―――――――ポンッ。
しかし、予想外にもその右手は優しく頭に置かれた。さらに頭を撫でられる。
「だとしても、お前は私の弟だ。誰が何と言おうと私が弟と言うんだから、お前は私の弟だカズマ」
「姉さん···」
カズマには分からなかった。一体どういった思考の末彼女がこう言っているのか。
カズマの中の『普通の人間』の行動ではない。やっぱり、人間とは不思議なものだ。
「お前だって記憶にあるだろう。昔よくこうやって頭を撫でていたことを」
「まさか、この歳になって撫でられるとは思わなかったけどね」
何だかカズマはこうされるのが嬉しいよう恥ずかしいような感じがして、結果拗ねたようにそっぽを向いた。
そんなカズマを見てレーネは微笑んだ。
「さぁ、中に戻るぞ。意外と長居をしてしまったな」
「ああ、そうだね」
扉を開けると中から先ほどよりも、賑やかに騒ぐ音が聞こえる。
「そういえばいい忘れていたが、この後ウィラとレティシア君を同じ時間相手してもらうぞ」
「はぁっ!?」
「休戦協定を結ばせるにはこうするしかなかったんだよ。つまり、」
レーネにしては珍しく意地の悪い顔をしながら、
「私はまだ諦めていないと言うことだよ。お前に相応しいのはウィラだ」
カズマのパーティーはまだまだこれからが本番のようだった。
どうも、皆さん。すっごく遅くなりましたがこれにて“party naight”は終わりです
今回は“ウィル・オ・ウィスプ”のメンバーとカズマの話をメインに書かせてもらいました
コーキ:おかげさまで僕の出番一度もなかったけどね~。名前では出てたけど
そうですね。本当はちょこっとぐらい書こうかと思いましたが、物語が長くなってしまったので余裕がありませんでし
た
なお、“ウィル・オ・ウィスプ”の皆さんは酔いつぶれて皆さんお泊まりになったそうです
そして、安定の後片付けは唯一の素面カズマさんでした
白雪:おかげで次の日の二日酔いの中片付けなくて済んだ。ありがとう
黒ウサギ:う~、頭がガンガンします
十六夜:情けねぇな、黒ウサギwww
飛鳥:そして、一番私たちを煽った張本人が二日酔いになってないなんて···。うぅ、頭痛っ
耀:ウップ、気持ち悪い···
そして、気になるお二人は
レティシア:貴様の胸についているのは駄肉だ!贅肉だ!大き過ぎると、逆に嫌われるんだからなっ!
(大浴場で色々あった)
ウィラ:そんなことないっ!大きい方が男の子は好きってレンレン言ってた!
と、まぁ二日酔いにはなってませんが喧嘩ばっかしてます
カズマ:結局、片付けだけでなく二日酔い共の看病は俺がするのか···
ジャック:手伝いますよ、カズマさん
次回からレポートの続きを再開しますので、今日はここまで
皆さんには遅れてしまったりしてすみませんでした
それでは!